緩和ケア【第10回】家族ケア

看護師 村上
皆さん、こんにちは!緩和ケア認定看護師の村上です。

 

今回は、「家族ケア」について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

かつて、ご家族を「患者さんを支えるための資源の一つ」として捉える考え方が主流でした。

つまり、ケアの対象は主に患者さんであり、ご家族は私たち医療者と同じように患者さんを支えるべき存在、と考えられていたのです。

しかし、その考え方では、ご家族それぞれの状況や感情に十分な配慮ができていなかったのではないか、と私は考えています。

ある在宅クリニックの看板にこんな言葉がありました。

「誰かの支えになろうとする人こそ、一番支えを必要としています」

 

 

これは本当に真理だと思います。

患者さんを一生懸命支えているご家族もまた、ケアを必要としている存在なのです。

この認識を持つことが、質の高いケアを提供する上で非常に大切になります。

 

家族ケアとは

そもそも「家族」という単位には、集団としての健康を維持するためのセルフケア機能が備わっていると言われています。

しかし、病気や介護といった状況に直面すると、その機能がうまく働かなくなる「機能不全」に陥ることがあります。

そうなると、ご家族自身に援助のニーズが発生します。

私たちは、患者さん個人だけでなく、家族全体を視野に入れた相談や援助を提供する必要があります。

 

 

また、ご家族がひとつのチームとして健康問題に対応できる能力を高められるような関わりも求められます。

 

  • 発達課題について
  • 家族の思い
  • 家族が受ける影響と負担
  • 家族のアセスメント

 

詳しく解説していきます。

 

発達課題について

家族には、ライフサイクルに応じた「発達課題」というものがあります。

例えば、新婚期、子供を育てる養育期・教育期、子供が巣立つ分離期、そして成熟期、完結期といった段階です。

 

 

もちろん、ご家族の構成は様々ですが、どのような形であれ、多くの人は誰かと支え合いながら生きています。

特に終末期においては、患者さんだけでなく、ご家族もまた、愛する人との別れを予測し、喪失感を抱えながら悲しみのプロセスを歩んでいます。

 

看護師 村上
だからこそ、私たちは患者さんだけを見るのではなく、ご家族一人ひとりの気持ちや関係性を考えながら、介入していく必要があるのです。

 

家族の思い

ご家族は、近い将来に大切な人を失うかもしれないという恐怖や悲しみ、傷つきを抱えながらも、患者さんの意思や希望に沿えるように懸命に支えています。

患者さんに意思を伝える能力がなくなった場合には、代理人として意思表示や意思決定を担うこともあります。

 

自分のことならまだしも、大切な家族、患者さんの人生に関わる重大な決断を、責任を持ってできるでしょうか?

 

これは、想像を絶するほどの心理的な負担です。

 

家族が受ける影響と負担

介護生活においては、他にも様々な負担が生じます。

 

  • 時間的な負担: 介護のための時間の確保、スケジューリング
  • 身体的な負担: 専門的な知識や技術がない中での介護による肉体的疲労
  • 経済的な負担: 医療費や介護用品、収入の減少など
  • 精神的な負担: 不安、抑うつ、孤独感、役割の変化への戸惑いなど

 

 

介護を頑張りすぎるあまり、介護者であるご家族自身の健康が脅かされてしまうケースも少なくありません。

 

家族のアセスメント

ご家族への適切なケアを提供するためには、まずそのご家族を深く理解するためのアセスメントが不可欠です。

 

 

具体的には、以下のような情報を丁寧に収集していくことが大切になります。

 

  • 家族構成: 氏名、続柄、性別、年齢、職業、居住地(同居・別居の状況など)
  • 家族成員の健康状態: それぞれの持病や健康上の懸念など
  • 経済状況: 収入、支出、公的支援の利用状況など
  • 日常生活状況: 生活リズム、家事分担、介護の状況など
  • 家族間の関係性: コミュニケーションの頻度や質、情緒的なつながり、葛藤の有無など
  • キーパーソン: 介護や意思決定の中心となっているのは誰か
  • 病状や予後の理解度: 患者さんの状態について、ご家族がどのように理解しているか
  • 問題点とストレス対処法: 現在抱えている問題や、それに対してどのように対処しているか

 

これらの情報を多角的に集めることで、そのご家族が置かれている状況やニーズをより具体的に把握することができます。

 

家族ケアで大切にすべきこと

実際に家族ケアを行う上で、私たちが大切にすべきことは以下のとおりです。

 

  • 患者への十分なケア
  • 家族のニーズと役割調整
  • 院内での調整
  • 意思決定支援

 

順番に解説していきます。

 

患者への十分なケア

まず、多くのご家族が最も望んでいることは、「患者さんが安楽であること」「穏やかに過ごせること」です。

看取りの時期に、患者さんに十分なケアが提供されたとご家族が感じられた場合、その後のご家族の後悔が少なくなる、という研究結果もあります。

 

看護師 村上
私たちは、患者さんの意識の有無や状態に関わらず、常に患者さんが安楽に過ごせるようなケアを提供し続ける必要があります。

 

家族のニーズと役割調整

次に、患者さんを支える中心となっているご家族(キーパーソン)にとって、他に支えとなる存在がいるか、特定の人にだけ負担が集中していないか、という視点を持つことが重要です。

時に、非常に熱心で献身的なご家族を見ると、私たちはその方の体調面や精神面が心配になることがあります。

「少し休んでください」と声をかけても、「離れている時間も患者さんのことが気になって休めない」「病院(あるいは自宅)で付き添っていた方が安心する」とおっしゃる方もいます。

そのご家族が、どのような思いで患者さんのそばにいるのか、その背景にある気持ちを理解することが大切です。

無理に引き離すのではなく、その思いを受け止めつつ、休息の必要性を伝えたり、他のサポート体制を整えたりする関わりが求められます。

 

院内での調整

患者さんとご家族が、残された時間を少しでも良いものとして過ごせるように、私たち看護師ができる工夫もあります。

 

例えば、ご家族が付き添っていない間の患者さんの様子をこまめに共有すること。

 

ご家族の状況に合わせて面会時間を考慮したり、時期によっては特別に夜間も付き添えるように簡易ベッドを用意したりすることもあります。

 

意思決定支援

ご家族は、時にシビアな内容の告知を受けたり、急変時の対応や今後の治療方針など、人生に関わる重大な決断を迫られたりします。

その負担は計り知れません。

意思決定を支援する際には、まず、そのご家族がこれまでどのように物事を決めてきたのか、そしてキーパーソンは誰なのかを明らかにします。

もし患者さんご本人に意識がない場合は、「この患者さんだったら、どう考え、何を望むだろうか」という「患者さんの推定意思」に沿った意思決定ができるよう、情報提供や話し合いの場を設けることをお勧めします。

 

家族が経験しうる『悲嘆』について

悲嘆とは、大切な人との死別を含む、重大な喪失に伴って起こる心と身体の一連の反応のことです。

 

  • 悲嘆
  • 予期悲嘆
  • 病的悲嘆
  • 悲嘆に治療介入が必要な場合

 

順番に解説していきます。

 

予期悲嘆とは?

死別が近づいてくると、「予期悲嘆(よきひたん)」という心理状態が問題になることがあります。

 

予期悲嘆とは
大切な人の死が避けられないと告げられた時から、実際の死が訪れる前に、喪失感を抱き、悲しみ、抑うつ、心配、死に対する準備、死がもたらす変化への適応といった様々な心理的反応を示すことです。

 

「予期悲嘆によって心の準備ができれば、患者さんの死が現実になった時の悲嘆を軽減することができる」と言われることもあります。

ただし、これはあくまで「心の準備ができれば」という点が重要であり、誰もが予期悲嘆を経てスムーズに死別を受け入れられるわけではありません。

 

悲嘆について

次に、「悲嘆(ひたん)」についてお話しします。

 

  • 身体的な反応(食欲不振、睡眠障害、疲労感など)
  • 認知的な反応(集中力低下、故人のことばかり考えるなど)
  • 行動的な反応(引きこもり、故人の思い出の品に執着するなど)
  • 感情的な反応(悲しみ、怒り、罪悪感、孤独感など)

 

これは、大切な人を亡くしたのですから、誰にでも起こりうる、ごく自然な反応です。

ご遺族の心身に何らかの変化があっても、全く不思議ではありません。

しかし、死別後にご遺族の死亡率が上昇する、うつ病に罹患するリスクや自殺リスクが高まる、といったデータも存在します。

先ほどお話しした「予期悲嘆」を死別前に経験していたとしても、それが必ずしも死別後の「悲嘆」を軽くするわけではない、ということも覚えておいていただきたいと思います。

 

病的な悲嘆も存在する

悲嘆は誰にでも起こる自然な反応ですが、中にはそれが長期化したり、日常生活に深刻な支障をきたす「病的な悲嘆(複雑性悲嘆)」と呼ばれる状態に移行してしまうことがあります。

どのような人が、病的な悲嘆になりやすいのでしょうか。

いくつかのリスク因子が指摘されています。

 

 

これらの特徴を持つ方が大切な人を亡くした場合、日常を取り戻すためには、通常よりも多くの時間と手厚いサポートが必要になる可能性があります。

 

治療的介入が必要な場合

病的な悲嘆(複雑性悲嘆)に陥った場合は、専門的な治療的介入が必要となります。

どのような症状が見られたら、介入を検討すべきでしょうか。

 

 

これらの症状が見られる場合は、精神科医や臨床心理士などの専門家への相談が必要です。

 

死別後に起こりうる生活の変化

大切な人を亡くした後、ご遺族の生活には様々な変化が起こります。

 

  • 経済的な変化: 収入源の喪失、相続の問題など
  • 地域や社会関係における変化: 役割の変化、孤立感、人間関係の変化など
  • 家族関係の変化: 家族内の役割再編、力関係の変化、新たな葛藤の発生など

 

これらの変化に対応していくことも、ご遺族にとっては大きな課題となります。

 

4つのグリーフワーク

ご遺族が患者さんとの死別という現実を受け入れ、変化した生活に適応していく過程で、「グリーフワーク」という概念が大切になります。

 

グリーフワークとは
患者さんを失った深い悲しみを乗り越えるために、心の中で行われる作業のこと

 

患者さんを失った後も、ご遺族は生きていかなければなりません。

その過程で、誰かのサポートを必要とする場合もあれば、ご家族自身の力だけで乗り越えていくこともあります。

死別に適応するためには、一般的に4つの「グリーフワーク(悲嘆の作業)」を完了する必要があると言われています。

 

  • 喪失の事実を需要する: 大切な人が亡くなったという現実を受け入れること。
  • 悲嘆の苦痛を乗り越える: 悲しみ、怒り、罪悪感などの様々な感情を感じ、表現し、乗り越えていくこと。
  • 故人のいない環境に適応する: 故人が担っていた役割を別の形で満たしたり、新しい生活様式を確立したりすること。
  • 故人を情緒的に再配置し、新たな人生を歩む: 故人との思い出を大切にしながらも、そのエネルギーを別の対象(新しい人間関係や目標など)に向けていくこと。

 

ご遺族は、患者さんが亡くなった後、医療や介護のサポートが途切れ、社会的に孤立しやすい存在になってしまうことがあります。

 

看護師 村上
私たち訪問看護師は、ご遺族がこのグリーフワークを進めていけるように、必要に応じて情報提供を行ったり、地域の遺族会やサポートグループへの参加を促したりすることも、大切な支援の一つと言えるでしょう。

 

まとめ

今回は『家族ケア』についての記事でした。

私たち医療従事者は日々の業務で、患者様のことだけを考えていれば良いというわけではありません。

患者様の終末期には、それを支えるご家族の姿があり、身近な人との別れで最も辛い思いをするのはご家族です。

どんな思いで支えているのか、患者様が亡くなられたあと、どんな生活をするのか。

そのことを忘れずに、ご家族にも歩み寄れるように意識しましょう。

 

動画で勉強する

 

看護師 村上
今回の内容が、皆様の訪問看護における日々の業務に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

ビジケア公式LINEに登録すると、訪問看護に関する最新情報(診療報酬や介護報酬改定を中心とした内容)が月に2回無料で配信されます。

最新セミナー情報やお得なご案内も配信していますので、よろしければ登録をお願いします。

友だち追加