医療保険の訪問看護は、原則として1日1回・週3回までという制限があります。しかし、医療依存度の高い利用者の中には、1日に複数回の訪問看護が必要なケースも少なくありません。この制限を超えて複数回訪問を可能にするのが「難病等複数回訪問加算」です。
この記事では、難病等複数回訪問加算の対象者・料金区分を、令和8年度改定で細分化された最新の料金体系とあわせて解説します。
- 難病等複数回訪問加算とは何か
- 加算の対象となる利用者の条件
- 1日2回・3回以上訪問時の料金区分
- 令和8年度改定での同一建物の定義変更
- 実務でよくある疑問(Q&A)
目次
難病等複数回訪問加算とは?
難病等複数回訪問加算とは、厚生労働大臣が定める疾病等の利用者、または特別訪問看護指示書が交付された利用者に対して、1日に2回または3回以上の訪問看護を実施した場合に算定できる加算です。医療保険の訪問看護は原則1日1回・週3回までとされていますが、この加算を用いることで、その制限を超えた頻回の訪問看護を提供できます。
加算の対象となる利用者
対象となるのは、次のいずれかに該当する利用者です。
- 別表第七の疾病等(末期がん、ALS、脊髄小脳変性症、パーキンソン病〔ヤール3度以上かつ生活機能障害度Ⅱ度以上〕など)
- 別表第八の状態(在宅患者訪問点滴注射管理指導料の算定者、気管カニューレ挿入、真皮を超える褥瘡、人工呼吸器使用など)
- 特別訪問看護指示書が交付された利用者(急性増悪等で頻回訪問が必要と認められた場合、最長14日間)
なぜこの加算が設けられているのか
訪問看護は本来、利用者の状態が安定していることを前提に、週3回・1日1回という頻度で組み立てられています。しかし、終末期のがん患者や神経難病の利用者、人工呼吸器を使用している利用者などは、状態変化への対応や医療処置の頻度が高く、1日1回の訪問だけでは安全な在宅療養を支えきれない場面があります。難病等複数回訪問加算は、こうした医療依存度の高い利用者に対して、必要な頻度で訪問看護を提供できるようにするための仕組みとして位置づけられています。
裏を返せば、対象疾病等に該当しない利用者や、特別訪問看護指示書が交付されていない利用者については、原則どおり1日1回・週3回までの制限が適用されます。頻回訪問が必要だと感じても、まず対象要件を満たしているかどうかを確認することが出発点になります。
特別訪問看護指示書との関係
特別訪問看護指示書は、病状の急性増悪や退院直後などで、一時的に頻回の訪問看護が必要と主治医が判断した場合に交付される指示書です。有効期間は原則14日間とされており、この期間中は難病等複数回訪問加算の対象として、1日複数回の訪問看護を実施できます。気管カニューレ使用者・真皮を超える褥瘡がある利用者については、月2回まで交付が可能とされる例外もあります。特別訪問看護指示書の交付要件や記載事項は、別表第七・第八とは異なる制度なので、混同しないよう整理しておく必要があります。
1日2回訪問時の料金区分
1日2回の訪問看護を実施した場合、同一建物内の算定人数に応じて、次のような料金が設定されています。
| 同一建物内の算定人数 | 1回あたりの加算額 |
|---|---|
| 1〜2人 | 4,500円 |
| 3〜9人 | 4,000円 |
| 10〜19人 | 3,700円 |
| 20〜49人 | 3,500円 |
| 50人以上 | 3,300円 |

令和8年度改定で人数区分が5段階に細分化されました。以前より計算が複雑になっているので、請求ソフトの設定が最新版になっているか確認しておきたいですね。

1日3回以上訪問時の料金区分
1日3回以上の訪問看護を実施した場合は、同一建物内の人数区分に加えて、その月の20日目までと21日目以降とで料金が変わる仕組みになっています。
| 同一建物内の算定人数 | 20日目まで | 21日目以降 |
|---|---|---|
| 1〜2人 | 8,000円 | 8,000円 |
| 3〜9人 | 7,200円 | 6,900円 |
| 10〜19人 | 6,300円 | 5,200円 |
| 20〜49人 | 4,800円 | 3,500円 |
| 50人以上 | 4,100円 | 3,000円 |
1〜2人区分のみ、20日目までと21日目以降で金額が変わらず一律8,000円です。それ以外の人数区分では、月21日目以降に金額が下がる点を見落とさないようにしましょう。

令和8年度改定のポイント|同一建物の定義が拡大
令和8年6月改定では、料金区分の細分化に加えて、「同一建物」の定義が拡大されました。従来は文字通り同じ建物内かどうかで判定していましたが、改定後は同一敷地内にある別棟(隣接・つながった別棟)も同一建物として扱うことになりました。
たとえば、サービス付き高齢者向け住宅の本棟と別棟が同じ敷地内にある場合、両方の建物で訪問している利用者の人数を合算して、算定区分(人数区分)を判定する必要があります。
複数棟からなる集合住宅・施設への訪問が多いステーションは、敷地図や建物配置を再確認し、これまで「別建物」として別々にカウントしていた利用者を、合算し直す必要がないか確認しておきましょう。
具体例で見る算定パターン
住宅型有料老人ホーム(同一建物内20〜49人区分に該当)に対して、毎日3回訪問しているケースを例に見てみましょう。
| 訪問日 | 加算額 |
|---|---|
| 1日目〜20日目 | 基本療養費+4,800円 |
| 21日目以降 | 基本療養費+3,500円 |
訪問看護基本療養費・管理療養費の基本的な仕組みについては、以下の記事もあわせてご確認ください。
レセプト請求時に注意したいポイント
難病等複数回訪問加算は、料金区分が細かく、記録の取り方によっては算定漏れや査定の対象になりやすい加算です。特に次の点は請求前に必ず確認しておきたいポイントです。
1日の訪問回数(2回か3回以上か)は、訪問看護記録書に開始・終了時刻とともに正確に記載し、レセプトの摘要欄にも算定根拠(対象疾病等・特別訪問看護指示書の有無)を明記しておくと、査定時の照会にも対応しやすくなります。
また、同一建物内の算定人数は、その日にステーションが同一建物内で何人に訪問看護を提供したかによって変動します。月によって人数区分が変わることもあるため、毎月固定の単価で請求してしまわないよう注意が必要です。
1〜2人区分のケースで見る算定例
戸建て住宅に居住する末期がんの利用者に対して、状態悪化に伴い1日3回の訪問看護を実施した場合を考えてみましょう。この利用者は同一建物内で訪問看護を受けている他の利用者がいないため、「1〜2人」区分に該当します。この区分は月20日目までと21日目以降で単価が変わらないため、月の途中で訪問回数を維持していれば、加算額の見込みが立てやすいという特徴があります。一方で、同一建物内の人数が多い施設系の利用者は、月21日目以降に単価が下がる点を踏まえた収支の見通しが必要です。
実務でよくある疑問(Q&A)
難病等複数回訪問加算に関して、現場でよく挙がる疑問には次のようなものがあります。
- 点滴中の見守りを家族が行い、抜針・観察を看護師が行う場合算定可能とされています。家族による見守りと、専門的な処置・観察を組み合わせた訪問看護の一形態として扱われます。
- 同一ステーションの看護師と理学療法士が同日に訪問する場合算定可能とされていますが、利用者・家族への説明と同意が必須です。
- 特別管理加算の対象となる小児患者の場合算定可能とされていますが、こちらも利用者・家族への説明と同意が必須です。
算定前に確認しておきたいチェックリスト
- 利用者が対象疾病等(別表第七・第八)または特別訪問看護指示書交付者に該当するか
- その日の訪問回数(2回か、3回以上か)を正確に記録しているか
- 同一建物内の算定人数を、同一敷地内の別棟も含めて正しくカウントしているか
- 月21日目以降の単価引き下げが請求に反映されているか
- 複数職種の同日訪問等、説明・同意が必要なケースで同意を得ているか
よくある質問
難病等複数回訪問加算はどのような場合に算定できますか?
厚生労働大臣が定める疾病等(別表第七・第八)の利用者、または特別訪問看護指示書が交付された利用者に対して、1日に2回または3回以上の訪問看護を行った場合に算定できます。
同一建物の範囲はどう変わりましたか?
令和8年6月改定で、同一敷地内にある別棟も同一建物として扱われるようになりました。複数棟からなる施設は、棟をまたいで利用者数を合算する必要があります。
月の途中で単価が変わるのはなぜですか?
1日3回以上訪問する場合、同一建物内の人数区分によっては、月21日目以降に単価が引き下げられる仕組みになっています。1〜2人区分のみ、月を通じて金額は変わりません。

まとめ|対象者・訪問回数・同一建物の判定を正しく理解しよう
難病等複数回訪問加算は、医療依存度の高い利用者への頻回訪問を評価する加算であり、令和8年度改定で料金区分がより細かく見直されました。
- 対象は別表第七・第八の疾病等、または特別訪問看護指示書交付者
- 1日2回訪問は人数区分に応じた単価、3回以上はさらに20日目までと21日目以降で異なる
- 同一建物の範囲は、令和8年度改定で同一敷地内の別棟も含むよう拡大された
- 複数職種の同日訪問や小児患者への算定は、説明・同意が必須
- 建物配置の再確認と請求システムの更新を忘れずに行う
訪問看護基本療養費の全体像や、緊急訪問看護加算との違いについては、関連記事もあわせてご確認ください。























