「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用した看護師がすぐ辞めてしまう」——訪問看護ステーションの経営者・管理者から、こうした悩みを聞かない日はほとんどありません。日本看護協会の調査によると、2024年度の訪問看護ステーションの求人倍率は4.54倍と全施設種別のなかで最も高く、「4件求人を出しても応募者は1人にも満たない」という極めて厳しい採用環境が続いています。
ただし、同じ地域・同じ規模でも「採用に困らない」「離職率が低い」ステーションは確かに存在します。その差は、採用戦略と職場づくりの「仕組み」にあります。本記事では2026年の最新動向を踏まえ、訪問看護師の採用力を高める具体的なアプローチと、定着率を上げる職場改善策をステーション管理者・経営者の目線でわかりやすく解説します。
- 訪問看護師の採用・定着が難しい構造的な理由と2026年の最新データ
- 採用チャネルを多様化してエントリー数を増やす実践的な方法
- 給与・勤務体制・キャリアパス整備など定着率を上げる6つの職場改善策
- 入職後3〜6ヶ月の早期離職を防ぐフォロー体制のつくり方
- 採用コストを抑えながら人が集まるステーションになるロードマップ
目次
訪問看護師の採用・定着が難しい理由|2026年の現状
問題の根本を理解しないまま対策を打つと、お金と時間だけが消えます。まず現状を正確に把握しておきましょう。
需要の拡大が供給を大幅に上回っている
全国の訪問看護ステーション数は2023年時点で15,697件(全国訪問看護事業協会調査)と、5年前の約1.5倍に増えています。一方で訪問看護師として働く人材の増加ペースはそれに追いついていません。「ステーションが増えるほど、限られた求職者をめぐる競争が激化する」という構造的な課題があります。
さらに2025年問題(団塊世代が後期高齢者になるタイミング)を経て、在宅医療・在宅看取りへのニーズはこれからも増し続けます。短期的に状況が好転する見通しは薄く、採用・定着の仕組みをつくることは「今すぐ取り組むべき経営課題」と位置づける必要があります。
訪問看護特有の離職要因
一般病棟と比べて訪問看護には独自の離職リスクがあります。主なものは次の通りです。
| 離職要因 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1人訪問の孤独感・不安 | チームで動く病棟と異なり、1人で判断・対応しなければならない場面が多い。経験の浅い看護師が「相談できる人がいない」と感じやすい |
| 緊急対応の精神的負担 | オンコール当番や利用者急変時の対応など、日常的に緊張を伴う業務が続く |
| 給与・処遇への不満 | 病院より給与が低いイメージを持つ看護師が多い。透明な評価制度がないと「がんばっても報われない」と感じやすい |
| 将来のキャリアが見えない | 訪問看護でのキャリアパスが不明確だと、スキルアップを求めて離職するケースがある |
| 業務量・記録の多さ | 訪問後の記録・計画書作成・多職種連携の連絡など、移動以外の業務負担が大きい |

「採用できないのは給与が低いから」と思いがちですが、実は孤独感や緊急対応への不安が定着を妨げる大きな要因です。教育・サポート体制が整っているかどうかが、特に経験3年未満の看護師の定着を左右します。
訪問看護師が辞める本当の理由を分解する
定着率を上げるには、「辞める理由」を経営側がきちんと把握しておくことが出発点です。退職した看護師への事後アンケートや、在職中の定期面談で得られる声は貴重なデータです。よくある退職理由を整理しておきましょう。
- 入職前後のギャップ:求人票に書かれていた内容と実際の業務・待遇が異なると感じた
- 人間関係・チームの雰囲気:管理者や先輩との相性・コミュニケーション不足
- 身体的・精神的疲弊:件数・オンコール頻度が想定より多く、疲弊してしまった
- 評価されている実感がない:頑張っても給与に反映されず、評価基準が不透明
- ライフイベントへの対応不足:育児・介護・療養など私生活の変化に職場が対応できなかった
退職理由の多くは「採用時点で予防できたもの」です。入職前のリアリティチェック(RJP:Realistic Job Preview)で業務内容・オンコール頻度・訪問件数の実態を包み隠さず伝えることで、早期離職を大幅に減らせます。
採用力を高める5つのアプローチ
「応募が来ない」を解決するには、まずエントリーの間口を広げることが必要です。単一の求人媒体に頼らず、複数のチャネルを組み合わせて母集団を形成しましょう。
① eナースセンター(無料)の活用
各都道府県の看護協会が運営する「eナースセンター」は、無料で求人登録ができる公的な職業紹介サービスです。病院を離れて転職を考える潜在的な看護師層にリーチしやすく、訪問看護への転職を後押しする情報発信にも使えます。費用をかけずに始めやすい採用チャネルとして最初に整備しておきましょう。
② 看護師専門求人媒体・ハローワーク
看護師向けの求人サイト(レバウェル看護・ナース人材バンクなど)は即戦力の転職希望者へのリーチに有効です。ハローワークは費用ゼロで利用できる一方、反応までに時間がかかる場合があります。求人票の「給与の具体的な数字」「訪問件数の目安」「教育体制の明記」が応募率を左右します。職場の雰囲気や1日の流れを具体的に書くほど、ミスマッチの少ない応募が増えます。
③ SNS採用(Instagram・Xの活用)
看護師の転職活動は求人サイトから徐々にSNSへと移行しています。特にInstagramでは「1日のスケジュール」「スタッフの声」「ステーションの雰囲気」を日常的に発信することで、転職を考え始めた潜在層が「ここで働きたい」と思うきっかけをつくれます。地方の小規模ステーションでも実績を上げているケースが増えており、コスト面でも優れた採用チャネルです。
④ スタッフ紹介制度(リファラル採用)
在職中のスタッフからの紹介は、「職場の文化・実態を理解した上で声をかけた人材」が来るため、入職後の定着率が高い傾向があります。紹介インセンティブ(入職お祝い金など)を設定している事業所も多く、紹介比率30%以上を目指しているステーションでは採用コスト削減と定着率向上を同時に実現しています。
スタッフ紹介制度を設ける際は、紹介者・入職者ともに不公平感が出ないよう支給条件(勤続◯ヶ月以上など)と支給タイミングを就業規則に明記してください。口約束での運用はトラブルのもとになります。
⑤ 看護師専門の人材紹介会社の活用
採用担当の工数が取れない・急ぎで確保したいときには人材紹介会社が有効です。ただし採用決定時の紹介手数料は給与の20〜30%程度が相場で、費用は決して安くありません。「紹介で採用+職場定着で長期コストを回収する」という視点で活用し、定着しなければコスト対効果がマイナスになる点に注意が必要です。紹介後の定着率を紹介会社ごとに管理しておくと良いでしょう。

採用チャネルは「全部やる」より、まず無料で始められるもの(eナースセンター・SNS・スタッフ紹介)から着手して、反応を見ながら有料媒体を加えていくのが費用対効果のよい順番ですね。
定着率を上げる職場づくり|6つの実践策
採用できても定着しなければ意味がありません。ここでは「辞めたくなる理由」を1つずつ潰していく実践策を紹介します。
① 給与・処遇改善|処遇改善加算を最大活用する
訪問看護の給与水準を上げるうえで欠かせないのが処遇改善加算の活用です。介護保険下の訪問看護では、令和6年度介護報酬改定において介護職員等処遇改善加算が一本化・拡充されました。また令和8年度(2026年度)の臨時改定でも処遇改善関連の見直しが行われており、最新の告示・通知を確認のうえ算定区分の最大化を目指すことが重要です。さらに医療保険下の訪問看護では令和6年6月施行の診療報酬改定から訪問看護処遇改善体制加算が導入されています。
これらの加算を確実に取得し、実際にスタッフへの給与・手当として適切に分配できているかを確認してください。加算収入がスタッフに見える形で還元されていると感じられる職場は、定着率が高い傾向があります。
基本給のベースアップに加え、「訪問手当」「資格手当」「オンコール手当」など手当の種類と金額を求人票・就業規則に明記することで、他事業所との差別化にもなります。透明性が求職者と在職者の双方の安心感につながります。
② 柔軟な勤務体制|フレックス・直行直帰・時短勤務
育児中・介護中・体力面に不安がある看護師にとって、勤務の柔軟性は職場選びの最重要ポイントの一つです。直行直帰の導入は移動負担の軽減だけでなく、プライベート時間の確保にも直結します。また時間単位の有給取得、入社当日から有給付与、フレックスタイム制の導入など、「生活に合わせて働ける」という実績が口コミ・SNSで広まり採用力向上にもつながります。
③ 教育・オンボーディング体制の整備
訪問看護未経験・ブランク明けの看護師が安心して働けるよう、入職直後の教育体制は特に手厚くする必要があります。具体的な整備内容は次の通りです。
- 同行訪問期間の設定(最低1〜2週間)先輩看護師と一緒に訪問し、手技・記録・コミュニケーションのやり方を実地で学べる期間を保証する。
- メンター(担当先輩)のアサイン1対1で相談できる先輩を決め、週1回以上の短い面談で不安や疑問を早期に解消する。
- 手順書・チェックリストの整備「初めての緊急時はどうするか」「主治医への報告文例」など、新人が迷わないよう現場マニュアルを整える。
- 定期勉強会・事例共有の場の設置月1回のミーティングで事例を共有し、チームで学ぶ文化をつくる。孤立感の解消にも効果的。
④ キャリアパスと評価制度の明確化
「訪問看護でのキャリアが見えない」という不安を解消するには、等級制度・評価基準・昇給タイミングを明文化することが先決です。「主任→管理者→在宅専門認定看護師取得」など、数年後の自分の姿が具体的にイメージできるキャリアパスを示すことで、スタッフの長期的なモチベーションが維持されます。評価面談を年2回以上実施し、「どう評価されているか・次に何を目指すか」を対話でつくる文化が定着率を高めます。
⑤ メンタルサポート・1on1面談の習慣化
訪問看護の現場は、予期せぬ看取り・医療処置の難しい判断・利用者家族との関係など、精神的負荷が高い場面が続きます。管理者が月1回程度の1on1面談を全スタッフと実施し、「話しやすい職場」という心理的安全性をつくることが早期離職防止に直結します。「何かあったらいつでも声をかけられる」という雰囲気を意識的につくりましょう。
⑥ ICT活用による業務負担の軽減
訪問後の記録・計画書作成・連絡業務の効率化は、スタッフの残業時間削減と直接つながります。訪問看護専用の電子記録システムを導入し、直行直帰で記録できる環境を整えることで、時間外労働を大幅に削減できた事例があります。ICT化は「業務が楽になる=長く続けられる」という定着効果をもたらします。

6つの策のうち、すぐ効果が出やすいのは「①給与の透明化」「③教育体制」「⑤1on1面談」の3つです。特に1on1は費用ゼロでできる対策なのに、実施していないステーションがまだ多いですね。
早期離職を防ぐ|入職後3〜6ヶ月のフォロー体制
看護師の離職は入職後3〜6ヶ月に集中しやすいといわれています。この時期は「業務の全体像がわかってきた頃に理想とのギャップを感じる」「孤独感が増す」「緊急対応に初めて直面する」など、精神的に最も揺れやすいタイミングです。
入職3ヶ月目チェックポイント
3ヶ月目に管理者・メンターが以下を確認し、課題があれば即対応します。
- 業務内容・件数は無理なくこなせているか
- 孤独感・不安を誰かに相談できているか
- 緊急対応のプロセスを理解し対応できているか
- 待遇・勤務条件について不満・疑問を抱えていないか
- 「この職場で働き続けたい」という意欲を持てているか
6ヶ月目の定着確認面談
6ヶ月目には正式な「定着確認面談」を設けることを推奨します。キャリアの方向性・今後習得したいスキル・生活上の変化など、管理者と双方向で話す機会を設けてください。この面談の実施が、スタッフに「自分は大切にされている」という実感を与え、長期在籍への転換点になります。
面談記録(スタッフの希望・懸念事項・次回目標)を管理者が保管し、次の面談時に必ず振り返ることが信頼関係の構築につながります。「前回話したことを覚えてもらえている」という体験が、心理的安全性を高めます。
採用から定着まで一貫したロードマップをつくる
ここまでの内容を「採用→入職→定着→長期在籍」という流れで整理すると、ステーションとして何を優先的に整備すべきかが見えてきます。
- 採用チャネルの整備(今すぐ)eナースセンター登録、SNSアカウント開設、スタッフ紹介制度の設計。無料でできるものから即着手する。
- 求人票・採用情報の刷新(1〜2週間)給与・訪問件数・オンコール体制・教育サポートを具体的な数字で明示する。ミスマッチを減らすことが早期離職防止の第一歩。
- 入職後フォロー体制の整備(入職前に完成させる)同行期間・メンター・マニュアル・定期面談のスケジュールを事前に設計しておく。
- 評価制度・キャリアパスの明文化(3ヶ月以内)昇給・昇格の基準を就業規則・社内資料に落とし込み、全スタッフへ共有する。
- 給与水準の見直し・処遇改善加算の最大算定(毎年確認)最新の改定内容をもとに加算算定の見直しを年1回以上実施し、スタッフへの還元を確認する。
- ICT化・業務改善の継続(長期的取り組み)電子記録・直行直帰・チャット連絡など、スタッフの体感「楽になった」が積み上がる改善を続ける。
採用・定着の改善は「一度やったら終わり」ではありません。人員構成・地域の競合状況・法改正は毎年変化します。年1回以上、自ステーションの採用力・定着率を定量的に見直す習慣をつけましょう。
よくある質問(FAQ)
訪問看護未経験・病棟経験のみの看護師を採用するのは難しいですか?
採用自体は難しくありませんが、「入職後のサポート体制」が定着率を大きく左右します。未経験者には同行訪問期間を2〜3週間確保し、メンターを配置するなど、段階的に1人対応へ移行できる仕組みを整えることが重要です。「未経験歓迎・丁寧な教育あり」を明示した求人は、転職希望者から高い支持を得やすくなります。
小規模ステーション(スタッフ3〜5名)でもSNS採用は効果がありますか?
むしろ小規模ステーションこそSNSが効果的な場合があります。大手に比べて職場のアットホームな雰囲気・スタッフ一人ひとりの裁量の大きさが伝わりやすく、「この規模で働きたい」と感じる看護師層にリーチできます。特に地方エリアではInstagramでの情報発信が採用に直結したという事例も増えています。週1〜2回の投稿を半年間継続することを目安にしてみてください。
処遇改善加算をスタッフへどのように分配すればいいですか?
処遇改善加算の分配方法は、厚生労働省の通知・告示に基づき事業所が「処遇改善計画書」を作成し、原則として全額を職員の賃金改善に充てる必要があります。基本給への上乗せ・手当の新設・賞与への反映などの方法がありますが、いずれの場合も「何に・いくら充てるか」を職員に説明し、就業規則等に明記することが求められます。詳細は各都道府県の指定権者(国保連・自治体担当部署)への確認を推奨します。
採用にかけられる予算が少ない場合、何から優先すべきですか?
まず費用ゼロでできる「eナースセンター登録」「SNSアカウント開設(Instagram)」「スタッフ紹介制度の設計」の3つから着手してください。次に「求人票の内容を刷新する」(媒体の変更でなく文章の改善)だけで応募数が変わるケースも多くあります。予算が生まれたら、定着率が高い紹介会社を1〜2社に絞ってテスト採用するのが費用対効果のよい順番です。
オンコール体制がスタッフの離職原因になっています。どう改善すればよいですか?
まずオンコール当番の回数・手当・実際の対応件数を見直し、1人に負担が集中していないかを確認してください。当番が月4〜6回を超えると精神的疲弊につながりやすいとされています。「電話相談のみで現場訪問にならないケース」の割合も記録し、実態をスタッフと共有することが大切です。複数のパート看護師がオンコールに参加できる仕組みや、当番外の「待機手当」支給なども有効な改善策です。
まとめ|採用と定着は「仕組み」でつくる
訪問看護師の採用・定着難は、構造的な人材不足が背景にあるため、一朝一夕で解決できる問題ではありません。しかし「採用の仕組み」と「定着できる職場の仕組み」を地道に整備したステーションは、着実に成果を出しています。まず今日から着手できる小さな取り組みを一つ決めて、継続してみてください。
- 2024年度の訪問看護ステーションの求人倍率は4.54倍と全施設種別で最高水準。採用・定着の仕組みづくりは経営の最重要課題
- 採用チャネルはeナースセンター・SNS・スタッフ紹介を起点に多様化。求人票には給与・件数・教育体制を具体的な数字で明示する
- 定着率向上には、給与・処遇改善加算の最大活用/柔軟な勤務体制/オンボーディング整備/キャリアパスの明文化/1on1面談/ICT化の6つが有効
- 入職後3〜6ヶ月は早期離職のリスクが高い。定期チェックポイントと定着確認面談を必ずスケジュールに組み込む
- 採用・定着の改善は年1回以上の見直しを習慣化し、継続的にPDCAを回すことが「人が集まり辞めないステーション」への近道
採用と定着の両輪を整えることが、2026年以降の訪問看護経営を安定させる最大の投資です。
採用・定着の取り組みが実を結ぶと、ステーション全体が成長フェーズへ入ります。「成功している訪問看護ステーション」がどのような特徴を持つのか、経営視点でまとめた記事もあわせてご覧ください。
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