精神疾患を有する利用者に訪問看護を提供するとき、通常の訪問看護指示書とは別に必要になるのが「精神科訪問看護指示書」です。「誰が交付できるのか」「通常の指示書と何が違うのか」「点数はどうなっているのか」と、疑問を持つ担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、精神科訪問看護指示書の定義・交付要件・点数・様式を、厚生労働省のQ&Aの内容も交えてわかりやすく解説します。訪問看護指示書全体の基本を先に確認したい方は、記事内のピラー記事もご覧ください。
- 精神科訪問看護指示書とは何か
- 精神科訪問看護指示書を交付できる医師の要件
- 精神科訪問看護指示料・加算の点数
- 精神科訪問看護指示書の様式・記載事項
- 厚生労働省Q&Aに見る、実務でつまずきやすいポイント
- 通常の訪問看護指示書との違い
目次
精神科訪問看護指示書とは?
精神科訪問看護指示書とは、医療保険の精神科訪問看護基本療養費を算定する場合に必要となる指示書です。精神疾患を有する利用者に訪問看護を提供する際は、通常の訪問看護指示書ではなく、この精神科訪問看護指示書が必要になります。有効期間は通常の指示書と同様に6か月以内で、主治医が期間を定めます。
統合失調症や気分障害、認知症以外の精神疾患を持つ利用者が在宅で療養を続けるうえで、訪問看護は服薬支援や生活リズムの安定、家族支援など多面的な役割を担います。その土台となる指示書だからこそ、通常の訪問看護指示書とは異なる独自のルールが設けられているのです。
精神科訪問看護指示書を交付できる医師の要件
精神科訪問看護指示書を交付できるのは、精神科を標榜する保険医療機関において精神科を担当する主治医に限られます。一般内科など、精神科を標榜していない医療機関の医師は交付できません。この点は、通常の訪問看護指示書が「主治医であれば診療科を問わず交付できる」のと大きく異なるポイントです。

利用者さんが精神科以外の診療所にも通院している場合、精神科の主治医が診療情報の提供を受けたうえで訪問看護の必要性を判断すれば、精神科訪問看護指示書を交付できます。この点は後ほどQ&Aでも詳しく触れますね。

精神科訪問看護指示料・加算の点数
精神科訪問看護指示書を交付した医療機関は、医療保険の診療報酬として「精神科訪問看護指示料」を算定できます。
| 項目 | 点数 | 算定要件の概要 |
|---|---|---|
| 精神科訪問看護指示料 | 300点 | 月1回を限度に算定 |
| 精神科特別訪問看護指示加算 | 100点 | 急性増悪等により頻回な訪問看護が必要と判断した場合に加算 |
| 衛生材料等提供加算 | 80点 | 衛生材料等を提供した場合に加算 |
精神科訪問看護指示料と、通常の訪問看護指示料は併せて算定することができません。同一の利用者について、どちらの指示書・指示料で運用するかを医療機関側が正しく整理しておく必要があります。
精神科訪問看護指示書の様式・記載事項
精神科訪問看護指示書は、厚生労働省が定める様式に準じて作成されます。通常の訪問看護指示書と共通する項目(基本情報・病状・留意事項等)に加えて、精神症状や生活リズム、服薬管理の状況など、精神科特有の記載項目が設けられている点が特徴です。
| 記載項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 精神症状・状態像 | 幻覚・妄想の有無、気分の変動、対人関係上の課題など |
| 生活リズム・日常生活動作 | 睡眠リズム、食事・服薬・金銭管理など生活面の状況 |
| 服薬状況 | 処方内容、服薬アドヒアランス、副作用の有無 |
| 緊急時・急性増悪時の対応方針 | 症状悪化時の連絡体制、緊急受診の判断基準 |
また、訪問看護を担当できる職種にも要件があります。保健師・看護師・准看護師・作業療法士のうち、精神障害を有する利用者への看護について相当の経験を有する者が担当することが求められており、経験の浅いスタッフのみで担当することは想定されていません。
精神科特別訪問看護指示書という選択肢
通常の訪問看護指示書に「特別訪問看護指示書」があるのと同様に、精神科領域にも急性増悪時に対応する仕組みがあります。前述の精神科特別訪問看護指示加算は、主治医が病状の急性増悪等により頻回な訪問看護が必要と判断した場合に、精神科訪問看護指示書とあわせて算定できるものです。退院直後や服薬中断による症状悪化時など、集中的な支援が必要な場面で活用されます。通常の特別訪問看護指示書と同様に、対象期間や算定回数には制限が設けられているため、交付前に主治医とステーション側で対象期間の認識をすり合わせておくことが大切です。

厚生労働省Q&Aに見る、実務でつまずきやすいポイント
精神科訪問看護指示書の運用については、厚生労働省のQ&Aでいくつかの重要な論点が示されています。
- 精神科以外の診療所にも通院している場合の扱い精神科以外の医療機関にも通院している利用者について、精神科の主治医が診療情報の提供を受け、精神科訪問看護の必要性を判断した場合は、精神科訪問看護指示書を交付できます。
- 認知症が主傷病である場合の扱い認知症が主傷病であって精神科訪問看護指示書が交付された要介護者については、精神科訪問看護基本療養費は算定できないとされています。この場合は介護保険の訪問看護として扱われる整理です。
- 訪問看護計画に基づく実施の原則指定訪問看護は訪問看護計画に基づいて行われる必要があり、精神障害を有する利用者への看護について相応の経験を持つ専門職が計画を作成・実施することが求められます。
特に「認知症が主傷病の場合は精神科訪問看護基本療養費を算定できない」という点は、現場で見落とされやすい注意点です。主傷病名の設定と、算定する療養費の種類が一致しているかを事前に確認しましょう。
精神科訪問看護指示書と記録の連携|GAF尺度の記載
精神科訪問看護指示書に基づいて訪問看護を行う際は、指示書の内容だけでなく、訪問看護記録との連携も重要です。精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)・(Ⅲ)を算定する場合、その月の初回訪問時におけるGAF尺度(Global Assessment of Functioning)の評点を、訪問看護記録書・訪問看護報告書・訪問看護療養費明細書に記載することが要件とされています。GAF尺度は精神機能を1〜100の数値で評価する指標で、数値が大きいほど社会的・心理的機能が良好であることを示します。訪問看護師が毎月の初回訪問時にアセスメントを行い、記録・報告書・明細書の3点に一貫した評点を記載する運用が求められます。
GAF尺度の記載漏れは、精神科訪問看護基本療養費の算定要件を満たさない扱いとなるリスクがあります。指示書の内容を踏まえて訪問看護計画を立てる際は、記録・報告書側の要件もあわせてチェックする体制を整えておきましょう。
通常の訪問看護指示書との違い
| 項目 | 通常の訪問看護指示書 | 精神科訪問看護指示書 |
|---|---|---|
| 交付できる医師 | 主治医(診療科を問わない) | 精神科を標榜する医療機関の精神科担当医師のみ |
| 有効期間 | 1〜6か月 | 6か月以内 |
| 指示料 | 訪問看護指示料(300点) | 精神科訪問看護指示料(300点) |
| 併算定 | 精神科訪問看護指示料と併算定不可 | 訪問看護指示料と併算定不可 |
よくある質問
精神科訪問看護指示書は誰が交付できますか?
精神科を標榜する保険医療機関において精神科を担当する主治医に限られます。精神科を標榜していない医療機関の医師は交付できません。
精神科訪問看護指示料と訪問看護指示料は両方算定できますか?
いいえ、精神科訪問看護指示料と通常の訪問看護指示料は併せて算定することができません。どちらの区分で運用するかを整理しておく必要があります。
認知症の利用者にも精神科訪問看護指示書は使えますか?
認知症が主傷病であって精神科訪問看護指示書が交付された要介護者については、精神科訪問看護基本療養費は算定できないとされています。主傷病名と算定する療養費の整合性を確認する必要があります。
精神科訪問看護指示書があれば誰でも訪問看護を担当できますか?
いいえ。訪問看護を担当できるのは、保健師・看護師・准看護師・作業療法士のうち、精神障害を有する利用者への看護について相当の経験を有する者に限られます。指示書があっても、担当者の経験要件は別に満たす必要があります。

まとめ|精神科訪問看護指示書は交付要件と併算定不可のルールを正しく理解しよう
精神科訪問看護指示書は、精神科を標榜する医療機関の精神科担当医師のみが交付でき、通常の訪問看護指示料とは併算定できないなど、独自のルールがいくつも存在します。担当できる職種の経験要件、GAF尺度の記録義務など、指示書そのものだけでなく周辺の運用ルールとあわせて理解しておくことが、算定漏れや返戻を防ぐことにつながります。
- 精神科訪問看護指示書は精神科訪問看護基本療養費を算定する場合に必要
- 交付できるのは精神科を標榜する医療機関の精神科担当医師のみ
- 精神科訪問看護指示料は300点、加算として100点・80点がある
- 通常の訪問看護指示料とは併算定できない
- 認知症が主傷病の場合は精神科訪問看護基本療養費を算定できない点に注意
- 担当職種の経験要件やGAF尺度の記録義務も忘れずに確認する
通常の訪問看護指示書との違いや依頼方法、記載事項の詳細については、関連記事もあわせてご確認ください。























