訪問看護では通常、看護師等が1名で利用者宅を訪問します。しかし、利用者の状態によっては「2人がかりでないとケアが難しい」「スタッフへの暴力リスクがある」など、複数名での対応が必要になる場面があります。そのような場合に活用できるのが複数名訪問加算(Ⅰ)・(Ⅱ)です。
この記事では、介護保険における複数名訪問加算(Ⅰ)(Ⅱ)の算定要件・単位数・算定時の注意点を令和6年度介護報酬改定の内容をもとに詳しく解説します。算定に迷っている管理者・看護師の方はぜひ最後までご確認ください。
- 複数名訪問加算(Ⅰ)・(Ⅱ)の概要と2種類の違い
- 算定できる3つの条件(身体的理由・暴力行為等・その他)
- 令和6年度改定後の単位数(30分未満・30分以上の区分)
- 看護補助者の資格要件と算定時の注意点
- 介護保険と医療保険の複数名訪問加算の違い
目次
複数名訪問加算(Ⅰ)(Ⅱ)とは?概要をわかりやすく解説
複数名訪問加算(Ⅰ)(Ⅱ)は、1人の利用者に対して複数名で訪問看護を提供した場合に算定できる加算です。令和6年度介護報酬改定においても単位数・算定要件の基本的な枠組みは維持されています。
加算は以下の2種類があり、同時に訪問する組み合わせによって区分されます。
| 加算の種類 | 訪問する組み合わせ | 30分未満 | 30分以上 |
|---|---|---|---|
| 複数名訪問加算(Ⅰ) | 看護師等+看護師等(2名とも有資格者) | 254単位 | 402単位 |
| 複数名訪問加算(Ⅱ) | 看護師等+看護補助者 | 201単位 | 317単位 |

(Ⅰ)は「看護師等どうしが2名で訪問する場合」、(Ⅱ)は「看護師等1名+看護補助者1名で訪問する場合」です。訪問する人の組み合わせによって単位数が変わるので、まずここをしっかり押さえましょう。
なお、訪問時間の区分(30分未満/30分以上)は、1回の訪問時間全体で判断します。複数名で訪問しているため、単純に1人分の訪問時間ではなく、実際に複数名が滞在した時間で算定区分を決めます。
複数名訪問加算の「看護師等」とは?対象職種を確認しよう
複数名訪問加算(Ⅰ)の算定で必要な「看護師等」には、以下の職種が含まれます。
- 保健師
- 看護師
- 准看護師
- 理学療法士(PT)
- 作業療法士(OT)
- 言語聴覚士(ST)
リハビリ職(PT・OT・ST)も「看護師等」に含まれるため、看護師とリハビリ職が2名で訪問した場合も複数名訪問加算(Ⅰ)を算定できます。ただし、理学療法士等による訪問看護は介護保険の訪問看護費として算定するものの、訪問の内容はリハビリテーションが中心となりますので、実際の業務内容に応じた適切な記録が必要です。

同じ事業所のスタッフが2名で訪問する場合だけでなく、連携する別の事業所のスタッフが同行する場合も対象になり得ますが、算定の主体は指定訪問看護事業所です。算定前に保険者(市区町村)への確認をおすすめします。
看護補助者とは?複数名訪問加算(Ⅱ)の対象者を整理
複数名訪問加算(Ⅱ)で同行できる「看護補助者」とは、看護師等の指導のもとで療養上の世話等を行う者を指します。具体的には食事・清潔・排泄・入浴・移動などの介助、居宅内の環境整備、看護用品や消耗品の整理整頓といった業務を担います。
看護補助者に特定の資格は求められていません。介護福祉士や介護職員初任者研修の修了は必須ではなく、事務職員が同行することも差し支えないとされています。
ただし、訪問看護事業所に雇用されていることが必要です。秘密保持・医療安全の観点から、事業所において必要な研修等を受けていることが重要とされています。
看護補助者は訪問看護事業所が雇用している者に限られます。訪問介護事業所の介護職員やボランティアを同行させても複数名訪問加算(Ⅱ)は算定できませんので注意が必要です。
複数名訪問加算を算定できる3つの条件
複数名訪問加算は誰に対しても自由に算定できるわけではありません。算定するには、利用者またはその家族等の同意を得たうえで、以下の3つのうちいずれかの条件に該当する必要があります(厚生労働省告示・解釈通知に基づく)。
条件①:身体的理由により1人の看護師等による訪問看護が困難な場合
利用者の身体的な状態から、1人の看護師等ではケアを安全に実施することが困難と認められる場合です。具体的には以下のような状況が該当します。
- 体重が重く移乗・体位変換に2名が必要な場合
- 医療的処置(経管栄養・吸引など)と同時にその他のケアが必要で1名では対応できない場合
- 筋緊張が強く、清潔ケアや関節可動域訓練を安全に行うために2名が必要な場合
この条件で算定する場合、身体的理由を訪問看護記録書に具体的に記載しておくことが重要です。「なぜ2名が必要なのか」が客観的に分かるよう文書化しておきましょう。
条件②:暴力行為・著しい迷惑行為・器物破損行為等が認められる場合
利用者や家族から看護師等への暴力・暴言・迷惑行為、器物破損などが認められる場合は、スタッフ保護のために2名で訪問することが認められています。
虐待・ハラスメントリスクがある利用者への訪問は、事業所として組織的に対応する必要があります。複数名訪問加算(Ⅱ)(看護補助者の同行)でも対応できますが、暴力リスクが高い場合は複数名訪問加算(Ⅰ)(看護師等2名)での対応がより安全です。
条件③:その他利用者の状況等から判断して条件①②に準ずると認められる場合
①②に明確には当てはまらないものの、利用者や療養環境の状況から2名訪問が合理的と判断できる場合も算定が認められます。ただし、この条件は広く解釈されすぎないよう注意が必要です。ケアマネジャーや主治医とも連携し、ケアプランや訪問看護計画書に2名訪問の必要性を明記しておくことが望ましいです。

どの条件で算定するにしても、利用者・家族の同意書と訪問看護計画書への記載は必ず整備しておきましょう。指導・監査で確認される頻度が高い加算です。
複数名訪問加算の単位数と算定例
令和6年度介護報酬改定(令和6年4月施行)後の単位数は以下のとおりです。
| 加算 | 組み合わせ | 訪問時間30分未満 | 訪問時間30分以上 |
|---|---|---|---|
| 複数名訪問加算(Ⅰ) | 看護師等+看護師等 | 254単位/回 | 402単位/回 |
| 複数名訪問加算(Ⅱ) | 看護師等+看護補助者 | 201単位/回 | 317単位/回 |
複数名訪問加算は訪問看護費の基本単位数に加算する形で算定します。たとえば訪問看護ステーションが30分以上1時間未満で訪問した場合の基本単位(821単位)に、複数名訪問加算(Ⅰ)30分以上の402単位を加えた合計が算定単位数となります。
算定は1回の訪問ごと
複数名訪問加算は1回の訪問ごとに算定します。同月内に複数回算定することも可能ですが、算定できる条件(身体的理由・暴力行為等・その他)に該当し続けていることが前提です。算定した全回の訪問について訪問記録を適切に残しておく必要があります。
複数名訪問加算は支給限度額管理の対象です。利用者の区分支給限度基準額(要介護度に応じた月の上限額)の範囲内で算定できます。限度額超過分は全額利用者負担となるため、ケアマネジャーと連携して支給限度額の残枠を確認してから算定しましょう。
複数名訪問加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の使い分けポイント
(Ⅰ)と(Ⅱ)の最も大きな違いは同行するスタッフの種類です。どちらを算定すべきかは、ケアの内容と同行者の職種によって判断します。
| 場面 | 推奨する加算 | 理由 |
|---|---|---|
| 医療的ケアを2名の看護師で実施 | (Ⅰ) | 同行者が看護師等(有資格者) |
| 看護師+リハビリ職で同時訪問 | (Ⅰ) | PTやOTも「看護師等」に含まれる |
| 移乗介助に看護師+事務員が対応 | (Ⅱ) | 事務員は「看護補助者」として対応可 |
| 暴力リスクへの対応(看護師2名) | (Ⅰ) | スタッフ双方が専門的に対応できる |
| 清潔ケア補助に雇用スタッフが同行 | (Ⅱ) | 資格不問の看護補助者でも対応可 |

(Ⅰ)と(Ⅱ)を同一の訪問で同時に算定することはできません。また、1日に(Ⅰ)と(Ⅱ)を別々の訪問で算定する場合は、それぞれの訪問の算定要件を満たしているかを個別に確認する必要があります。
介護保険と医療保険の複数名訪問加算の違い
複数名での訪問加算は介護保険と医療保険で名称と内容が異なります。介護保険は「複数名訪問加算」、医療保険は「複数名訪問看護加算」と呼ばれ、算定要件や単位数・回数制限も異なります。
| 比較項目 | 介護保険(複数名訪問加算) | 医療保険(複数名訪問看護加算) |
|---|---|---|
| 加算の種類 | (Ⅰ)看護師等×2 (Ⅱ)看護師等+看護補助者 | (Ⅰ)保健師・看護師・准看護師×2 (Ⅱ)看護師等+准看護師 (Ⅲ)看護師等+看護補助者 |
| 算定単位/点数 | (Ⅰ)254単位または402単位 (Ⅱ)201単位または317単位 | 保険種別・職種・時間で異なる |
| 支給限度額管理 | 対象内 | 対象外 |
| 回数制限 | 条件に応じて制限あり(告示参照) | 別途規定あり |
同一利用者への訪問であっても、介護保険と医療保険では算定できる要件や制限が異なります。利用者が医療保険の訪問看護に移行した際の算定方法も事前に確認しておくことをおすすめします。
算定時の注意点まとめ
複数名訪問加算を算定する際に特に注意が必要なポイントをまとめます。
- 利用者・家族の同意を書面で取得する複数名訪問の必要性を説明し、同意書またはサービス利用申込書等に同意を記録しておきます。口頭同意だけでは不十分です。
- 訪問看護計画書・指示書に記載する2名訪問の理由と内容を訪問看護計画書に明記します。主治医の訪問看護指示書にも複数名訪問の必要性が示されていると、より算定根拠が明確になります。
- 訪問看護記録書に毎回の記録を残す誰と誰が訪問したか、どのようなケアを行ったかを詳細に記録します。特に「なぜ2名が必要だったか」が分かるよう記載してください。
- ケアマネジャーと支給限度額を確認する複数名訪問加算は支給限度額管理の対象です。ケアプランの給付管理に反映してもらうため、事前にケアマネジャーへ情報共有しましょう。
- 算定条件の継続的な評価を行う利用者の状態が変化した場合、2名訪問の必要性が薄れている場合もあります。定期的なアセスメントで算定条件が引き続き満たされているかを確認します。
よくある質問(FAQ)
複数名訪問加算(Ⅰ)と(Ⅱ)を同じ訪問で両方算定できますか?
同一の訪問で(Ⅰ)と(Ⅱ)を同時に算定することはできません。1回の訪問において訪問するスタッフの組み合わせは(Ⅰ)か(Ⅱ)のどちらか一方に該当しますので、その訪問に応じた加算を算定します。
看護補助者として事務スタッフが同行した場合も算定できますか?
訪問看護事業所に雇用されている事務職員であれば、看護補助者として複数名訪問加算(Ⅱ)の算定対象になり得ます。ただし、秘密保持・医療安全に関する必要な研修を受け、看護師等の指導のもとで業務を行うことが条件です。外部の人員(他事業所の介護職やボランティア等)は対象になりません。
ケアマネジャーのケアプランに複数名訪問が位置づけられていないと算定できませんか?
複数名訪問加算は訪問看護の加算です。居宅サービス計画(ケアプラン)への位置づけは必須要件ではありませんが、支給限度額管理の対象であるため、ケアマネジャーへの情報提供と給付管理への反映が実務上は必要です。なお、緊急的に2名で対応する場合も事後的にケアマネジャーへ報告・連絡を行いましょう。
准看護師と看護師が2名で訪問した場合、複数名訪問加算(Ⅰ)を算定できますか?
はい、算定できます。准看護師も「看護師等」に含まれますので、看護師+准看護師の組み合わせは複数名訪問加算(Ⅰ)の算定要件を満たします。
複数名訪問加算は月に何回まで算定できますか?
算定条件(身体的理由・暴力行為等・その他)や、(Ⅰ)・(Ⅱ)の区分によって回数制限が設けられています。詳細は厚生労働省の解釈通知・Q&Aをご確認ください。なお、算定する全ての訪問について算定要件を満たしていることが前提です。
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まとめ|複数名訪問加算は「同行者の種類」と「算定条件の文書化」が鍵
複数名訪問加算(Ⅰ)(Ⅱ)は、安全で質の高いケアを提供するうえで欠かせない加算です。正しく算定するために、算定要件と記録の整備をしっかり行いましょう。
- 複数名訪問加算(Ⅰ)は「看護師等×2名」、(Ⅱ)は「看護師等+看護補助者」の組み合わせ
- 単位数:(Ⅰ)30分未満254単位・30分以上402単位、(Ⅱ)30分未満201単位・30分以上317単位(令和6年度改定)
- 算定できる条件は「①身体的理由」「②暴力行為等」「③その他準ずる場合」の3つ
- 看護補助者は資格不問だが、事業所に雇用されていることが必須
- 支給限度額管理の対象。ケアマネジャーと連携して給付管理に反映する
- 算定根拠の文書化(同意書・計画書・記録書)が指導・監査に備える上で不可欠
利用者の安全と職員の安全、双方を守るためにも、複数名訪問加算を適切に活用してください。



















