「利用者さんが指定難病の医療費助成と重度心身障害者医療費受給者証の両方を持っている……この場合、どちらを優先して算定すればいいの?」訪問看護の現場では、複数の公費負担医療制度が同時に該当する利用者さんに出会う場面が少なくありません。
優先順位を誤ると、レセプトの記載ミスや請求誤りにつながりかねません。この記事では、公費負担医療制度が重なった場合にどの制度から優先して適用するのかを、制度の分類から実際の算定事例まで整理して解説します。
- 公費負担医療制度とは何か、訪問看護で関わる主な制度
- 「公費優先」と「保険優先」の違い
- 複数の公費が重なったときの優先順位の考え方
- 具体的な算定事例2つ
目次
公費負担医療制度とは?
公費負担医療制度とは、国や地方自治体が医療費の全部または一部を負担することで、対象となる方の自己負担を軽減する制度の総称です。訪問看護ステーションも、該当する利用者さんに対してこれらの制度を適用したうえで請求を行います。
公費負担医療制度は、大きく「公費優先」と「保険優先」の2種類に分けて整理すると理解しやすくなります。
公費優先の公費負担医療制度
医療保険よりも先に公費が適用される、または医療保険を通さずに全額公費で給付される制度です。訪問看護に関わるものとして、指定難病医療費助成制度、小児慢性特定疾病医療費助成制度、生活保護法による医療扶助などが挙げられます。
保険優先の公費負担医療制度
まず医療保険(または介護保険)が適用され、その後に残った自己負担分に対して公費が充当される制度です。自立支援医療(精神通院医療)、重度心身障害者医療費助成(自治体単独制度)などが該当します。

「公費優先」「保険優先」という言葉だけだと分かりにくいですが、要は「保険を通さず公費が先に効く制度」か「保険が先に効いて、残りを公費が埋める制度」かの違いですね。

訪問看護で利用できる公費負担医療制度とは?
訪問看護の現場でよく関わる公費負担医療制度には、次のようなものがあります。
- 指定難病医療費助成制度(難病法に基づく特定医療)
- 小児慢性特定疾病医療費助成制度
- 自立支援医療(精神通院医療)制度
- 生活保護法による医療扶助・介護扶助
- 重度心身障害者医療費助成(自治体単独の制度)
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律による一般疾病医療費
これらの制度は、それぞれ管轄する法律・機関が異なり、レセプト上で使う「法別番号」も異なります。複数の制度に同時に該当する利用者さんの場合、どの制度から適用するかという優先順位のルールを理解しておく必要があります。
公費負担医療費制度の優先順位とは?
保険診療では、まず医療保険(介護保険)が適用されます。そのうえで自己負担分が残る場合に、公費負担医療制度が適用される、という順序が基本です。
都道府県が実務向けに整理している資料では、公費負担医療制度どうしの優先順位について、次のような構造が示されています。
| 順位 | 区分 | 主な制度の例 |
|---|---|---|
| 1 | 医療保険・介護保険 | まず医療保険(介護保険)が適用される |
| 2 | 公費負担医療(国) | 指定難病医療費助成、小児慢性特定疾病医療費助成、自立支援医療(精神通院医療)、原子爆弾被爆者の一般疾病医療費 等 |
| 3 | 公費負担医療(都道府県・市区町村単独) | 重度心身障害者医療費助成、乳幼児医療費助成 等(地方自治体が独自に実施する制度) |
診療報酬明細書(レセプト)の記載において、2つ以上の公費負担医療制度の併用がある場合は、この表の上位にある制度から順に「第1公費」「第2公費」として記載する扱いになります。
生活保護法による医療扶助・介護扶助は、上記の「国による公費負担医療制度」とは別枠で扱われます。生活保護は「他の法律・制度で給付を受けられる場合は、まずそちらを優先する」という他法優先の原則があり、医療保険・介護保険や他の公費負担医療制度を適用してもなお残る自己負担分について、最終的に生活保護(医療扶助・介護扶助)で埋める、という位置づけになります。

「医療保険・介護保険→国の公費負担医療制度→自治体単独の公費負担医療制度→生活保護」という順番で、上から順に自己負担を埋めていくイメージを持っておくと分かりやすいですよ。
なぜ複数の公費負担医療制度が重なるのか
訪問看護の利用者さんは、疾患や障害、経済状況などの背景が一人ひとり異なります。そのため、次のようなケースで複数の制度に同時に該当することが起こります。
- 指定難病にり患しており、かつ障害の程度により自治体独自の医療費助成の対象にもなっている
- 精神疾患により自立支援医療(精神通院医療)の対象であり、かつ生活保護を受給している
- 要介護認定を受けており、かつ経済的な事情から生活保護(介護扶助)の対象になっている
このように制度が重なること自体は珍しくありません。事務担当者としては、利用者さんが持っている受給者証・医療証を漏れなく確認し、どの制度が優先されるのかを整理したうえでレセプトを作成することが求められます。
事業所側で確認しておきたいこと
複数制度に該当する利用者さんを担当する際は、次の点を事前に確認しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
- 利用者さんが保有しているすべての受給者証・医療証(種類・有効期間・自己負担上限額)
- 各制度の指定医療機関・指定訪問看護事業者としての指定を受けているか
- 制度の更新時期(有効期間切れによる資格喪失がないか)
- 複数該当がある場合の優先順位について、ケアマネジャーや主治医、必要に応じて自治体窓口とも情報共有できているか
受給者証の有効期限が切れていることに気づかず訪問看護を提供してしまうと、後から自己負担分の請求や返戻対応が必要になることがあります。定期的な期限確認の仕組みを事業所内で持っておくと安心です。
事例紹介
実際にどのように適用されるのか、2つの事例で確認してみましょう。
事例1:筋萎縮性側索硬化症(ALS)で人工呼吸器を使用しているAさんの場合
Aさんは筋萎縮性側索硬化症(ALS)により人工呼吸器を使用しており、医療保険(3割負担)、指定難病医療費助成制度の特定医療受給者証(自己負担上限月額1,000円)、重度心身障害者医療費受給者証(自治体単独制度)の3つに該当しています。
- 医療保険を適用まず医療保険(3割負担)が適用される。
- 国の公費負担医療制度を適用指定難病医療費助成制度(特定医療受給者証)が適用され、自己負担は月額1,000円を上限とする。
- 自治体単独の公費負担医療制度を適用なお残る自己負担分について、重度心身障害者医療費受給者証(自治体単独制度)が適用され、最終的な自己負担は0円となる。
このケースでは、国による公費負担医療制度(指定難病医療費助成)が、自治体単独の公費負担医療制度(重度心身障害者医療費助成)よりも優先して適用されている点がポイントです。
事例2:脳血管疾患後遺症で生活保護を受給しているBさんの場合
Bさんは独居で生活保護を受給しており、脳血管疾患の後遺症により要介護3(介護保険の自己負担1割)の認定を受けています。
- 介護保険を適用介護保険が9割を給付する。
- 生活保護(介護扶助)を適用残りの自己負担1割分について、生活保護の介護券により給付され、最終的な自己負担は0円となる。
このケースでは、介護保険が優先的に適用され、生活保護(介護扶助)はその後に残った自己負担分を埋める役割を担っています。仮にBさんが同時に指定難病医療費助成の対象でもあった場合は、介護保険→指定難病医療費助成(国の公費)→生活保護(介護扶助)という順序で適用を検討することになります。

公費負担医療制度の優先順位は複雑で、利用者さんの状況によって組み合わせが変わります。判断に迷う場合は、自己判断せず、国保連合会や社会保険診療報酬支払基金、自治体の担当窓口に確認することをおすすめします。
よくある質問
公費負担医療制度が複数重なる場合、どちらを「第1公費」として記載すればよいですか?
優先順位が高い制度(国による公費負担医療制度)を第1公費、優先順位が低い制度(自治体単独の公費負担医療制度)を第2公費として記載するのが基本的な考え方です。ただし個別のケースにより判断が分かれることもあるため、不明な場合は審査支払機関や自治体の窓口に確認することをおすすめします。
生活保護の受給者は、他の公費負担医療制度より生活保護が優先されるのですか?
いいえ、逆です。生活保護には「他の制度で給付を受けられる場合はそちらを優先する」という考え方があり、医療保険・介護保険や他の公費負担医療制度を適用してもなお残る自己負担分について、生活保護(医療扶助・介護扶助)が最終的に埋める、という位置づけになります。
自立支援医療(精神通院医療)は公費優先ですか、保険優先ですか?
自立支援医療(精神通院医療)は、まず医療保険が適用され、残った自己負担分に公費が充当される「保険優先」の制度です。所得区分に応じた自己負担上限額が設定されています。
複数の公費負担医療制度の優先順位に迷ったときはどこに相談すればよいですか?
審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)や、各制度を所管する自治体の担当窓口に確認するのが確実です。自己判断でレセプトを作成すると、記載誤りにつながるおそれがあります。
利用者さんの受給者証の有効期限が切れていることに気づかず訪問看護を提供してしまった場合、どうすればよいですか?
まずは速やかに自治体の担当窓口や審査支払機関に事情を説明し、対応方法を確認してください。制度によっては遡って手続きができる場合もありますが、対応は制度・自治体により異なります。日頃から受給者証の有効期限を一覧化し、更新時期が近づいたら利用者さんやケアマネジャーに確認を促す仕組みを整えておくことが、こうした事態の予防につながります。
優先順位の細部は制度・自治体により運用が異なる場合があります。実際の算定にあたっては、審査支払機関や自治体の最新の案内をご確認ください。
まとめ|公費負担医療制度の優先順位を正しく理解しよう
公費負担医療制度が複数重なる利用者さんへの訪問看護では、優先順位を正しく理解しておくことが、適切な請求につながります。
- まず医療保険(介護保険)が適用され、残った自己負担分に公費が充当される
- 国による公費負担医療制度は、自治体単独の公費負担医療制度より優先される
- 生活保護(医療扶助・介護扶助)は他法優先の原則により、最後に自己負担分を埋める役割
- 判断に迷う場合は自己判断せず、審査支払機関や自治体の窓口に確認する
正確な制度理解が、利用者さんの安心と適正な請求業務の両立につながります。
























