訪問看護は介護保険と医療保険のどちらでも提供されますが、「うちの利用者は介護保険と医療保険、どちらが適用されるのか」で悩んだ経験がある方は多いのではないでしょうか。原則は介護保険が優先ですが、特定の疾病や状態に該当すると医療保険が優先されるルールがあります。
この記事では、医療保険の訪問看護を利用できる対象者を、根拠となる健康保険法第88条の条文、別表第7に定められた疾病リスト、40歳未満・小児・難病患者などの具体例まで、管理者・経営者が実務で迷わないレベルまで整理して解説します。
- 介護保険と医療保険、訪問看護における優先順位のルール
- 医療保険の訪問看護の法的根拠(健康保険法第88条)
- 別表第7に定められた疾病等の一覧と、その意味
- 40歳未満・小児・難病患者など、介護保険の認定を受けていない対象者の具体例
- 医療保険の訪問看護における訪問回数・頻度のルール
目次
医療保険と介護保険、訪問看護はどちらが優先される?
訪問看護は、介護保険と医療保険の両方の制度から提供され得るサービスです。まず押さえておきたいのは、要介護・要支援の認定を受けている方は、原則として介護保険の訪問看護が優先されるという基本ルールです。
介護保険の認定を受けていない場合は医療保険
65歳以上で要介護・要支援の認定を受けていない方、40歳未満の方などは、そもそも介護保険の対象外となるため、訪問看護が必要な場合は医療保険の訪問看護を利用します。
介護保険の認定者でも医療保険が優先される3つのケース
一方で、介護保険の認定を受けている方であっても、次の3つのいずれかに該当する場合は、例外的に医療保険の訪問看護が優先されます。
- 厚生労働大臣が定める疾病等(特掲診療料の施設基準等 別表第7)に該当する場合
- 主治医から特別訪問看護指示書が交付された場合(急性増悪時等、原則月1回・14日間を限度)
- 認知症を除く精神疾患があり、精神科訪問看護指示書に基づき訪問看護を利用する場合

「介護保険の認定を受けている=必ず介護保険」ではないのがポイントですね。別表第7に当てはまる利用者さんは、認定の有無にかかわらず医療保険での対応になります。
医療保険の訪問看護の法的根拠|健康保険法第88条
医療保険による訪問看護(訪問看護療養費)は、健康保険法第88条で次のように定義されています。
「被保険者が、厚生労働大臣が指定する者(指定訪問看護事業者)から当該指定に係る訪問看護事業(疾病又は負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある者(主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。)に対し、その者の居宅において看護師その他厚生労働省令で定める者が行う療養上の世話又は必要な診療の補助を行う事業をいう。)を行う事業所により行われる訪問看護(指定訪問看護)を受けたときは、その指定訪問看護に要した費用について、訪問看護療養費を支給する。」
要点をまとめると、「疾病又は負傷により居宅で療養を続ける状態にあり、主治医がその必要性を認めた方」が対象という枠組みです。この抽象的な定義を、実務上より具体的にしたものが、次に解説する「別表第7」です。
医療保険の訪問看護の対象者|別表第7の疾病等一覧
「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等 別表第7)は、平成20年3月5日厚生労働省告示第63号(その後の改正を含む)に基づく告示で、以下の疾病等が定められています。
| 区分 | 疾病等 |
|---|---|
| 悪性腫瘍 | 末期の悪性腫瘍 |
| 神経難病等 | 多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症 |
| パーキンソン病関連疾患 | 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類ステージ3以上かつ生活機能障害度Ⅱ度またはⅢ度に限る) |
| 多系統萎縮症 | 線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群 |
| その他の神経難病等 | プリオン病、亜急性硬化性全脳炎、ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎 |
| 免疫・その他 | 後天性免疫不全症候群(AIDS)、頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態 |
これらは合計で20項目前後にまとめられ、現場では「別表7」「別表第七」といった略称で呼ばれます。別表第7に該当する利用者は、介護保険の認定を受けていても医療保険の訪問看護が優先され、週4日以上の訪問看護を利用できる点が実務上のポイントです。
別表第7の該当・非該当や診断基準(重症度分類等)の判断は主治医が行います。事業所側で自己判断せず、訪問看護指示書の記載内容を必ず確認しましょう。

特別訪問看護指示書・精神科訪問看護指示書による医療保険対応
別表第7に該当しなくても、以下の指示書が交付された期間は医療保険の訪問看護が優先されます。
| 指示書の種類 | 主な対象 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 特別訪問看護指示書 | 急性増悪、終末期、退院直後など、頻回な訪問看護が一時的に必要な状態 | 原則月1回・14日間を限度(気管カニューレ使用者・真皮を越える褥瘡の場合は月2回まで) |
| 精神科訪問看護指示書 | 認知症を除く精神疾患があり、精神科医療機関の主治医の指示に基づき訪問看護を行う場合 | 指示書の有効期間に準ずる |
介護保険の認定を受けていない方も医療保険の対象になる
別表第7や特別な指示書に該当しなくても、そもそも介護保険の認定を受けられない年齢層の方は医療保険の訪問看護を利用します。
- 40歳未満の方(介護保険の被保険者ではないため)
- 40歳以上65歳未満で、介護保険の特定疾病に該当せず要介護・要支援の認定を受けられない方
具体的には、次のような利用者が該当することが多く見られます。
- 医療的ケアが必要な小児(在宅酸素療法、経管栄養、気管切開等)
- 指定難病等で在宅療養を続ける若年〜中年層の患者
- 統合失調症・うつ病等で精神科訪問看護指示書に基づき訪問を受ける方
- 気管カニューレを挿入している方

小児や難病の利用者さんを受け入れる際は、「介護保険の対象外だから訪問看護は使えない」と誤解されがちですが、医療保険の訪問看護でしっかりカバーできる場合が多いので、ご家族にも案内してあげたいですね。
医療保険の訪問看護、訪問回数・頻度のルール
医療保険の訪問看護は、原則として週3日を限度とされていますが、別表第7に該当する利用者や、特別訪問看護指示書が交付されている期間、複数の訪問看護ステーションが連携する場合などは、週4日以上・1日複数回の訪問が可能になります。この頻度の違いは、経営面でも訪問看護計画の立案面でも重要な判断材料になるため、対象者の該当区分を正確に把握しておく必要があります。
なお、この頻度緩和は別表第7とは別に定められている「厚生労働大臣が定める状態等」(特掲診療料の施設基準等 別表第8)に該当する場合にも適用されることがあります。別表第8は真皮を越える褥瘡や気管カニューレ使用など、複数の訪問看護ステーションが連携して手厚く支援する必要がある状態を対象としており、別表第7とは対象範囲が異なります。両者を混同すると計画書・請求の根拠づけを誤りやすいため、利用者がどちらに該当するのか、訪問看護指示書の記載を都度確認する習慣をつけておきましょう。

管理者が押さえておきたい実務ポイント
- 初回の利用申込時に保険種別を確認する年齢、介護保険の認定状況、既往疾患を確認し、別表第7該当の可能性がある場合は主治医への確認を依頼しましょう。
- 訪問看護指示書の記載内容を正確に読み取る別表第7該当の有無、特別訪問看護指示書・精神科訪問看護指示書の交付有無は、指示書の記載事項から正確に把握し、記録に残しておきます。
- 訪問頻度・請求区分の整合性を定期的に確認する週4日以上の訪問を行っている利用者について、該当する保険・区分の根拠(別表第7該当、特別指示書の有効期間等)が記録上明確になっているか、定期的にセルフチェックしましょう。

まとめ|医療保険の対象者は「疾病・指示書・年齢」の3つの切り口で判断する
医療保険の訪問看護の対象者は、①別表第7に定める疾病等に該当するか、②特別訪問看護指示書・精神科訪問看護指示書が交付されているか、③そもそも介護保険の認定を受けられない年齢層か、という3つの切り口で整理すると判断しやすくなります。
- 訪問看護は原則「介護保険優先」だが、別表第7該当・特別な指示書交付時は医療保険が優先される
- 医療保険の訪問看護の法的根拠は健康保険法第88条
- 別表第7は末期悪性腫瘍・ALS・パーキンソン病関連疾患・人工呼吸器使用等、約20項目の疾病等が対象
- 40歳未満や特定疾病に該当しない40〜64歳の方は、介護保険の認定を受けられないため医療保険の訪問看護となる
- 別表第7該当者等は週4日以上・1日複数回の訪問が可能になる
利用者ごとの該当区分を正確に把握し、指示書・記録の整合性を保つことが、適切な保険請求とサービス提供の第一歩です。
要介護認定を受けている利用者は、必ず介護保険の訪問看護になりますか?
いいえ。要介護・要支援の認定を受けていても、別表第7に定める疾病等に該当する場合、特別訪問看護指示書や精神科訪問看護指示書が交付されている場合は、例外的に医療保険の訪問看護が優先されます。
別表第7に該当するかどうかは誰が判断しますか?
主治医が診断・重症度分類等を踏まえて判断し、訪問看護指示書に記載します。事業所側で自己判断せず、必ず指示書の記載内容を確認してください。
40歳未満の方は訪問看護を利用できますか?
利用できます。40歳未満の方はそもそも介護保険の被保険者ではないため、医療保険の訪問看護(健康保険法第88条に基づく訪問看護療養費)を利用します。医療的ケアが必要な小児や、若年の難病患者などが該当します。
医療保険の訪問看護は週に何回まで利用できますか?
原則は週3日が限度ですが、別表第7に該当する利用者や特別訪問看護指示書の交付期間中などは、週4日以上・1日複数回の訪問が可能になります。
精神疾患のある方は医療保険と介護保険のどちらになりますか?
認知症を除く精神疾患があり、精神科訪問看護指示書に基づいて訪問看護を行う場合は医療保険が優先されます。認知症のみの場合は、この例外に該当しないため、介護保険の認定状況等に応じて判断されます。
※別表第7の疾病等リストは、日本訪問看護財団の解説資料および複数の専門メディアの記載内容が一致することを確認したうえで掲載しています(確度中〜高)。告示の別表原文そのものへの直接照合は今回できていないため、最新の適用有無・重症度分類の詳細な要件については、必ず主治医の判断・最新の告示原文でご確認ください。



















