「訪問看護を辞めたい」——そう考えたことがある看護師は、決して少なくありません。病院や施設とは違い、訪問看護は利用者の自宅に一人で伺い、その場で判断し対応することが多い仕事です。「思っていたよりずっと大変だった」という声が後を絶たないのには、いくつかの共通した理由があります。
本記事では、訪問看護を辞める本当の理由を、体力面・精神面・人間関係・キャリア・待遇の5つの切り口から整理し、事業所として取り組める定着対策と、辞めたいと感じたときに取ってほしい行動まで解説します。退職が続いて悩んでいる管理者・経営者の方にも、いま辞めるかどうか迷っている看護師の方にも役立つ内容です。
- 訪問看護を辞める本当の理由(体力・精神・人間関係・キャリア・待遇の5つ)
- それぞれの理由に対する具体的な対策
- 辞める前に一度立ち止まって考えたいポイント
- 事業所側が取り組める定着対策
- 「辞めたい」と感じたときの相談先・行動ステップ
目次
訪問看護を辞める人が少なくない理由
訪問看護は、病院やクリニックの看護業務とは異なり、一人で訪問し、その場で判断する場面が多い仕事です。求人票や採用面接だけでは業務の実際のイメージがつかみにくく、就職・転職後に「思っていたよりずっと大変」というギャップを感じる人が少なくありません。
公益社団法人日本看護協会が公表した「2025年病院看護実態調査」では、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%とされています。訪問看護は24時間対応やオンコール当番、単独訪問といった特有の負担があるため、こうした看護職全体の傾向に加えて、訪問看護ならではの離職要因が重なりやすいと考えられます。

「辞めたい」と感じること自体は、決して珍しいことではありません。大切なのは、その気持ちの背景にある理由を整理して、改善できる部分がないかを一度考えてみることです。
訪問看護を辞める本当の理由|5つの原因と対策
ここからは、訪問看護を辞める理由として特によく挙げられる5つのパターンを、対策とあわせて見ていきます。
1. 体力的な負担(単独ケア+オンコール当番)
訪問看護は基本的に一人での訪問です。重症度や医療依存度の高い方が在宅で療養するケースが増えており、介護度の高い利用者への清潔ケアや医療的ケアを、限られた訪問時間内で一人でこなす必要があります。想像以上の身体的疲労を感じる看護師は少なくありません。
これに加えて、多くの事業所が24時間対応体制を取っているため、オンコール当番による夜間対応や休日出勤が発生します。スタッフの人数が少ないほど当番の頻度は高くなり、緊急対応の後に十分な休息が取れないまま次の訪問に入る、という状態が続くと、体力的な限界を感じやすくなります。
- 訪問スケジュールを、ケア内容の負荷も考慮して調整する(一人への負担集中を防ぐ)
- 緊急対応・休日出勤の後には、代休や半休を確実に取得できる仕組みをつくる
- 深夜対応の翌日は訪問件数を調整するなど、現実的な運用ルールを事前に決めておく
2. 精神的な負担(多職種連携+一人での判断)
病院では医師や他の看護師がすぐそばにいますが、訪問看護では自ら情報発信し、多職種と連携を取る必要があります。対応が難しい利用者や困難事例が重なると、連絡調整業務や看護計画の練り直しなど、抱える業務量が一気に増えます。責任感が強い看護師ほど、精神的な負担を抱え込みやすい傾向があります。
さらに、1回の訪問での情報の見落としが、利用者の急変につながる可能性もあります。特に独り立ちしたばかりの時期は、24時間体制のもとで全利用者の緊急対応を一人で判断する重さに、精神的に疲弊してしまうケースが少なくありません。
- 独り立ち後も相談しやすい環境を整える(管理者・先輩看護師への相談ルートを明確にする)
- プリセプター的な役割のサポート役を配置する
- サポート役となる看護師自身のケアも忘れない
- 定期的な面談で、業務量や精神面の負担を確認し調整する
3. 職場の人間関係(管理者の理念に共感できない)
訪問看護ステーションは、病院や施設と比べてスタッフの人数が少なく、管理者個人の考え方が事業所運営に大きく影響します。管理者の看護理念に共感できない、掲げている理念と実際の行動が食い違っている、困ったときにサポートが得られない——こうした状況が続くと、人間関係そのものへの不満につながります。
多くの場合、管理者の考えに至ったプロセスや背景が、スタッフに十分伝わっていないことが原因です。訪問業務が中心になるとスタッフ同士の接触機会も減るため、意識的にコミュニケーションの時間をつくることが対策になります。
- 管理者の意図や判断の背景を、日頃からオープンに説明する
- お互いの考えを共有できるミーティングの時間を計画的に設ける
- 感情的な対応ではなく、困りごとを相談できる雰囲気づくりを意識する
4. キャリア・スキルアップの停滞感
訪問看護は病院に比べて医療機器や症例の幅が限られる場面もあり、「このままで看護師としてのスキルが伸びていくのか」という不安を感じる人もいます。研修機会が少ない、勉強会に参加する時間が取れない、といった環境も、キャリアへの停滞感につながります。
- 外部研修・学会参加への費用補助や勤務調整を用意する
- 事業所内で定期的な事例検討会・勉強会の機会をつくる
- 本人の希望を踏まえたキャリアパス(管理者・専門分野特化など)を一緒に考える
5. 給与・待遇への不満
オンコール手当や訪問件数に応じたインセンティブの設計が事業所によって大きく異なることも、不満につながりやすいポイントです。特に、負担の大きいオンコール当番や緊急対応に見合った手当が設定されていないと感じると、モチベーションの低下から離職に至ることがあります。
- オンコール手当・緊急訪問手当の水準を、地域相場や負担の大きさに見合った形で見直す
- 給与・手当の決め方を、スタッフに分かりやすく説明する
- 訪問件数だけでなく、困難事例への対応や後輩指導など貢献度も評価に反映する

辞める前に一度立ち止まりたいこと
ここまで見てきた理由の中には、事業所を変えれば解決するものと、訪問看護という働き方そのものに伴うものが混在しています。この2つを混同したまま退職を決めてしまうと、転職先でも同じ悩みを繰り返してしまうことがあります。
「今の事業所の体制やルール」が原因なのか、「訪問看護という仕事の特性」が原因なのかを切り分けずに転職すると、環境を変えても同じ理由でまた辞めたくなる可能性があります。まずは管理者に率直に相談し、改善の余地がないかを確認してみることをおすすめします。
相談しても状況が変わらない、管理者自身に問題があるといったケースでは、無理に我慢を続ける必要はありません。自分の心身の状態を最優先に、次の環境を検討しましょう。
事業所側が取り組める定着対策
スタッフの退職が続く事業所ほど、採用コストや教育コストがかさみ、残ったスタッフの負担がさらに増えるという悪循環に陥りがちです。定着対策は、経営面から見ても最優先で取り組む価値があります。

| 辞める理由 | 事業所が取り組める対策 |
|---|---|
| 体力的な負担 | 訪問スケジュールの平準化、緊急対応後の代休取得ルールの明文化 |
| 精神的な負担 | 独り立ち後の相談ルート整備、プリセプター配置、定期面談 |
| 人間関係 | 管理者による方針の可視化、定期的なミーティングでの対話機会の確保 |
| キャリアの停滞感 | 研修・勉強会の機会提供、本人の希望に沿ったキャリアパスの提示 |
| 給与・待遇 | オンコール手当・評価制度の見直し、決め方の透明化 |
「辞めたい」と感じたときの相談ステップ
今まさに「辞めたいかもしれない」と感じている方は、退職を決める前に、次の順番で一度整理してみることをおすすめします。
- ステップ1:辞めたい理由を書き出す体力・精神・人間関係・キャリア・待遇のどれに当てはまるか、具体的に言語化します。
- ステップ2:管理者に率直に相談する改善できる余地がないか、まずは事業所内で相談してみます。
- ステップ3:改善の見込みを見極める相談後、実際に状況が変わりそうか、一定期間の変化を観察します。
- ステップ4:それでも難しければ、次の環境を検討する無理に我慢を続けず、自分に合った職場を探すことも大切な選択です。

管理者としては、スタッフから「辞めたい」という言葉が出る前に、日頃から小さな変化に気づけるようにしておきたいですね。定期的な面談は、退職の予兆に早く気づくための大切な機会だと考えています。
訪問看護の離職率は、病院看護師と比べて高いのでしょうか?
日本看護協会の調査では、2024年度の正規雇用看護職員全体の離職率は11.0%とされています。訪問看護に特化した最新の離職率データは限られますが、24時間対応やオンコール当番、単独訪問といった特性から、看護職全体の傾向に加えて訪問看護ならではの離職要因が重なりやすいと考えられます。
オンコール当番の負担を減らす具体的な方法はありますか?
当番の頻度をスタッフ間で公平に分散させること、緊急対応の後は確実に代休・半休を取得できるルールを明文化しておくことが有効です。当番の人数を増やせない場合でも、翌日の訪問件数を調整するなど運用面での工夫で負担を軽減できます。
精神的につらいと感じたら、まず誰に相談すればよいですか?
まずは事業所の管理者や、プリセプターなどサポート役となっている先輩看護師に相談することをおすすめします。一人で抱え込まず、業務量や訪問内容の調整も含めて話し合うことが大切です。
給与や待遇に不満がある場合、辞める前にできることはありますか?
まずは、オンコール手当や評価制度がどのような基準で決められているのかを管理者に確認してみましょう。不満の背景が「金額そのもの」なのか「基準が不透明なこと」なのかによって、対応の仕方も変わってきます。
「辞めたい」と思ったら、すぐ退職を決めるべきですか?
すぐに決める必要はありません。辞めたい理由が「今の事業所特有の問題」なのか「訪問看護という働き方そのものに伴うもの」なのかを整理し、管理者に相談したうえで、改善の見込みを見極めてから判断することをおすすめします。

まとめ|理由を切り分ければ、辞める前にできることが見えてくる
訪問看護を辞めたいと感じる理由は、体力面・精神面・人間関係・キャリア・待遇と、人によってさまざまです。ただ、その多くは「事業所の体制次第で改善できるもの」と「訪問看護という働き方に伴うもの」に分けて考えることができます。
- 辞める本当の理由は「体力」「精神」「人間関係」「キャリア」「待遇」の5つに整理できる
- 辞める前に、事業所側の問題か働き方そのものの問題かを切り分けて考えることが大切
- 事業所側は、スケジュール調整・相談体制・方針の可視化・研修機会・待遇の見直しで定着を図れる
- 「辞めたい」と感じたら、まず言語化し、管理者に相談してから判断するのがおすすめ
訪問看護は大変な面がある一方で、利用者の生活に深く関わることができるやりがいの大きい仕事でもあります。辞める決断も、続ける決断も、後悔のない形で選べるように、まずは理由を整理することから始めてみてください。


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