「エンゼルケアの料金はいくらに設定すればいい?」「保険は使えるの?」「ご家族にどう説明すれば失礼にならない?」――在宅での看取りが増えるなかで、訪問看護ステーションの管理者やスタッフから、このような相談をよく受けます。
結論からお伝えすると、訪問看護のエンゼルケア(死後の処置)は医療保険・介護保険のどちらの給付にもならず、事業所が運営規程で定めた料金を「その他の利用料(自費)」として受け取るのが基本です。この記事では、制度上の位置づけ、ターミナルケア療養費・ターミナルケア加算との違い、公開されている料金の設定例、ケアの流れ、そしてご家族とのトラブルを防ぐ説明のポイントまで、現場目線で整理します。
- エンゼルケア(死後の処置)が保険外の自費になる理由と制度上の位置づけ
- ターミナルケア療養費・ターミナルケア加算との違い
- 公開されている料金設定の例と、料金を決めるときの考え方
- 訪問看護で行うエンゼルケアの内容と流れ
- ご家族への説明のタイミングと料金トラブルを防ぐポイント
目次
訪問看護のエンゼルケアとは?死後の処置との関係
エンゼルケアとは、利用者さんが亡くなられた後に行う処置やケアの総称です。制度上の文書では「死後の処置」と表現されることが多く、現場では「エンゼルケア」「逝去時ケア」とも呼ばれます。
長い療養生活や医療処置によって、亡くなった方の外見は生前と大きく変わっていることがあります。エンゼルケアは、体を清潔にして医療器具の跡を整え、その方らしい穏やかな姿でご家族とのお別れの時間を迎えられるようにするためのケアです。あわせて、体液や排泄物による感染を防ぐという衛生面の役割もあります。
在宅看取りでは、最期まで関わってきた訪問看護師がエンゼルケアを担うことが少なくありません。ご家族にとっても「最期まで見てくれた看護師さんに整えてもらえた」という安心感につながるため、訪問看護ならではの大切な役割といえます。

エンゼルケアは「処置」であると同時に、ご家族のグリーフケアの入り口でもあります。料金の話をきちんと整理しておくことは、ケアそのものに集中するための準備でもあるんですよ。
エンゼルケアの料金は保険外(自費)|制度上の位置づけ
訪問看護は、医療保険(訪問看護療養費)または介護保険(訪問看護費)の給付として提供されます。しかし、保険給付は「生きている利用者さんへの療養上の世話・診療の補助」が対象です。そのため、亡くなった後に行う死後の処置は、どちらの保険の給付対象にもなりません。
医療保険では「その他の利用料(実費相当額)」として扱う
近畿厚生局の「訪問看護療養費の取扱いの理解のために」では、その他の利用料(保険外)として徴収できる費用のひとつに、「指定訪問看護の提供と連続して行われた在宅での死後の処置」が挙げられています。これは交通費やおむつ代などと同じ区分で、「当該サービスに要する実費相当額を徴収できる」と整理されています。
つまり医療保険の利用者さんの場合、エンゼルケアの料金は「実費相当額」として設定するのが原則です。利益を上乗せした高額な料金設定は、この考え方になじみません。
介護保険では「運営規程で定めた料金」として扱う
介護保険の利用者さんの場合も考え方は同じです。愛知県の「介護保険~利用料ガイドライン(愛知県版)~」では、訪問看護の死後の処置料について「運営規程で定めた料金」とし、「死亡後に介護報酬は算定できない。利用料も算定不可」と整理されています。
ここでいう「利用料も算定不可」とは、介護報酬の自己負担分(1〜3割の利用者負担)を請求することはできない、という意味です。エンゼルケアの費用は、あくまで運営規程に定めた保険外の料金として受け取ります。
| 項目 | 医療保険の利用者 | 介護保険の利用者 |
|---|---|---|
| 保険給付 | 対象外 | 対象外(死亡後は介護報酬を算定できない) |
| 料金の位置づけ | その他の利用料(保険外) | 運営規程で定めた保険外の料金 |
| 金額の考え方 | 実費相当額 | 運営規程で定めた額(実費相当が基本) |
| 事前の手続き | 内容と金額をあらかじめ説明し、同意を得る。領収証を交付する | |
エンゼルケアの料金を受け取るには、運営規程・重要事項説明書に「死後の処置料」として内容と金額を記載し、契約時に説明しておくことが前提です。記載がないまま、亡くなった後に初めて請求するのはトラブルのもとになります。

ターミナルケア療養費・ターミナルケア加算との違い
「看取りをしたらターミナルケアの加算がつくのに、エンゼルケアは別料金なの?」と疑問に思うご家族もいます。ここは整理しておきたいポイントです。
医療保険の「訪問看護ターミナルケア療養費」や、介護保険の「ターミナルケア加算」は、亡くなる前の一定期間に行った終末期の看護を評価するものです。主治医と連携しながら、本人・家族と話し合い、ターミナルケアの支援体制を説明したうえで訪問看護を行った場合などに算定します。
一方、エンゼルケアは亡くなった後に行うケアであり、これらの報酬には含まれていません。つまり、ターミナルケアの報酬と死後の処置料は対象となる時期も性質もまったく別物です。両方を受け取ることは「二重取り」にはあたりません。
| 項目 | ターミナルケア療養費/ターミナルケア加算 | エンゼルケア(死後の処置) |
|---|---|---|
| 対象となる時期 | 亡くなる前の終末期 | 亡くなった後 |
| 評価・請求の仕組み | 保険給付(医療保険・介護保険) | 保険外(自費) |
| 主な内容 | 終末期の看護、支援体制の説明、家族への支援など | 清拭・整容・医療器具の跡の処置・更衣など |
| 請求先 | 保険者+利用者負担分 | ご家族(運営規程の料金) |

ご家族に説明するときは「亡くなる前までの看護は保険で、亡くなった後のお体のケアは保険の対象外なので別にいただいています」とシンプルに伝えると伝わりやすいですよ。
エンゼルケアの料金はいくら?公開されている設定例
エンゼルケアの料金に全国一律の金額はなく、各事業所が運営規程で定めています。参考として、インターネット上で公開されている訪問看護ステーションの重要事項説明書・料金表から、死後の処置料の記載例を紹介します。
| 事業所の例 | 死後の処置料 | 記載のされ方 |
|---|---|---|
| 病院併設の訪問看護ステーションA | 10,000円 | 料金表(医療保険)の保険外費用として記載 |
| 訪問看護ステーションB | 10,000円 | 家族の申し出により実施した場合の処置料 |
| 病院併設の訪問看護ステーションC | 11,000円(税込) | その他の費用(保険対象外)として一律 |
| 訪問看護ステーションD | 12,100円(税込) | 死後の処置を行った場合に徴収 |
| 病院併設の訪問看護ステーションE | 18,000円 | 材料費を含む実費相当として記載 |
公開例を見ると、1万円台で設定しているケースが目立ちます。ただし、これはあくまで一部の事業所の例です。地域や体制、使用する物品、所要時間によって適切な金額は変わります。
料金を決めるときの考え方
医療保険では「実費相当額」が原則なので、料金の根拠を説明できるようにしておくことが大切です。料金を検討するときは、次のような要素を積み上げて考えると整理しやすくなります。
- 看護師の人件費(所要時間×人数。2人で対応する場合も含めて想定する)
- 使用する物品(綿・保湿剤・メイク用品・紙おむつ・防水シート・ディスポ手袋など)
- 移動にかかる費用(ご逝去の連絡を受けて訪問する場合など)
- 時間外・休日の対応になる場合の扱い
「エンゼルメイクを含むか」「着替えの手伝いまで含むか」など、料金に含まれる範囲も明確にしておくと、ご家族からの質問にも答えやすくなります。
消費税の扱いは税理士に確認を
公開されている料金表には、「税込」と明記している事業所もあれば、税込・税抜の記載がない事業所もあります。訪問看護そのものは消費税が非課税とされていますが、保険外の費用の消費税の扱いは、費用の性質によって判断が分かれることがあります。自事業所の取り扱いは、顧問税理士や所轄の税務署に確認したうえで、料金表の表示(税込・税抜)をそろえておきましょう。
訪問看護で行うエンゼルケアの内容と流れ
エンゼルケアは、医師による死亡診断(死亡確認)が行われた後に始めます。ご家族のお別れの時間を確保したうえで、ご家族の希望を確認しながら進めます。代表的な流れは次のとおりです。
- 医師の死亡診断とご家族のお別れの時間死亡診断が終わったら、まずはご家族がゆっくりお別れできる時間をとります。処置を急ぐ必要がない場合は、ご家族の気持ちが落ち着くのを待ちましょう。
- ケアの説明と同意・参加の確認これから行うケアの内容を説明し、ご家族が一緒に行いたいかどうかを確認します。着せたい服やメイクの希望もここで聞いておきます。
- 医療器具の取り扱い点滴やカテーテル類、ストーマ装具などの扱いは、主治医の方針や事業所の手順に沿って行います。抜去した部位は、体液が漏れないように保護します。
- 全身の清潔と排泄物の処理清拭や洗髪で体をきれいに整え、排泄物の処理を行います。体液の漏れを防ぐ処置もこの段階で行います。
- 更衣と整容・エンゼルメイクご家族が選んだ服に着替え、髪を整え、ひげそりやエンゼルメイクで生前の面影に近づけます。
- 最後の確認とご家族への声かけ表情や姿勢を整え、ご家族に確認してもらいます。葬儀社への引き継ぎで伝えることがあれば、ご家族に伝えておきます。
死亡の状況によっては、医師の判断で警察への届け出が必要になる場合があります。その場合は処置を始める前に医師の指示を確認し、勝手に体を動かしたり医療器具を外したりしないようにしましょう。

ご家族への説明のタイミングと料金トラブルを防ぐポイント
エンゼルケアの料金トラブルの多くは、「聞いていなかった」「こんなにかかるとは思わなかった」という説明不足から起こります。亡くなった直後のご家族は大きな精神的ショックを受けており、その場で料金の説明をするのは避けたいところです。
説明は「契約時」と「看取りが近づいた時期」の2回
おすすめは、契約時に重要事項説明書で説明し、看取りが近づいた時期にもう一度確認するという2段階の説明です。看取り期の説明では、エンゼルケアを訪問看護で行うか、葬儀社に任せるかをご家族が選べることも伝えておくと、ご家族の負担感が軽くなります。
トラブルを防ぐチェックポイント
- 運営規程・重要事項説明書に「死後の処置料」の金額と内容を記載している
- 契約時に説明し、同意を得たことを記録に残している
- 看取り期に、訪問看護で行うか葬儀社に任せるかの希望を確認している
- 料金に含まれる範囲(メイク・更衣など)を説明できるようにしている
- 請求は後日の定期請求とあわせて行い、費用の細目がわかる領収証を交付している

看取り期の面談で「最期のお体のケアは私たちがさせていただくこともできます」と選択肢として伝えると、ご家族も自然に受け止めてくださることが多いです。料金はその流れで、書面を見ながら確認しましょう。
エンゼルケアにおける訪問看護師の役割
エンゼルケアで訪問看護師が担う役割は、大きく次の3つです。
①亡くなった利用者さんの尊厳を守る ②体液などによる周囲への感染を防ぐ ③ご家族が死別を受け止めていく過程(グリーフ)を支える
可能であれば、エンゼルケアはご家族と一緒に行いましょう。手を拭く、髪をとかす、好きだった服を選ぶといった関わりは、ご家族が「最期にしてあげられたこと」として心に残ります。感謝や労いの言葉を交わしながらケアを進めることが、そのままグリーフケアにつながります。
ただし、一緒に行うことを負担に感じるご家族もいます。参加を無理に勧めず、「見守っていただくだけでも大丈夫です」と選べるようにする配慮も大切です。後日の弔問やグリーフケアの方針も、事業所内であらかじめ話し合っておくとよいでしょう。
エンゼルケアの料金に関するよくある質問
訪問看護のエンゼルケアに保険は使えますか?
使えません。エンゼルケア(死後の処置)は医療保険・介護保険のどちらの給付対象にもならず、事業所が運営規程で定めた保険外の料金(自費)になります。
エンゼルケアの料金の相場はどれくらいですか?
全国一律の金額はなく、事業所ごとに設定されています。公開されている訪問看護ステーションの料金表では、1万円台で設定している例が目立ちますが、内容や地域によって異なります。
ターミナルケア加算を算定した場合でも、エンゼルケアの料金を受け取れますか?
受け取れます。ターミナルケア療養費やターミナルケア加算は亡くなる前の終末期の看護を評価するもので、亡くなった後の死後の処置は含まれていません。運営規程に定め、事前に説明・同意を得ていれば、別に料金を受け取ることができます。
エンゼルケアの料金はいつ説明すればよいですか?
契約時に重要事項説明書で説明し、看取りが近づいた時期にもう一度確認するのがおすすめです。亡くなった直後に初めて料金を伝えると、ご家族の負担になりトラブルにもつながりやすくなります。
エンゼルケアの料金に消費税はかかりますか?
保険外の費用の消費税の扱いは費用の性質によって判断が分かれることがあるため、顧問税理士や所轄の税務署に確認してください。公開されている料金表には、税込表示をしている事業所もあります。

まとめ|エンゼルケアの料金は「自費・事前説明」が基本
- エンゼルケア(死後の処置)は医療保険・介護保険の給付対象外で、保険外の料金(自費)になる
- 医療保険では「その他の利用料」として実費相当額、介護保険では運営規程で定めた料金として扱う
- ターミナルケア療養費・加算は亡くなる前の看護の評価で、死後の処置料とは別物
- 公開されている料金例では1万円台の設定が目立つが、金額は事業所ごとに異なる
- 料金は契約時と看取り期の2回説明し、同意と領収証の交付を徹底する
- ケアはご家族と一緒に行うことで、グリーフケアにもつながる
料金の仕組みを整えておくことは、ご家族と落ち着いて最期の時間に向き合うための準備です。自事業所の運営規程と重要事項説明書を、この機会に見直してみてください。
実際の運用にあたっては、最新の通知・所轄の厚生局や指定権者の情報をご確認ください。























