進行性核上性麻痺(PSP)は、パーキンソン症候群の一つであり、訪問看護に意外と多い疾患です。
パーキンソン症候群はパーキンソニズムを呈するパーキンソン病以外の疾患になります。
パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いについて詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
パーキンソン病は聞いたことや関わりがある方が多いと思いますが、進行性核上性麻痺はどうでしょうか?
訪問看護おいて進行性核上性麻痺は「指定訪問看護に係る厚生労働大臣の定める疾病等の利用者」の中に含まれ、訪問看護を週4日以上利用できる医療保険適応疾患になります。
訪問看護でも重要でありながらも、パーキンソン病と似ているのに情報が少ない疾患「進行性核上性麻痺」について、今回はお伝えしたいと思います。
目次
訪問看護で多い進行性核上性麻痺について症状や分類を解説します
進行性核上性麻痺は、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核、赤核、黒質、脳幹被蓋の神経細胞が脱落し、異常リン酸化タウ蛋白が神経細胞内およびグリア細胞内に沈着する疾患です。
さらに、症状や分類について、順を追って説明していきたいと思います。
症状
まずは主な症状を示します。
- 易転倒性
- 核上性注視麻痺(随意性の眼球運動障害)
- パーキンソニズム
- 認知症
- 四肢・体幹の筋強剛(四肢より頚部や体幹に強い固縮があり、 これを体軸性固縮という)
有病率は10万人あたり10~20人です。
40歳代以降の平均60歳代で発症し、嚥下障害なども呈するようになります。
発症早期より姿勢の不安定さや転倒が多いことが報告されています。
分類
この疾患は症状も様々ですが、病理学的検討から疾患概念が広がり様々な病型分類があります。
報告されている病型分類を以下に示します。
- Richardson症候群(RS)
- PSP-parkinsonism(PSP-P)
- pureakinesia with gait freezing(PAGF)
- PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS)
- PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA)
- 小脳型PSP-C
また、病型分類と症状を一覧表にしたものを下記に示します。
(引用:日本神経学会 認知症診療ガイドライン2017 第9章 進行性核上性麻痺より)
病型分類でみると、最初に紹介した症状と色々違いがあり、難しいですね。
基本的には、初めに紹介した症状の特徴になりますので、基本的な症状は覚えておくようにしましょう。
進行性核上性麻痺のリハビリを紹介します
進行性核上性麻痺診療ガイドライン2020によると、進行性核上性麻痺のリハビリ効果はまだ確立されたものがなく、少数例の報告にとどまります。
リハビリのエビデンスレベルは高いものは少ないかもしれませんが、他の疾患と同じようにどこが問題かを評価していくことで対応するようにします。
色んな症状がある疾患なので、症状に対して評価をしていくことが重要です。
少しではありますが、リハビリについて紹介したいと思います。
バランステストを使ったリハビリ
発症1年以内の転倒が多く、姿勢反射障害、認知力低下など転倒しやすい症状がみられますね。
治療介入の臨床意思決定にBalanceEvaluationSystemsTest(BESTest)を用いて、バランス能力の評価および理学療法介入を実施し、歩行能力向上を認めた報告があります。
症例報告の内容やBESTestについての詳細はこちらをご参照ください。
BESTestは評価時間は要しますが、バランス能力を多角的に評価し、詳細に分かることができます。
そのため、ご本人の苦手な部分が詳細に分かり、そこに対して課題難易度を設定しながら介入して歩行能力があがったようです。
BESTestは少し道具も必要になりますが、訪問でもできなくはない評価だと思いますので、皆さんも是非試してみてください。
摂食嚥下のリハビリ
進行性核上性麻痺の死因は肺炎が多く、背景に嚥下障害があります。
そのため、摂食嚥下に対してのリハビリが重要になってきます。
具体的には下記のような2つのことを行います。
- 下顎を引いた姿勢での嚥下
- 力を入れて飲み込む努力嚥下
顎が上がった姿勢では嚥下がスムーズにできませんので、しっかりとした姿勢の練習や指導を行います。
そして頭頚部だけでなく、全身の問題で下顎が上がる姿勢になる可能性もあるため、しっかり座位姿勢から評価するとよいと思います。
また、努力嚥下をすることで舌での送り込みが行いやすくなり、残留がなくなるようにしていきます。
あと、食形態も忘れずに評価するようにしましょう。
他職種と相談し、本人に合わせたものを提供していくようにしていきましょう。
計画的なアプローチ、環境設定などの工夫
非常に転倒しやすい疾患であることはもう分かったと思いますが、徒手や運動療法以外からのアプローチも重要です。
進行性核上性麻痺診療ガイドライン2020によると、転倒の要因として、排泄や物を取ろうとして転倒することが多いようです。
排泄面では、衝動的にトイレに行こうとすることやオムツ内での排泄で不快に感じ、転倒につながるようです。
対応策は以下に示します。
- 早めのトイレ誘導
- 排泄チェック表などで排泄パターンを知っておく
環境面では、道具を落として拾おうとすることで転倒・転落してしまいます。
環境面は次の様に対策します。
- よく使う物はまとめて整理する
- リモコンなどの場合は紐をつけるなど落ちにくいような工夫をする
- ベッドからの転落の時はベッド高を低くすることやマットを引く
眼球運動障害や注意障害もあるため、他の外傷対策として次のようにも行います。
- よくぶつける家具にクッションテープをつける
- 動線に物を置かないようにする
もちろん、これらはご家族の協力も必要になりますので、しっかりと家族も含め説明をし、協力の依頼や指導をしていくようにしましょう。
まとめ
進行性核上性麻痺は日常生活動作低下が速く、車いすになる期間も非常に速いとされています。
また、認知症や注意障害、嚥下障害などもあり非常に大変な疾患です。
リハビリについて、まだまだ効果の高いものはないかもしれませんが、疾患名だけでリハビリはしないようにしましょう。
現在の症状、これからどういう症状が出る可能性があるかなど踏まえながら介入していけるとよいかと思います。
非常に難しい疾患ですが、今回の記事で皆さんの少しでもお役に立てればと思います。