「訪問看護ステーションを開設したいけれど、何から手をつければいいのか分からない」「資金・人員・設備、どこまで準備すれば申請できる状態になるのか知りたい」——開設を検討し始めた方の多くが、こうした漠然とした不安を抱えています。
訪問看護ステーションの開設には、法人格の取得から資金計画、人員の確保、設備の整備、指定申請まで、多くのステップがあります。この記事では、開設準備の全体像を「ヒト・モノ・カネ」の観点から整理し、厚生労働省令に定められた人員基準・設備基準を一次情報ベースで解説します。
- 訪問看護ステーション開設に必要な「ヒト・モノ・カネ」の全体像
- 開設資金の目安と、活用できる融資制度・補助金
- 厚生労働省令に定められた人員基準・管理者要件・設備基準
- 電子カルテ・情報共有ツールの準備と、保険加入の考え方
目次
訪問看護ステーション開設に必要な「ヒト・モノ・カネ」
訪問看護ステーションの開設準備は、大きく分けると次の4つに整理できます。
- カネ:開設資金の確保(設備資金・運転資金)
- ヒト:法人格の取得、管理者・看護職員の確保
- モノ:事務室の確保、備品・訪問看護用品の準備
- 手続き:指定申請、加算の届出
この4つを並行して進めながら、最終的に都道府県知事(または指定都市・中核市の市長)から「指定居宅サービス事業者(訪問看護)」の指定を受けることがゴールになります。指定申請の具体的な書類・手続きの流れは別記事で詳しく解説していますので、ここでは開設準備の実務全体を中心に見ていきましょう。

開設準備というと「申請書類をそろえること」に意識が向きがちですが、実際には資金計画と人材確保のほうが時間がかかることが多いです。逆算して早めに動き出すことが大切ですね。
開設資金の目安と調達方法
開設資金は、立地や規模、法人形態によって大きく異なります。備品や事務所の初期費用に加えて、指定を受けてから利用者さんが安定的に増えるまでの運転資金(人件費・家賃等)を、4〜5ヶ月分程度は見込んでおくのが一般的とされています。

資金計画を立てる際は、①備品等の必要金額を見積もる、②最低限の設備から始める、③運転資金を数ヶ月分確保する、という3つの視点を持つと過不足のない計画を立てやすくなります。
自己資金だけで賄うのが難しい場合は、公的金融機関の融資制度の活用も選択肢になります。独立行政法人福祉医療機構(WAM)や日本政策金融公庫では、医療・福祉事業向けの融資制度を設けており、長期・低利での資金調達を検討できます。また、自治体によっては訪問看護ステーションの開設に対する補助金制度を設けている場合があるため、開設予定地の自治体窓口に確認しておくとよいでしょう。
人員基準|看護職員は常勤換算2.5人以上
訪問看護ステーションを開設するには、まず法人格が必要です。地方公共団体、医療法人、社会福祉法人、看護協会、NPO法人、一般社団法人、株式会社・合同会社などの営利法人が対象となり、実務上は株式会社・合同会社を選ぶケースが多く見られます。
法人を設立したら、次に人員の確保が必要です。指定訪問看護ステーションの人員基準は、厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第60条に定められており、次のとおりです。
| 職種 | 基準 |
|---|---|
| 看護職員(保健師・看護師・准看護師) | 常勤換算方法で2.5以上となる員数(うち1名は常勤) |
| 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | 事業の運営に必要な数(必要に応じて配置) |
この人員基準は指定申請の時点だけでなく、事業を運営している間ずっと満たし続ける必要がある点に注意が必要です。開設時に一時的に基準を満たしても、退職等で欠員が生じたまま放置すると、人員基準違反として指導の対象になり得ます。
管理者の要件と、揃えるべき設備・備品
指定訪問看護ステーションには、専らその職務に従事する常勤の管理者を1名配置する必要があります(同基準第61条)。管理者は保健師または看護師であることが原則とされており、やむを得ない理由がある場合の例外規定も設けられています。管理者は看護職員を兼務することも可能です。

管理者になれるかどうかの具体的な要件(実務経験年数など)は、指定権者である都道府県等によって運用が異なる部分もあるので、開設予定地の窓口に早めに確認しておくと安心です。
設備面では、同基準第62条により「事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室」と「指定訪問看護の提供に必要な設備及び備品等」の確保が求められています。具体的な広さの数値基準は定められていませんが、事務室のほか、相談室・会議室・更衣室・倉庫・洗面所などがあると運営しやすくなります。他の居宅介護支援事業所等と併設する場合は、スペースを共有することも可能です。

備品面では、看板・電話機・訪問車・パソコン・プリンターなどのオフィス用品に加えて、ユニフォーム・訪問バッグ・血圧計・体温計・パルスオキシメーター・吸引器といった訪問看護用品も必要になります。開設前に一覧化し、優先順位をつけて揃えていくとスムーズです。
| 分類 | 主な品目 |
|---|---|
| オフィス用品 | 看板、電話機、携帯電話、訪問車、FAX、机、パソコン、ホワイトボード、ロッカー、プリンター、コピー機、シュレッダー |
| 事務用品 | パンフレット、印鑑、名刺、記録用紙、ファイル、筆記用具、封筒 |
| 訪問看護用品 | ユニフォーム、エプロン、ガウン、訪問バッグ、手袋、マスク、血圧計、体温計、パルスオキシメーター、聴診器、吸引カテーテル、吸引器 |
備品はすべてを開設と同時に完璧にそろえる必要はありません。指定訪問看護の提供に最低限必要なもの(血圧計・体温計・パルスオキシメーター等の観察用品や、訪問記録・計画書関連の様式)を優先し、事務機器や什器類は運営を始めながら段階的に整えていく事業所も少なくありません。
開設準備でつまずきやすいポイント
開設準備を進める中では、次のような点でつまずくケースがよく見られます。
- 人員基準を満たす看護職員の採用に想定より時間がかかり、開設予定時期がずれ込む
- 指定申請書の記載内容と運営規定の内容に整合性がなく、窓口での確認・修正に時間がかかる
- 資金計画で運転資金を過小に見積もり、利用者数が想定どおり伸びない期間に資金繰りが厳しくなる
- 電子カルテ・情報共有ツールの選定を後回しにし、スタッフが増えてから運用の見直しに追われる
特に人員の確保は、求人を出してから採用が決まるまでに数ヶ月かかることも珍しくありません。指定申請の準備と並行して、早い段階から採用活動を始めておくことが、開設スケジュールを崩さないコツです。
情報共有ツール・電子カルテの準備
タブレットやスマートフォンと電子カルテを組み合わせて導入すると、訪問先からでも記録・計画書・報告書の作成や、地図アプリでの経路確認ができるようになり、業務効率が大きく向上します。開設当初から情報共有ツールを整えておくことで、スタッフが増えた後の運用もスムーズになります。
- 訪問先から訪問看護記録・計画書・報告書を作成できる
- 外出先から利用者さんの経過記録をすぐに確認できる
- 地図アプリと連携し、初めての訪問先でも迷わず行ける
- スタッフ間の情報共有がリアルタイムに行える
保険への加入について
訪問看護の提供中に、利用者さんやそのご家族等に思わぬ怪我をさせてしまったり、物損事故を起こしてしまったりするリスクに備え、多くの訪問看護ステーションが損害賠償保険に加入しています。指定権者によっては、指定申請時の必須書類として加入状況の確認を求める場合もあるため、開設予定地の窓口で必要書類を確認しておくと安心です。
賠償責任保険の加入要否・必要書類の扱いは指定権者(都道府県・指定都市・中核市)によって運用が異なる場合があります。申請前に必ず開設予定地の窓口へ確認しましょう。全国訪問看護事業協会などが、訪問看護ステーション向けの補償制度を提供しています。
よくある質問
訪問看護ステーションの開設に法人格は必須ですか?
必須です。都道府県知事等から「指定居宅サービス事業者(訪問看護)」の指定を受けるためには、地方公共団体、医療法人、社会福祉法人、NPO法人、株式会社・合同会社などの法人格が必要になります。個人事業主のままでは指定を受けられません。
看護職員は何人いれば開設できますか?
厚生労働省令に基づき、保健師・看護師・准看護師を常勤換算方法で2.5人以上(うち1人は常勤)配置する必要があります。この基準は開設時だけでなく、運営を続けている間ずっと満たし続ける必要があります。
管理者は看護職員を兼務できますか?
兼務可能です。管理者は専らその職務に従事する常勤者であることが原則ですが、業務に支障がない範囲で、同一事業所の看護職員として勤務することも認められています。
事務室の広さに決まりはありますか?
具体的な面積基準は定められていません。ただし「事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室」であることが求められるため、業務に支障のない広さを確保する必要があります。相談室や会議室、更衣室などもあわせて用意しておくと運営がしやすくなります。
開設資金はどのくらい見ておけばよいですか?
立地・規模・法人形態によって大きく変動するため一概には言えませんが、備品等の初期費用に加えて、運転資金を4〜5ヶ月分程度見込んでおくと安心です。自己資金が不足する場合は、福祉医療機構や日本政策金融公庫の融資制度、自治体の補助金制度の活用も検討しましょう。
人員基準・設備基準は改正されることがあるため、実際の指定申請にあたっては、開設予定地の都道府県・指定都市・中核市の窓口で最新の運用をご確認ください。
まとめ|開設準備は「ヒト・モノ・カネ」を並行して進めよう
訪問看護ステーションの開設には、法人格の取得、資金計画、人員基準を満たす採用、設備・備品の準備、そして指定申請という複数のステップがあります。それぞれに時間がかかるため、早めに全体像を把握し、並行して進めることが開設をスムーズにする鍵になります。
- 開設には法人格が必須。株式会社・合同会社を選ぶケースが多い
- 看護職員は常勤換算2.5人以上(うち1人常勤)、管理者は常勤の保健師・看護師
- 設備基準は専用の事務室と必要な備品等の確保が条件
- 資金計画は運転資金4〜5ヶ月分を目安に、融資制度・補助金も検討する
今回紹介した内容は開設準備のごく一部です。指定申請の詳細な流れや必要書類は、あわせて関連記事もご確認ください。




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