介護報酬改定にて、全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権の擁護、虐待防止の観点から、虐待発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることを義務づけられました。
令和6年4月1日から完全義務化となり、『高齢者虐待防止措置未実施減算』が新設され、算定要件等の内容が委員会の設置や役割となっています。
この記事では、高齢者虐待防止委員会の役割や体制づくり、研修について解説していきたいと思います。
目次
義務化された「高齢者虐待防止の推進」とは
高齢者虐待防止の推進は、令和3年度の介護報酬改定で義務化を予定されていましたが、3年間の経過措置期間を経て正式に義務化となりました。
高齢者虐待防止の推進に関する義務化の背景には、日本における高齢者虐待の増加が挙げられます。
- 虐待防止に関する担当者の選任
- 委員会開催と従業員の周知
- 指針の整備
- 研修の実施(定期的)
※虐待防止措置未実施の場合は基本報酬が減算されるなどの規定があるため、注意が必要です。
高齢者虐待防止委員会の役割
高齢者虐待防止委員会とは、虐待等の発生の防止・早期発見に加え、虐待等が発生した場合に確実に再発を防止するための対策を検討する委員会です。
- 虐待防止のための計画づくり
- 虐待防止のチェックとモニタリング
- 虐待発生後の検証と再発防止の検討
- 身体拘束に関する適正化についての検討
1 「虐待防止のための計画づくり」
- 過去、通報すべき案件があったか振り返りとその対応
- 虐待防止マニュアルの作成、見直し
- 虐待防止等についての研修開催
- 日常的な支援(現場の把握と課題の報告)
- 第三者の評価など
2「虐待防止のチェックとモニタリング」
- 虐待が起こりやすい職場環境の確認と改善
- ストレス要因が高い労働条件の確認と見直し
- 現場で抱えている課題を委員会に伝達
- 発生した事故(不適切な対応事例も含む)状況、苦情相談の内容等の報告
現状整理
まずは、現状の整理を行うため、事業所のチェックリストを活用し、現在行っている取り組みを整理します。
出来ていないものについては検討をします。
高齢者虐待防止のセルフチェックリスト実施(職員の心身の状態やケアへの意識を確認)
虐待の芽のチェックリストを活用してみることもおすすめします。
東京都福祉保健財団高齢者権利擁護支援センター作成
職員への周知
検討した内容を全職員へ周知・徹底を行います。
虐待発生後の検証と再発防止の検討
虐待やその疑いが生じた場合、行政の事実確認を踏まえて、事業所としても事案を検証、再発防止策の検討、実行を行います。
虐待防止委員会等が、虐待として通報するかしないかの判断を行うのではなく、まず通報を行うことになっています。
身体拘束に関する適正化についての検討
障害者虐待防止法では、「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待に該当する行為とされています。
身体拘束の廃止は、虐待防止において欠くことのできない取り組みといえます。
※以下のすべてを満たすこと
- 切迫性 利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いことが要件となります。
- 非代償性 身体拘束そのたの行動制限を行う以外に代替する方法がないことが要件となります。
- 一時性 身体拘束その他の行動制限が一時的であることが要件となります。
- 組織による決定と個別看護計画への記載
- 本人・家族への十分な説明
- 行政への相談、報告
- 必要な事項の記録
やむを得ず身体拘束を行うときの留意点や手続きについて理解し、要件と手続きを踏めば免罪符となる訳ではなく、手続きは自問するための時間、あるいは自分たちの支援力を見直すための時間であり、過ちを侵さないための時間と知り、常に「誰のため」「何のため」「本当に他に方法はないのか」等「繰り返し自問する(疑問を抱き続ける)」ことが大切です。
高齢者虐待防止委員会の構成メンバーについて
管理者を含む幅広い職種の職員と虐待防止の専門家(行政等)を委員として積極的に活用することが望ましいとなっています。
また、構成メンバーの責務と役割分担を明確にすることが必要です。
委員長:管理者
委員:虐待防止担当職員(サービス管理責任者)事務長・利用者の家族代表者・苦情解決第三者委員会など
高齢者虐待防止委員会の活動の際のポイント
高齢者虐待防止委員会の体制づくりの実際
具体的には、厚生労働省から出ている以下の動画等で知ることができます。
- 虐待発生時の報告書の様式を作成
- 様式に則した報告書を集計し分析する
- 虐待防止策を検討する
- 虐待が発生しやすい労働環境かどうか検討する
- 虐待の事例と分析結果を従業員に周知徹底するなど
発生時の報告書の様式については、自治体の報告書を参考にしてみてください。
虐待防止委員会は実地での開催に限定せず、オンライン会議等を使用し、第三者が参加しやすいように工夫しましょう。
小規模事業所の効果的な取り組みとして、定期的な事業所での会議やケースカンファレンス等の開催に合わせて虐待防止委員会を実施してもよいと思います。
高齢者虐待防止委員会について気になること
- 「虐待防止委員会」は法人単位での設置でも大丈夫(複数事業所がある場合)
- 会議の参加人数に決まりはないが、管理者や虐待防止担当者の参加は必須。
- 会議開催頻度は最低年に1回必要。状況により定期的に。
- <虐待防止委員会の開催記録の注意点>
日時・参加者・検討内容・参加者のコメントを記入しておく - 「虐待防止委員会」と「身体拘束適正化検討委員会」の一体的な設置運営は可能。
運営指導で指摘される項目
運営指導では以下のことについて確認されることが多いようです。
- 運営規程に定める(重要事項説明書にも反映)
- 高齢者虐待防止指針
- 自分の事業所にあった研修の実施や研修記録
- 自社内で虐待案件や身体拘束案件がないかどうか事故報告書などの確認
- 高齢者虐待防止委員会議事録など
高齢者虐待防止研修について
研修計画は、高齢者虐待防止委員会の重要な役割となります。
職員全員が高齢者虐待・身体拘束について指針に基づいて行動できるように基本的な知識を身につけたり、職員間で高齢者虐待・身体拘束について法律や発生時の対応方法を理解し、事例検討をする意識づけを行うことができるような研修を行います。
また事例検討でケアを見直せたり、組織で解決する習慣ができるような内容の研修ができるとよいでしょう。
- 指針の読み合わせ
- 基礎知識・権利擁護の知識習得
- 法律・対応方法(早期発見と対応)
- 高齢者虐待の現場の対応
- 高齢者虐待の事例検討の習慣化
※研修を実施する上での留意点
研修に参加できなかった職員に対しては、研修を録画し、その視聴を促したり、研修の参加者が事業所内で研修に参加できなかった職員への伝達研修を実施します。
まとめ
- 虐待防止委員会の義務化になった背景を理解しておく
- 高齢者虐待委員会の役割を理解する
- 運営指導で指摘される項目から実施する
- 評価するシートを活用し事業所の実態を把握する
- 自分たちの事業所内に必要な研修を行い、早期発見し通報の義務が果たせる
- 事例検討を通して利用者さんのケアを見直していくようにする
今回、2024年介護報酬改定で未実施減算にならない要件に、高齢者虐待防止委員会の設置が義務化になりました。
実際にどのようにすればよいのか不安でしたが、高齢者虐待防止委員会の担当者は、管理者とともに虐待の防止・早期発見ができるように研修計画を立て、事業所全体として利用者さんのケアを見直して行けるようにしていくことだと理解しました。
訪問看護をおこなう中で誰もが不安や疑問に思ったりすることを解決できるような記事の作成を心がけています。
この記事がみなさんの日々の業務に役立ってもらえると幸いです。