訪問看護で伺った汚い家…現役訪問看護師の対処法を事例とともにお伝えします!

訪問看護の仕事をすると、いつかは必ず出会う「汚い家」。

中には足の踏み場がない、いわゆる「ゴミ屋敷」や「汚部屋」と呼ばれるような居宅も存在します。

令和元年の厚生労働省の調査では、対応に苦慮するケースの一つとしてゴミ屋敷が上がっています。

今回は、訪問看護師の私が訪問看護で伺った汚い家について、事例とともに対処法をお伝えしていきます。

日々の実務にお役立ていただければ嬉しいです。

 

訪問看護で伺った汚い家とは?

訪問看護は、居宅で療養する利用者さんに訪問して看護を提供するサービスです。

利用者さんが暮らす療養環境が人によって様々であることは、訪問看護の大きな特徴と言えます。

自分に置き換えてみても、毎日家の掃除が行き届いてピカピカな状態という方は少ないのではないでしょうか。

誰しも仕事や家事育児、介護などそれぞれの事情がありますので当然だと言えます。

利用者さんも同様に、片付けができない何らかの事情がある場合があります。

訪問看護では、身体状況や精神面、家族関係など利用者さんの様々な側面からアプローチし、健康を維持できるよう支援していく必要があります。

では、3つの事例とその際に行った対処法について見ていきましょう。

 

Episode01: 認知症のあるAさん

Aさんは夫と暮らす認知症の利用者さんです。

認知症の進行によりAさんは自宅の片付けができなくなりその一方で仕事と介護に追われる夫は掃除に手が回らないという現状がありました。

ベッド周辺が排泄物で汚染してしまっていたり、食事をするテーブルの上にも物が散乱していたり、どんどん「汚部屋」になってしまったようです。

 

認知症の進行に合わせたサポートを提案する

 

認知症の進行に伴い、できないことが増えるのは予測できることです。

訪問看護では保清やシーツ交換、利用者さんとともに食卓などの環境整備をするなど、生活スペースは確保できるよう支援します。

また、生活面で困難となったことについては訪問介護の介入も効果的です。

しかし、認知症の利用者さんは新しいことを受け入れることに時間がかかることがあります。

訪問サービスの導入はなるべく早い時期から行うことで、利用者さんとの関係性を築きやすかったり、利用者さんの希望を伺う機会を多く設けることができたりします。

訪問看護が事前に介入し、関係性が築けている場合には訪問介護と情報共有し、スムーズにサービスの導入ができるよう架け橋になれるといいでしょう。

 

家族の介護力に応じて環境整備の方法をお伝えする

実際に認知症の方の支援を行っていると、排泄動作を認知できずトイレを汚してしまったり、おむつを適切に使用できていなかったりすることがありました。

その場合には、トイレの便座を目視的に確認できるマークをつけることでトイレを汚す頻度が減ったことがあります。

また、介護者の介護力をよく見極め、わかりやすく簡易的なケア方法をお伝えすることで介護者の余力を持つことができます。

家が汚れてしまう原因として、利用者さんの認知面の問題もありますが、介護者の余裕がない介護状態になっていないかということにも注目してアセスメントしていきます。

デイサービスやショートステイの利用は希望されない利用者さんもいますが、利用者さんが介護保険サービスで外出している間に介護者の時間を確保することも大切です。

 

Aさんの場合は、訪問看護師による自宅の環境整備やその他の介護保険サービスを導入することで、少しずつ生活しやすい環境に変わってきました。

「家が汚れている」ことから利用者さんやそのご家族の困りごとを抽出することで、家の清掃に繋げることができた事例でした。

 

Episode02: 精神障害のあるBさん

Bさんは精神障害を抱えた利用者さんです。

ワンルームアパートに一人暮らしをしており、精神症状から掃除は行うことができません

Bさんの部屋は、服や本、ペットボトルなどが散乱し「汚部屋」になってしまったそうです。

 

まずは症状の安定を!

精神科訪問看護の場合は、まずは症状の安定が最優先です。

部屋の荒れ具合によっても、精神症状の悪化が見えることがありますので、部屋の状況にも注意して観察します。

部屋の環境によっては看護師自身への汚染を予防するために、靴下カバーなどを使用します。

 

部屋の一部から整理を始める

症状が安定してきたら、看護師と一緒に部屋の一部を整理整頓することから始めます。

看護師が一方的に環境整備を行うのではなく、利用者さんの自立を促す関わりを心がけます。

「十分な休息を得るために布団の上を片付ける」、「趣味である読書がしやすいように本棚を整理整頓する」、「運動をかねて家の周辺の草むしりをする」など、望む生活に関連した目標設定を行うこともおすすめです。

急激には難しいかもしれませんが、少しでも実行できた時にはその成果を認め、行動を生活パターンに組み込むことができるよう支援します。

 

Bさんの場合は、症状の安定を図り、健康維持に向けて身の回りの整理整頓を一つずつ始めました

訪問時に利用者さんから整理ができた箇所を教えてくださるようになり、生活パターンに組み込むことができた事例でした。

 

Episode03: ゴミ屋敷で暮らすCさん

Cさんは心不全を患い在宅療養をしている利用者さんです。

一人暮らしですが、家は長年捨てずに溜まった物で溢れる「ゴミ屋敷」です。

害虫や悪臭の発生があり、ケアマネジャーと地域の自治体が頭を悩ませています。

 

訪問時には嫌味のない万全の身支度をする

いわゆる「ゴミ屋敷」に入ったことのある訪問看護師さんは少なからずいると思います。

不用品、ゴミが床に散乱し、目に見えないダニやほこり、時にはゴキブリやネズミが出ることも…。

訪問時には、長袖の上着を着用し、靴下カバーを事前に履いておくことをお勧めします。

不織布マスクは必要な場合には2枚使用すると、ほこりの吸い込みを少なくできます。

また、ダニ避けスプレーなどを足元にかけておきます。

必要に応じてディスポエプロンやディスポ手袋が必要となる場合もありますが、あまり過度な身支度は利用者さんとの関わりに支障が出ます

利用者さんが「自分は汚いもの扱いされている」と感じると、訪問者を拒絶する可能性があります。

訪問後には脱げるような物で、嫌味のない身支度をして行き、退室時やその後に手洗いや着替えができる準備をしておきましょう。

 

利用者さんに訪問を楽しみにしてもらう

家をゴミ屋敷にしてしまう利用者さんは、地域や人間関係から孤立している可能性があります。

そのため、他者への警戒が強く最初はなかなか関係性が築けないことがあるでしょう。

訪問看護では、根気強く利用者さんとのコミュニケーションを図り、利用者さんにとって害のない存在であることを知ってもらいます。

他者にはゴミと見えるものが、利用者さんにとっては大切なもの、自身の持ち物であるという認識のずれを知ることから始めます。

利用者さんがゴミを溜めてしまった背景を理解した上で、健康を維持して在宅生活を継続するにはどうしたらいいか一緒に考えます

訪問看護の利用に慣れ、来訪を楽しみにしていただけるようになれば、少しずつ家の不要物を一緒に分別できるようになることもあります。

また、自治体や専門業者によるゴミの回収に応じるための架け橋になることも可能です。

訪問看護だけで解決しようとせず、ケアマネジャーや地域の自治体と十分に情報共有を行い、地域を支えるチームの一員として行動しましょう。

利用者さんへ強要はせずに、同意を得られる関わりをすることで、その後の関係も良好に保つことができます。

 

Cさんの場合は、それまで「家を片付けてください!」と来る人来る人に言われていました。

訪問看護で伺った際には、世間話や体調の話など、家の状況には触れない関わりをしました。

すると徐々に打ち解けてCさん自身の話をしてくださるようになり、数ヶ月後に初めて訪問看護師から不用品の整理についてお話ししたところ前向きに考えてくださるようになりました。

時間はかかりましたが、今ではすっきりとした部屋で看護を提供しています。

 

まとめ

 

今回は、訪問看護で出会う汚い家について、事例とその対処法をお伝えしました。

家の環境がそれぞれ異なる訪問看護の仕事ですが、その一つ一つの家に家庭の事情や背景が存在します。

訪問看護師はどのような利用者さんであっても、その方自身を看ることを大切にして行きたいですね。

ビジケアでは、全国の訪問看護ステーションの管理者、経営者、従事者が集い、日々悩みの共有や解決策の提案を行っています。

「汚部屋」や「ゴミ屋敷」に住まう利用者さんのことでお悩みの方は、ぜひビジケアにご相談ください。

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ABOUT US
石澤 明日香
埼玉県在住/看護師/急性期総合病院にて6年勤務後、訪問看護ステーションで5年半勤務。令和4年9月に訪問看護ステーションアスエイドを開設、代表取締役兼管理者を務める。そのほか重度訪問介護事業所にも所属し介護士として障害を抱える方への支援や訪問看護に特化したブログ「ウチくる看護」の運営を行う。/趣味は料理とホームパーティ