【訪問看護師向け歯科医師連載:第5回】高齢者特有の口の疾患

 

歯科医 島谷

みなさんこんにちは。

歯科医師の島谷浩幸と申します。

著書『歯磨き健康法』『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』などがあります。

 

これから連載として、訪問看護と歯科との関わりについて様々なトピックスを取り上げていきます。

第5回は『高齢者特有の口の疾患』というテーマでお話ししたいと思います。

 

 

過去の連載はこちら

 

訪問看護の現場では、高齢者の口の中の様々な病態と遭遇することがあります。

今回は、高齢者の口に認められる特有な疾患を紹介します。

 

高齢者に特徴的な虫歯

高齢者で多く認められる虫歯(齲蝕、カリエス)として①歯頸部カリエス・根面カリエス、②二次カリエス、③残根歯、等があります(図1)。

 

①は後述する歯周病が進行すると歯ぐきがやせて歯根が露出した結果、歯頸部(歯冠と歯根の境界部)や歯根面にできた虫歯です。

②は過去の虫歯治療で詰めた銀歯やレジン樹脂と歯の境界に、二次的に生じた虫歯です。古い銀歯が外れて来院された患者の多くは、その歯に二次カリエスを認めます。

③は虫歯が進行して歯の歯冠部が崩壊し、歯根だけ残った状態です。

 

高齢者に特徴的な歯周病

歯周病は歯周病菌が産生する毒素などにより起きた炎症で、歯の周りの歯周組織(歯肉、歯槽骨等)が破壊される病気です。

歯肉の出血や腫張、発赤といった炎症所見が見られ、進行すると歯肉がやせ(歯肉退縮)、歯の動揺、排膿、口臭といった不快症状が出て、食事や日常生活に支障をきたします。

歯周病は長い年月を経て進行するため、高齢者で重度の歯周病となり歯の動揺が大きくなれば、誤飲リスクが高まります(図2)。誤飲して気管に入れば肺炎リスクもあり、要注意です。

 

 

高齢者に特徴的な粘膜疾患

口腔乾燥症

高齢者に多くの割合で口の中の乾燥(ドライマウス)が認められ、わが国では約800万人が罹患しているという報告があります。原因としては加齢による唾液腺の萎縮や機能障害、ストレス、糖尿病などのほか、シェーグレン症候群という目や生殖器にも乾燥を伴う病態もあります。

また、高齢者は内科などで薬を多数服用している人が多く、副作用によって起きる口腔乾燥も少なくありません。中でも、血圧を下げる降圧薬や利尿剤といった体内の水分調節に関わる薬剤を中心に、抗うつ薬や抗不安薬も唾液の分泌を抑える傾向にあることが分かっています。

唾液が減ると、唾液が口腔内細菌を洗い流す自浄作用やラクトフェリン、分泌型IgA等の抗菌物質が働く抗菌作用が弱まり、口腔内細菌の増殖が促されて虫歯や歯周病になりやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクも上昇します。義歯の吸着力も弱まって外れやすくなり、粘膜に痛みが出やすくなります。

 

口腔カンジダ症

口腔カンジダ症は真菌に分類されるカンジダ菌が口腔内で増殖した病態で、抗菌薬の長期服用による菌交代現象や免疫力の低下などの原因により発症します。図2のように舌が黒く見える黒毛舌や、口腔内のカンジダ菌を誤嚥することで発症する真菌性肺炎もあります。免疫力が著しく低下した高齢者ではカンジダ菌が口腔内から血流に乗って内臓各部に移行し、重篤な内臓真菌症を起こす可能性もあります。

 

義歯性口内炎

高齢者は義歯(入れ歯)の使用率が高く、特徴的な病態を引き起こします。

義歯はレジン樹脂と呼ばれる硬い素材のため、噛み合わせの不具合などにより軟らかい口腔粘膜に義歯床(義歯のピンク色の部分)が擦れると口内炎様の傷が生じ、義歯性口内炎といいます。接触痛のあることが多く「入れ歯が痛くて食事できない」と訴える患者の多くに、この口内炎が認められます。

 

白板症

口腔粘膜、特に舌や頬粘膜、歯肉に見られる白色病変で、擦っても剥離できないものをいいます。比較的頻度が多く、年齢では50~60歳代に多く見られます。特に舌にできたものは悪性化のリスクが高く、前癌病変の代表とされています。

また、類似の疾患に紅板症や扁平苔癬(へんぺいたいせん)のほか、自己免疫疾患の天疱瘡(てんぽうそう)や類天疱瘡などの粘膜病変も高齢者を中心として認められます。

 

口腔腫瘍

口腔内の粘膜(舌、歯肉、頬粘膜等)に良性もしくは悪性の腫瘍が発生することがあり、その頻度は2002年に日本頭頸部癌学会が公表した集計によると舌が最多で約6割を占め、歯肉(17.7%)、口底(9.7%)などが続いています。

舌癌の好発年齢は60歳代で、加齢による免疫力の低下などが原因となります。危険因子としては喫煙や飲酒による化学的な慢性的刺激のほか、虫歯で形が不整な歯や合わない詰め物、極端に傾斜した歯などによる機械的な慢性的刺激や口の不衛生も挙げられます。

 

訪問看護の現場では早期発見・早期対応が大切

口の中の病変は食べる、話すなどの日常生活に基本となるQOL(生活の質)に直接的に悪影響を与えます。訪問看護する立場の者として意識したいのは、普段から患者の口の中をよく観察する習慣を持つことです。

無症状の虫歯や残根歯は麻酔して治療するリスクよりも安全面を考慮し、定期的な口腔ケアをしながら経過観察することも少なくありませんが、重度の歯周病で動揺が著しい歯は誤飲するリスクがあるため、早期の対応が不可欠です。

口腔乾燥症にはジェル状の口腔保湿剤やスプレータイプの人工唾液等で口を潤して加湿・保湿するほか、薬の副作用が疑われる場合は処方内容を変更する検討が必要です。

口腔カンジダ症については舌などの口腔ケアと併せて、専用キットを用いてカンジダ簡易培養検査を行い、陽性になれば抗真菌薬を投与する必要があることもあります。簡易培養検査は健康保険の適用となりますので、治療費も安価で済みます。

また、義歯性口内炎は自然に治癒することが困難なため、口の中に発見したら速やかに訪問歯科に連絡し、義歯調整をしてもらいましょう。

最後に、特に癌などの粘膜疾患は進行が早いので、極力放置しないことが重要です。なかなか治らない口内炎などの粘膜病変があれば、迷わずに歯科医師に相談するようにしましょう。

 

 

【参考資料】

    • 島谷浩幸:超高齢化社会における歯科の役割⑥高齢者特有の歯科疾患.厚生福祉(6783);2-7,2023年1月6日号.
    • 斎藤一郎:「現代病」ドライマウスを治す。.講談社,2007.
    • 東京医科大学病院ホームページ:舌がんの基礎知識.

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