訪問看護の事業承継連載②:『日本全体からみる訪問看護の事業承継』

 

坪田

はじめまして。

看護師の坪田康佑です。

これから11回にわたり、『訪問看護の事業承継連載』を執筆させていただきます

よろしくお願いいたします。

 

前回の連載内容はこちら

 

連載者プロフィール

坪田康佑

一般社団法人訪問看護支援協会

訪問看護ステーション事業承継検討委員会/一般社団法人訪問看護支援協会
国家資格:看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など
その他資格:MBA、M&Aアドバイザー、メディカルコーチングなど
2005年慶應義塾大学看護医療学部卒、2010年米国NY州Canisius大学MBA卒、国際医療福祉大学博士課程在籍。株式会社コーチエィにてコーチングに従事。ETIC・NEC社会起業塾を経て、無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業。体調を崩し、2019年全事業売却。ユニーク看護師図鑑を運営。

 

【執筆者著書紹介】

 

坪田

訪問看護ステーションの事業継承は、多くの方々にとって重要なテーマとなっています。

経営者の年齢が高くなる中で、事業継承の必要性は増しています。成功事例はよく耳にする一方で、残念ながら失敗例はあまり聞かれません。

事業継承に挑んだものの、準備不足やトラブルでうまくいかず廃業を余儀なくされたケースもあります。

事業継承は単に手続きを済ませるだけでなく、人材、資源、資金などの様々な要素を考慮する必要があります。

訪問看護ステーションの利用者、その家族、そして従業員を守り、ステーションの創業時の理想を引き継ぐために、この連載では事業継承に関する知識、注意点、価格設定の方法、実際の事例、事業継承のガイドラインなどをご紹介します。
これらを通じて、地域社会にとって大切な訪問看護事業所をいつまでも守り続ける方法を探ります。

第2回目では、日本全体における訪問看護事業の事業継承に焦点を当てて考えていきます。

 

訪問看護業界の事業承継環境

 

訪問看護事業所の歴史を振り返ると、2023年の在宅学会雑誌「在宅看護のサステナビリティ」で川添高志氏が唱えた分類(以後:川添分類)によれば、これまでの歩みを大きく三つの世代に分けることができます。第一世代は、1982年の老人保健法制定から2000年までを含む創業期。第二世代は、2001年の介護保険法施行から2011年までの停滞期。そして第三世代は、2012年以降の成長期です。川添氏は、第一世代を中心に70代、第二世代を中心に50代の経営者が多いと述べています。
中小企業庁の小規模企業白書によると、70代以上の休廃業・解散企業代表者が60%以上を占め、訪問看護業界においても第一世代の経営者がこの年齢層に達しています。2000年までに立ち上がった訪問看護事業所は4730カ所にも及び、これらの事業所では次世代へのバトンタッチが求められています。

M&Aの年齢層についても同白書は言及しており、60代が48.5%、次いで50代が21.8%を占めています。これは、第二世代の年齢層が事業継承を意識する時期に入っていることを示しています。訪問看護事業所全体の約4割が事業継承に取り組む必要があると考えられます。
2022年には、訪問看護業界で事業継承が大きく注目されました。例えば「コミュニティケア」の特集や第12回日本在宅看護学会では、事業継承に関する多くの議論が交わされました。また、公益財団法人訪問看護財団は、事業継承に関するセミナーも企画しています。これらは、訪問看護事業所の数が1万5000カ所を超え、事業継続や引き継ぎが重要視される時代へと変わってきたことを物語っています。

さらに、第三世代の経営者も事業継承を軽視できません。私自身、2019年まで訪問看護事業所を経営していましたが、過労が原因で3か月ほど緊急入院し、事業継承を余儀なくされた経験があります。事業継承は予測可能なものだけでなく、突然の事態にも備える必要があるのです。幸いなことに、中小企業庁をはじめとする支援環境が整いつつあり、創業者の想いを次世代に継承しやすくなっています。

 

出典)一般社団法人全国訪問看護事業協会:令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果

 

訪問看護ステーションの大規模化への移行

2013年、訪問看護業界を牽引する三つの団体である、一般社団法人全国訪問看護事業協会、公益財団法人日本訪問看護財団、そして公益社団法人日本看護協会が協力して「訪問看護アクションプラン2025」を策定しました。このプランの中で特に重視されたのが、訪問看護の量的拡大です。2014年の診療報酬改定によって、「機能強化型訪問看護ステーション」という新しい制度が生まれ、訪問看護ステーションの大規模化が推進されました。

2022年には、財政面での効率化を目的として、財務省からも訪問看護ステーションの大規模化・協働化が促されています。また、2024年から始まる第八次医療計画でも、訪問看護業界における事業者規模の拡大が重要な議題となっています。

これまでの訪問看護事業所は、小規模で多店舗型の運営が主流でした。しかし、現在は業界全体で大規模化への流れが加速しています。厚生労働省の「令和2年介護サービス施設・事業所調査」によると、利用者が49人以下の事業所が全体の約46.1%を占めており、小規模事業所が多い状況が続いています。

医療施設との比較をすると、この状況は医療インフラとしてのベッド数の必要性を考えるときに、19床以下の有床診療所が多数を占めるような状況に似ています。このように医療資源が分散してしまうと、夜間の医療提供体制が困難になり、地域での医療崩壊のリスクが高まります。地域での訪問看護師の数を考えてみてください。A地区では、5ステーション×3人で15人の訪問看護師、B地区では1つのステーションだけれど15人の訪問看護師がいるとします。A地区では、一か月の夜間オンコールを一人あたり10日もつのに対して、B地区では、一人あたり2日だけになります。訪問看護ステーションにおいても、休廃業の原因の一つとして人員基準の不足や、夜間オンコールの増加による体制の困難が挙げられています。訪問看護業界においても、地域医療を支えるために、医療施設のように大規模化することが求められているのです。

 

訪問看護ステーションの大規模化の流れと事業承継

 

訪問看護業界の大規模化の動きは、事業承継の課題解決に新たな光を当てています。経営効率化という観点から、他の業界の成功例が参考になります。たとえば、地域密着型の小売業である酒屋や肉屋は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの登場により、価格競争や品質管理の面で大きな変化を遂げました。

医療分野での事例としては、薬局の変遷が挙げられます。薬局業界では、チェーン展開やドラッグストアへの事業承継が進んでいます。これにより、かつては薬剤師が在庫管理や伝票処理などの複数の業務をこなしていた小規模な店舗が、大規模化を通じてシステム化や補助者の活用により効率化を実現し、薬剤師が本来の業務に集中できるようになりました。また、薬剤師が訪問サービスを提供する「訪問薬局」のようなサービスも、大規模化により可能となっています。

薬局業界は、かつてダイエーやマツモトキヨシなどの大手企業を生み出し、ビジネスとしての成功を収めました。訪問看護事業では、まだ大手企業の存在が少ないことが大きな違いです。このため、第三世代の訪問看護事業経営者が、先行する第一世代や第二世代から事業を引き継ぎながら、中規模へと成長させていくプロセスが重要になります。

 

 

坪田

あなたが夢を見て、情熱を注いで築き上げたものを、引退とともに失わせてはいけません。あなたの作り上げたものは、ただの事業ではなく、地域共同体の貴重な一部です。この連載を通じて、訪問看護ステーションの事業承継について、皆さんと一緒に深く考え、学び合うことができれば幸いです。
皆さんの質問やコメント、ご意見やご相談は大歓迎です。ぜひお寄せください。

そして、もしお許し頂けるならば、皆さんの声を、この連載の貴重な一部として取り入れ、日本の訪問看護の未来を形作るために参考とさせていただきます。この連載を一緒に創り上げていくことで、訪問看護業界がより良い方向へと進むことを願っています。これからの連載を、一緒に楽しみにしていてください。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

引用・参考文献

1) 経済産業省中小企業庁:2022年版小規模企業白書, https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/shokibo/b1_1_7.html, [2023.114確認]

2) 経済産業省中小企業庁:中小M&Aガイドラインー第三者への円滑な事業引継ぎに向けてー, https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf,[2023.114確認]

3) 一般社団法人日本在宅看護学会:第12回日本在宅看護学会学術集会プログラム・日程表,https://zaitakukango12th.com/program.html,[2023.113確認]

4) 一般社団法人全国訪問看護事業協会:令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果,https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r4-research.pdf,[2023.113確認]

5) 川添高志:在宅看護のサステナビリティ,一般社団法人日本在宅看護学会誌第11巻第2号,p13,2023

6) 公益財団法人日本訪問看護財団:Web研修等のご案内,https://www.jvnf.or.jp/kensyu.html,[2023.11.確認]

7) 財務省:財政制度分科会(令和4年4月13日開催)議事録, https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/proceedings/20220413zaiseia.html,[2023.113 確認]

8) 厚生労働省:第8次医療計画等に関する検討会「第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ」, https://www.mhlw.go.jp/content/001055132.pdf ,[2023.114確認]

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