訪問看護の事業承継連載⑧:『事業承継に関する専門用語』

 

坪田

はじめまして。

看護師の坪田康佑です。

これから11回にわたり、『訪問看護の事業承継連載』を執筆させていただきます

よろしくお願いいたします。

 

前回の連載内容はこちら

 

連載者プロフィール

坪田康佑

一般社団法人訪問看護支援協会

訪問看護ステーション事業承継検討委員会/一般社団法人訪問看護支援協会
国家資格:看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など
その他資格:MBA、M&Aアドバイザー、メディカルコーチングなど
2005年慶應義塾大学看護医療学部卒、2010年米国NY州Canisius大学MBA卒、国際医療福祉大学博士課程在籍。株式会社コーチエィにてコーチングに従事。ETIC・NEC社会起業塾を経て、無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業。体調を崩し、2019年全事業売却。ユニーク看護師図鑑を運営。

 

【執筆者著書紹介】

 

この連載を通じて、事業がずっと続くためには「事業承継」がどれだけ重要か、伝えてきました。

今回は、これまで何回か出てきた事業承継にまつわる専門用語にスポットを当てて、その意味や使い方をわかりやすく解説してみます。

私たちの日常生活で事業承継に直面することはそんなに多くないかもしれません。でも、この分野の専門家や仲介者たちは日々これを扱っていて、彼らはスムーズなコミュニケーションのために専門用語を駆使します。医療分野でもよくあることですが、短くて分かりやすい略語もよく使われます。専門用語が飛び交うと、たまには「何言ってるの?」ってなることもあるかもしれません。

でも、知っておくと不安も少なくなり、もっと冷静に、適切な判断ができるようになります。それに、訪問看護ステーションを運営している皆さんにとって、これらの専門用語は日常業務にも役立つはず。この機会に事業承継に関連する専門用語をおさえて、今後の経営や事業の流れに活かしていってくださいね。

 

事業承継に関する専門用語

 

事業承継

組織の経営を後継者に引き継ぐこと全体を指します。事業承継を第三者に承継する際のことを「M&A」と表現することがあります。「承継」という言葉には、事業を受け継ぐ際に、前任者が長年大切にしてきた理念や想いも共に受け継ぐという意味があります。

 

※事業継承も同様の意味で使われることが多い。継承に関しては、伝統や持ち続けるものに関する意味などを含まれて、後継者やその次の世代に伝えるという意味で使われることが多いです。

 

M&A (Mergers and Acquisitions)

よく「エムアンドエー」や「エムエー」と略して言われることが多いですが、M&Aは、”Mergers and Acquisitions”の略で、日本語では「合併と買収」を意味します。事業を継続させたり、成長したりする方法の一つとして、他の会社を「買う」(Acquisition)か、もしくは「合わさる」(Merger)ことがあるので、併せて表現します。

意味を理解するために、それぞれ簡単に説明すると、Mergerは二つの会社が一つになること、そしてAcquisitionは一つの会社がもう一つの会社を所有することです。
実際には、両方の意味を別々に使い分けることなく、どちらか片方の意味でも「エムアンドエー」と使うことが多いです。

 

デューデリジェンス

よく「デューデリ」や「ディーディー」と略して言われることが多く、デューデリジェンスとは、買収監査のことを言います。買収監査とは、事業承継元(売り手)事業の調査のことを言います。ステーションを承継してすぐにトラブルが起きたり、最悪閉鎖になったりしないように、ステーションの価値を調べます。

具体的には、各専門分野によって「財務デューデリジェンス」「事業デューデリジェンス」「法務デューデリジェンス」「労務デューデリジェンス」(以下略)と分解し、実施することが多いです。具体的に、財務デューデリジェンスでは、このステーションがどれだけ売り上げているのか?借金があるのか?などを確認し、法務デューデリジェンスでは、訴訟リスクや契約書の不備などを確認します。

過去に、10名以上のスタッフを擁する訪問看護ステーションのデューデリジェンスをサポートした経験があります。事業承継先(買い手)法人からは、最終的な安心材料としてこのサポートを依頼されました。しかし、実際に調査を進めてみると、その訪問看護ステーションで働く看護師たちが退職を決意している事実が明らかになりました。数か月後には、看護師がわずか2名しか残らないという、ステーションの存続にとって大きな危機が迫っていたのです。この重要な情報を迅速に事業承継先法人に伝えたことがあります。

基本的にこのように、事業承継先(買い手)法人からご依頼を頂くことが多いのですが、時には、事業承継元ステーション(売手)から、直接相談を受けることもあります。その場合の多くは、「事業承継を行う前に、自分たちのステーションの価値をどうやって高めるか」というものです。

 

バリュエーション

バリュエーションとは「企業価値評価」のことを言います。この訪問看護ステーションは、どれだけお金の価値があるのかを明らかにするもので、事業承継する際に特に重要なものとなります。家などの不動産と似ていて、価値は、事業承継先(買い手)法人によって、捉え方は異なりますが、お金にダイレクトに関係するものなので、評価するためのアプローチ方法がいくつか確立されています。価値は、単なるステーションの財務状況だけではなく、地域での立ち位置だったり、市場の状況だったり、未来成長予測やリスクなどによって変わります。言い値で引き継ぎたいから、バリュエーションは不要だと希望される方が、事業承継元(売手)も事業承継先(買い手)どちらの場合でも言う方もいらっしゃいますが、過大評価も過小評価も、長い目でみると双方に悪影響をもたらす可能性があるので、正しい価格で取引されるように実施することが大切です。訪問看護ステーション事業を的確にバリュエーション出来る人への相談が大切です。

老舗のステーションであるのですが、低価格での評価を受けることがあります。訪問看護ステーションの中には、利益を最優先とせず、主に従業員の給与に資金を回して運営しているところが存在します。このような経営方針をとるステーションが、過去の利益を基準に評価されるバリュエーション方法を用いると、利益が少ないもしくは出ていないために、不当に低い評価を受けるリスクがあるのです。長い間地域の医療を支えてきた有名な訪問看護ステーションの経営者であっても、仲介にかかる手数料が高額で、すずめの涙ほどの退職金しか残らないケースも存在します。

 

シナジー効果

シナジーが、相乗効果と言う意味なので、シナジー「効果」と表現するのは日本語として不思議ですが、M&Aの際によく使われます。企業が他の企業と合併や買収を考える際、ただ単に2つの企業が一緒になるだけでなく、2つの企業が結びつくことで新しい価値や効果を生み出せるかどうかが非常に重要となります。この新しい価値や効果こそが、シナジー効果です。簡単に言うと、「1 + 1 > 2」のような状況です。それぞれの組織や部分が持っている独自の強みやリソースが組み合わさることで、予想以上の成果を生むことができるのです。

例えば、認知症グループホームの事業を展開しているA法人と、訪問看護ステーションを経営しているB法人があったとします。この場合、A法人とB法人が提携または合併することで、医療連携体制加算を取得だけじゃなく、看護師と密に連携することによる安心感で、利用者や従業員の満足度をあげるなど、効果的に経営が出来るようになるかもしれません。これがシナジー効果です。

 

ノンネームシート

「ノンネーム」や「1枚もの」と言われることもありますが、M&Aの対象ステーションが特定されないようにして、ステーションの基本的な情報を提供する資料のことを指します。M&Aの過程では、特定のステーションを対象とした交渉前に、そのステーションの魅力や価値を検討する必要があります。しかし、具体的な企業名を最初から公開することは、従業員に不必要なストレスを与えたり、利用者に不安を与えたり、本業に影響を及ぼす可能性があるため、初期段階ではステーション名を伏せた情報提供が行われることが一般的です。この際に用いられるのがノンネームシートです。

 

ネームクリア

事業承継先(買い手)法人に対して、事業承継元(売手)ステーションの社名などの情報を開始することです。ノンネームシートで丁寧に情報を隠してきたので、秘密保持契約締結後に、開示されることが一般的です。

 

M&Aアドバイザリー

M&Aアドバイザリーは、M&Aの際に、事業承継元(売手)、事業承継先(買い手)あるいは両方に対して専門的な助言やサポートを提供するサービスのことを指します。このサービスは、銀行や士業、もしくはコンサルティングファームやM&A専門業者などで提供しています。M&Aアドバイザリーの主な役割は、取引を成功に導くための戦略策定や交渉のサポート、そして企業評価など様々な役割を果たします。M&Aは高額な取引になるので、専門的な知識や経験が必要となるため、M&Aアドバイザリーは、その過程を円滑に進めるための信頼のおかえるパートナーとしての重要な役割を担っています。

事業承継元(売手)、事業承継先(買い手)の両者につく仲介型というスタイルがあります。訪問看護ステーションでは、仲介型が一般的ですが、M&Aの過程で、事業承継元と事業承継先の利益が相反する場面がしばしば見られます。例えば、事業承継元はステーションの価値を高く評価し、高い価格で売却したいと考えます。一方、事業承継先はできるだけ低い価格で購入したいと希望します。このような背景から、事業承継元と事業承継先がそれぞれ異なるM&Aアドバイザリーを設けるケースも大型案件になってくると増えてきています。仲介型以外のスタイルがあることを覚えておくといいです。

 

坪田

まずは、聞きなれない横文字で、よく使われる言葉を説明させて頂きました。

次号では、意向表明書や優先交渉権など、漢字で意味はなんとなく分かるけれど、具体的にはわかりにくい専門用語を説明していきます。

 

 

 

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