【訪問看護師向け歯科医師連載:第6回】訪問歯科医と密接な連携を

 

歯科医 島谷

みなさんこんにちは。

歯科医師の島谷浩幸と申します。

著書『歯磨き健康法』『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』などがあります。

 

これから連載として、訪問看護と歯科との関わりについて様々なトピックスを取り上げていきます。

第6回は『訪問歯科医と密接な連携を』というテーマでお話ししたいと思います。

 

 

過去の連載はこちら

 

訪問看護の現場では、訪問歯科医と連携した方が良いケースもあると思います。

今回は、訪問歯科医と密接な連携について紹介します。

 

訪問歯科の現状

訪問歯科診療とは、主に要介護高齢者に対して在宅や入所施設・病院などに歯科医師や歯科衛生士などが出向いて歯科の診療行為を行うことです。

すなわち、歯科医師が事前に作成した治療計画書に従って定期的に要介護者のいる場所を訪れ、診察や診療、投薬、療養上の相談・指導といった行為を行うことで口腔機能の維持や管理を図るのを目的とします。

それに対して、類似する医療用語に往診があります。これは医師・歯科医師が通院できない患者からの要請を受け、患者の突発的な病状に対応するために予定外に赴いて診療することですが、今回は特に区別をせずに論じようと思います。

このように訪問歯科は、自宅や施設にいながらにして歯科医師や歯科衛生士の治療や口腔ケアを受けることができるので、在宅の患者や車いすユーザーにとっては心強い存在でしょう。

しかし、訪問診療を実施する歯科診療所は、2017年に公表された厚生労働省の医療施設調査によると全国にある約69000の診療所のうち、約2割に相当する約15000か所だけに限られています。

都道府県別に実施率を比較してみると、最も高い長崎県で約41%、最も低い沖縄県で約14%となり、地域によって大きな差が見られることも明らかにされました。また、都市部と郊外地域の比較では、都市部により高い傾向が認められました。

 

訪問歯科における問題点

厚生労働省の資料によると、要介護者の8割が何らかの歯科治療あるいは専門的な口腔ケアを必要としているにも関わらず、実際に治療を受けたのは約27%に過ぎず、わずか3割にも満たないのが現状です。これを要介護者の全体人数から具体的な数字を計算してみると、実に300万人近くが歯科治療を必要としながら受けていないことが分かります。

しかも、平成20年度に在宅または社会福祉施設などにおける療養を歯科医療の面から支援する目的で創設された「在宅療養支援歯科診療所」の数は2017年4月の時点でわずか9763しかなく、現在もなお低い水準で推移しています。

その理由として、訪問診療で使用する治療機器・スタッフの確保の難しさ、保険請求の複雑さなどがあり、対応が可能な歯科診療所の件数がスムーズに増加しない現状があります。

訪問歯科では治療行為を行うために携帯型デンタルユニットやポータブルエンジンといった歯を切削したりする機械類のほか、ポータブルのレントゲン撮影機器や光照射器などの検査・治療機器も必要です。

さらに、安全に診療を実施するための血圧計や酸素飽和度を測るパルスオキシメーター、聴診器なども不可欠です。

しかし、自宅や施設という場所は診療環境の衛生面での問題などもあり、実際に歯科診療所で行うような厳密に感染対策が施された精密で質の高い治療が困難なケースも少なくないのが実情です。

 

訪問歯科を受診する要介護者の年齢的傾向

 

図1は外来歯科を受診する患者の年齢層を表示しており、60~79歳をピークとして幅広く来院されていることが示されています。

 

 

それに対し、図2で示している訪問歯科診療では、より高い年齢層の80~89歳をピークに、大半を70歳以上の患者が占めているのが分かります。

つまり、特に80歳を超えると車いすでの外来歯科受診が難しくなる患者が増加することを意味し、訪問歯科への依存度が高まることを示しています。

ところで、平成30年の診療報酬改定において「質の高い在宅医療の確保」や「ライフステージに応じた口腔機能の推進」といった政策方針が打ち出されたように、国としても訪問診療をより充実させようとする動きは、現在もなお継続しています。

近年、歯科治療を始めとした口腔機能の維持や管理は「食べる」という限定された機能のみではなく、「生きる力」や「QOL(生活の質)」の向上に貢献することが明らかにされ、高齢者を中心とした要介護者に対する訪問歯科診療の必要性や重要性は今後、ますます拡大していくでしょう。

 

訪問歯科医とうまく付き合うには?

・連携する訪問歯科医を確保しておく。

地域により連携先を急遽、見つけることが困難な可能性があるため、いつでも相談・受診できるような訪問歯科をあらかじめ調べて連携しておきましょう。

・可能な治療内容を事前に確認する。

先述のように、訪問歯科によって治療で使用する機械や器具に違いがありますので、どのような治療まで対応可能かは千差万別です。あらかじめ問い合わせて、介護側が望むような治療がどこまで可能であるかを確認しておきましょう。特に訪問歯科は歯科衛生士が不在でも実施できる取り決めとなっており、継続的な口腔ケアを希望する場合は歯科衛生士がいる訪問歯科を選ぶようにして下さい。

・口の変化に早く気付くよう、常日頃から要介護者の口の中を注意深く観察して記録する。

訪問歯科は健康保険もしくは介護保険で規定される限られた少ない受診日数で対応することになります。口の中の情報を歯科医師に速やかに漏れなく伝達することができるよう、「〇月〇日、左下奥の歯ぐきから出血あり」という具合に簡潔に情報整理しておきましょう。

 

最後に、初診となる訪問看護患者の口の問題点の報告を介護者や訪問看護スタッフから受ける時に歯科医師の立場として知っておきたい具体的なポイントを挙げておきます。

 

  • 歯の本数(上下それぞれ)や状態(虫歯の有無、歯周病によるぐらつきの有無など)
  • 義歯(入れ歯)の有無(使用中か否か)
  • 口の乾燥度合、意思疎通の有無(認知度)
  • 服薬状況(薬手帳の内容)

 

これらの情報があれば、速やかな処置・対応につながりやすくなるでしょう。

 

歯科医 島谷

今後、より数多くの歯科医院が医科や訪問看護との連携を強めながら訪問診療に取り組むことができる体制の整備に期待したいですね。

半年間にわたる連載を読んで下さいまして、ありがとうございました。

 

【参考資料】

    • 厚生労働省:平成29年医療施設調査.
    • 厚生労働省:平成28年4月第10回在宅医療推進会議(資料).
    • 厚生労働省:平成30年度診療報酬改定の概要(歯科).

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