訪問看護を利用していると、医療保険と介護保険の両方に自己負担が生じるケースがあります。それぞれの制度で高額療養費や高額介護サービス費を活用しても、「それでもまだ支払いが多い…」と感じる利用者・ご家族は少なくありません。そんなときに知っておきたいのが、高額医療・高額介護合算療養費制度です。
この制度は、1年間の医療保険と介護保険の自己負担を合算し、所得に応じた限度額を超えた分を払い戻す仕組みです。訪問看護ステーションのスタッフが制度の内容を正しく理解しておくことで、利用者への情報提供や費用面の相談に的確に応えることができます。本記事では、制度の概要から限度額の一覧、申請手続きの流れまでをわかりやすく解説します。
- 高額医療・高額介護合算療養費制度の仕組みと対象者
- 70歳未満・70歳以上それぞれの年間自己負担限度額(最新)
- 申請対象外となる費用の種類
- 制度を活用した場合の具体的な計算例
- 申請先・申請の流れと必要書類
- 訪問看護ステーションとして押さえておきたい実務ポイント
目次
高額医療・高額介護合算療養費制度とは?
高額医療・高額介護合算療養費制度とは、1年間(毎年8月1日〜翌年7月31日)の医療保険と介護保険の自己負担額の合計が、所得に応じた限度額を超えた場合に、超えた金額を払い戻す制度です。
医療保険には「高額療養費制度」、介護保険には「高額介護サービス費」という費用軽減の仕組みがそれぞれ存在します。しかし、これらを活用しても、医療と介護の両方で高額な自己負担が続く世帯では、それでもなお大きな経済的負担が残ることがあります。本制度はそうした二重の負担をさらに軽減するための、いわば「第三の安全網」と位置づけられます。
高額療養費や高額介護サービス費の支給後に、なお限度額を超えた自己負担が残る場合に支給されます。高額療養費・高額介護サービス費の支給額を差し引いた残額が計算の対象になります。

介護保険側では同じ制度のことを「高額医療合算介護(予防)サービス費」と呼びます。名前が違うだけで同じ制度のことを指しているので、混乱しないようにしましょうね。
対象となる世帯・条件
この制度の対象は、医療保険各制度(被用者保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度など)の世帯内に、介護保険の受給者がいる場合です。被保険者からの申請に基づいて支給されます。
主な対象条件
- 世帯内に介護保険の受給者がいること
- 医療保険と介護保険の両方で自己負担が発生していること(どちらか一方が0円の場合は対象外)
- 高額療養費・高額介護サービス費を控除した後の合算自己負担額が限度額を超えていること
- 超えた金額が501円以上であること(500円以下は支給なし)
70歳未満の方の医療保険自己負担額は、医療機関別・医科歯科別・入院通院別にそれぞれ21,000円以上あるものだけが合算の対象になります。21,000円未満の自己負担は合算に含められません。
国民健康保険または後期高齢者医療制度の加入者の世帯については、支給対象となる可能性が高い場合に市区町村から申請勧奨のお知らせが届くことがあります。ただし、通知の有無は自治体によって異なるため、心当たりがある場合は市区町村の窓口に確認してみることをおすすめします。

申請は「自動で支給」ではなく本人または家族が手続きをして初めて支給される仕組みです。利用者やご家族がこの制度を知らないまま申請しそびれているケースも多いので、ステーション側から積極的に情報提供することが大切ですね。
年間自己負担限度額の一覧
限度額(基準額)は所得区分と年齢によって異なります。70歳未満と70歳以上(70〜74歳および75歳以上の後期高齢者)でそれぞれ以下のとおりです。
70歳未満の方の限度額(年間)
| 所得区分 | 標準報酬月額の目安 | 年間限度額(基準額) |
|---|---|---|
| 区分ア | 83万円以上 | 212万円 |
| 区分イ | 53万〜79万円 | 141万円 |
| 区分ウ | 28万〜50万円 | 67万円 |
| 区分エ | 26万円以下 | 60万円 |
| 区分オ(低所得者) | 市区町村民税非課税 | 34万円 |
70歳以上の方の限度額(年間)
70〜74歳(高齢受給者)および75歳以上(後期高齢者医療制度加入者)の方は以下の区分が適用されます。
| 所得区分 | 標準報酬月額の目安(協会けんぽの場合) | 年間限度額(基準額) |
|---|---|---|
| 現役並みⅢ | 83万円以上(3割負担) | 212万円 |
| 現役並みⅡ | 53万〜79万円(3割負担) | 141万円 |
| 現役並みⅠ | 28万〜50万円(3割負担) | 67万円 |
| 一般所得者 | 上記以外の方 | 56万円 |
| 低所得者Ⅱ | 市区町村民税非課税 | 31万円 |
| 低所得者Ⅰ | 所得がない(収入から控除後) | 19万円 |
加入する医療保険の種類(協会けんぽ・組合健保・国民健康保険・後期高齢者医療制度など)によって、所得区分の判定基準が異なる場合があります。詳細は加入している医療保険者に確認してください。
70歳未満と70歳以上が混在する世帯の場合
同一世帯に70歳未満と70〜74歳の方が混在する場合は、次の手順で計算します。
- 70〜74歳の限度額を先に適用70〜74歳の自己負担額に70歳以上の基準額(上表)を適用し、支給金額①を計算します。
- 70歳未満の限度額を次に適用70〜74歳のなお残る自己負担額と70歳未満の自己負担額の合計額に、70歳未満の基準額(上表)を適用し、支給金額②を計算します。
- 合計額が支給金額①と②を合計した金額が実際に支給される金額になります。
対象外となる費用に注意しよう
合算の対象になるのは、医療保険・介護保険の「自己負担額」のうち保険給付の対象となるものに限られます。以下の費用は合算の対象外となるため注意が必要です。
- 施設入所時の食費・居住費(補足給付の対象となるものも含め対象外)
- 入院時の差額ベッド代(特別療養環境室の費用)
- 福祉用具の購入費・レンタル費用
- 住宅改修費
- その他、保険外負担となる費用

「全部の出費が戻ってくる」と勘違いされることが多いですが、あくまでも保険給付の対象となる自己負担分だけが合算対象です。差額ベッド代や食費は含まれない点を、利用者・ご家族にも丁寧にお伝えするとよいですね。
制度活用の具体的な計算例
実際にどのくらい払い戻されるのか、具体例で確認してみましょう。
【条件】1年間の自己負担:医療保険 20万円+介護保険 15万円=合計 35万円
低所得者Ⅱの基準額:31万円
→ 35万円-31万円=4万円が払い戻し
※食費・居住費・差額ベッド代を除き、高額療養費・高額介護サービス費を控除した後の自己負担額で計算
【条件】1年間の自己負担:医療保険 50万円(高額療養費適用後)+介護保険 20万円(高額介護サービス費適用後)=合計 70万円
区分ウの基準額:67万円
→ 70万円-67万円=3万円が払い戻し
払い戻し額は数万円程度になることが多いですが、長期療養が続く世帯では確実に申請しておきたい制度です。特に医療依存度の高い訪問看護利用者の場合、年間を通じて医療・介護の両方に継続的な費用がかかるケースが多いため、該当する可能性がある利用者には積極的に制度を案内することが望まれます。
申請方法・申請の流れ
この制度は自動的に支給されるものではなく、必ず申請が必要です。計算期間は毎年8月1日〜翌年7月31日(基準日は7月31日)。一般的な申請の流れは以下のとおりです。
- 介護保険の窓口(市区町村)に申請するまず、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に「高額介護合算療養費支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書」を提出します。介護保険の自己負担額が確認され、「自己負担額証明書」が交付されます。
- 医療保険者に申請する交付を受けた「自己負担額証明書」を添えて、加入している医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険・後期高齢者医療広域連合など)に申請書を提出します。
- 支給(払い戻し)医療保険者による審査後、限度額を超えた金額が支給されます。支給は按分計算により、医療保険と介護保険それぞれから行われます。
マイナンバーを活用する場合
申請書に被保険者のマイナンバーを記入することで、介護保険・医療保険間の自己負担額情報の連携が可能になり、証明書の取得手続きを省略できる場合があります。申請先の医療保険者に確認してみましょう。
申請期限に注意
高額介護合算療養費の申請には時効(2年)があります。計算期間終了(毎年7月31日)の翌日から2年以内に申請しないと権利が消滅します。忘れずに申請しましょう。
訪問看護ステーションが押さえておきたいポイント
訪問看護ステーションのスタッフとして、この制度について以下のポイントを知っておくと利用者支援に役立ちます。
- 医療保険+介護保険の両方を利用している利用者は制度の対象になりやすい。特に医療依存度が高い利用者(人工呼吸器、経管栄養、重症心身障害など)に案内を検討する
- 利用者・家族は制度の存在を知らないことが多い。ケアマネジャーとも連携して情報提供の機会を作ることが重要
- 申請代行の義務はないが、「こういう制度がありますよ」という一声が利用者にとって大きな支援になる
- 申請先・手続き方法は加入する保険の種類(国保・被用者保険・後期高齢者)によって異なるため、市区町村または保険者への確認を促す
- 自治体によっては通知が届かない場合もあるため、通知が届いていなくても申請できることを伝える

訪問看護師は医療・介護の「つなぎ役」でもあります。利用者の費用面の不安に気づいたとき、「市区町村に確認してみてください」と一言添えるだけで、知らずに損をしてしまうケースを防げますよ。
よくある質問(FAQ)
75歳以上(後期高齢者)でも対象になりますか?
はい、対象になります。75歳以上の後期高齢者医療制度加入者も、世帯内に介護保険受給者がいれば制度を利用できます。申請先は加入している後期高齢者医療広域連合になります。
高額療養費や高額介護サービス費をすでに受けていても申請できますか?
はい、申請できます。むしろ、この制度は高額療養費・高額介護サービス費の支給後に、なお残る自己負担の合計が限度額を超えた場合に支給される制度です。すでに各制度を活用していることが前提となります。
医療保険と介護保険の保険者が異なる場合はどうすればよいですか?
複数の保険者にまたがる場合でも申請は可能です。まず介護保険者(市区町村)に自己負担額証明書を取得し、その後に加入している医療保険者に申請します。計算期間中に保険者が変わった場合は、それぞれの保険者から証明書を取得して申請することになります。詳しくは各保険者にお問い合わせください。
差額ベッド代も払い戻しの対象になりますか?
いいえ、差額ベッド代(特別療養環境室料)は対象外です。合算の対象となるのは保険給付の範囲内の自己負担額のみです。食費・居住費・福祉用具費用なども同様に対象外となります。
申請を忘れた場合、さかのぼって申請できますか?
申請には2年の時効があります。計算期間終了(7月31日)の翌日から2年以内であれば、さかのぼって申請することが可能です。2年を過ぎると権利が消滅するため、心当たりがある場合はできるだけ早めに申請してください。
まとめ|医療・介護の費用負担を軽減する「第三の安全網」を活用しよう
高額医療・高額介護合算療養費制度は、医療保険と介護保険の自己負担を合算し、所得に応じた限度額を超えた分を払い戻す制度です。高額療養費や高額介護サービス費だけでは軽減しきれない負担をカバーする、利用者にとって重要な制度といえます。
- 対象期間は毎年8月1日〜翌年7月31日の1年間。高額療養費・高額介護サービス費の支給後の合算額が基準額を超えた場合に支給される
- 限度額は所得区分・年齢によって異なる(70歳未満:34万〜212万円、70歳以上:19万〜212万円)
- 差額ベッド代・食費・居住費・福祉用具費用は対象外
- 申請は自動ではなく自分で行う必要がある。まず介護保険の窓口(市区町村)で自己負担額証明書を取得し、次に医療保険者に申請する
- 申請には2年の時効がある。心当たりがある場合は早めに確認・申請を
- 訪問看護ステーションのスタッフは利用者・家族に制度を案内できる立場にある
利用者の費用面の不安を少しでも和らげるために、ぜひ訪問看護の現場でもこの制度を積極的に案内していきましょう。



















