介護老人保健施設(老健)から退所して在宅療養に移る際、「訪問看護指示書は誰が交付するのか」「在宅の主治医の診察が間に合わないときはどうするのか」と迷う場面があります。特に退所日と訪問看護の開始日が近い場合、手続きの遅れがそのまま在宅生活の空白期間につながりかねません。実は老健からの退所時には、通常とは異なる特別な仕組みが用意されています。
この記事では、老健退所時の訪問看護指示書と「訪問看護指示加算」の仕組みを、対象施設・算定要件・注意点、退所前に準備しておきたいポイントに分けて、実務担当者向けにわかりやすく解説します。
- 老健退所時に交付される訪問看護指示書の特徴
- なぜ老健の医師が例外的に指示書を交付できるのか
- 訪問看護指示加算の対象施設・点数・算定要件
- 指示期間の考え方
- 特別訪問看護指示書との関係で注意すべき点
目次
老健退所時は、老健の医師が例外的に訪問看護指示書を交付できる
通常、訪問看護指示書は在宅の主治医が交付します。しかし老健から退所して在宅療養に移行するタイミングでは、在宅の主治医による診察が間に合わないという課題が生じやすいため、例外的に老健に所属する医師が退所時に限り訪問看護指示書を作成・交付できる仕組みが設けられています。医師の診察後、速やかに指示書を作成・交付することが認められています。この仕組みがあることで、退所日と在宅療養の開始日の間に指示書がない空白期間が生じるリスクを抑えられます。
訪問看護指示加算とは?対象施設・点数・算定要件
老健の医師が退所時に訪問看護指示書を交付した場合、施設側は「訪問看護指示加算」として300点(介護報酬上は300単位)を算定できます。この加算の対象となる施設は以下の3つです。
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
算定できるのは入所者1人につき退所時1回限りです。また、指示書を交付する前提として入所者本人の同意が必要とされています。同意なく手続きを進めてしまうと、後から算定要件を満たさない扱いになるおそれがあるため、退所前の説明・同意取得のプロセスを省略しないようにしましょう。

老健からの退所は、在宅生活への切り替えのタイミングでもあります。訪問看護指示加算の仕組みを知っておくと、退所日と訪問看護開始日の間に空白期間を作らずに済みますよ。

指示期間の考え方
老健退所時の訪問看護指示書についても、指示期間が記載されていない場合は「1か月」とみなされます。通常の訪問看護指示書の有効期間(1〜6か月)と比べて短めに運用されるケースが多いため、退所後すぐに在宅の主治医へ引き継ぐ準備をしておくことが重要です。指示期間が短いぶん、更新のタイミングを見落としやすい点にも注意しましょう。
特別訪問看護指示書との関係に注意
老健の医師が退所時に交付できるのは、あくまで通常の訪問看護指示書のみです。特別訪問看護指示書は医療保険による訪問看護の提供時に交付されるものであり、老健退所時の訪問看護指示加算の枠組みとは別物のため、老健医師が特別訪問看護指示書を交付することはできません。急性増悪等で医療保険による集中的な訪問看護が必要な場合は、退所後に在宅の保険医療機関の主治医へ改めて相談する必要があります。
訪問看護指示書と特別訪問看護指示書は、別々の医師が交付することはできないとされています。老健医師が通常の指示書を交付した場合、その後に特別訪問看護指示書が必要になった際は、同一の医師(この場合は在宅に移った後の主治医)が両方を担う整理になる点に留意しましょう。

サービス付き高齢者向け住宅等へ退所する場合も同様の扱い
老健から自宅へ直接戻る場合だけでなく、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、在宅扱いとなる住まいへ退所する場合も、同様に老健の医師が訪問看護指示書を交付できます。この場合も、交付できるのはあくまで通常の訪問看護指示書のみで、特別訪問看護指示書は対象外という点は変わりません。
サ高住入居後に病状が悪化し、医療保険による集中的な訪問看護(特別訪問看護指示書に基づくもの)が必要になった場合は、退所後にサ高住の協力医療機関等、在宅側の主治医へ改めて相談する流れになります。住まいの形態が変わっても、指示書に関する基本的な考え方自体は変わらないことを押さえておきましょう。
退所前に準備しておきたいチェックリスト
老健からの退所がスムーズに進むよう、退所前の段階で次の点を確認しておくと安心です。
- 退所後の在宅療養を支える主治医(かかりつけ医)が決まっているか
- 訪問看護指示加算の対象となる訪問看護指示書の交付について、老健側と調整済みか
- 入所者本人の同意が得られているか
- 退所後、指示期間(記載がなければ1か月)が切れる前に、在宅の主治医から通常の指示書へ切り替える段取りができているか
- 医療的ケアの状態によって特別訪問看護指示書が将来的に必要になりそうか、あらかじめ在宅の主治医と共有できているか
老健の退所支援担当者・ケアマネジャー・訪問看護ステーションの三者が、退所前カンファレンス等の場で指示書の交付元と有効期間を共有しておくことで、退所直後の空白期間を防ぎやすくなります。
老健=介護老人保健施設とは?
介護老人保健施設(老健)は、主として心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要な要介護者を対象とした施設です。医学的管理のもとでの介護と機能訓練を提供し、在宅復帰を目指すことを目的としています。病院と自宅の中間的な役割を担う施設と位置づけられており、入所期間も在宅復帰を前提とした比較的短期のものが想定されています。訪問看護指示加算の仕組みは、この「在宅復帰を目指す」という老健の役割を踏まえ、退所直後の在宅療養が途切れなくスタートできるように設けられた制度と理解しておくとよいでしょう。
退所後、在宅の主治医への引き継ぎで気をつけたいこと
老健退所時の訪問看護指示書は、あくまで在宅療養開始時の橋渡しとしての役割です。有効期間が短めであることを踏まえ、退所前の段階から在宅の主治医(かかりつけ医)を確保し、引き続き訪問看護を継続する場合は、速やかに通常の訪問看護指示書への切り替えを依頼しておく必要があります。
特に、老健入所中に新たな傷病や医療的ケアが加わっていた場合、その情報が在宅の主治医に正しく引き継がれていないと、指示書の記載内容が実態と合わなくなるリスクがあります。老健の退所時サマリーや看護サマリーの内容を、訪問看護ステーション・在宅主治医の双方でしっかり確認する体制を整えておきましょう。
主治医が老健の医師から在宅のかかりつけ医に変わる点は、通常の主治医変更のケースと共通する注意点も多くあります。関連記事もあわせてご確認ください。
よくある質問
老健からの退所時、訪問看護指示書は誰が交付しますか?
在宅の主治医の診察が間に合わない場合に限り、老健に所属する医師が例外的に訪問看護指示書を作成・交付できます。医師の診察後、速やかに交付されます。
訪問看護指示加算はどの施設が算定できますか?
介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院が対象です。入所者1人につき退所時1回限り、300点(300単位)を算定できます。
老健の医師は特別訪問看護指示書も交付できますか?
いいえ。老健の医師が退所時に交付できるのは通常の訪問看護指示書のみです。特別訪問看護指示書は医療保険による訪問看護の提供時に交付されるもので、退所後に在宅の主治医へ改めて相談する必要があります。
サービス付き高齢者向け住宅へ退所する場合も同じ扱いですか?
はい。自宅へ直接戻る場合と同様に、老健の医師が訪問看護指示書を交付できます。特別訪問看護指示書が対象外である点も変わりません。
訪問看護指示加算の対象になるには、事前に何を準備しておけばよいですか?
退所後の在宅主治医が決まっているか、入所者本人の同意が得られているか、指示期間が切れる前に通常の指示書へ切り替える段取りができているかを、退所前のカンファレンス等で確認しておくとスムーズです。
※上記通知は様式改正に関するものであり、対象施設・点数・算定回数等の詳細要件は別紙様式に記載されているため本文では直接確認できていません。複数の専門メディア・都道府県看護協会のQ&Aで内容一致を確認したうえで記載していますが、最新かつ正確な取り扱いは所轄の地方厚生局・保険者にご確認ください。

まとめ|老健退所時は例外的な指示加算の仕組みを理解しておこう
老健からの退所時は、在宅の主治医の診察が間に合わないという課題に対応するため、老健の医師が例外的に訪問看護指示書を交付できる仕組みが用意されています。
- 老健退所時は、老健の医師が例外的に訪問看護指示書を交付できる
- 訪問看護指示加算は300点、対象は老健・介護療養型医療施設・介護医療院、退所時1回限り
- 指示期間の記載がない場合は1か月とみなされる
- 老健医師が交付できるのは通常の指示書のみで、特別訪問看護指示書は対象外
- 退所後は速やかに在宅の主治医への引き継ぎを進める
- サ高住等への退所時も同様の扱いだが、特別訪問看護指示書は引き続き対象外
主治医変更や入退院時の注意点、訪問看護指示書そのものの基本ルールについては、関連記事もあわせてご確認ください。





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