訪問看護ステーション開業後の年収はいくら?決まる仕組みを解説 

「訪問看護ステーションを開業したら、経営者としてどれくらいの年収を見込めるのか」——独立を検討する看護師や、事業拡大を考える経営者にとって、これは避けて通れない疑問です。求人サイトの管理者年収とは違い、経営者の年収は「事業全体の収支」から決まるため、単純な相場では語れません。

この記事では、厚生労働省の公的な経営調査データをもとに、訪問看護ステーションの収支の実態と、経営者の年収がどのような仕組みで決まるのかを解説します。開業準備のポイントや、年収を左右する要因もあわせて整理しますので、開業を検討している方はぜひ参考にしてください。

この記事でわかること
  • 訪問看護ステーションの収支データ(厚生労働省調査)と収支差率の実態
  • 経営者の年収が「収支差」からどう決まるかの仕組み
  • 年収を左右する規模・地域・稼働率などの要因
  • 開業準備の流れと、年収を安定させるための経営のポイント

訪問看護ステーション経営者の年収はどう決まるのか

訪問看護ステーションの経営者の年収は、給与所得者のような「相場」があるわけではなく、事業全体の収入から支出を差し引いた「収支差」をもとに、経営判断として決まるものです。役員報酬という形で毎月一定額を受け取る場合もあれば、事業の利益(収支差)そのものが最終的な取り分になる場合もあり、法人形態や資金繰りの方針によって考え方が変わります。

そのため「訪問看護ステーションを開業すれば年収◯◯万円」という一律の答えはありません。まずは、事業全体の収支がどの程度の水準にあるのかを、公的な統計から確認していきましょう。

看護師 上妻
看護師 上妻

「年収◯◯万円」という数字だけを見て開業を決めるのは危険です。まずは「収入」ではなく「収支差(利益)」で考える視点を持つことが、経営者としての第一歩ですね。

厚生労働省の調査でわかる訪問看護ステーションの収支実態

厚生労働省が実施する「介護事業経営実態調査」では、訪問看護ステーション1事業所あたりの平均的な収支データが公表されています。令和4年度決算をもとにした最新の調査結果(令和5年度実態調査)では、次のような数値が示されています。

項目1事業所あたりの平均(月額)
介護事業収益(収入)約306.6万円
給与費(収入に対する割合)約228.7万円(74.6%)
収支差(収入−支出)約18.0万円
収支差率5.9%

収支差率5.9%は、月額換算で約18万円、年間に換算するとおよそ216万円の収支差(法人全体の利益)にあたります。ただしこの収支差は法人全体の利益であり、経営者個人の年収そのものではありません。ここから役員報酬・借入金の返済・将来への内部留保などを差し引いた(あるいは、そもそも役員報酬自体が費用に含まれた上での)金額であるため、実際に経営者の手元に残る金額は、資金計画や事業規模によって大きく変わります。

注意

同調査によれば、訪問看護ステーションの収支差率は令和2年度決算の9.0%から、令和3年度7.2%、令和4年度5.9%と、近年低下傾向にあります。給与費の割合が収入の7割以上を占める労働集約型の事業であり、人材確保のコスト上昇が収支を圧迫しやすい構造であることを踏まえておく必要があります。

事業規模が大きいほど年収は伸びやすい

訪問看護ステーションの収支は、事業所の規模(従事する看護職員数や延べ訪問回数)によって大きく変わります。小規模な事業所では収支差率が不安定になりやすい一方、看護職員を複数名確保し、稼働率を安定させることができれば、収支差の絶対額を伸ばしやすくなります。

  • 看護職員の人数が多いほど、対応できる利用者数・延べ訪問回数が増え、収入の規模が大きくなりやすい
  • 固定費(事務所家賃・車両費等)は事業規模が大きくなっても比例して増えにくいため、規模拡大によって収支差率が改善するケースがある
  • 逆に、開業直後で利用者数が少ない時期は、収入に対して固定費・人件費の負担が重く、収支差がマイナスになることも珍しくない

経営者と管理者は必ずしも同じ人ではない

訪問看護ステーションでは、開業した「経営者(開設者)」と、現場を管理する「管理者」が同一人物であるケースもあれば、別々のケースもあります。管理者は保健師または看護師であることが要件とされていますが、経営者自身が現場に出ずに経営に専念し、管理者を別に雇用する形をとる事業所も少なくありません。

この場合、管理者には給与(人件費)として一定の給与水準が支払われ、経営者の取り分は事業全体の収支差から決まります。経営者としての年収を考えるときは、「管理者としての給与」と「事業主としての利益」を分けて捉えることが大切です。

看護師 上妻
看護師 上妻

自分がプレイングマネージャーとして現場に出続けるのか、経営に専念して管理者を雇うのか。この選択によって、年収の構造もキャッシュフローの安定度も大きく変わってきますよ。

訪問看護ステーションを開業するための準備

年収を左右する土台として、開業準備をどれだけ丁寧に行えるかも重要です。訪問看護ステーションの開業には、主に次のような準備が必要になります。

手続きや工程

指定訪問看護事業者としての指定申請には、人員基準(看護職員数など)・設備基準・運営規程の整備など、複数の手続きが必要です。申請から指定までには一定の準備期間を要するため、逆算したスケジュール管理が欠かせません。

開業・運転資金

事務所の賃借費用、車両・什器の購入費、人件費の先行負担など、開業時にはまとまった資金が必要になります。また、訪問看護報酬の入金には数か月のタイムラグがあるため、開業直後の数か月分の運転資金を確保しておくことも重要です。資金計画にあたっては、日本政策金融公庫などの創業融資制度の活用も選択肢になります。

収益が出るまでの期間

開業直後は利用者数が少なく、収支差がマイナスになりやすい期間が続くことが一般的です。安定した収支差を確保できるようになるまでの期間は、地域の需要や営業活動の進め方によって差がありますが、数か月から数年単位で見込んでおくと現実的な資金計画が立てやすくなります。

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年収を安定させるための経営のポイント

収支差率5.9%という全国平均は、裏を返せば経営の工夫次第で改善の余地があるということでもあります。年収を安定・向上させるためには、次のようなポイントが重要です。

  • 看護職員の稼働率を安定させ、延べ訪問回数を計画的に増やす
  • 給与費の割合(収入の7割以上を占める最大の費用項目)を適正な水準に保ちつつ、職員の定着を図る
  • 地域のケアマネジャーや医療機関との連携を強化し、安定的な紹介ルートを確保する
  • 利用者一人ひとりに寄り添ったケアの質を維持し、解約・利用中止を防ぐ
  • 職員が働きがいを感じられる労働環境を整え、離職による稼働率低下を防ぐ
POINT

収支差率を1〜2ポイント改善できるだけでも、年間の収支差額には大きな差が生まれます。売上を追うだけでなく、給与費や委託費といった費用構造を定期的に見直す視点を持ちましょう。

地域差・法人形態による違いにも目を向ける

同じ収支差率であっても、都市部と地方では収入の絶対額に差が出やすい傾向があります。都市部では利用者数を確保しやすい一方、車両移動の負担が少なく1日あたりの訪問件数を伸ばしやすいケースがある一方、地方では移動時間がかさみ訪問件数が伸び悩みやすいものの、競合が少なく利用者を継続的に確保しやすいといった違いもあります。開業を検討するエリアの人口動態や、周辺の医療機関・ケアマネジャーとの連携のしやすさも、年収を左右する重要な要素です。

また、法人形態(株式会社・医療法人・NPO法人など)によっても、役員報酬の設定方法や税務上の取り扱いが異なります。個人事業として小規模に始めるのか、将来的な事業拡大を見据えて法人化するのかによっても、経営者としての年収の受け取り方は変わってくるため、税理士など専門家に相談しながら資金計画を立てることをおすすめします。

よくある質問

訪問看護ステーションを開業したら、年収はいくらになりますか?

一律の相場はありません。厚生労働省の介護事業経営実態調査では、訪問看護ステーション1事業所あたりの収支差率は5.9%(令和4年度決算)とされています。ここから経営者の実際の取り分がどうなるかは、役員報酬の設定方法や事業規模、開業からの経過年数によって大きく異なります。

経営者と管理者を兼任すると年収は変わりますか?

兼任する場合は、管理者としての給与と経営者としての利益が一体化するため、収支差がそのまま経営者の取り分に近い形になりやすくなります。一方、管理者を別に雇用する場合は、管理者への給与を人件費として支払ったうえで、残りが経営者の取り分になります。どちらが有利かは、事業規模や現場に出る時間をどう確保したいかによって変わります。

開業後すぐに収支差はプラスになりますか?

開業直後は利用者数が少なく、収支差がマイナスになる期間が続くことが一般的です。安定した収支差を確保できるようになるまでの期間は事業所によって差がありますが、数か月分の運転資金を確保したうえで、地域での認知度向上や紹介ルートの構築に取り組むことが重要です。

収支差率が低下傾向にあるのはなぜですか?

厚生労働省の調査では、訪問看護ステーションの収支差率は令和2年度決算の9.0%から令和4年度決算の5.9%へと低下傾向が見られます。給与費が収入の7割以上を占める労働集約型の事業であるため、人材確保のためのコスト上昇が収支を圧迫しやすい構造にあると考えられます。

出典・参考(公的機関)

記事中の収支データは、上記調査における訪問看護ステーション1事業所・1か月あたりの平均値です。個別の事業所の収支は規模・地域・経営状況によって大きく異なります。最新の調査結果は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

まとめ|年収は「収支差」の仕組みを理解してから考えよう

訪問看護ステーション経営者の年収は、給与所得のような相場ではなく、事業全体の収支差から決まるものです。厚生労働省の調査データを土台に、自分の事業計画における収支の見通しを具体的に立てることが、開業後の年収を考えるうえでの第一歩になります。

この記事のまとめ
  • 訪問看護ステーションの収支差率は5.9%(令和4年度決算・厚労省調査)で、近年は低下傾向
  • 経営者の年収は「事業の収支差」からの取り分であり、一律の相場はない
  • 事業規模の拡大・稼働率の安定・費用構造の見直しが、年収を左右する重要な要因
  • 経営者と管理者を兼任するかどうかでも、年収の構造は変わる

公的データという客観的な土台を踏まえたうえで、自分の事業計画に合わせた資金計画・経営戦略を立てていきましょう。

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上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。