令和8年7月28日に発生した令和8年熊本地震を受け、厚生労働省は7月28日・29日と相次いで、被災地域の介護サービス事業所・保険医療機関等を対象とした柔軟な取扱い(基準緩和等)に関する事務連絡を発出しました。
介護報酬側(老健局)と診療報酬・訪問看護療養費側(保険局医療課)で、それぞれ対象範囲と適用期限が異なる点が実務上のポイントです。訪問看護ステーションの経営者・管理者向けに、2つの事務連絡の内容を整理して解説します。
- 令和8年熊本地震に伴う2つの事務連絡(老健局・保険局医療課)の概要
- 職員派遣等で人員基準を満たせなくなった場合の介護報酬上の取扱い
- 訪問看護指示書の有効期間が切れた場合の介護保険・医療保険それぞれの算定可否
- 柔軟な取扱いの適用期限(原則いつまでか)と実務対応
- 日本訪問看護財団による被災事業所支援(記録用紙の無償配布等)
目次
何が決まったのか(ニュースの概要)
令和8年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするM7.1・最大震度7の地震が発生しました。これを受け、厚生労働省から性質の異なる2本の事務連絡が発出されています。
| 項目 | ①介護報酬側 | ②診療報酬・訪問看護療養費側 |
|---|---|---|
| 発出日 | 令和8年7月28日 | 令和8年7月29日 |
| 発出元 | 厚生労働省老健局 高齢者支援課・認知症施策/地域介護推進課・老人保健課 | 厚生労働省保険局医療課 |
| 文書名 | 「令和8年熊本地震に伴う災害に係る介護報酬等の柔軟な取扱い(基準緩和等)について」 | 「令和8年熊本地震に係る保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」 |
| 対象 | 被災地域の介護サービス施設・事業所(訪問看護ステーション含む) | 被災地域の保険医療機関・保険薬局・指定訪問看護ステーション |
| 根拠 | 個別事案として整理した事務連絡 | 既存の恒久ルール「保医発0331第2号」(令和8年3月31日付)を熊本地震に適用 |

介護保険と医療保険で発出元も適用ルールも別々なんですね。うちの利用者さんが介護保険と医療保険のどちらに該当するかで、確認すべき通知が変わるということです。
内容の詳細
①介護報酬側:人員・設備・運営基準の柔軟な取扱い
老健局の事務連絡は、被災による人員・設備・運営基準の未達を「当面の間」柔軟に扱うとするもので、全サービス共通の取扱いと、訪問看護などサービス類型別の取扱いの2部構成です。訪問看護ステーションに直接関わる主な内容は次のとおりです。
| 場面 | 柔軟な取扱いの内容 |
|---|---|
| 職員数・構成の変動 | 被災による職員確保困難、または被災地への職員派遣による一時的な人員不足で人員基準や加算の算定要件を満たせなくなった場合、当面の間、柔軟な取扱いが可能。人員基準欠如に係る減算も適用しないことができる |
| 変更の届出 | 指定事項の変更届出(通常10日以内)が期限内に行えなかった場合も柔軟な取扱いとして差し支えない |
| 訪問看護指示書の有効期間 | ①災害前に主治医の指示書交付済み ②被災で主治医と連絡が取れず指示書交付を受けられない ③看護師等が状態から必要と判断し訪問看護を実施——の3要件を満たせば、指示書の有効期間を超えても訪問看護費の算定が可能 |
| 訪問看護計画書・報告書 | 被災で主治医と連絡が取れず、計画書・報告書を提出できない場合も訪問看護費の算定が可能 |
| 記録義務 | 上記の柔軟な取扱いにより訪問看護を実施した場合は、その旨を訪問看護記録書に記録しておく |
この事務連絡には「月平均夜勤時間数の1割変動で届出不要」という規定は含まれていません。夜勤時間数に関する基準緩和は、②の診療報酬側(入院基本料の施設基準)の取扱いです。介護保険の訪問看護に関する柔軟対応は、上表の指示書・計画書関連が中心である点にご注意ください。
②診療報酬・訪問看護療養費側:医療保険利用者への対応
保険局医療課の事務連絡は、既存の恒久通知「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」(保医発0331第2号)を、今回の熊本地震にも適用するというものです。訪問看護に関する取扱いは以下のとおりです。
| 項目 | 柔軟な取扱いの内容 |
|---|---|
| 訪問看護基本療養費・包括型訪問看護療養費 | ①災害前に主治医の指示書交付済み ②被災で主治医と連絡が取れず指示書交付を受けられない ③看護師等が状態から必要と判断し実施——の3要件で、指示書の有効期間(6か月限度)超過後も算定可能 |
| 訪問看護管理療養費 | 被災で主治医と連絡が取れず、訪問看護計画書・報告書を提出できない場合も算定可能 |
| 訪問看護療養費 | 被保険者が避難所や避難先の家庭等で生活している場合でも、居宅で訪問看護を行った場合と同様に算定可能 |
| 記録義務 | 上記により訪問看護を実施した場合は、その旨を訪問看護記録書に記録しておく |
内容は介護保険側とほぼ同じ発想(指示書・報告書が滞っても算定を止めない)ですが、根拠となる制度が別であるため、利用者が医療保険・介護保険どちらの給付を受けているかで適用条文が異なる点を押さえておく必要があります。

介護保険・医療保険どちらの利用者さんでも、「主治医と連絡が取れない」「指示書の期限が切れている」という理由だけで訪問を止める必要はない、ということですね。ただし記録は必ず残しておきましょう。
訪問看護ステーションへの影響
被災地への職員派遣で自事業所の人員が一時的に手薄になっても、加算の算定要件や人員基準欠如減算を心配せずに派遣に応じられます。被災地域以外の事業所が被災地からの避難者を受け入れた場合も同様の柔軟対応の対象です。
実務上、特に影響が大きいのは以下の3点です。
- 被災地への看護師派遣で一時的な人員不足が生じても、加算の算定・人員基準の適用にすぐには影響しない
- 主治医と連絡が取れない状況が続いても、訪問看護指示書・計画書・報告書の未更新を理由に訪問看護を中断する必要はない
- 避難所や避難先の家庭に滞在中の利用者にも、通常どおり訪問看護を提供・算定できる
医療保険側の柔軟な取扱いは、対象となる期間が「当該災害発生日の属する月とその翌月」=原則、令和8年8月31日までとされています。ただし、避難所等に滞在中の利用者への訪問看護療養費算定(居宅要件の例外)などごく一部の取扱いは「災害による事情が終了するまで」適用が続く例外規定があります。一方、介護報酬側(老健局)の柔軟な取扱いには明確な期限の定めがなく「当面の間」とされており、両者で期限の扱いが異なります。
今からやるべき実務対応
- 対象利用者の洗い出し被災地に居住・避難している利用者、被災地からの避難者を新規に受け入れているケース、被災地へ職員を派遣しているケースがないか確認する。
- 訪問看護記録書への記録徹底柔軟な取扱いを適用して訪問看護を実施した場合は、その旨(指示書の有効期間超過、計画書・報告書未提出、避難所等での実施など)を訪問看護記録書に必ず記録する。
- 変更届出の遅延対応人員配置等の変更届出が10日以内に間に合わなくても差し支えないため、落ち着いた段階で速やかに都道府県知事等へ届け出る。
- 処遇改善加算の実績報告への対応被災により実績報告書の提出期限に間に合わない見込みがあれば、都道府県等の判断で期限延長が可能なため、早めに担当窓口へ相談する。
- 期限(令和8年8月31日)の確認医療保険利用者に関する柔軟対応は原則8月末までのため、状況が長引く場合は延長の有無を都度、最新の事務連絡で確認する。
日本訪問看護財団による被災事業所支援
公益財団法人日本訪問看護財団は、令和8年熊本地震に関する厚労省通知等の情報を同財団のお知らせページに随時掲載しており、令和8年7月31日時点でも更新が続いています。介護報酬側・診療報酬側の事務連絡のほか、医療法や診療録等の文書保存に関する取扱いなど、関連通知をまとめて確認できる窓口になっています。
同財団では、被災した訪問看護ステーションを対象に、損失した記録用紙(帳票等)の補填として、財団の販売物を無償配布する支援も行っています。対象範囲や申込方法は財団のお知らせページで随時更新されるため、被災した事業所は最新情報を確認してください。
周辺都道府県の訪問看護ステーションにとっても、被災地への応援派遣の是非や、自事業所のBCP(業務継続計画)発動判断の材料として、同財団が集約する情報は参考になります。

記録用紙が流されたり破損したりして困っている被災地の事業所さんにとっては、心強い支援ですね。周辺エリアの事業所さんも、応援派遣を検討する際にまず財団のページで最新の通知状況を確認するとよさそうです。
被災地域以外にある訪問看護ステーションも柔軟な取扱いの対象になりますか?
はい。被災地域以外の事業所が、被災地域からの避難者を受け入れた場合や、被災地に職員を派遣したことで一時的に人員が不足した場合も、被災地域の事業所と同様に柔軟な取扱いの対象となります。
訪問看護指示書の有効期間が切れてしまった利用者への訪問看護は、どこまで柔軟に扱われますか?
介護保険・医療保険いずれも、①災害発生前に指示書の交付を受けていること、②被災により主治医と連絡が取れず新たな指示書を受けられないこと、③看護師等が利用者の状態から訪問看護が必要と判断し実施したこと、の3要件を満たせば、有効期間を超えても算定可能です。ただし訪問看護記録書への記録が必須です。
この柔軟な取扱いはいつまで続きますか?
介護報酬側(老健局事務連絡)は明確な期限を定めておらず「当面の間」とされています。医療保険側(保険局医療課事務連絡)は原則として令和8年8月31日までですが、避難所等に滞在中の利用者への訪問看護療養費算定など一部の取扱いは、災害による事情が終了するまで続く例外もあります。
人員配置等の変更届出が10日以内に間に合わなかった場合はどうすればよいですか?
老健局の事務連絡により、通常10日以内とされている届出期限に間に合わなかった場合でも柔軟に取り扱うとされています。落ち着いてから速やかに都道府県知事等へ届け出れば問題ありません。
被災した訪問看護ステーションが記録用紙などの帳票を失った場合、支援を受けられますか?
公益財団法人日本訪問看護財団が、被災により失われた記録用紙(帳票等)の補填として、同財団の販売物を無償配布する支援を行っています。対象や申込方法は財団のお知らせページで随時更新されているため、最新情報を確認してください。
訪問看護指示書の取扱いは、平時から医療保険・介護保険どちらの制度に基づくかで判断が分かれます。今回の特例を理解する前提として、通常時の切り分けルールも確認しておきましょう。
関連記事を読むまとめ|介護保険と医療保険、それぞれの柔軟対応と期限を分けて把握する
令和8年熊本地震では、介護報酬側(老健局)と医療保険側(保険局医療課)から性質の異なる2本の事務連絡が発出されました。どちらも被災地の訪問看護提供を止めないための特例ですが、根拠となる制度と適用期限が異なるため、利用者ごとにどちらの保険制度に基づくかを意識して対応することが重要です。
- 介護報酬側(老健局・7/28):人員基準・変更届出等の柔軟対応。期限の定めなく「当面の間」
- 診療報酬・訪問看護療養費側(保険局医療課・7/29):指示書・計画書・避難所滞在時の算定に関する柔軟対応。原則、令和8年8月31日まで(一部は災害終了まで)
- いずれも柔軟な取扱いを適用した場合は、訪問看護記録書への記録が必須
- 日本訪問看護財団が関連通知を集約掲載し、被災事業所には記録用紙の無償配布支援も実施中
今後、状況によっては追加の事務連絡が発出される可能性もあるため、最新情報を継続して確認してください。



















