「M&Aの相談先を探すと、『仲介会社』と『FA(ファイナンシャル・アドバイザー)』という2つの言葉が出てくるが、何が違うのか分からないまま問い合わせてしまった」——訪問看護ステーションの事業承継を検討し始めた経営者の方から、こうした声をよく伺います。
実はこの違いを理解しないまま契約すると、後になって「自分の利益のためにどこまで動いてくれる相手なのか」が見えづらくなり、交渉の場面で戸惑うことがあります。この記事では、「仲介」と「FA」が契約の構造からしてどう違うのか、両手取引はなぜ利益相反リスクとして語られるのかを、中小企業庁の中小M&Aガイドラインの規律もふまえて整理します。
- 「仲介」と「FA」は、契約する相手からして何が違うのか
- 仲介の「両手取引」がなぜ利益相反リスクとして語られるのか
- 中小M&Aガイドラインが仲介・FAに求めている規律の中身
- 訪問看護ステーションのM&Aで、実務上どちらが選ばれやすいか
- 相談先を選ぶときに確認しておきたいポイント
目次
「仲介」と「FA」、決定的に違うのは「誰と契約するか」
訪問看護ステーションのM&Aは、事業を託す側(譲渡側)と、引き継ぐ側(譲受側)の間に専門業者が入って進めるのが一般的です。中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、こうしたマッチング支援やM&A手続きの総合支援を専門に行う業者として「仲介者」と「フィナンシャル・アドバイザー(FA)」の2つを挙げています。
両者の違いは、業務の巧拙ではなく契約の構造そのものにあります。
- 仲介:譲渡側・譲受側の双方と契約し、間に立って条件をすり合わせる
- FA:譲渡側・譲受側のどちらか一方のみと契約し、依頼者の代理人として動く

「仲介=業者の種類」「FA=サービスの質」という話ではなく、あくまで「誰の代理人として契約しているか」という立場の違いなんですね。ここを押さえておくと、この先の話が理解しやすくなります。
仲介の「両手取引」はなぜ問題視されるのか|利益相反リスクの構造

仲介が双方と契約する形は、業界では「両手取引」と呼ばれます。双方から手数料を受け取れる立場になるため、「早く成約させたい」「両者が納得しやすい価格帯に落ち着かせたい」というインセンティブが働きやすく、譲渡側の利益を最大限まで追求しきれない構造的なリスクがある、という指摘があります。これに対してFAは依頼者以外と契約関係を持たないため、構造上はこうした利益相反が生じにくいとされています。
一方で、仲介には「双方の事情を把握しているからこそ、条件の折り合いをつけて成約まで運びやすい」という側面もあります。特に訪問看護ステーションのように買い手候補の絶対数が限られる業界では、両手取引だから一律に不利とは言い切れません。重要なのは「両手か片手か」という形式そのものより、利益相反が起こり得る構造をきちんと開示し、規律をもって対応しているかという点です。
| 項目 | 仲介 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) |
|---|---|---|
| 契約する相手 | 譲渡側・譲受側の双方 | 譲渡側・譲受側のどちらか一方のみ |
| 基本的な役割 | 双方の間に立ち、条件をすり合わせる | 依頼した側の代理人として、利益の最大化を目指す |
| 手数料を受け取る相手 | 双方(=両手取引)となるケースが多い | 依頼した側のみ(=片手) |
| 利益相反への懸念 | 構造上、利益相反が生じやすいとされる | 依頼者以外との利害関係がないため、構造上は生じにくい |
| 強みとされる点 | 双方の事情を把握した上での調整力・マッチング力 | 依頼者の利益を追求する交渉姿勢 |
「両手取引=悪」「片手(FA)=安心」と単純に色分けできるものではありません。仲介・FAいずれの形態でも、契約前に利益相反リスクについてきちんと説明を受けられるかどうかが判断の分かれ目になります。
中小M&Aガイドラインが仲介・FAに求めている規律
この「仲介とFAの違いや手数料について十分な説明を受けられなかった」というトラブルは、実際に中小企業庁にも報告が寄せられています。同庁が所管する中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月改訂)のページでは、次のように述べられています。
登録されたFAや仲介業者が提供するM&A支援サービスを巡り、仲介とFAの違いや手数料等について十分な説明を受けなかった、といったトラブルが発生している——として、中小企業庁はM&A支援機関登録事務局内に「情報提供受付窓口」を設置しています。
こうした実態を受けて、第3版改訂では仲介契約・FA契約を結ぶ前の重要事項の書面説明を拡充し、仲介者において禁止される利益相反事項の具体化が図られました。また、仲介者・FAの手数料はレーマン方式によるものが多いものの、「基準となる価額」の考え方次第で報酬額が大きく変わり得ること、最低手数料を設定する業者が多いことも明記されています。手数料の相場や計算方法そのものは論点が多いため、本記事では構造の違いに絞り、詳細はM&A仲介手数料の相場とレーマン方式・最低手数料の仕組みで解説しています。

国のガイドラインがわざわざ「仲介とFAの違いの説明不足」をトラブル事例として挙げているくらい、実際に混同したまま契約してしまうケースが多いということです。契約前にきちんと説明を受けられるかどうかは、それ自体が相談先を見極める材料になります。
訪問看護ステーションM&Aで「仲介」が選ばれやすい理由|現場からみた実務

それでも訪問看護ステーションのM&Aでは、実務上「仲介」が選ばれるケースが多く見られます。理由は、訪問看護という業界特有の狭さにあります。
- 買い手候補となる法人が地域・業界内である程度限られる
- 指定基準や実地指導・運営指導の状況など、訪問看護特有の実務理解が交渉に直結する
- 「理念に共感してくれる引き継ぎ先」を探すマッチング力が成否を左右する
片方の利益だけを追求するFAよりも、双方の事情を理解した上で候補を探し、条件をすり合わせる仲介の調整力が実務上活きやすい場面が多い、というのが訪問看護M&Aの一つの特徴です。もちろん、譲渡条件を徹底して追求したい場合や、複数の候補から選別できるだけの規模・知名度がある事業所であれば、FAという選択肢が合う場合もあります。訪問看護に特化した相談先を選ぶ意味は、業界特化の仲介会社を選ぶべき3つの理由で詳しく解説しています。
誰に相談するかで、守れるものが変わる|雇用・地域医療・個人保証からの解放
仲介かFAかという業態区分そのものより、実際に経営者にとって重要なのは「誰に相談すれば、守りたいものをきちんと守れるか」という視点です。反対に避けるべき相談先の特徴は、悪質な仲介・アドバイザーの手口と見分け方で整理しています。
訪問看護ステーションの経営者の多くは、資金繰りやオンコール対応、後継者不在といった重圧の中で日々を過ごしています。M&Aは、そこからの個人保証・債務の重圧からの解放という実利をもたらすと同時に、自分が突然倒れて事業が立ち行かなくなり、スタッフや利用者を路頭に迷わせる最悪の事態を避け、雇用と地域医療を守る責任ある選択にもなり得ます。
この実利と大義の両方をきちんと実現できるかどうかは、業態区分(仲介かFAか)よりも、相談先が訪問看護の実務をどこまで理解し、交渉の場でどこまで丁寧に動いてくれるかに左右されます。個人保証の扱いひとつをとっても、最終契約でどう定めるかで結果は大きく変わります。だからこそ、次の章で挙げるような確認ポイントが重要になります。
仲介・FAを選ぶときに確認したい3つのポイント
- 契約前に重要事項の書面説明を受けられるか「誰の利益を優先する契約なのか」「手数料の算定基準(相手方の手数料を含む)」について、契約締結前に書面で説明を受けられるかを確認しましょう。中小M&Aガイドラインが仲介者・FAに求めている基本的な対応です。
- 利益相反リスクについて説明があるか仲介であれば両手取引である旨と、利益相反を防ぐためにどう対応するのか。FAであれば依頼者側にどこまで専念してくれるのか。どちらの立場でも、この説明を避けずにしてくれる相手かどうかを見極めましょう。
- 訪問看護特有の実務を理解しているか指定基準・実地指導の状況、株式譲渡と事業譲渡の違い(事業譲渡の場合は指定申請の空白期間リスクへの目配りも必要です)など、訪問看護業界特有の論点を踏まえて動いてくれるかどうかは、業態区分以上に成否を左右します。

「仲介ですか、FAですか」という質問より、「この3点をきちんと説明してもらえるか」を最初の面談で確認する方が、実際には有効な見極め方だと感じます。
よくある質問
「仲介」と「FA」の一番大きな違いは何ですか?
契約する相手が違います。仲介は譲渡側・譲受側の双方と契約して間に立ちますが、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、どちらか一方とのみ契約し、その依頼者の代理人として動きます。
仲介は「両手取引」だから、売り手にとって一方的に不利なのですか?
一律に不利とは言えません。双方から手数料を受け取る構造上、利益相反が生じやすいという指摘はありますが、双方の事情を把握しているからこそ調整力・マッチング力が発揮できる面もあります。重要なのは、利益相反リスクについてきちんと開示・説明があるかどうかです。
訪問看護ステーションのM&Aでは、仲介とFAどちらが一般的ですか?
訪問看護は買い手候補となる法人が地域・業界内である程度限られるため、双方の事情を理解した上で候補を探し条件を調整する「仲介」が選ばれる場面が多く見られます。ただし、事業所の規模や交渉方針によってはFAが向くケースもあります。
仲介とFA、どちらの方が手数料は安いですか?
一概には言えません。手数料の算定方法(レーマン方式が主流)や最低手数料の水準は業者ごとに異なり、仲介・FAという業態区分だけでは決まりません。契約前に手数料の算定基準(相手方の手数料を含む)について書面で説明を受け、金額の目安を確認することが重要です。
相談する会社を選ぶとき、最初に何を確認すればいいですか?
契約前に重要事項の書面説明を受けられるか、利益相反リスクについて説明があるか、訪問看護特有の実務(指定基準や実地指導の状況、事業譲渡の場合の指定申請リスクなど)を理解しているか、の3点を最初の面談で確認することをおすすめします。
M&Aの基本的な流れや、訪問看護業界でM&Aが増えている背景をまだ押さえていない方は、まずこちらをご覧ください。
訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説まとめ|「仲介かFAか」より「誰に相談するか」を基準に

「仲介」と「FA」は、どちらが優れているという話ではなく、契約する相手が双方か一方かという構造の違いです。両手取引だから即座に不利、片手(FA)だから即座に安心、と単純に色分けできるものではありません。
- 仲介は双方と契約(両手取引)、FAは一方のみと契約する立場の違い
- 両手取引には構造上の利益相反リスクが指摘される一方、調整力・マッチング力という強みもある
- 中小M&Aガイドライン第3版は、契約前の重要事項説明や利益相反事項の具体化を仲介者・FAに求めている
- 訪問看護M&Aでは買い手候補が限られるため、実務上は仲介が選ばれる場面が多い
- 選ぶ基準は業態区分そのものより、重要事項の説明・利益相反への対応・訪問看護実務の理解の3点
形式的な業態区分にとらわれず、契約前の説明を丁寧にしてくれる相談先かどうかを見極めることが、後悔しないM&Aへの近道です。
訪問看護特化の事業承継・M&A支援「ビジケア」について
ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。
国が創設したM&A支援機関登録制度の登録を受け、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」の遵守にも取り組んでおり、ご相談・お相手探しにかかる着手金や中間金は一切無料(0円)です。
支援の範囲は、秘密保持契約の締結から、企業価値算定、お相手探し・マッチング、トップ面談・条件交渉、最終契約・引き継ぎ完了まで、一貫してサポートします。
ビジケアは、訪問看護業界に特化した経験・知見・ネットワークを活かし、売手側の利益最大化に専念してご支援します。ご相談・お相手探しの着手金・中間金は無料(0円)でご利用いただけます。
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