
今回のテーマは
- 生命倫理の4原則
- がん医療における意思決定
- 事例紹介
についてお話していきたいと思います。
目次
患者さんの意思決定スタイル
意思決定支援を語る上で、まず理解しておきたいのが、患者さん一人ひとりの意思決定スタイルは異なるということです。
患者さんの価値観や人生観によって、意思決定の仕方は大きく変わります。
- 自分で情報を集め、最終的な判断は自分でしたい
- 医療者の意見を尊重し、相談しながら決めたい
- 全てを医療者に任せたい

しかし、患者さんの意思決定スタイルを尊重し、その人に合った支援をすることが大切です。
生命倫理の4原則
意思決定支援の土台意思決定支援の基本となるのが、生命倫理の4原則です。
1. 自律尊重の原則
患者さんの自律的な意思決定を尊重するという原則です。
患者さんが自分で意思決定できるように、必要な情報を開示し、疑問に丁寧に答えることが、医療者の義務となります。
2. 善行の原則
患者さんのQOL(生活の質)を最大限に考慮し、利益となるような行動をとるという原則です。
患者さんの全体的な利益を考え、最善のケアを提供することが求められます。
3. 無危害の原則
患者さんに苦痛や苦悩を与えないように努めるという原則です。
医療行為によって、患者さんに不必要な苦痛を与えないように、細心の注意を払う必要があります。
4. 正義の原則
似たような状況にある患者さんを平等に扱うという原則です。
限られた医療資源を公平に配分し、全ての人々が等しく医療を受けられるようにすることが重要です。
自律尊重・善行・無危害の原則は、患者さん個人の人権に関わるものですが、正義の原則は社会全体の人権に関わる原則です。
がん医療における意思決定
がん医療における意思決定とは、複数の肢択肢の中から、一つあるいは複数を患者さんが選択することです。
例えば、検診を受けるかどうか、治療を受けるかどうか、どの病院で治療を受けるかなど、様々な選択肢が存在します。
ギアチェンジ
がん治療において、治療の目的が「がんの消滅または減少」から「緩和ケアを中心とした終末期医療への転換」へと変わるタイミングを「ギアチェンジ」と呼びます。
従来は、このギアチェンジのタイミングから緩和ケアを開始すると考えられていましたが、最近では、がんの診断時から緩和ケアを開始し、病状の進行に合わせて緩和ケアの比重を増やしていくという考え方が主流となっています。
DNR(Do Not Resuscitate)
DNRとは、蘇生処置を試みないという意思表示です。
終末期の患者さんや、救命の可能性がない患者さんの場合、患者さんやご家族の希望によって、心肺蘇生を行わないという選択をすることがあります。
(※DNRは、「何も治療をしない」という意味ではありません。)
DNRをいつ決めるかというタイミングに決まりはありません。
がんの診断時から考え始める人もいれば、治療を続けながら考える人もいます。
インフォームドコンセント
医師が患者さんに病状や治療について説明し、患者さんが同意を得るプロセスのことです。
ICは双方向的なプロセスであり、医療者は患者さんの質問に答え、患者さんの理解を深める必要があります。
医師が患者さんに対して一方的に説明するプロセスです。
患者さんの意思や価値観は尊重されず、医師が決めたことを患者さんに伝えるという、パターナリズムに基づいた考え方です。

- 患者さんに同意能力があるか
- 十分な説明がなされているか
- 説明を理解できるか
- 患者さんが自律的に同意や拒否ができるかなどを確認することです
シェアードディシジョンメイキング(SDM)
患者さんと医療者が、互いの情報を共有しながら、共に治療方針を決めるという考え方です。
医療者は、エビデンスに基づいた医学的な情報を提供し、患者さんは、自身の希望や価値観、目標などを伝えます。
SDMは、ICからさらに一歩進んだ考え方であり、近年非常に重要視されています。
意思決定支援
意思決定支援において、医療者は以下の3つのポイントを意識することが重要です。
- 適切な情報を伝える
- 患者さんの価値観や希望を聞き取る
- 患者さんの意思決定能力を評価する
意思決定能力とは、情報を理解する力、認識する力、論理的に思考する力、そして、選択を表明する力のことです。
アドバンスケアプランニング(ACP)
アドバンスケアプランニング(ACP)とは、人生の最終段階における医療ケアについて、患者さん自身が、家族や医療ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセスのことです。
ACPは、患者さんの意思決定能力が低下した場合に備え、患者さんの価値観や目標を踏まえて、早期から話し合うことが大切です。
患者さんの意思決定能力がなくなったときに、延命治療をどうするかなど、事前に文書や口頭で意思表示しておくことです。
アドバンスディレクティブを文書で示したものです。日本では法制化されていませんが、尊厳死の宣言書として知られています。
尊厳死の宣言書
尊厳死の宣言書は、不治かつ末期の状態で、死期が迫っている場合に、以下のような意思を表明するものです。
尊厳死の宣言書は、患者さんが自分の意思を明確にするための重要な手段であり、医療チームや家族が患者さんの意向を尊重し、最善のケアを提供するための指針となります。
ただし、日本では法制化されていないため、法的拘束力はありません。
しかし、患者さんの意思を尊重し、その人らしい最期を迎えるためには、非常に重要な役割を果たします。

ACPとADの違い
アドバンスディレクティブ(AD)は、患者さんが一人でできることですが、アドバンスケアプランニング(ACP)は、患者さんの家族や医療者との話し合いが重要になります。
ACPは、まず「自分が大切にしていることは何か」「信頼できる人は誰か」を自問自答し、その上で、信頼できる人やケアチームと話し合いを重ね、結果を大切な人たちと共有していくプロセスを繰り返すことです。
ACPは、状況に応じて何度も繰り返すことが大切です。
治療方針や病状の変化、患者さんの価値観の変化に応じて、話し合いを重ね、その都度、最善の意思決定支援をしていく必要があります。
人の意思は、治療状況や病状によって変化することがあります。
例えば、治療開始時には延命治療を希望していた患者さんが、治療の過程で考えが変わることもあります。
最初の意思表示だけでACPが止まっていると、医療者は最初の意思に沿って延命処置をせざるを得なくなります。
しかし、もし患者さんの気持ちが変わったことをしっかりと伝えて共有していれば、最新の意思が尊重され、いたずらに延命処置をするようなことはなくなります。
定期的に考えて話し合うプロセスが非常に重要です。
事例紹介
70代女性の肺がん患者さんの事例を紹介します。
この患者さんは、娘さんと二人暮らしで、娘さんはパニック障害を抱えています。
患者さんは、自分の死を受け入れている一方で、娘さんは治療を強く望んでいました。
入院した夜、患者さんは担当の看護師に「延命治療を受けたくない」と打ち明けました。
看護師は、患者さんの価値観やご家族の思いを確認し、医師に報告しました。
医師、看護師は、患者さんの意向を尊重しつつ、娘さんのケアも行いました。
娘さんは、母親の意思を尊重したいと考えるようになり、延命治療を希望しないと表明しました。
まず医師に患者さんの意思を報告しました。
その後、医師、娘さん、そして受け持ちの看護師で話し合いの場を設けました。
医師から娘さんへ、患者さんの意思を尊重するように促したところ、娘さんは最終的に、母親の意思を尊重すると決意されたんです。
この結果を患者さんと共有したところ、患者さんはとても安心されていました。

初対面の看護師であっても、患者さんの「今伝えたい」という気持ちを尊重することが大切です。
患者さんの価値観や人生観を理解し、その意思を尊重した緩和ケアを心がけなければならないと感じました。
まとめ
今回の講義のまとめです。
- 患者さんの意思決定スタイルを尊重し、その人に合った支援をすることが大切
- 意思決定支援の土台意思決定支援の基本となるのが、生命倫理の4原則
- 代理人の意思ではなくて、代理の意思決定を行うというところがポイント
- ACPを状況に応じて何度も繰り返して最善の意思決定支援をしていく必要がある
- 患者さんの価値観や人生観を理解し、その意思を尊重した緩和ケアを心がけなければならない
動画で勉強する

緩和ケアは、患者さんの人生観や価値観を尊重し、共に歩む医療です。
今後も、皆様と共に学び、より質の高い緩和ケアを提供できるよう、精進してまいります。
次回の記事も、ぜひお楽しみに。




















今回の記事では、「意思決定支援」についてお話したいと思います。
よろしくお願いします。