「訪問看護は今まで処遇改善加算の対象外だったのに、急に取得できるようになったと聞いたけれど、何をすればいいのかわからない」——令和8年度介護報酬改定で状況が大きく変わった今、こうした戸惑いを抱えている経営者・管理者の方は少なくないはずです。
この記事では、訪問看護における介護職員等処遇改善加算について、対象になった背景・算定要件・手続きの流れ・注意点を整理して解説します。
- 訪問看護が介護職員等処遇改善加算の対象になった経緯
- 算定に必要な要件(キャリアパス要件・職場環境等要件など)
- 加算を取得するための具体的な手続きの流れ
- 実務上、特に注意しておきたいポイント
目次
訪問看護と介護職員等処遇改善加算の関係
介護職員等処遇改善加算は、介護分野で働く職員の処遇を、他の産業と遜色ない水準に改善することを目的として設けられた加算です。かつては「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つに分かれていましたが、令和6年度介護報酬改定でこれらが一本化され、現在の「介護職員等処遇改善加算」という枠組みになりました。
この加算は、もともと訪問介護・通所介護・施設サービスなど「介護職員」が中心となるサービスを対象としており、看護職員が中心となる訪問看護は長らく対象に含まれていませんでした。加算の名称にも「介護職員」という言葉が入っているとおり、制度の出発点はあくまで介護職の処遇改善であり、医療専門職である看護職員はその枠組みの外に置かれてきた経緯があります。ところが令和8年度介護報酬改定で対象サービスが大幅に拡大され、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援などにも加算の枠組みが適用されることになりました。人材確保が課題となっている訪問看護分野にとって、処遇改善の選択肢が増えたことは経営面でも見過ごせない変化です。

「訪問看護は看護職員が中心だから対象外」と思い込んでいるステーションもまだ多い印象です。令和8年度からは状況が変わっているので、まだ届出をしていない事業所は一度確認しておきたいですね。
3つの加算が一本化された経緯
介護職員等処遇改善加算は、もともと別々に設けられていた3つの加算が一本化されたものです。
| 旧制度 | 目的 |
|---|---|
| 介護職員処遇改善加算 | 介護職員の賃金改善(最も古くからある加算) |
| 介護職員等特定処遇改善加算 | 経験・技能のある職員への重点的な処遇改善 |
| 介護職員等ベースアップ等支援加算 | ベースアップ(基本給等の引き上げ)に充てる加算 |
令和6年度介護報酬改定で、これら3つが「介護職員等処遇改善加算」として一本化され、区分Ⅰ〜Ⅳという段階的な仕組みに整理されました。この一本化によって申請書類や実績報告の様式もシンプルになった一方、訪問看護のように新たに対象へ加わったサービスにとっては、初めて触れる制度として理解のハードルが残っています。
算定に必要な要件
介護職員等処遇改善加算には複数の区分(加算Ⅰ〜Ⅳ)があり、区分によって満たすべき要件が異なります。一般的には、上位の区分ほどキャリアパス要件・職場環境等要件の充足度が高く求められる仕組みとされています。訪問看護で新たに対象となった事業所については、令和8年度に限り一定の代替要件(特例要件)を満たすことでも算定できる経過的な取扱いが設けられています。

キャリアパス要件
職員のキャリアアップの仕組みを整備することを求める要件です。職位・職責・職務内容に応じた任用の仕組みを定め、それに応じた賃金体系を整備したうえで、就業規則等で職員に周知することが基本となります。あわせて、職員と意見交換をしながら資質向上の目標・計画を策定し、研修の機会を確保することも求められます。
職場環境等要件
「入職促進に向けた取組」「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」「両立支援・多様な人材の確保に向けた取組」「腰痛を含む心身の健康管理」「生産性向上のための業務改善の取組」「やりがい・働きがいの醸成」といった複数の分野から、一定数以上の取組を実施することが求められます。
要件の細部(各分野で何件の取組が必要か等)は制度改正のたびに見直される可能性があります。届出の前に、必ず最新の厚生労働省の通知・様式で要件を確認してください。
手続きの流れ
加算を取得するまでの大まかな流れは、次のとおりです。
- 処遇改善計画書の作成・提出賃金改善の見込み額や、職場環境等要件として取り組む内容を計画書にまとめ、都道府県・市町村等の指定権者に提出する。
- 利用者・家族への説明加算の算定について、契約書・重要事項説明書等を用いて利用者・家族に説明し、同意を得る。
- 加算の算定・賃金改善の実施算定した加算による収入を、実際に職員の賃金改善に活用する。
- 実績報告書の提出年度終了後、賃金改善の実績等を実績報告書にまとめ、指定権者に提出する。

実務上、特に注意しておきたいポイント
- 加算による収入は、必ず職員の賃金改善に活用する必要がある(他の経費への充当は認められない)
- 実績報告書の様式は、令和8年度中にも修正・差替が行われている。提出前に必ず最新版を確認する
- キャリアパス要件・職場環境等要件を満たしていることを示す書類(就業規則、研修記録等)は、後の実地指導等に備えて整理・保管しておく
- 令和8年度特例要件を活用する場合は、翌年度以降に本則の要件(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ等)へ移行する必要があるかどうかを事前に確認しておく

実際に厚生労働省からは、令和8年7月にも実績報告書の様式に修正が入っています。一度作った書類のフォーマットをそのまま使い回さず、提出のたびに最新の様式かどうかを確認する習慣をつけておくと安心です。
訪問看護ならではの注意点
訪問看護が処遇改善加算を検討するうえでは、他の介護サービスにはない独自の論点もあります。
看護職員と介護職員が混在する事業所の扱い
訪問看護ステーションでは、看護職員(保健師・助産師・看護師・准看護師)に加えて、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等が勤務しているケースも多くあります。処遇改善加算による賃金改善の対象範囲や配分ルールは、事業所内でどの職種をどう扱うかを含めて、計画書の中で明確にしておく必要があります。
医療機関併設・訪問看護ステーションの委託契約
病院・診療所と一体的に運営されている訪問看護ステーションや、他法人からの委託を受けて運営しているステーションでは、処遇改善加算の届出主体・実績報告の単位(法人単位か事業所単位か)について、通常の単独ステーションとは異なる整理が必要になる場合があります。判断に迷う場合は、指定権者(都道府県・市町村等)に個別に確認することをおすすめします。
どの区分を目指すか迷ったときは、まず自事業所が「キャリアパス要件」「職場環境等要件」をどこまで満たせているかを棚卸しし、無理のない区分から届出を始めるという考え方が現実的です。段階的に上位区分を目指す事業所も少なくありません。
よくある質問
訪問看護はいつから介護職員等処遇改善加算の対象になったのですか?
令和8年度介護報酬改定により、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援などが新たに対象サービスに加わりました。それまでは介護職員が中心となるサービスが対象で、看護職員が中心の訪問看護は対象外とされていました。
看護職員も加算による賃金改善の対象になりますか?
訪問看護が加算の対象サービスに含まれたことにより、当該事業所に勤務する看護職員も賃金改善の対象に含めることができます。具体的な配分方法は事業所内のルールに基づいて設定してください。
令和8年度に新規で対象になった事業所でも、すぐに最上位の区分を取得できますか?
訪問看護など新たに対象となったサービスについては、令和8年度に限り一定の代替要件(特例要件)を満たすことでも算定できる経過的な取扱いが設けられています。ただし翌年度以降の取扱いは変更される可能性があるため、最新の通知を確認しながら準備を進めることをおすすめします。
加算で得た収入を賃金改善以外に使うことはできますか?
できません。介護職員等処遇改善加算による収入は、計画書に基づき職員の賃金改善に充てる必要があります。目的外の使用が確認された場合、加算の返還を求められる可能性があります。
理学療法士等が在籍する訪問看護ステーションでも加算の対象になりますか?
訪問看護ステーション全体が加算の対象事業所となるため、看護職員に加えて理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等が在籍している場合も対象に含めることができます。ただし賃金改善の配分方法は事業所内でのルール整理が必要になるため、計画書作成の段階で職種ごとの取扱いを明確にしておくことをおすすめします。
上記通知には、令和8年度の取扱いを定める「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(令和8年3月13日付け老発0313第6号厚生労働省老健局長通知)に基づき様式の修正が行われた旨が記載されています。区分ごとの詳細な加算率・要件は改定のたびに見直されるため、届出にあたっては必ず当該通知および厚生労働省ホームページで公表されている最新の様式・要領をご確認ください。
まとめ|訪問看護も処遇改善加算を活用できる時代に
訪問看護は令和8年度介護報酬改定によって、介護職員等処遇改善加算の対象サービスに新たに加わりました。もともと介護職員向けの制度であった経緯もあり、社内に前例がない事業所も多いはずです。まずは自事業所がどの区分を目指せるか、キャリアパス要件・職場環境等要件のどこまでを満たせているかを確認するところから始めましょう。
- 訪問看護は令和8年度改定で介護職員等処遇改善加算の対象に新たに追加された
- 区分Ⅰ〜Ⅳに応じてキャリアパス要件・職場環境等要件を満たす必要がある
- 令和8年度は新規対象事業所向けの経過的な特例要件も用意されている
- 加算による収入は必ず職員の賃金改善に充てる必要があり、様式は改定後も修正されることがある
制度は今後も見直される可能性があるため、最新情報を確認しながら、無理のない範囲で計画的に準備を進めていきましょう。















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