「せっかく開設した訪問看護ステーションを、閉鎖という形で終わらせたくない」——訪問看護ステーションの経営に携わる方なら、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。実際、訪問看護業界は新規開設が過去最多を更新する一方で、廃止・休止に至る事業所も増え続けています。
閉鎖は「経営努力が足りなかった」という単純な話ではなく、人員基準や事業構造に起因する、ある程度パターン化された理由で起きていることが少なくありません。この記事では、最新データをもとに訪問看護ステーションが閉鎖に至る4つの理由と、閉鎖を避けるための実務的な対応策を解説します。
- 訪問看護ステーションの開設・廃止・休止の最新動向
- 閉鎖に至る4つの構造的な理由
- 人員基準を満たせなくなった場合の実務上の扱い
- 閉鎖を避けるために経営者・管理者ができる具体策
目次
訪問看護ステーションの開設・廃止の最新動向
一般社団法人全国訪問看護事業協会が公表している「令和6年度 訪問看護ステーション数調査結果」によると、令和6年4月1日時点で全国の訪問看護ステーションの稼働数は17,329ヶ所となっています。令和5年度中の新規開設数は2,437ヶ所と過去最多を更新した一方で、同じ令和5年度中に701ヶ所が廃止、291ヶ所が休止となっています。
新規開設が伸びている裏側で、廃止・休止をあわせると1年間で1,000ヶ所近くの事業所が事業を止めている計算になります。訪問看護の需要そのものは拡大を続けていますが、開設した事業所が長く運営を続けられるかどうかは、また別の課題であることがこの数字から見えてきます。


「訪問看護は儲かる業界」というイメージだけが先行しがちですが、開設数と同じくらい廃止・休止の数も増えているのが実情です。まずはこの構造を正しく理解しておくことが、閉鎖を避ける第一歩だと思います。
訪問看護ステーションの閉鎖に至る4つの理由
訪問看護ステーションの閉鎖には、いくつか共通するパターンがあります。ここでは代表的な4つの理由を紹介します。
1. 人員基準を満たせなくなる
訪問看護ステーションには、保健師・看護師・准看護師を常勤換算で2.5人以上配置するという人員基準があります。この基準を割り込むと、事業所としての指定要件を満たせなくなり、休止・廃止の届出を行わざるを得なくなります。
訪問看護は1人で利用者さん宅を訪問する業務スタイルであるため、「思っていた仕事と違う」という戸惑いや、単独訪問への不安・心理的負担を理由に退職に至る看護師も少なくありません。こうした一人ひとりの負担感を見過ごし、退職が連鎖してしまうと、あっという間に人員基準を割り込んでしまいます。
2. 大規模化に向けた事業所の統合
訪問看護の需要拡大を見据え、業界全体として事業所の大規模化・複数拠点化が推進される流れがあります。24時間対応や重症度の高い利用者さんへの対応力を高めるためには、一定規模以上の人員体制が有利に働きやすく、報酬上も規模の大きい事業所を評価する加算が設けられています。この流れの中で、複数の事業所を統合し、一方の事業所を閉鎖して機能を集約するケースがあります。これは経営破綻というより、経営判断としての「前向きな閉鎖」にあたるパターンです。
統合によって、看護師一人ひとりの訪問件数の平準化や、オンコール対応の負担分散といったメリットが期待できる一方、統合前の事業所の利用者さんやケアマネジャーとの関係性をどう引き継ぐかが実務上の課題になります。
3. 母体医療機関の事情による異動
医療機関を母体とする訪問看護ステーションの場合、母体医療機関側の人員不足を理由に、看護師の異動を求められることがあります。その結果、訪問看護ステーション側の人員基準を満たせなくなり、閉鎖に至るケースです。訪問看護ステーション単独の経営努力だけではコントロールしづらい理由といえます。
4. 利用者の確保が困難
人員基準を満たしていても、利用者さんの数が確保できなければ事業として成り立ちません。特に開設直後は、医療相談員やケアマネジャーへの営業活動が不十分だと利用者さんの紹介が伸び悩みます。また、近隣に同業の事業所が多いエリアでは、利用者さんの奪い合いが起こりやすく、経営体力の弱い事業所から淘汰されていく傾向があります。
特に都市部は新規開設数そのものが多く、競合との差別化ができないまま利用者さんの確保が長期化すると、固定費(人件費・事務所家賃等)だけが先行してしまい、資金繰りの悪化から閉鎖に追い込まれるケースもあります。開設前の段階で、地域の既存事業所の数や特色をリサーチしておくことが、この理由による閉鎖を避ける第一歩になります。
4つの理由のうち、1と4は経営努力によって回避可能性が高い一方、2と3は事業所単独の努力だけでは避けにくい構造的な理由です。自事業所がどのリスクに近いのかを見極めたうえで対策を検討することが重要です。
人員基準を満たせなくなった場合の実務上の扱い
看護職員数が急な退職などで常勤換算2.5人を割り込んだ場合、介護保険法・健康保険法上のルールに従って、休止または廃止の届出を行うことになります。運営開始後に基準違反が明らかになった場合、指定権者(都道府県・市町村等)から段階的な対応が取られるのが一般的な流れです。
- 勧告基準を遵守するよう、相当の期間を定めて勧告が行われる。
- 公表勧告に従わなかった場合、事業者名などが公表される。
- 命令正当な理由なく勧告に係る措置を取らなかった場合、是正の命令が行われる。
- 指定取消・効力停止命令にも従わない場合、指定の取消し、または指定の全部・一部の効力停止に至ることがある。
もっとも、多くの事業所では、こうした処分に至る前の段階で、自主的に休止・廃止の届出を選択しています。人員基準を割り込みそうな兆候が見えた時点で、指定権者や社会保険労務士等の専門家に早めに相談することが望ましいでしょう。
閉鎖の理由と近いテーマとして、「潰れる訪問看護ステーションの特徴」も整理しています。運営上のリスクサインを具体的にチェックしたい方はこちらもご覧ください。
潰れる訪問看護ステーションの特徴を読む訪問看護ステーションの閉鎖を避けるための対策

退職者を極力減らす
人員不足は閉鎖に直結する深刻なリスクです。転居や家庭の事情のように変えられない退職理由もありますが、仕事への不安や負担感は、管理者・経営者の対応次第で改善できる余地があります。ネガティブな理由での退職は、他の職員の士気低下や連鎖退職の引き金にもなりかねません。退職に至る前には何らかの予兆があることが多いため、面談やヒアリングを通じて早期に把握し、対応することが重要です。
サービスの質を維持・向上させる
利用者さんの確保困難による閉鎖を避けるには、日々のサービスの質を維持することが欠かせません。医療相談員やケアマネジャーは利用者さんからの評価をよく耳にしています。訪問時間の遵守、丁寧な言葉遣い、こまめな情報共有といった基本的な対応の積み重ねが、次の紹介につながります。営業活動でどれだけアピールしても、実際のサービスが伴わなければ紹介は続きません。
大規模化・連携という選択肢も検討する
単独での事業継続にこだわらず、他事業所との統合や連携によって人員基準を安定的に満たす、という選択肢も経営判断として有効です。前述のとおり、業界全体で大規模化が推進されている流れもあるため、閉鎖=失敗と捉えず、事業を存続させるための一つの手段として検討する価値があります。
閉鎖の理由を「人員」と「利用者確保」の2軸で整理すると、自事業所にとって優先すべき対策が見えてきます。まずは自事業所の稼働状況・離職率・紹介件数の推移を定点観測することから始めましょう。
よくある質問
訪問看護ステーションの人員基準を割り込んだら、必ず廃止になりますか?
必ずしも廃止に限られるわけではありません。人員が一時的に基準を割り込んだ場合、廃止ではなく休止の届出を行い、体制を立て直したうえで再開するという選択肢もあります。基準を割り込みそうな段階で、早めに指定権者や専門家に相談することが望ましいです。
大規模化に伴う事業所統合による閉鎖は、経営が悪化しているサインですか?
必ずしもそうとは限りません。複数の事業所を統合し、体制を集約することで運営の安定化やサービスの質向上を図る、前向きな経営判断として行われるケースもあります。閉鎖の理由が「経営破綻」なのか「戦略的な統合」なのかを見極めることが大切です。
母体医療機関の都合で看護師が異動になった場合、訪問看護ステーション側で対策はできますか?
母体医療機関側の事情そのものをコントロールすることは難しいですが、日頃から複数の採用ルートを確保しておく、非常勤・パート看護師も含めた人員体制の分散を図っておくといった対策で、異動による影響を小さくできる可能性があります。
利用者さんの確保が難しいエリアでは、どのような対策が有効ですか?
医療相談員やケアマネジャーへの継続的な営業活動に加え、日々のサービスの質を維持・向上させることが基本です。近隣に競合が多いエリアほど、対応の丁寧さや情報共有の速さといった「選ばれる理由」を積み重ねることが重要になります。
記事中の指定取消に至る手続きの流れは、介護保険法上の一般的な行政処分の流れに基づく説明です。実際の対応・処分の詳細は、所属地域の指定権者(都道府県・市町村等)にご確認ください。
まとめ|閉鎖の理由を知り、早めの対策につなげよう
訪問看護ステーションの閉鎖には、人員基準・大規模化・母体医療機関の事情・利用者確保という、ある程度パターン化された理由があります。自事業所がどのリスクに近いかを把握し、早めに手を打つことが、長く運営を続けるための鍵になります。
- 令和5年度は新規開設2,437ヶ所に対し、廃止701ヶ所・休止291ヶ所と、廃止・休止も過去最多を更新
- 閉鎖の理由は「人員基準未達」「大規模化に伴う統合」「母体医療機関の事情」「利用者確保困難」の4つに整理できる
- 人員基準割れは、勧告・公表・命令を経て指定取消に至ることもあるが、多くは自主的な休止・廃止で対応されている
- 退職者を減らす取り組みとサービス品質の維持が、閉鎖回避の基本的な対策
閉鎖を「特別な失敗」ではなく「起こりうるリスク」として捉え、日頃から人員体制とサービスの質の両面をケアしていきましょう。
























