「訪問件数はそれなりにあるはずなのに、なぜか毎月の収支が合わない」「開業して1年以上経つのに、いつまでも赤字から抜け出せない」——訪問看護ステーションの経営者・管理者の方から、こうした相談を数多く受けてきました。
訪問看護は、制度上のルールも稼働の仕組みも一般的な事業とは異なる特殊な業態です。そのため、他業種の経営感覚だけでは気づきにくい「赤字の型」が存在します。本記事では、訪問看護ステーションが赤字に陥る主な4つの理由を、稼働率・人件費・保険制度・営業活動の切り口から整理し、見落とされがちな要因や、明日から着手できる黒字化の具体策まで実務目線でまとめました。
- 訪問看護ステーションが赤字になる4つの主な理由
- 稼働率・人件費・保険バランス・営業それぞれの赤字パターンと兆候
- 見落とされがちな「5つ目」の赤字要因
- 理由別に取り組める黒字化への具体策
- 赤字が続いている場合にまず着手すべき優先順位
目次
訪問看護ステーションの経営はなぜ厳しいのか|まずは実態を把握する
訪問看護は人材集約型のサービスであり、売上の大半が看護師・セラピストの人件費に直結します。稼働が計画どおりに積み上がらないと、たちまち収支が悪化しやすい構造です。

訪問看護ステーションの経営は、業界全体で見ても年度によって収支が大きく上下する不安定さがあります。「うちだけがうまくいっていない」と思い込む前に、まずは業界全体の傾向を知っておきましょう。
厚生労働省が公表している介護事業経営概況調査でも、介護サービス事業所全体の収支の状況は年度ごとに変動が大きいことが示されています。同調査によれば、令和6年度決算では赤字となった介護サービス事業所の割合が全体で4割近くに上ったとされており、訪問看護ステーションも例外ではないと考えられます。個々のステーションの経営努力だけでなく、こうした業界全体の収支動向も踏まえたうえで、自事業所の赤字の原因を切り分けて考えることが重要です。
訪問看護は「訪問した分しか売上が立たない」ビジネスです。固定費(人件費・家賃・車両費など)は毎月ほぼ一定でかかるため、稼働(訪問件数)が計画を下回ると、そのまま赤字に直結します。まずはこの構造を理解しておくことが、赤字対策の出発点になります。
訪問看護ステーションが赤字になる4つの主な理由
ここからは、訪問看護ステーションが赤字になりやすい代表的な4つの理由を、順に見ていきます。
1. 稼働率の低さ(訪問件数の不足)
訪問看護の売上は、訪問実績に応じて発生します。訪問件数が少なければ、どれだけ優秀なスタッフを揃えていても売上にはつながりません。訪問件数が伸び悩む主な要因には、次のようなものがあります。
- 開設して間もなく、医療機関・ケアマネジャーからの紹介がまだ少ない
- 地域のケアマネジャーとの関係構築が進んでいない
- 訪問可能エリアが狭く、利用できる対象者が限定されている
- スタッフの人数や勤務シフトの制約で、1日あたりの訪問上限が低い
一般的には、常勤換算1.0の看護師が1日あたり4〜5件程度の訪問を安定してこなせて、ようやく採算ラインに乗るとされています。1日3件以下の稼働が慢性的に続く状態は、赤字体質のサインと捉えたほうがよいでしょう。
2. 固定費・人件費の負担が重い
訪問看護は人材集約型の事業であり、売上の多くが人件費として消えていく構造になっています。以下のようなケースでは、収支バランスが崩れやすくなります。
- 正社員で看護師を複数名雇用しているが、訪問件数がそれに見合っていない
- 管理者が現場に出ず、間接業務(事務・調整)に専従している
- 事務スタッフを複数名雇用しており、間接部門の比率が高い
- 給与水準を地域相場よりも高めに設定している
訪問看護は、時間あたりの生産性がもともと高くない業態です。移動時間や記録・カンファレンスなどの間接業務も多く、非効率な人員配置のままだと、想像以上に早く赤字へ転落します。
3. 医療保険と介護保険のバランスが悪い
訪問看護は、医療保険と介護保険の両方で運営されるという、ほかの介護サービスにはない特徴を持っています。この2つの保険は制度設計が大きく異なり、バランスの取り方が経営に直結します。
医療保険の訪問看護は、原則として週3日を限度とすることが厚生労働省告示で定められています(厚生労働大臣が定める疾病等に該当する利用者や、急性増悪時・退院直後などに交付される特別訪問看護指示書の期間中は、この限りではありません)。一方、介護保険の訪問看護は、要介護度ごとに定められた区分支給限度基準額の範囲内でケアプランに沿って利用するしくみのため、他の介護サービスとの兼ね合いで、実質的に使える回数・単位数に制約が生じます。

「介護保険利用者ばかりが増え、医療保険利用者が少ない」という状態が続くと、区分支給限度基準額の制約によって売上の伸びに限界が生じます。逆に、医療保険の請求実務に不慣れなまま件数を増やすと、レセプトの返戻や査定によって、予定していた売上が計画どおりに回収できなくなるというリスクもあります。
4. 営業不足・地域連携の欠如
訪問看護は、待っているだけでは利用者が増えないサービスです。開設初期や利用者数が落ち込んだ時期には、積極的な営業活動と地域連携が不可欠になります。営業不足に陥っているステーションには、次のような共通点が見られます。
- ケアマネジャーとの信頼関係がまだできていない
- 医師や病院との連携が弱く、退院支援からの利用につながっていない
- 地域包括支援センターや他の介護・医療サービスとの連携が希薄
- SNSやウェブサイトなど、日常的な情報発信をしていない
地域との関係構築は、事業存続の鍵を握る要素です。営業活動を「苦手だから」と避け続けていると、いつまで経っても稼働率が上がらないという悪循環に陥ります。
見落とされがちな5つ目の赤字要因|加算の未算定と数値管理不足
ここまでの4つの理由に加えて、実務上よく見落とされている赤字要因があります。それが「本来算定できる加算を取れていないこと」と「数値管理の不足」です。

訪問件数は伸びているのに利益が出ない、というステーションの多くは、算定要件を満たしているのに手続きの手間や知識不足から加算を取りこぼしているケースが目立ちます。介護報酬・診療報酬は改定のたびに内容が変わるため、最新の算定要件を主治医の指示書や利用者の状態と照らし合わせて、定期的に見直す体制をつくっておきましょう。
また、稼働率・訪問1件あたりの単価・保険別の売上構成比といった数値を、日次・月次で可視化できていない事業所も少なくありません。感覚だけで経営していると、赤字の兆候に気づくのが遅れ、対策が後手に回ってしまいます。
訪問看護ステーションを黒字化するための具体策
赤字の理由が整理できたら、次はそれぞれに対応した具体策に落とし込みます。

| 赤字の理由 | 取り組みたい対策 |
|---|---|
| 稼働率の低さ | 常勤換算1人あたり1日4〜5件を目安に訪問スケジュールを見直す。非常勤・業務委託の活用で人員配置を柔軟にする |
| 固定費・人件費 | 間接業務の比率を見直し、管理者も一定件数は訪問に入る。事務作業はICTツールで効率化する |
| 保険バランス | 主治医との連携を強め、必要な利用者には医療保険の指示書を確保する。レセプト業務の精度を上げ返戻を減らす |
| 営業不足 | 週1回はケアマネジャー・病院・地域包括支援センターへの定期訪問を仕組み化する |
| 加算・数値管理 | 算定要件を定期的に棚卸しし、稼働率や保険別売上を月次で可視化する |
これらに加えて、次のような視点も黒字化のヒントになります。
- 訪問可能エリアの拡大:近隣市町村へのエリア拡張も検討する
- SNSやWebサイトの活用:情報発信によって「思い出してもらえる存在」になる
- 雇用形態の工夫:常勤・非常勤・業務委託を組み合わせ、固定費の変動費化を図る
赤字が続いている場合にまず着手すべき3つのステップ
「何から手をつければよいかわからない」という場合は、次の順番で着手することをおすすめします。
- ステップ1:稼働率を可視化するスタッフ別・曜日別に訪問件数と移動時間を洗い出し、稼働にムラや余力がないかを確認します。
- ステップ2:収支を保険別に分解する医療保険・介護保険それぞれの売上と、レセプトの返戻・査定の状況を月次で把握します。
- ステップ3:営業活動を仕組み化するケアマネジャーや医療機関への定期訪問をルーティン化し、属人的な営業から仕組みとしての営業に切り替えます。
訪問看護ステーションの収支は、どの程度変動するものですか?
厚生労働省の介護事業経営概況調査では、介護サービス事業所全体の収支差率は年度によって上下しており、単年度の数値だけで経営判断をするのは危険だとされています。訪問看護ステーションについても、複数年の推移で経営状態を確認することが大切です。
開業してから何年目くらいまでが赤字になりやすいですか?
一般的には、開設から1〜2年程度は医療機関やケアマネジャーとの関係構築が途上にあるため、紹介実績が少なく赤字になりやすい傾向があるとされています。ただし、営業活動や地域連携の進め方次第で、この期間の長さは大きく変わります。
常勤換算1人あたり、1日何件の訪問が黒字化の目安になりますか?
業界で一般的に言われている目安としては、常勤換算1.0の看護師が1日あたり4〜5件程度の訪問を安定してこなせると、採算ラインに乗りやすいとされています。ただし、地域の単価や人件費水準によって適正な件数は変わるため、自事業所の収支構造に合わせて確認することが重要です。
医療保険と介護保険は、どちらの利用者を増やすべきですか?
どちらか一方に偏らせるのではなく、バランスを取ることが重要です。介護保険には区分支給限度基準額による実質的な上限があるため、介護保険利用者ばかりが増えると売上の伸びに限界が生じます。主治医との連携を強め、必要な利用者については医療保険の訪問看護指示書を確保できる体制を整えておきましょう。
赤字が続いている場合、最初に何から着手すべきですか?
まずは稼働率をスタッフ別・曜日別に可視化し、次に収支を保険別に分解して把握することをおすすめします。原因を特定しないまま営業活動だけを強化しても、根本的な改善にはつながりにくいためです。

まとめ|赤字の原因を切り分ければ、黒字化への道筋は見える
訪問看護ステーションの赤字には、稼働率・人件費・保険バランス・営業活動という複合的な要因が絡み合っています。一方で、原因さえ正しく切り分けられれば、対策の優先順位は明確になります。
- 赤字の主な理由は「稼働率の低さ」「固定費・人件費の負担」「保険バランスの悪さ」「営業不足」の4つ
- 「加算の未算定」「数値管理の不足」も見落とされがちな赤字要因
- まずは稼働率の可視化と保険別の収支分解から着手するのが近道
- 地域連携と営業活動の仕組み化が、中長期的な黒字化の鍵を握る
赤字が続いている場合は、原因を特定しないまま闇雲に対策を打つのではなく、早めに現状を数値で可視化し、優先順位を立てて改善に着手することが黒字化への第一歩です。























