「自分の親が利用者だったら、担当してあげられないの?」「同居している家族に何かあったとき、看護師の自分がケアしてはいけないのか」——訪問看護の現場では、こうした疑問を新人スタッフから受けることが少なくありません。
結論からいえば、職員が同居家族に指定訪問看護を提供することは、法令上明確に禁止されています。一方で、別居家族については扱いが少し異なります。この記事では、根拠となる条文と、別居家族に対する現実的な考え方、実務上の対応方法までを整理して解説します。
- 職員の同居家族への訪問看護提供が禁止されている根拠条文
- 「同居」の考え方と、住民票との関係
- 別居家族に対する訪問看護の取り扱いと、実務上の注意点
- 同居家族が利用者になった場合の事業所としての対応方法
目次
職員の同居家族への訪問看護は禁止されている
指定訪問看護の運営基準を定める「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)第71条には、次のように規定されています。
「指定訪問看護事業者は、看護師等にその同居の家族である利用者に対する指定訪問看護の提供をさせてはならない。」
つまり、同居している家族が利用者である場合、その家族を担当する看護師本人がケアを提供することはできません。ただし、これは「その職員が担当できない」というだけであり、同じ事業所に所属する他の看護師が訪問することは問題ありません。同居家族が要介護・要支援状態になり訪問看護が必要になった場合は、担当を他の職員に振り分けることで対応します。


この規定は訪問看護だけの話ではありません。訪問介護についても、同じ基準の第25条に「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に、その同居の家族である利用者に対する訪問介護の提供をさせてはならない」という、ほぼ同じ文言の禁止規定があります。訪問系サービス全体に共通する考え方だと理解しておくとよいですね。
なぜ同居家族へのサービス提供が禁止されているのか
この規定の背景には、次のような考え方があります。
- 訪問看護は公的保険(医療保険・介護保険)から給付される専門的なケアであり、家族間の私的な世話や介助と切り分ける必要がある
- 同居家族に対しては、専門職としての客観的な観察・判断が難しくなるおそれがある
- 外部の目が入りにくくなり、サービスの質の担保やチェック機能が働きにくくなる懸念がある
こうした理由から、同居家族については本人による訪問看護の提供そのものが認められていません。「本人が資格を持っているから大丈夫」という個人の判断で対応することはできない、という点を職員に周知しておくことが重要です。
「同居」とはどこまでを指すのか
ここで実務上のポイントとなるのが、「同居」をどう判断するかです。住民票が同一世帯になっているかどうかだけで機械的に判断するものではなく、実際の生活の実態に即して判断されると理解しておく必要があります。
住民票を分けていても、実際には同じ住居で生活を共にしている場合は「同居」とみなされる可能性があります。逆に、同一の住民票上の世帯であっても、実質的に生活の場が分かれている場合は判断が変わることもあります。形式的な住民票の記載だけで判断せず、実際の生活実態を確認する視点を持つことが大切です。
別居家族への訪問看護は可能か
第71条が禁止しているのは「同居の家族」に対する提供です。したがって、別居している家族については、この条文による明文の禁止規定はありません。ただし、これは「無条件に問題なく担当できる」という意味ではない点に注意が必要です。
訪問系サービス全体において、家族による直接的なケア提供には「家族介護との境界があいまいになりやすい」「第三者の視点によるチェックが働きにくい」といった懸念が指摘されており、別居家族であっても慎重な判断が求められる場面があります。訪問看護に関して、別居家族への提供を個別に取り扱った明確な国の通知は確認できていないため、実際に担当する・しないの判断にあたっては、事業所内でのルール整備に加えて、保険者(自治体)や国民健康保険団体連合会等に事前相談しておくと安心です。

判断に迷いやすいグレーゾーンのケース
実務では、「同居」「家族」の範囲そのものが判断しにくい場面もあります。あらかじめ想定しておきたい代表的なケースを整理します。
| ケース | 考え方 |
|---|---|
| 二世帯住宅で生活空間が分かれている | 住民票の世帯区分にかかわらず、玄関・水回り等が独立し生活の場が実質的に分かれていれば「別居」に近い判断となる可能性がある。事業所内で状況を記録し、必要に応じて保険者に確認する |
| 単身赴任などで一時的に住まいが分かれている | 一時的な別居であっても、生活の本拠が実質的に同じとみなされる場合は「同居」として扱われる可能性がある。期間や実態を踏まえて慎重に判断する |
| 事実婚・内縁関係にあるパートナー | 婚姻届の有無にかかわらず、同居して生活を共にしている実態があれば「同居の家族」に準じて扱われる可能性がある |
| 職員が管理者・開設者を兼ねている場合 | 担当を外れるだけでなく、指示や評価の場面でも客観性を確保できる体制(他の職員による確認等)を整えておくことが望ましい |
いずれのケースも、最終的な判断は個々の事業所の判断だけに委ねず、保険者・国民健康保険団体連合会等に事前に相談し、確認した内容を記録に残しておくことが望ましいです。
違反した場合に想定されるリスク
同居家族への提供禁止規定に反してサービスを提供し、訪問看護療養費・介護報酬を算定してしまった場合、運営基準違反として扱われる可能性があります。介護保険・医療保険のいずれにおいても、運営基準違反が確認された場合は、指定権者(都道府県・市町村等)による指導・勧告の対象となり、状況によっては報酬の返還や、悪質なケースでは指定の取消しに至ることもあり得ます。
「本人も看護師の資格を持っているから問題ないはず」という個人の思い込みで対応してしまうと、事業所全体の指定に関わるリスクにつながります。管理者は、この規定を職員に周知し、同居家族が利用者になり得る場面をあらかじめ想定しておく必要があります。
事業所として整えておきたい実務対応
同居・別居を問わず、職員の家族が利用者になり得る場面に備えて、事業所としてあらかじめ次のような対応を整えておくと安心です。
- 担当割り当てのルール化職員の同居家族が利用者となった場合、自動的に別の職員が担当につく体制をあらかじめ運営規程やマニュアルに明記しておく。
- 「同居」の実態確認住民票だけでなく、実際の居住状況(同じ住居で生活しているか)を確認するプロセスを設けておく。
- 別居家族のケース対応職員の別居家族が利用者になり得る場合は、担当の可否について事前に管理者・保険者に相談し、対応方針を記録に残しておく。
- 職員への周知個人の判断で対応しないよう、入職時研修等でこの規定を周知しておく。
よくある質問
職員の同居家族に訪問看護を提供することは、なぜ禁止されているのですか?
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生省令第37号)第71条で、指定訪問看護事業者は看護師等にその同居の家族である利用者に対する指定訪問看護の提供をさせてはならないと明確に規定されているためです。専門的なケアと家族間の私的な関わりを区別し、外部の目によるチェックを確保する趣旨と考えられます。
同居家族が利用者になった場合、その職員が所属する事業所自体はサービスを提供できませんか?
事業所としてサービスを提供すること自体は問題ありません。禁止されているのは「その同居家族である職員本人」が担当することであり、同じ事業所の別の看護師が担当すれば提供できます。
「同居」かどうかは住民票で判断されますか?
住民票上の世帯区分だけで機械的に判断されるものではなく、実際の生活実態に即して判断されると理解しておく必要があります。住民票を分けていても実質的に同じ住居で生活していれば「同居」とみなされる可能性があります。
別居している家族であれば、職員が担当しても問題ありませんか?
第71条の禁止規定は「同居の家族」が対象であり、別居家族への提供を直接禁止する明文規定はありません。ただし、家族による直接的なケア提供には家族介護との境界があいまいになりやすいという懸念も指摘されているため、事業所内でのルール整備や保険者への事前相談を行っておくことが望ましいです。
訪問看護以外のサービスにも同様の規定はありますか?
はい。同じ基準の第25条には、訪問介護についても「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に、その同居の家族である利用者に対する訪問介護の提供をさせてはならない」というほぼ同じ内容の禁止規定があります。訪問系サービスに共通する考え方です。
二世帯住宅に住んでいる場合、同居家族に当たりますか?
住民票の世帯区分だけでなく、玄関や水回りが独立しているかなど、生活の場が実質的に分かれているかどうかを踏まえて判断する必要があります。判断に迷う場合は、状況を記録したうえで保険者に事前に確認しておくことをおすすめします。
別居家族への訪問看護提供の可否について判断が難しい場合は、事業所が所在する自治体または国民健康保険団体連合会に事前に相談することをおすすめします。
まとめ|同居家族は本人不可・他職員は可能、別居家族は慎重な判断を
職員の同居家族への訪問看護は、法令上明確に禁止されています。一方で、同じ事業所の他職員が担当することや、別居家族への対応については、状況に応じた判断が必要になります。ルールを正しく理解し、事業所として一貫した対応ができる体制を整えておきましょう。
- 職員が自分の同居家族に訪問看護を提供することは、厚生省令第37号第71条で明確に禁止されている
- 同じ事業所の他の職員が担当することは問題ない
- 「同居」は住民票ではなく生活実態で判断される
- 別居家族への提供は明文の禁止規定はないが、慎重な判断と事前相談が望ましい
個人の判断に委ねず、事業所としてルールを明確にしておくことが、利用者・職員双方にとって安心につながります。















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