身体的な負担が大きい処置や、安全確保のために複数人での対応が必要な訪問看護では、1人の看護師だけでは十分かつ安全な対応が難しい場面が少なくありません。複数名訪問看護加算は、こうした複数名での訪問看護を正しく評価するための加算です。
この記事では、医療保険の複数名訪問看護加算の対象者・料金区分・算定要件を詳しく解説していきます。
- 複数名訪問看護加算とは何か
- 複数名での対応が必要になる対象者
- 同行するスタッフの職種による料金の違い
- 算定要件と留意点
- 令和8年度改定での記録要件の変更点
目次
複数名訪問看護加算とは?
複数名訪問看護加算とは、1人の利用者に対して複数の職員が同時に訪問看護を行った場合に算定できる加算です。身体的負担の大きい処置、安全確保が必要な場面、1人では対応が難しい状況などで、看護の質と安全性を確保するために複数名対応を評価する仕組みです。訪問看護は基本的に1人体制での対応が前提となっているため、複数名対応が必要な場面はあらかじめ計画に組み込んでおくことが望ましいとされています。
複数名での対応が必要になる対象者
対象となるのは、次のいずれかに該当する利用者です。
- 末期悪性腫瘍、神経難病等の厚生労働省が定める疾病等の患者(別表第七に該当する疾病等)
- 特別管理加算の対象者
- 特別訪問看護指示書の対象者
- 暴力行為や器物破損行為がある利用者
- 身体的な理由で1人での対応が困難な利用者(看護職員+その他職員の場合)
- 上記に準ずると認められる利用者(看護職員+その他職員の場合)
後半の2項目(身体的理由・準ずる者)は、看護職員とその他職員が同行する場合に限って認められる対象です。看護職員同士・看護職員と准看護師の組み合わせでは、この2項目は対象になりません。

同行するスタッフの職種による料金の違い
複数名訪問看護加算は、同行するスタッフの組み合わせによって料金と算定回数の上限が変わります。
| 組み合わせ | 回数上限 | 料金(通常/同一建物内3人以上) |
|---|---|---|
| 看護職員+看護師等 | 週1回まで | 4,500円/4,000円 |
| 看護職員+准看護師 | 週1回まで | 3,800円/3,400円 |
| 看護職員+その他職員 | 週3回まで | 3,000円/2,700円 |
| 看護職員+その他職員(回数制限なし対象者) | 制限なし | 3,000円〜10,000円(建物内3人以上で減額) |

「その他職員」との同行は週3回までが基本ですが、末期悪性腫瘍等の一部の対象者は回数制限なしで算定できます。どの対象区分に該当するかで扱いが変わるので、算定前に必ず確認しましょう。

なぜ職種の組み合わせで料金が変わるのか
複数名訪問看護加算の料金が同行スタッフの職種によって異なるのは、看護師同士のように専門性の高い人員を2人配置する場合ほど、人件費相当のコストが高くなるという考え方に基づいています。看護職員とその他職員(看護補助者等)の組み合わせは、看護師2人体制よりコストが低いため、その分算定額も低く設定され、回数上限も週3回までとやや広く設定されています。人員配置の実情に合わせて、区分を柔軟に選べる仕組みになっています。一方で末期悪性腫瘍等、特に頻回の複数名対応が必要になりやすい対象者については、回数制限なしで算定できる例外が設けられています。人員配置に余裕のあるステーションほど、複数名対応が必要な利用者の受け入れがしやすくなるため、加算の算定状況は人員計画を検討する際の参考データにもなります。特に人員体制に余裕のない小規模な事業所では、複数名対応が必要な利用者を安易に受け入れる前に、実際にどの職種の組み合わせで対応可能かをシミュレーションしておくことが、無理のない運営につながります。
算定要件
- 事前に利用者または家族の同意を得ていること
- 最低30分程度は複数名で継続して対応していること
- 同行する職員のうち1人以上は必ず看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)であること
- 複数名対応の必要性を訪問看護計画書等に反映していること
複数名対応が必要になる具体的な場面
実際の訪問看護の現場では、次のような場面で複数名対応が検討されます。
- 体重移動を伴う体位変換や入浴介助など、身体的負荷の大きい処置
- 気管カニューレの交換など、緊急時対応が必要になりうる医療処置
- 認知症等による予測不能な行動があり、安全確保のために複数名での見守りが必要な場面
- 新人看護師の同行教育を兼ねた訪問(この場合は算定要件を別途確認する必要がある)
- 独居で緊急時に助けを呼べない利用者への処置など、単独対応がリスクを伴う場面
新人教育のみを目的とした同行訪問は、複数名訪問看護加算の算定要件を満たさない可能性があります。教育目的の同行と、対象者要件に基づく複数名対応は別のものとして整理し、記録上も混同しないようにしましょう。
令和8年度改定のポイント|記録要件の明確化
令和8年度改定では、複数名訪問看護加算そのものの単位数・算定要件に実質的な変更はありませんでした。一方で、訪問看護記録において、訪問の開始・終了時刻と、同行したスタッフの役割を明確に記載することが求められるようになりました。これまで以上に、誰が・いつ・どのような役割で複数名対応にあたったかを記録に残すことが重要になっています。査定・返戻の際にも、この記録が算定根拠を説明する重要な資料になります。この変更の背景には、複数名訪問看護加算が算定額の大きい加算であることから、算定根拠をより明確に確認できるようにする狙いがあると考えられます。記録が不十分なまま運用を続けていると、後から算定根拠を説明できず、返戻や過誤の指摘を受けるリスクが高まるため、早めに記録様式を見直しておくことをおすすめします。
介護保険の複数名訪問加算との違い
介護保険にも「複数名訪問加算」という類似の加算がありますが、対象者・料金体系は医療保険版とは異なります。医療保険の利用者と介護保険の利用者が混在する事業所では、どちらの保険が適用される訪問かによって、算定する加算の名称・料金体系が変わる点を混同しないよう注意が必要です。特に、精神科訪問看護の場合は「複数名精神科訪問看護加算」という別の加算区分が用意されているため、精神科の利用者を担当する場合はさらに区別が必要です。同一利用者が医療保険と介護保険のサービスを併用しているケースでは、どの時点の訪問がどちらの保険に基づくものかを明確に区別して記録しておかないと、請求時に混乱が生じやすくなります。
複数の加算区分を扱う際の実務上の工夫
医療保険・介護保険・精神科それぞれで複数名訪問関連の加算が存在するため、請求ソフトの設定や職員向けのマニュアルでは、利用者ごとにどの加算区分が適用されるかを一覧化しておくことが望ましいとされています。特に新人スタッフや事務担当者が請求業務を行う場合、加算名称の類似性から誤った区分で算定してしまうリスクがあるため、事業所内でのチェック体制を整えておくと安心です。月次の請求確認時には、複数名対応があった利用者の一覧を作成し、適用した加算区分が正しいか照合する運用にしておくとよいでしょう。特に転職者や異動してきたばかりの職員に対しては、入職時研修の中で加算区分の違いを一度整理して伝えておくと、後々のミスを防ぎやすくなります。
算定前に確認したいチェックリスト
- 対象者が6カテゴリーのいずれかに該当するか確認したか
- 同行するスタッフの組み合わせ(看護師等・准看護師・その他職員)に応じた料金区分を確認したか
- 利用者・家族の同意を得ているか
- 複数名での対応時間が最低30分程度確保されているか
- 訪問開始・終了時刻と同行スタッフの役割を記録に明記しているか
訪問看護記録に残しておきたい内容
算定要件を後から説明できるよう、複数名対応を行った際は次の内容を記録しておくことをおすすめします。
- 同行理由対象者要件(6カテゴリーのいずれか)と、複数名対応が必要だった具体的な理由。
- 同意の記録利用者・家族から複数名対応の同意を得た日時・方法。
- 訪問開始・終了時刻令和8年度改定で明確化された、複数名で対応した時間帯の記録。
- 各職員の役割誰がどのような役割(主担当・介助・観察等)を担ったかの記録。
複数名訪問看護加算は算定額が比較的大きく、査定・返戻の対象になりやすい加算の一つです。記録の型(テンプレート)をあらかじめ用意しておくと、スタッフによる記載のばらつきを防ぎやすくなります。
よくある質問
「その他職員」とはどのような職種を指しますか?
看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)以外の同行者を指します。理学療法士等のリハビリ職や、看護補助者などが該当するケースがあります。
同一建物内に複数の利用者がいる場合、料金は下がりますか?
同一建物内に3人以上の対象利用者がいる場合、通常より低い料金が適用される仕組みになっています。
令和8年度改定で新たに必要になった記録は何ですか?
訪問の開始・終了時刻と、同行したスタッフの役割を訪問看護記録に明確に記載することが求められるようになりました。単位数・算定要件自体に大きな変更はありません。
新人スタッフの教育目的の同行訪問でも算定できますか?
教育目的のみを理由とした同行は、複数名訪問看護加算の算定要件を満たさない可能性があります。対象者要件に基づく複数名対応と、教育目的の同行は別のものとして整理し、記録上も混同しないようにする必要があります。
精神科の利用者にも同じ複数名訪問看護加算が適用されますか?
精神科訪問看護では「複数名精神科訪問看護加算」という別の加算区分が用意されており、対象者・料金体系が異なります。精神科の利用者を担当する場合は、こちらの加算区分を確認する必要があります。

まとめ|対象者と料金区分を正しく整理しよう
複数名訪問看護加算は、対象者6カテゴリーと、同行するスタッフの職種による料金区分の組み合わせを理解しておくことが重要です。令和8年度改定では記録要件が明確化された点も忘れずに反映しましょう。介護保険版や精神科版など類似の加算区分も存在するため、事業所内で誤って別の区分と混同しない体制づくりも欠かせません。
- 対象は末期悪性腫瘍等の指定疾病患者、特別管理加算対象者、暴力行為がある利用者等の6カテゴリー
- 同行するスタッフが看護師等・准看護師・その他職員かで料金と回数上限が変わる
- 利用者・家族の同意と、最低30分程度の複数名対応が算定要件
- 同一建物内に3人以上の対象利用者がいる場合は料金が下がる
- 令和8年度改定で訪問時刻・同行者の役割の記録要件が明確化された
特別管理加算、特別訪問看護指示書の要件についても、関連記事をあわせてご確認ください。























