訪問看護ステーションの経営は、利用者さんへのサービス提供によって収入を得て、そこから給与や家賃などの支出をまかなう構造です。支出の中でも最も大きな割合を占めるのが人件費であり、その水準を示す「人件費率」は、経営者が必ず押さえておきたい指標の一つです。
この記事では、訪問看護ステーションにおける人件費率の考え方と全国的な目安を厚生労働省の調査データで確認したうえで、収支のバランスを保ちながら改善していく方法を解説します。
- 人件費率の定義と計算方法
- 訪問看護ステーションの人件費率の全国的な目安
- 人件費率をチェックする際に意識したいポイント
- 収支のバランスを保ちながら改善するための具体策
目次
人件費率とは
人件費率とは、収入に対してどれくらいの人件費がかかっているのかを示す指標です。訪問看護ステーションの経営において、支出の中で最も大きな割合を占めるのが人件費であるため、経営状況を把握するうえで欠かせない数値になります。
人件費には、基本給与だけでなく、各種手当、役員報酬、賞与、法定福利費、福利厚生費、交通費、研修費、退職金なども含まれます。給与そのものだけでなく、これらを総合的にコントロールする視点が経営者には求められます。一見小さく見える手当や研修費の積み重ねが、年間で見ると大きな金額になることも珍しくありません。
人件費率の計算方法
人件費率(%) = 人件費 ÷ 売上高(収入) × 100

訪問看護ステーションの人件費率の目安
厚生労働省の「令和2年度介護事業経営実態調査」(令和元年度決算ベース)によると、訪問看護ステーションの人件費率(給与費比率)は、延べ訪問回数の階級別に見るとおおむね77.4%〜79.6%の範囲で推移しています。
| 月間の延べ訪問回数 | 人件費率(給与費比率) |
|---|---|
| 100回以下 | 78.3% |
| 101〜200回 | 79.1% |
| 201〜300回 | 79.6% |
| 301〜400回 | 78.1% |
| 401回以上 | 77.4% |
全体としては、訪問件数が多い事業所ほど人件費率がやや低くなる傾向が見られます。同じ職員数でもこなせる訪問件数が増えれば、収入に対する人件費の割合を抑えやすくなるためと考えられます。ただし、その差は決して大きくはなく、訪問件数を増やせば必ず人件費率が下がるという単純な関係でもありません。
人件費率が極端に高い事業所は経営が圧迫されやすい一方で、極端に低い人件費率は、従業員への還元が不十分である可能性も示唆します。数値は「高すぎても低すぎても注意が必要」なものとして捉えましょう。
地域や経営主体によっても差がある
同じ調査の中では、地域区分別・経営主体別の集計も公表されており、都市部か地方か、株式会社か医療法人かといった条件によっても人件費率には差が見られます。全国平均の数値だけを絶対的な基準にせず、自事業所と条件が近いカテゴリの数値も参考にすると、より実態に近い比較ができます。
常勤・非常勤の構成も影響する
常勤職員と非常勤職員の割合によっても、人件費の内訳や総額は変わってきます。非常勤スタッフを活用して繁忙期の訪問を補っている事業所と、常勤中心で運営している事業所とでは、同じ人件費率でも中身の意味合いが異なることがあります。数値を比較する際は、職員構成もあわせて確認しておきたいポイントです。
なぜ人件費率を定期的にチェックすべきか
人件費率は、一度計算して終わりにする数値ではありません。訪問件数の増減、職員の入退職、報酬改定など、さまざまな要因によって毎月・毎年変動します。定期的にチェックすることで、経営状態の変化に早く気づき、手遅れになる前に対策を打てるようになります。
特に、開設して間もないステーションでは、利用者数が安定するまでの間、人件費率が一時的に高くなりやすい傾向があります。この時期に数値だけを見て焦って人件費を削ろうとすると、かえって人材の定着を妨げ、長期的な経営の安定を損なうこともあるため注意が必要です。短期的な数値と、中長期的な事業計画の両方を見ながら判断することが大切です。
人件費率をチェックする際のポイント

収支のバランスを見る
まず大前提として、収入が支出を上回っていることが必要です。もし赤字になっている場合は、人件費率だけでなく、訪問件数と残業時間のミスマッチや、人件費以外の経費が適正かどうかも含めて原因を分析しましょう。人件費率という一つの数値だけを見て判断するのではなく、収支全体の構造の中でその数値がどう位置づけられるかを確認する視点が欠かせません。
全体平均や目標値と比較する
自事業所の人件費率を、全国平均や訪問件数別の目安と比較してみることで、自分たちの立ち位置が見えてきます。開業して間もない時期は、目標とする数値との差を確認し、そこに向けて何を改善していくかを考えることが有効です。数値を一度きりで終わらせず、半年ごと・1年ごとといった単位で継続して比較していくと、改善の方向性がより見えやすくなります。
従業員への還元とのバランスを見る
人件費率は低ければよいというものではありません。労働に見合った報酬が支払われているかどうかも重要な視点です。十分な還元がなければ、スタッフのモチベーション低下や、ひいてはサービスの質の低下につながりかねません。目的の共有と具体的な目標設定によって、組織としての活動に力強さが生まれます。

「経営者の方から『うちの人件費率は高いのか低いのか』と相談されることがありますが、単独の数値だけで判断せず、収支全体や従業員満足度と合わせて見ることをおすすめしています。」
人件費率を改善するためにできること
ICTの活用
紙のカルテを使い続けていると、記録の整理や転記に時間がかかり、超過勤務や非効率の原因になりがちです。電子カルテやタブレットの導入、請求ソフトの活用によって、計算ミスの削減と業務効率化の両方が期待できます。記録にかかる時間が短縮されれば、その分を訪問業務や休息に充てることができ、残業代の抑制にもつながります。
訪問件数の見直し
現在の訪問枠に余裕がある場合、同じ職員数のままでも収益を増やせる可能性があります。既存の利用者さんの情報を整理し、要介護度の確認やサービス追加の必要性を検討してみましょう。一般的に、訪問件数が多い事業所ほど収入が多い傾向にあります。ただし、無理に訪問件数を増やそうとすると職員の負担が大きくなり、離職につながるリスクもあるため、業務効率化とセットで検討することが重要です。
毎月・年単位・中長期の目標を立てる
訪問件数と利益の推移を継続的にモニタリングし、目標を設定します。人件費率を下げるには、収入を増やすか支出を削減するかのいずれかが必要です。不要な支出を見直したうえで、目標とする収益を達成するために必要な訪問件数を具体的に計算してみましょう。
目標は「なんとなく頑張る」ではなく、できる限り具体的な数値に落とし込むことがポイントです。毎月の目標、年単位の目標、そして数年先を見据えた中長期の計画を立て、実行・評価・見直しのサイクルを回し続けることが、安定した経営につながります。
- 現状の人件費率を把握する直近の決算数値から人件費率を計算し、全国平均や目標値と比較します。
- 収支のボトルネックを特定する訪問件数、残業時間、人件費以外の経費のどこに改善余地があるか洗い出します。
- 具体的な数値目標を立てる「訪問件数を月〇件増やす」など、可視化できる目標に落とし込みます。
- 定期的に振り返る月次・年次で進捗を確認し、必要に応じて計画を見直します。
まとめ|人件費率は単独ではなく全体の中で見る指標
人件費率は、訪問看護ステーション経営における重要な指標の一つですが、数値の高低だけを見て一喜一憂するものではありません。収支全体のバランス、業界の目安との比較、そして従業員への還元という3つの視点を組み合わせて見ていくことが大切です。経営者自身が数値の意味を正しく理解し、スタッフにも共有していくことが、事業を長く続けていくための土台になります。
- 人件費率=人件費÷売上高×100で計算し、給与以外の手当や法定福利費なども人件費に含まれる
- 訪問看護ステーションの人件費率は、全国的にはおおむね77.4%〜79.6%の範囲で推移している
- 収支のバランス・全体平均との比較・従業員への還元、3つの視点でチェックする
- ICTの活用や訪問件数の見直し、具体的な数値目標の設定が改善の第一歩になる
自事業所の人件費率を定期的に確認し、経営と従業員満足度の両立を目指しましょう。

よくある質問
人件費率はどのように計算しますか?
人件費率(%)=人件費÷売上高(収入)×100で計算します。人件費には給与のほか、各種手当、役員報酬、賞与、法定福利費、福利厚生費、交通費、研修費、退職金などが含まれます。
訪問看護ステーションの人件費率の目安はどれくらいですか?
厚生労働省の令和2年度介護事業経営実態調査(令和元年度決算ベース)によると、月間の延べ訪問回数の階級別に見ると、おおむね77.4%〜79.6%の範囲で推移しています。
人件費率は低ければ低いほど良いのですか?
必ずしもそうとは言えません。極端に低い人件費率は、従業員への還元が不十分である可能性を示唆することもあります。収支のバランスや従業員満足度とあわせて総合的に判断することが大切です。
人件費率を改善するにはどうすればいいですか?
ICTの活用による業務効率化、訪問件数の見直し、具体的な数値目標の設定と定期的な振り返りが有効です。人件費率を下げるには、収入を増やすか支出を削減するかのいずれかが必要になります。
訪問件数が多い事業所ほど人件費率は低くなりますか?
統計上はその傾向が見られますが、差はそれほど大きくありません。訪問件数を増やせば必ず人件費率が下がるという単純な関係ではなく、業務効率や経費全体のバランスも影響します。























