令和8年8月13日からの大雨(気象庁命名「令和8年8月千葉豪雨」)を受け、千葉県内の被災地域に災害救助法が適用されました。これに伴い厚生労働省は8月14日付で、介護報酬・診療報酬の両面から柔軟な取扱いを示す事務連絡を発出しています。
特に注目したいのは、訪問看護指示書の有効期間が切れていても、一定の条件を満たせば訪問看護費・訪問看護療養費を算定できるという特例です。マイナ保険証や資格確認書がなくても受診・利用を継続できる取扱いも示されました。対象地域の訪問看護ステーションが押さえておくべきポイントを整理します。
- 今回の大雨で厚労省が発出した事務連絡の全体像(介護報酬側・医療保険側)
- 訪問看護指示書の有効期間切れでも算定できる3つの要件
- マイナ保険証・資格確認書がない利用者への対応方法
- 各特例の適用期間と、実務で今すぐ確認すべきこと
目次
何が決まったのか(事務連絡の概要)
令和8年8月13日からの大雨に伴い、千葉県内の一部地域に災害救助法が適用されたことを受け、厚生労働省は令和8年8月14日付で以下の事務連絡を発出しました。
| 発出元 | タイトル | 主な内容 |
|---|---|---|
| 老健局 高齢者支援課・認知症施策地域介護推進課・老人保健課 | 介護報酬等の柔軟な取扱い(基準緩和等)について | 人員・設備・運営基準の柔軟化、日割り計算、(介護予防)訪問看護の指示書有効期間特例 等 |
| 老健局 介護保険計画課 | 被災した要介護高齢者等への対応について | 避難所等での柔軟なサービス提供、定員超過利用時の減算不適用 等 |
| 保険局医療課 | マイナ保険証又は資格確認書の提示等について | 資格確認書等がなくても氏名・生年月日等の申立てで受診可能 |
被災地域が広範囲に及び緊急対応が必要なことから、事業所等が一時的に基準を満たせなくなった場合の取扱いを「例示」として整理したもので、ここに挙げられていない柔軟な対応を妨げるものではないと明記されています。

「例示であって他の柔軟な対応を妨げない」という一文が入っているのがポイントです。個別の状況で判断に迷ったら、保険者や地方厚生局に確認しながら対応しましょう。
内容の詳細|介護報酬・診療報酬それぞれの特例
訪問看護指示書の有効期間切れでも算定できる3要件
介護報酬(訪問看護費)・医療保険(訪問看護基本療養費・包括型訪問看護療養費)とも、次の①〜③をすべて満たす場合に限り、指示書に記載された有効期間(最長6か月)を超えていても算定が可能とされました。
- ①災害発生前に指示書の交付を受けていること災害発生以前に主治医から訪問看護指示書の交付を受けている利用者であること。
- ②被災により指示書の更新が困難なこと保険医療機関等が被災地域に所在し、被災のため主治医と連絡が取れず、新たな指示書の交付を受けることが困難であること。
- ③看護師等が必要と判断し実施したこと訪問看護ステーションの看護師等が利用者の状態から訪問看護が必要と判断し、実際に訪問看護を実施したこと。主治医と連絡が取れる見込みがない場合は、新たな主治医のもとで治療を継続できるよう環境整備に配慮する。
あわせて、被災のため主治医と連絡が取れず、訪問看護計画書・訪問看護報告書を提出できない場合でも、訪問看護管理療養費(介護報酬側は同様の趣旨の規定)の算定は可能とされています。
| 項目 | 介護保険(訪問看護費) | 医療保険(訪問看護療養費) |
|---|---|---|
| 指示書有効期間超過 | 3要件を満たせば算定可 | 3要件を満たせば算定可 |
| 計画書・報告書の未提出 | 柔軟な取扱いが可能 | 管理療養費の算定可 |
| 避難所・避難先での訪問看護 | 介護報酬の算定可 | 訪問看護療養費の算定可 |
| 記録義務 | 訪問看護記録書に記録 | 訪問看護記録書に記録 |
| 月額包括報酬の日割り計算 | 定期巡回・随時対応型と連携する場合のみ対象 | (対象外) |
介護報酬側の「月額包括報酬サービスの日割り計算」の対象となる訪問看護は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所と連携して行う場合に限られます。通常の訪問看護ステーション単独の訪問看護費(区分支給限度基準額の対象となる通常のサービス)は、この日割り計算の対象には含まれていません。
マイナ保険証・資格確認書がなくても受診・利用できる取扱い
被保険者がマイナ保険証や資格確認書を紛失した、あるいは自宅に残したまま避難したことにより保険医療機関等に提示できない場合、次の情報を窓口で申し立てることで受診できる取扱いとされました。
- 氏名、生年月日、連絡先(電話番号等)
- 被用者保険の被保険者:勤務先の事業所名
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度の被保険者:住所(国民健康保険組合の場合は組合名も)
公費負担医療(受給者証)については、公費負担医療担当部局から別途事務連絡が発出されるとされています。また、この場合の診療報酬等の請求は、平成25年1月24日付「暴風雪被害に係る診療報酬等の請求の取扱いについて」に準じて行うこととされました。

資格確認書等がない利用者に伺うのは、氏名・生年月日・連絡先に加えて「勤務先」か「住所」のどちらかです。保険の種類によって確認項目が違うので、訪問時のヒアリングシートに項目を追加しておくと現場が迷いません。
訪問看護ステーションへの影響
今回の事務連絡は、被災地域の利用者への訪問看護を止めないための実務ルールです。指示書の期限切れやマイナ保険証の不携帯を理由にサービス提供を控える必要はなく、むしろ利用者の状態から訪問看護が必要と判断できるなら、まず訪問看護を実施したうえで記録を残すという順番で対応できることが明確になりました。
一方で、柔軟な取扱いを適用した場合は例外なく訪問看護記録書への記録が求められています。「なぜ通常のルールによらなかったか」を訪問看護計画書・報告書・記録書のいずれかに残しておかないと、後日の実地指導や請求審査で説明ができなくなる点は経営上のリスクとして押さえておく必要があります。
今からやるべき実務対応
- 対象地域・対象者を確認する自ステーションの利用者が災害救助法の適用地域に所在するか、または被災により避難所・避難先で生活しているかを確認する。
- 指示書・計画書・報告書の状況を洗い出す有効期間が近い・切れている利用者、主治医と連絡が取れない利用者をリストアップする。
- 3要件への該当を判断し、訪問看護を継続する①指示書交付済み②医師と連絡不能③看護師の必要性判断、の3要件を満たすかを確認したうえで、利用者の状態を優先して対応する。
- 訪問看護記録書に柔軟な取扱いの適用を記録するどの特例を、どの理由で適用したかを具体的に記録し、後日の請求・指導に備える。
- 適用期間を確認し続ける介護報酬側は「当面の間」、医療保険側は原則「災害発生月とその翌月」(避難所等での算定は事情終了まで)と期間の考え方が異なるため、保険者・地方厚生局の最新の案内を随時確認する。
まとめ|訪問看護は「まず継続、記録は後から」
今回の千葉県の大雨に伴う特例は、指示書の期限やマイナ保険証の不携帯を理由に訪問看護を止めないための実務ルールです。要点を整理します。
- 指示書の有効期間切れでも、3要件(①事前交付②連絡不能③看護師の必要性判断)を満たせば訪問看護費・訪問看護療養費を算定できる
- マイナ保険証・資格確認書がなくても、氏名・生年月日・連絡先等の申立てで受診・サービス利用を継続できる
- 柔軟な取扱いを適用した場合は、必ず訪問看護記録書にその旨を記録しておく
- 適用期間は介護報酬側「当面の間」、医療保険側は原則「災害発生月とその翌月」など制度により異なるため、最新の発表を随時確認する
被災地域の訪問看護ステーションは、まず利用者の安全と看護の継続を優先し、記録と請求の整理は落ち着いてから対応する、という順番で臨むのが現実的です。
千葉県以外の訪問看護ステーションにも関係ありますか?
直接の特例適用は災害救助法が適用された千葉県内の被災地域が対象です。ただし、医療保険側の柔軟な取扱いの根拠となっている令和8年3月31日付「保医発0331第2号」は、今後発生する大規模災害にも共通して適用される恒久的なルールです。自地域が被災地でなくても、災害時の基本対応として仕組みを知っておく価値があります。
訪問看護指示書の有効期間が切れていても、本当に訪問看護費は算定できますか?
「①災害発生前に主治医の指示書交付を受けている」「②被災により主治医と連絡が取れず新たな指示書の交付を受けられない」「③看護師等が利用者の状態から訪問看護が必要と判断し実施した」の3つをすべて満たす場合に限り、有効期間(6か月限度)を超えても基本療養費・包括型訪問看護療養費や介護報酬側の訪問看護費の算定が可能です。実施した場合は、その旨を訪問看護記録書に記録する必要があります。
この特例はいつまで使えますか?
介護報酬側は「当面の間」とされ、明確な期限は示されていません。医療保険側は、保医発0331第2号の原則ルールにより「災害発生日の属する月とその翌月」(今回は令和8年8月・9月)が基本ですが、避難所や避難先の家庭等で訪問看護を行った場合の算定については「災害による事情が終了するまで」の適用とされています。最新の適用状況は厚生労働省・都道府県の発表を確認してください。
マイナ保険証や資格確認書を紛失した利用者への訪問看護はどう扱えばよいですか?
医療保険の訪問看護療養費についても、被保険者が氏名・生年月日・連絡先等(被用者保険なら事業所名、国民健康保険・後期高齢者医療制度なら住所)を申し立てることで、資格確認書等の提示がなくても保険診療の対象として取り扱われます。診療報酬等の請求は、平成25年の暴風雪被害通知に準じた方法で行います。




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