「もう限界かもしれない」——毎晩オンコールの電話に飛び起き、月末には資金繰り表とにらめっこ。人手が足りず自分も訪問に回り、経営者としての判断をする時間すら取れない。そんな状態が続くと、多くの経営者の頭には「いっそ廃業してしまおうか」という考えがよぎります。しかし、その前に立ち止まって考えてほしい選択肢があります。「M&Aによる譲渡」という、廃業とは正反対の結末を迎える道です。
廃業は、経営者にとって「すべてを失って終わる」選択になりがちです。退職金や違約金、個人保証の返済が重くのしかかり、最悪の場合は自己破産に至ることもあります。一方でM&Aは、たとえ赤字や債務超過であっても、在籍する看護師や地域の利用者そのものに価値を見出す買い手が現れれば、負債を整理しながら手元にリスタートのための資金を残せる可能性がある手段です。この記事では、「廃業」と「M&Aによる譲渡」という2つの選択肢を、経営者の実利(生活・再起)と、スタッフ・利用者に対する責任(大義)の両面から具体的に比較します。
- 「廃業」と「M&Aによる譲渡」の根本的な違い
- 廃業を選んだ場合に経営者にのしかかる金銭的・精神的負担
- M&Aによる譲渡を選んだ場合に得られる3つの価値
- 事業譲渡を選ぶ際に必ず知っておくべき指定申請のリスク
- 費用・手数料の考え方と、廃業とM&Aの一目でわかる比較表
目次
「廃業」と「M&Aによる譲渡」は何が違うのか
訪問看護ステーションの経営を終える方法には、指定を返上して事業そのものを消滅させる「廃業」と、指定や利用者・スタッフとの関係を第三者(買い手)に引き継いで事業を存続させる「M&Aによる譲渡」の2つがあります。両者の違いは一言でいえば、「終わらせる」か「託す」かという点です。基本的な仕組みや、もう一つの手法である株式譲渡との違いは、訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。この記事では、「廃業するか、M&Aによる譲渡するか」で経営者の手元に何が残り、何を失うのかという実利面の比較に絞って解説します。

「廃業」と聞くと、単に事業所を畳むだけと思われがちですが、実際には利用者様への引き継ぎ、スタッフの再就職先の確保、行政への各種届出など、想像以上に手間とお金がかかります。まずは「終わらせること」自体にもコストがかかるという現実を知っておくことが、選択を誤らないための第一歩ですね。
「廃業」を選んだ場合、経営者にのしかかる負担
資金繰りが厳しい状況では、「もう畳んでしまえば楽になる」と考えがちですが、廃業には見落とされやすい金銭的負担が数多く存在します。
- 従業員への退職金:就業規則や退職金制度に基づき、看護師・リハビリ職などスタッフ全員分の退職金・解雇予告手当を用意する必要があります
- 賃貸物件の解約違約金:事務所や訪問車両の駐車場などの賃貸借契約を中途解約する場合、契約内容によっては違約金が発生します
- リース契約の残債一括請求:訪問車両や医療機器をリースで導入している場合、契約を解除すると残りのリース料を一括請求されることがあります
- 金融機関からの借入金と経営者の個人保証:法人名義の借入金に経営者個人が連帯保証をしている場合、法人の資産だけで返済しきれなければ、経営者個人の自宅や預貯金にまで返済が及びます
これらの負担が重なると、廃業のために新たにまとまった現金が必要になり、それを用意できなければ経営者個人が自己破産に追い込まれるケースも現実に起こり得ます。帝国データバンクの調査によれば、2025年に全国で休廃業・解散した企業は6万7,949件にのぼり、そのうち廃業する直前の決算が「黒字」だった企業の割合は49.1%と、調査を遡れる2016年以降で初めて5割を下回りました。経営が黒字であっても、後継者や引き受け手が見つからなければ静かに廃業を選ばざるを得ない中小・零細事業者が増えているということです。訪問看護ステーションも例外ではなく、資金繰りが多少苦しい程度であっても、「誰かに事業を託す」という発想がないまま廃業に至ってしまう経営者は少なくありません。
借入金に経営者保証が付いている場合でも、廃業=即自己破産と決まっているわけではありません。中小企業庁と全国銀行協会が策定した「経営者保証に関するガイドライン」を活用すれば、一定の要件のもとで自己破産によらずに保証債務を整理できる可能性があります。ただし適用には金融機関との協議や専門家のサポートが必要になるため、資金繰りが厳しくなった段階で早めに専門家(弁護士・事業承継の専門家等)に相談することが重要です。

M&Aによる譲渡を選んだ場合に得られる3つの価値
一方、M&Aによる譲渡を選んだ場合、経営者が得られるものは廃業とは大きく異なります。ここで大切なのは、「事業を売って資産を現金化する」という単純な話ではないということです。たとえ債務超過や赤字であっても、買い手は「在籍する看護師」「地域で確保している利用者(指定枠)」そのものに、数千万円規模の価値を見出すことがあります。廃業コストをゼロにし、負債を引き継いでもらうか売却対価で相殺したうえで、手元にリスタートのための安心な資金を残せる「債務整理・再起の手段」として機能する点が、M&Aの本質的な価値です。この価値は、大きく3つに整理できます。
1. 雇用の維持と処遇改善(大義)
廃業すればスタッフ全員が職を失いますが、M&Aで事業が存続すれば、看護師・リハビリ職の雇用はそのまま維持されます。買い手が経営基盤の安定した法人であれば、給与体系や福利厚生が改善され、慢性的な採用難にも一定の歯止めがかかることが期待できます。
2. 地域医療の持続(社会的責任)
訪問看護を必要とする利用者にとって、担当していたステーションが突然なくなることは、生活と療養の継続を脅かす重大な出来事です。M&Aによって事業が引き継がれれば、利用者は同じステーション(あるいは同じスタッフ)から継続してケアを受けられます。地域に訪問看護という社会インフラを残すこと自体が、経営者に課せられた社会的責任を果たす選択だといえます。
3. 債務・個人保証からの解放とリスタート(実利)
そして経営者本人にとって最も切実なのが、この3つ目です。M&Aが成立すれば、法人の借入金は買い手に引き継がれるか、売却対価によって整理されます。金融機関との交渉次第では、経営者個人の連帯保証を解除できるケースもあります。何より大きいのは、経営責任と24時間365日のオンコール対応の重圧から完全に解放されることです。自分が倒れて突然廃業し、スタッフと利用者を路頭に迷わせる最悪のシナリオを回避したうえで、経営権を手放して一人の看護師・現場プレイヤーに戻り、夜、電話に怯えることなく眠れる生活を取り戻せる——これこそが、資金繰りとオンコールに疲弊した経営者にとってのM&Aの本当の価値です。
M&Aは「事業を大きく成長させたい人だけの選択肢」ではありません。むしろ現場では、成長よりも「これ以上、経営責任とオンコールを抱えられない」という理由でM&Aを選ぶ経営者のほうが多いのが実情です。採用難・資金繰り・オンコール疲弊のいずれか一つでも心当たりがあれば、廃業を決断する前にM&Aという選択肢を検討する価値があります。
手法としての「事業譲渡」で必ず知っておきたい注意点
M&Aの手法には主に「株式譲渡」と「事業譲渡」がありますが、事業譲渡を選ぶ場合には、廃業と同様に行政手続き上のリスクを正しく理解しておく必要があります。事業譲渡では、譲渡元の指定を廃止し、譲受側(買い手)が新たに指定申請を行う必要があるのが原則です。このとき、廃止と新規指定のタイミング調整を1日でも誤ると、数週間から1ヶ月にわたって介護報酬・診療報酬を一切請求できない「空白期間」が発生するおそれがあります。
資金繰りにすでに余裕がない事業所にとって、この空白期間は給与の未払いや黒字倒産に直結しかねない致命的なリスクです。これを回避するためには、管轄の都道府県・厚生局と「同日廃止・同日新規指定」となるよう緻密に調整するか、指定を引き継ぎやすい「株式譲渡」への切り替えを検討する必要があります。こうした行政手続きは、訪問看護の実務と指定申請の実情を熟知した専門家のサポートなしに進めるのは非常にリスクが高い領域です。

「事業譲渡なら手続きもシンプルだろう」と考えて自己流で進めてしまい、指定の切り替えのタイミングがずれて売上が一時的にゼロになった、という話も耳にします。手法選びの段階から専門家に相談することで、こうした落とし穴を防げますよ。

費用・手数料の考え方|廃業とM&A、結局どちらが「安い」のか
「M&Aは仲介手数料がかかるから、費用面では廃業のほうが安いのでは」と考える方もいますが、前述の通り廃業にも退職金・違約金・リース残債・個人保証の返済といった現実的な出費が伴います。まずは自社の廃業コストを概算したうえで、M&Aの手数料と比較することが重要です。
M&A仲介の手数料は一般的に「レーマン方式」(成約額に応じて段階的に手数料率が下がる方式)で算出されます。ここで見落とされがちなのが、最低手数料の壁です。大手・中堅のM&A仲介会社の中には、最低手数料を1,000万円〜2,000万円程度に設定しているところもあり、譲渡額が小さい小規模な訪問看護ステーションの場合、手数料を差し引くと手元にほとんど資金が残らない「手数料負け」が起こり得ます。
M&A仲介会社を選ぶ際は、手数料率だけでなく「最低手数料がいくらに設定されているか」を必ず契約前に確認してください。特に譲渡額数千万円規模が中心となる訪問看護ステーションのM&Aでは、最低手数料の水準が実際の手取り額を大きく左右します。
「廃業」と「M&Aによる譲渡」比較表
ここまでの内容を、経営者にとって重要な観点ごとに一覧表で整理します。
| 比較項目 | 廃業 | M&Aによる譲渡 |
|---|---|---|
| 従業員の雇用 | 原則、全員が離職 | 買い手に引き継がれ、継続雇用が基本 |
| 利用者へのケア | 他事業所への引き継ぎが必要 | 同じ事業所・スタッフで継続できる可能性が高い |
| 金融機関の借入金 | 経営者が返済義務を負い続ける | 買い手に引き継がれるか、対価で整理される可能性がある |
| 個人保証 | 解除されず、資産・自宅にも影響し得る | 交渉により解除できるケースがある |
| 手元に残る資金 | 退職金・違約金等の支払いでマイナスになることも | 負債整理後、リスタート資金を残せる可能性がある |
| 経営者の心理的負担 | 結末は「終わり」の一択 | 現場に残る/引退するなど選択肢を持てる |
| 主な費用 | 退職金・違約金・リース残債の一括請求等 | M&A仲介手数料(レーマン方式・最低手数料に注意) |
よくある質問
廃業とM&Aによる譲渡、結局どちらを選べばいいのでしょうか?
一概にどちらが正解とは言えませんが、少しでも「引き継ぎたいスタッフや利用者がいる」「個人保証の負担が心配」という場合は、廃業を決める前に一度M&Aの可能性を無料相談・無料査定で確認することをおすすめします。査定を受けた上で、条件が合わなければ廃業を選ぶこともできます。
赤字や債務超過の状態でも、M&A(譲渡)は可能ですか?
可能性はあります。買い手は「現在の決算が黒字か赤字か」だけでなく、在籍する看護師の数や地域での指定枠、利用者基盤そのものに価値を見出すことがあるためです。まずは無料査定を受けてみないと、譲渡が可能かどうか、どの程度の評価になるかは分かりません。
廃業を決めてから実際に事業所を閉じるまで、どのくらいの期間がかかりますか?
利用者の引き継ぎ先の調整、スタッフの退職手続き、行政への廃止届の提出など、複数の手続きを並行して進める必要があるため、数ヶ月単位の期間を要するのが一般的です。関係者への影響を最小限にするためにも、早めに準備を始めることが重要です。
事業譲渡を選んだ場合、スタッフの雇用や利用者への影響はどうなりますか?
事業譲渡では、スタッフ一人ひとりから新しい法人への転籍について個別に同意を得る必要があります。給与・勤務条件・有給休暇の扱いなどを現在と同等以上の条件で引き継ぐ設計にすることが一般的で、利用者に対しても、担当スタッフやサービス内容が大きく変わらないよう配慮しながら引き継ぎが進められます。
個人保証や借入金は、M&A(譲渡)でどうなりますか?
借入金を買い手が引き継ぐケースや、譲渡対価で完済して個人保証を解除するケースなど、状況によって扱いが異なります。金融機関との調整が必要になるため、M&Aの専門家に早い段階で相談し、個人保証の扱いについても交渉の対象に含めることが重要です。
M&Aの相談は無料ですか?何から始めればいいですか?
事前相談と無料査定は無償で利用できるのが一般的です。まずは現在の経営状況(決算書等)をもとに、譲渡の可能性や想定される評価額について相談してみることから始めるとよいでしょう。
まとめ|「終わらせる」前に、「託す」という選択肢を検討する
資金繰りやオンコールの重圧に疲弊しているとき、経営者の視界には「廃業」という結末しか見えていないことがあります。しかし、廃業には退職金・違約金・個人保証の返済といった重い負担が伴い、経営が黒字であっても静かに廃業を選ばざるを得ない事業者が増えているのが実態です。
- 廃業は「終わらせる」選択であり、退職金・違約金・リース残債・個人保証の返済という重い金銭的負担を伴う
- M&Aによる譲渡は「託す」選択であり、雇用の維持・地域医療の持続・債務からの解放とリスタートという3つの価値をもたらす
- 事業譲渡を選ぶ場合は、指定申請の空白期間リスクを踏まえた専門家によるサポートが不可欠
- M&A仲介手数料には「最低手数料の壁」があるため、契約前に必ず確認する
廃業を決断する前に、まずは無料査定で自社の可能性を確認することが、後悔しない選択につながります。

訪問看護特化の事業承継・M&A支援「ビジケア」について
ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。
国が創設したM&A支援機関登録制度の登録を受け、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」の遵守にも取り組んでおり、ご相談・お相手探しにかかる着手金や中間金は一切無料(0円)です。
支援の範囲は、秘密保持契約の締結から、企業価値算定、お相手探し・マッチング、トップ面談・条件交渉、最終契約・引き継ぎ完了まで、一貫してサポートします。
M&Aの基本的な仕組みや、株式譲渡・事業譲渡それぞれの特徴についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説を読むビジケアは、訪問看護業界に特化した経験・知見・ネットワークを活かし、売手側の利益最大化に専念してご支援します。ご相談・お相手探しの着手金・中間金は無料(0円)でご利用いただけます。
- 現場を知り尽くしているからこその「適正評価」
- 専門家による「安心の承継サポート」
- 広範なネットワークを活用したご縁つなぎ























