訪問の際にマッサージをしている看護師さんで、このような疑問を抱いている方もいるのではないでしょうか。
訪問看護での毎日のケアは、利用者さんが可能な限り快適に過ごせるよう支援するために、肉体的、精神的、感情的なサポートを総合的に行う重要な役割を果たします。
この過程で、アロマテラピーは、自然の香りを利用して利用者さんの心と体の緊張を和らげ、少しの時間でも穏やかな状態をもたらす有力な手段として注目されています。
当記事では「訪問看護における認知症高齢者への両下肢アロママッサージ事例」についてご紹介します。
訪問看護でのマッサージに興味のある看護師さん、利用者さんに実際にマッサージを取り入れてみたい看護師さんは、ぜひ参考にしてみてください!
目次
対象者(利用者Aさん)の背景
Aさん(82歳女性)は中等度のアルツハイマー型認知症を抱え、自宅で家族とともに生活しています。
日常的に皮膚の乾燥や足のむくみがあり、座位での時間も長いため、下肢の血行不良や倦怠感がみられます。
また、認知症による不安感や夜間の覚醒が課題となっており、看護師が訪問時にリラクゼーションを目的としたアロママッサージを提案しました。
Aさん自身は香りやタッチングによるケアを好む傾向があり、家族もこの方法に期待を寄せています。
事前準備
- 静かでリラックスできる環境を整える。照明をやや落とし、テレビや雑音を避ける。
☝ 広告なしのYouTubeでリラックス音楽を流すのもよいですね。
- ベッドまたは椅子を利用し、対象者が快適に過ごせる体勢を確保。
☝ 膝下にはベッドシーツにオイルが垂れないようバスタオルを置くと安心ですね。
また、終了後のふき取り用のタオルも準備しましょう。
施術者も無理のない体勢を整えることは、定期的なケアを計画していくためにはとても大切です。
- ラベンダー:リラックス効果、不安の軽減、軽度の鎮痛作用。
- ローズマリー(シネオール):血行促進、むくみ緩和、集中力のサポート。
- スイートオレンジ:気分の高揚、リラックス効果。
- キャリアオイル(精油を希釈する基本のオイル)はホホバオイルを使用(アレルギー確認済み)。
- 濃度は0.5~1%以下(植物油30mlに対し精油2~3滴)とし、安全性を確保します。
- できれば主治医に精油の使用許可を確認し、 Aさんの皮膚状態やアレルギーを確認。
- 特に高齢者の皮膚は敏感であるため、事前に精油を希釈したものをパッチテストで確認するとよいです。
施術の流れ
- 訪問開始時にAさんの体調や気分を確認し、「今日は足を優しくほぐしてリラックスしましょうね」などと声をかけ、安心感を与える。
- 精油の香りをコットンに染み込ませ、Aさんに嗅いでもらう。「この香りはどうですか?」と好みを確認し、ラベンダーとスイートオレンジのブレンドを選択。
- マッサージ中に不安が強まらないよう、Aさんの視界内で準備を行う。
☝ 例としてベッドの下等に少量のお湯の入ったコップを置いて、お湯の中に数滴のアロマオイル(精油)を入れ、香りに慣れてもらいます。
コットンやデフューザーなど<無くても比較的簡単に導入しやすいと思います。
部位:両下肢(膝下から足先まで)
体勢:ベッドで仰臥位になっていただいた状態で足を伸ばしてもらい、両下肢の下にバスタオルを敷く。マッサージ部位以外には毛布をかけて身体の冷えを防ぐ。
技法:マッサージは右足→左足と片足ずつが基本です。
- 膝から足首
- オイルを手に広げ、足首から膝に向かう軽いストローク(軽擦法)を行う。
- 筋肉のこわばりがある部分は、手のひらを使ってゆっくりと円を描くように圧を加え、血流を促す。
- 足首周囲
- 足首を軽く支えながら、くるぶしを円を描くようにマッサージ。
関節部位が宙に浮いた状態は、認知症の利用者さんに不安を与えてしまいますので、優しくホールドしましょう。 - 足首の動きを確認しながら、軽いストレッチを加える。
- 足首を軽く支えながら、くるぶしを円を描くようにマッサージ。
- 足の甲から指先
- 足の甲に両手の指先を当て、つま先に向かって優しく撫でる。
- 足指一本ずつを軽くつまみ、根元から先端に向かって滑らせる。
☝ 時間:両下肢で15~20分程度を目安に実施。
- マッサージ後、Aさんに感想を尋ね、「足が軽くなった」「気持ちよかった」といった言葉を確認。
- オイルが付いた箇所は、皮膚の観察も含め、タオルで軽くふき取りをする。
- マッサージの余韻を楽しんでもらうため、部屋に香りを残しつつ、水分補給を促します。
結果と効果
- 下肢のむくみが軽減し、足の感覚が「軽くなった」とAさんから発語がみられた。
- 筋肉のこわばりが緩和され、足先の冷えが改善された。
- 皮膚の乾燥が緩和され、保湿効果がみられた。
- ラベンダーとスイートオレンジの香りによって、Aさんの表情が穏やかになり、不安感が軽減。
- マッサージ中はリラックスした表情で、「眠くなってきた」と発言。夜間の覚醒が減少したと、家族からの報告もあった。
- 家族からは「母の表情が和らぎ、自宅で安心してケアを受けられることに感謝しています」との言葉が頂けた。
- 簡単なストローク技法を家族にも伝え、家族ケアの継続性を提案した。
注意点と配慮
- 認知症の利用者さんは感覚が過敏になる場合もあるため、Aさんの表情や言葉、身体の動きを観察しながら圧やストロークを調整する。
- 万が一、不快感や不安が生じた場合は、速やかに中断する。
- 看護師が継続的にAさんの体調や心理的変化を観察し、必要に応じて精油や技法を調整する。
- 主治医や家族と連携し、定期的に効果を評価する。
訪問看護におけるアロマテラピーの実践に関するQ&A
アロマテラピーを導入する際、利用者さんが香りに敏感な場合はどうすれば良いですか?
香りに敏感な利用者さんには、まず少量のオイルを使用して様子を見ます。
ディフューザーを用いる場合、部屋全体に香りが広がりすぎないように気をつけ、必要に応じて空気を入れ替えましょう。
こちら主体ではなく利用者さんの好みに合った香りを選び、できるだけ自然な形で香りを感じられるように工夫することが大切です。
家族もアロマテラピーを受けることで得られる効果はありますか?
家族も同じ空間でアロマテラピーを体験することで、緊張やストレスが軽減され、心身ともにリラックスできます。
これにより、家族全員がより穏やかな時間を共有でき、利用者さんとのつながりが深まります。
エッセンシャルオイルの選択はどのように行えば良いですか?
利用者さんの状態や好みを考慮して選択します。
例えば、リラックスを重視する場合はラベンダー、呼吸を楽にしたい場合はフランキンセンス、痛みを和らげたい場合はカモミールといった具合に、オイルの特性を考慮し、個々のニーズに合ったものを選びます。
まとめ
訪問サービスにおけるアロマテラピーは、利用者さんに心地よさと安らぎをもらたす重要なツールです。
適切な香りと使用方法を選ぶことで、利用者さんのQOLを向上させ、より穏やかな時間を提供することができます。
この実践的なアプローチを通じて、利用者さんとその家族が心地よく過ごせる環境を整えることが、訪問看護のケアの質を高める一助となるでしょう。
訪問時にオイルマッサージを提案したいけど、実際にはどんな方法があるの?
どんな手順がいるかな?