精神科の利用者に訪問看護を提供する場合、介護保険の対象者であっても、精神科訪問看護指示書が交付されていれば医療保険が優先されます。この医療保険側の基本的な料金体系が「精神科訪問看護基本療養費」です。
この記事では、精神科訪問看護基本療養費の区分・金額・算定要件・提供可能な職種を、令和8年度改定の内容とあわせて解説します。
- 精神科訪問看護基本療養費とは何か
- 算定要件と提供可能な職種
- 区分(Ⅰ)(Ⅲ)の違いと金額
- 週の訪問回数制限と例外
- 実務でよくある留意点・Q&A
目次
精神科訪問看護基本療養費とは?
精神科訪問看護基本療養費とは、精神科訪問看護指示書に基づいて提供される訪問看護に対する、医療保険の基本料金です。利用者が介護保険の対象者(要介護認定を受けている)であっても、精神科訪問看護指示書が交付されている場合は医療保険が優先されるという点が、この療養費を理解するうえでの出発点になります。介護保険の他のサービスとの調整を担うケアマネジャーにとっても、押さえておきたい基本ルールです。訪問看護ステーション側では、新規依頼を受けた際に「介護保険の対象者かどうか」だけでなく「精神科訪問看護指示書が出ているかどうか」を確認する手順をあらかじめ決めておくと、算定区分の判断ミスを防ぎやすくなります。
算定要件
精神科訪問看護基本療養費を算定するには、次の要件を満たす必要があります。
- 精神科訪問看護指示書が交付されていること
- 提供職種が保健師・看護師・准看護師・作業療法士のいずれかであること(理学療法士・言語聴覚士は提供不可)
- 「相当の経験を有する者」の要件を満たしていること
「相当の経験を有する者」の要件
次の4つの要件のうち、いずれか1つを満たせばよいとされています。
- 精神科病棟・精神科外来での勤務経験が1年以上
- 精神疾患を有する者への訪問看護の経験が1年以上
- 精神保健福祉センター等での業務経験が1年以上
- 20時間以上の研修(修了証が交付されるもの)を修了していること
「20時間以上の研修修了が必須」という理解は誤りです。研修修了はあくまで4つの選択肢の1つであり、精神科での実務経験1年以上があれば、研修を受けていなくても要件を満たすことができます。

区分(Ⅰ)(Ⅲ)と金額
精神科訪問看護基本療養費には次の区分があります。かつて存在した区分(Ⅱ)は平成30年度改定で廃止されています。
| 区分 | 対象 | 金額の目安(保健師・看護師・作業療法士、30分以上) |
|---|---|---|
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ) | 同一建物居住者以外 | 週3日目まで5,550円(週4日目以降は単価が異なる) |
| 精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ) | 同一建物居住者(2人・3〜9人・10〜19人・20〜49人・50人以上の5段階) | 2人:週3日目まで5,550円/3〜9人:週3日目まで2,780円/10〜19人:月20日目まで2,760円 等 |
令和8年度改定で(Ⅲ)区分がさらに細分化され、10人以上の区分は「週」ではなく「月」単位で、月20日目までと21日目以降に分けて算定する仕組みに変わっています。9人以下の区分は従来どおり「週」単位のままです。

区分(Ⅲ)は人数区分と週・月の単位が混在しているので、請求ソフトの設定を確認するときは「9人以下は週単位」「10人以上は月単位」という切り分けを意識すると整理しやすいです。

1回の訪問看護でかかる費用の具体例
実際にどの程度の費用感になるか、モデルケースで確認してみましょう。
| 訪問日 | 算定内容の目安 |
|---|---|
| 月初日(1日目) | 機能強化型訪問看護管理療養費2(10,460円)+精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(5,550円)=16,010円 |
| 2日目以降(単一建物居住者20人未満) | 訪問看護管理療養費(3,010円)+精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(5,550円)=8,560円 |
この金額に、利用者の自己負担割合(1〜3割)を掛けた金額が、実際の利用者負担額になります。機能強化型かどうかで管理療養費部分が大きく変わるため、自ステーションの届出区分を確認したうえで見積もる必要があります。利用者・家族への説明時にも、月初日と2日目以降で金額が変わる点をあらかじめ伝えておくとよいでしょう。
週の訪問回数制限と例外
精神科訪問看護基本療養費は、利用者1人につき週3日を限度として算定します。ただし、退院後3か月以内の期間に行われる訪問については、週5日まで算定が可能です。退院直後の不安定な時期に、より手厚い訪問看護を提供できるようにする配慮といえます。訪問看護ステーション側では、退院日を起点に「3か月以内」の期間をカレンダーやシステムで管理し、週5日から週3日への切り替えタイミングを訪問スケジュールの見直しと合わせて行う運用にしておくと、算定漏れや過剰算定を防ぎやすくなります。
なぜ医療保険が優先されるのか
介護保険には「介護保険優先の原則」があり、要介護認定を受けている利用者は、通常であれば介護保険のサービスが優先されます。しかし精神科訪問看護に関しては、精神疾患への専門的な対応を確保する観点から、精神科訪問看護指示書が交付されている場合に限り、例外的に医療保険が優先されるという整理になっています。これは、精神科領域の訪問看護には専門性の高い判断や対応が求められる場面が多く、医療保険の枠組みで一貫して対応できるようにする趣旨と考えられます。
この例外は「精神科訪問看護指示書が交付されている間」に限られるため、指示書の有効期間が切れた場合や、精神科以外の疾患に対する訪問看護に切り替わった場合は、通常どおり介護保険優先の原則に戻る点に注意が必要です。指示書の更新時期はカレンダーで管理し、切り替わりのタイミングを見落とさないようにしましょう。
実務上の留意点
- 認知症のみを対象とした訪問看護は、介護給付(介護保険)の対象となる
- 精神科特別訪問看護指示書が交付された場合、14日以内・月1回を限度に算定できる
- 令和8年度改定で、訪問看護記録書等における訪問開始・終了時刻の記載が明確化された
- 精神科特別訪問看護指示書の有効期間や算定回数の上限を、通常の指示書と混同しないよう記録を分けて管理する
提供職種による料金の違い
精神科訪問看護基本療養費は、同じ区分・同じ時間の訪問でも、提供する職種によって金額が異なる点に注意が必要です。保健師・看護師・作業療法士が提供する場合と、准看護師が提供する場合とでは、単価が別に設定されています。人員配置やシフトを組む際は、どの職種が訪問するかによって算定額が変わることを踏まえておく必要があります。
また、精神科訪問看護においては、看護師・作業療法士に加えて精神保健福祉士が訪問を行うケースもあります(介護保険との併用時の職種要件については、精神科訪問看護と介護保険の併用を扱った記事もあわせてご確認ください)。理学療法士・言語聴覚士は精神科訪問看護の提供職種には含まれていないため、この点は誤解のないよう職員教育に反映しておく必要があります。
複数職種が関わる場合の記録の重要性
精神科訪問看護では、看護師と作業療法士がそれぞれ役割を分担して関わるケースもあります。この場合、誰がどの内容を提供したかを訪問看護記録に明確に残しておくことが、正しい単価での算定や、後日の確認作業をスムーズにするために重要です。担当者が交代する際の引き継ぎでも、職種ごとの関わり方が記録から読み取れるようにしておくと、支援の質を落とさずに継続できます。
算定前に確認したいチェックリスト
- 精神科訪問看護指示書が交付されているか確認したか
- 提供者が保健師・看護師・准看護師・作業療法士のいずれかであるか
- 「相当の経験を有する者」の4要件のいずれかを満たし、届出をしているか
- 週の訪問回数が3日(退院後3か月以内は5日)を超えていないか
- 区分(Ⅲ)の同一建物人数を、週単位・月単位のどちらで判定すべきか確認したか
- 提供職種によって単価が異なることを、シフト作成担当者・請求担当者双方が認識しているか
「相当の経験を有する者」の要件を満たすスタッフを事業所内で把握しておくと、精神科訪問看護指示書が交付された利用者を受け入れられるかどうかを、迅速に判断できます。新規スタッフの採用時には、精神科での勤務経験の有無をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。管理者としては、要件を満たすスタッフの人数と稼働状況を一覧で把握しておくと、新規依頼への対応可否を即座に判断しやすくなります。
よくある質問
要介護認定を受けている人でも精神科訪問看護基本療養費で算定できますか?
精神科訪問看護指示書が交付されていれば、要介護認定の有無にかかわらず医療保険が優先され、精神科訪問看護基本療養費で算定します。
20時間の研修を受けていないと精神科訪問看護は提供できませんか?
研修修了はあくまで「相当の経験を有する者」の要件を満たす方法の1つです。精神科病棟・外来での勤務経験1年以上など、他の要件を満たしていれば、研修を受けていなくても提供できます。
退院直後は週に何回まで訪問できますか?
通常は週3日が限度ですが、退院後3か月以内の期間に行われる訪問については週5日まで算定できます。
認知症の利用者にも精神科訪問看護基本療養費を算定できますか?
認知症のみを対象とした訪問看護は、原則として介護給付(介護保険)の対象となり、精神科訪問看護基本療養費の対象にはなりません。精神科訪問看護指示書の対象となる精神疾患を有する場合とは扱いが異なります。

まとめ|要件と区分を正しく整理しよう
精神科訪問看護基本療養費は、精神科訪問看護指示書があれば介護保険よりも優先される医療保険の療養費です。区分(Ⅰ)(Ⅲ)の違い、訪問回数の制限、経験要件を正しく理解しておくことが、適正な算定につながります。特に「相当の経験を有する者」の要件や、区分(Ⅲ)の週単位・月単位の切り分けは誤解が生じやすいポイントなので、事業所内で最新の内容を共有しておくことが大切です。改定のたびに単価や区分の細かい取り扱いが変わりやすい分野でもあるため、算定ソフトのマスタ更新や職員向けの周知を、指示書の発行タイミングと切り離して定期的に見直す仕組みを持っておくと安心です。
- 精神科訪問看護指示書があれば、要介護認定の有無にかかわらず医療保険が優先される
- 提供職種は保健師・看護師・准看護師・作業療法士に限られる
- 「相当の経験を有する者」は4要件のいずれか1つを満たせばよい
- 週3日限度(退院後3か月以内は週5日)という訪問回数制限がある
- 区分(Ⅲ)は令和8年度改定で人数区分がさらに細分化された
精神科訪問看護と介護保険の併用ルール、GAF尺度の評価方法についても、関連記事をあわせてご確認ください。






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