訪問看護では、長年の生活スタイルや価値観を持つ利用者さん、そして強いこだわりを持つご家族に出会うことがよくあります。
「これは絶対にこうしたい」「昔からこうしてきたから」「あなたの言う通りにはできません」など、頑固な姿勢を崩さない方に対して、どうアプローチすべきか悩む看護師は少なくありません。
しかし、訪問看護では利用者さんの生活を尊重しながらも、安全なケアを行う必要があります。
本記事では、頑固な利用者さんや家族の意見を“無理なく変えていく”ためのコミュニケーション術を、実践的にわかりやすく解説します。
目次
なぜ頑固な利用者さん・家族は意見を変えにくいのか?
頑固に見える利用者さんや家族にも、それぞれ理由があります。
まずは背景を理解することが大切です。
1.長年の生活習慣が強く根付いている
高齢者は「今までうまくいっていた」生活に強い自信を持っています。そのため、新しい方法を受け入れるには大きな心理的ハードルがあります。
2.自尊心やプライドを守りたい
在宅では“できない自分を見せる”ことに抵抗を感じる方も多いです。自尊心を傷つけられたくないという気持ちから、意固地になることがあります。
3.医療者への警戒心や不信感
過去に嫌な思いをした、医療者と相性が合わなかった、説明が理解できなかったなどの経験があると、意見を受け入れにくくなります。
4.家族の負担や事情が隠れていることも
家族が頑なに反対するケースでは、
・介護疲れ
・経済的な不安
・責任感の重さ
などが背景にあることも珍しくありません。
まずは「頑固なのには理由がある」という視点を持つことで、関わり方が変わります。
訪問看護で使える!意見を変えてもらうためのコミュニケーション術
1.“否定しない”ことからスタートする
頑固な方は否定されると反発します。「それは違いますよ」「こうしてください」は逆効果。
まずは、
「そう思われるのも当然ですよね」
「今までその方法で頑張ってこられたんですね」
と、相手の意見を一度受け止めることが大切です。
否定ではなく“理解”を示すことで、心の壁が少しずつ下がっていきます。
2.目的を共有し、「味方」であることを伝える
頑固な方は、看護師を“言うことを押しつける人”と感じることがあります。
そこで、
「できるだけ痛みが出ないように一緒に考えたいです」
「生活が少しでも楽になる方法を一緒に探したいんです」
と、目的を揃えて「あなたの味方です」という姿勢を示すと、受け入れられやすくなります。
3.選択肢を提示して“相手に決めてもらう”
「これをやってください」ではなく、「こちらの方法と、もう一つの方法がありますがどちらが良さそうですか?」と選択肢を提示すると、相手は自分で決めたという満足感を得られます。
主体性を大切にすることで、意見の受け入れが早くなるのがポイントです。
4.小さな成功体験をつくる
頑固な方は「変えると失敗するのでは?」という不安を抱えています。
そこで、
・まずは一部だけ変更する
・1日のうちの数時間だけ新しい方法を試す
・簡単な作業から一緒にやってみる
など、小さな成功体験を積み上げることで、「これならできそうだ」と安心して意見を変えてくれます。
5.家族の協力を得てチームで関わる
利用者さん本人だけでなく、家族が意見を引っ張っているケースも多くあります。
そのため、
・家族にも背景を聞く
・負担を聞き取り、理解を示す
・必要ならケアマネも交えて話す
など、関係者全員で方向性を揃えることが重要です。
6.“数字・具体例・比較”を使って納得感を高める
感情だけでなく、
「この方法にすると感染リスクが30%下がると言われています」
「こちらの方が痛みが軽くなる方が多いですよ」
など、数字や具体例を示すことで冷静に考えてもらえます。
ただし過度に専門的な説明は逆効果になるため、わかりやすく噛み砕くことが大切です。
7.一度拒否されたら“あえて引く”勇気も必要
意見を頑なに拒否されることは珍しくありません。
その場合は、
「また別の日に一緒に考えてみましょう」
と提案し、あえて引くことで相手が「気持ちよく判断できた」と感じやすくなります。
時間を置いて提案すると、すんなり受け入れてくれるケースも多いです。
コミュニケーション術を成功させるための注意点
無理に変えようとしない
訪問看護は生活を支えるサービス。無理な介入は関係悪化につながります。「強制」ではなく「提案」として伝えることが大切です。
相手の“キーマン”を見極める
家族内には、意見をまとめるキーマンが存在することがあります。その人と関係を築くことで、意思決定がスムーズになることがあります。
感情的にならず、常に冷静に
頑固な方とのコミュニケーションは根気が必要ですが、看護師が感情的になってしまうと状況が悪化します。深呼吸し、落ち着いて対応することが最も大切です。
言葉より“態度”が伝わる
話し方の柔らかさ、表情、視線、姿勢などの非言語コミュニケーションは、言葉以上に相手に伝わります。「安心感の出る態度」を常に意識しましょう。
まとめ|頑固な利用者さんも“関係づくり”で変わる
頑固に見える利用者さんや家族にも、必ず背景や理由があります。
その気持ちを理解し、寄り添いながら適切なコミュニケーションをとることで、少しずつ意見を変えてもらうことができます。
ポイントは、
・否定しない
・寄り添いながら目的を共有
・選択肢を提示して主体性を尊重
・小さな成功体験を作る
・チームで支える
・数字や具体例で納得感を持たせる
・無理に変えようとしない
という7つの視点です。
訪問看護は“信頼関係”が根本にあります。
頑固な利用者さんでも、誠実に向き合うことで心が開き、より良いケアにつながります。



















