このような疑問を解決できる記事です。
「訪問看護の現状とこれから2024年版」によると、訪問看護で関わる利用者さんの疾患の中でもっとも多いのは脳血管疾患であり、その割合は18%と報告されています。
しかし、それほど多く関わる疾患でありながら「訪問看護師としてどのように支援したらよいのかわからない」という方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、脳血管疾患の利用者さんに対する訪問看護師の役割を紹介します。
この記事を読むと以下のことがわかります。
- 脳血管疾患の利用者さんに対する訪問看護師の役割
- 支援のポイントや注意点
訪問看護師としてスキルアップし、脳血管疾患の利用者さんが安心して在宅療養生活を送れるために、本記事を参考にしてください。
「脳血管疾患以外の病気に対する訪問看護」については、以下の記事で詳しく解説しています。
目次
脳血管疾患とは
はじめに、脳血管疾患がどのような病気であるか、おさらいしておきましょう。
脳血管疾患とは、脳血管に異常が起きて起こる脳や神経の疾患を総称したものです。
脳血管疾患の中でもよく知られている病気が脳卒中です。
脳卒中には以下があります。
- 虚血性脳卒中:脳の血管が狭窄したり閉塞したりして生じる疾患(脳梗塞)
- 出血性脳卒中:脳の血管が破れて生じる疾患(脳出血やくも膜下出血)
脳卒中は病巣の広さや障害の部位によって症状が異なるため、後遺症の程度が人によって大きく異なります。
急性期や回復期のリハビリテーションを終えて自宅退院された方でも、後遺症によって生活に不自由さを感じたり、再発して悪化したりしてしまうこともある病気です。
そのため、訪問看護師が担当する方の中にも、脳卒中の後遺症で支援を必要とする方が多くいます。
脳血管疾患の利用者さんに対する訪問看護師の役割6つ
脳血管疾患の利用者さんに対する訪問看護師の役割は、以下の6つです。
今回は、脳血管疾患の中でも脳卒中の利用者さんに対する支援のポイントや注意点に絞って解説します。
- 目標や興味のある活動をきっかけに残存機能の維持・向上を図る
- 摂食嚥下と栄養の管理をする
- 脳卒中の再発を予防する
- 慢性期合併症の症状に対応する
- 事故を防止する
- 介護者への配慮を心がける
それぞれ見ていきましょう。
目標や興味のある活動をきっかけに残存機能の維持・向上を図る
脳血管疾患の方に対して残存機能の維持・向上を図ることは、在宅生活を続けていくうえでとても重要です。
しかし、利用者さんは在宅で暮らす「生活者」であるため、病気によって低下した機能の訓練ばかりに集中しすぎないようにしましょう。
訪問看護師には、脳血管疾患の利用者さんの「役割の喪失」や「生活を楽しむ余裕のなさ」といった悩みを受け止め、社会参加につながるための介入が求められます。
ご本人の興味がある活動をきっかけに、機能の維持・向上につながる介入をしていきましょう。
- 近所の散歩
- 友人とのお茶
- 家族との外出
- 畑作業や庭の手入れ
こういった利用者さんの生活意欲が向上する活動を利用し、機能の維持・向上を図ることが重要です。
利用者さん本人の意欲やご家族との関係性、ケアマネジャーをはじめとする多職種間の関わり方によって、リハビリテーションは成果が大きく左右されます。
そのため、利用者さんの「やりたいこと」や「生活を楽しむために必要なこと」を知り、目標や介入方法を多職種で共有しておきましょう。
摂食嚥下と栄養の管理をする
脳血管疾患の利用者さんは、脳卒中の再発や全身状態の悪化に伴い、嚥下障害が出現(もしくは、もともとの嚥下障害が悪化)する場合があります。
そのため、摂食嚥下・栄養管理に関する対応が重要です。
具体的には以下のことを行います。
- 嚥下訓練
- 痰の吸引
- 定期的な体重測定
- ご家族への栄養指導
- 胃ろうを使っている方の挿入部の清潔保持やカテーテルの管理
訪問看護師は、利用者さんが十分な食事を摂れなくなるリスクを常に意識し、嚥下障害や低栄養に対して上記の対策をとりましょう。
注意点は、誤嚥を恐れて安全を優先するあまり、食べる喜びを奪ってしまわないようにすることです。
適切にアセスメントし、利用者さんの意欲を低下させないことが大切です。
脳卒中の再発を予防する
脳血管疾患は、再発予防が重要です。
脳卒中の累積再発率は、初回発作後は1年で約12%、5年で35%と報告されています。
抗血小板薬を内服している場合、脳梗塞の1年再発率は約4%まで下がりますが、服薬を継続できている人の割合は1年後に約50%まで低下してしまいます。
これは、2017年の脳卒中に係るワーキンググループでも議題に上がった懸念事項です。
そのため、再発予防として訪問看護師は適切に服薬管理をしていきましょう。
また、以下の疾患や生活習慣においては、服薬管理に加えて生活指導も大切です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 心房細動
- 喫煙
- 多量飲酒
これら脳卒中の危険因子について訪問時に確認したうえで、必要に応じて主治医やケアマネジャーに報告しましょう。
また、血圧や血糖値の適性値は、主治医の判断に従って適切に管理しましょう。
慢性期合併症の症状に対応する
脳血管疾患の特徴的な合併症には以下があります。
- 痙攣
- 中枢性疼痛
- 痛みを伴う痙縮・拘縮
疾患が慢性化してからでも、これらの合併症に悩む方がいます。
以下で、それぞれの対処法や注意点を見ていきましょう。
痙攣発作
痙攣発作は、劇的で意識消失や神経症状を伴うため、利用者さんやご家族は強い恐怖心を覚えて動揺することがあります。
発作が起きた場合は看護師自身が動揺しないようにし、冷静に以下の行動をとりましょう。
- 可能ならば側臥位にして誤嚥を防ぐ
- 利用者さんの周囲から危険物を遠ざける
- 口に物を挟んだり、指を入れたりすることを避ける
上記の対応で安静にしていれば、通常は数分でおさまります。
しかし、以下の場合は救急搬送が必要です。
- 初回発作である(痙攣の原因がわからないため)
- 痙攣が5分以上続いている(自然消失する可能性が低いため)
- 意識が回復しないうちに、再び痙攣発作が起きる(後遺障害の可能性があるため)
- 新たな神経症状や増悪がみられる(再発している可能性があるため)
- 転倒し、激しく頭部などをぶつけた(外傷性頭蓋内出血の可能性があるため)
上記を参考に、利用者さんの状態に応じて適切に対応しましょう。
中枢性疼痛
中枢性疼痛は感覚脱失や感覚低下があるにもかかわらず、灼熱感やジンジン・ヒリヒリなどと表現される自発痛です。
触刺激により激しい疼痛が誘発される場合もあります。
ADLにも影響を及ぼすため改善させたいものですが、現状では有効な治療法はありません。
非ステロイド性抗炎症薬は無効のことが多く、以下の薬で楽になる方がいると言われています。
- トリプタノール
- ラミクタール
- ガバペン
- リボトリール
- テグレトール
- リリカ
- 選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)など
中枢性疼痛はご本人にしかわからない痛みと言われることもありますので、訴えを傾聴する姿勢が大切です。
また必要に応じて、脳神経外科やペインクリニックなど専門医の受診もすすめるのも選択肢のひとつです。
痛みを伴う痙縮・拘縮
強い痙縮は、動きに伴い上下肢の痛みを誘発し、しばしば利用者さんの苦痛を招きます。
痙縮が強くなり徐々に拘縮に移行してくると、介護の支障になるだけでなく、外見を気にして活動や外出の意欲を低下させる原因にもなってしまいます。
そのため、適切な関節可動域訓練、ポジショニングなどによって筋緊張をやわらげ、拘縮の進行を予防しましょう。
また、主治医より処方された薬を必ず飲んでいるか確認し、経過を観察してください。
事故を防止する
脳血管疾患の利用者さんには、転倒・誤嚥・窒息などの危険性が常にあることを意識しましょう。
以下の対策をとり、事故を防止することが大切です。
- 環境調整:屋内の段差、じゅうたんの溝、電気コードなどつまずきやすい部分の確認
- 食事形態への配慮:現在の嚥下機能に応じた食事形態やトロミの確認
- 食事中の見守りや介助:誤嚥の有無の確認や、必要に応じた摂食動作の介助とその指導
これらの対策をとり、家庭内での事故防止に努めましょう。
介護者への配慮を心がける
普段から介護しているご家族をねぎらい、配慮のある対応を心がけましょう。
介護者は利用者さんと同様に、障害を容認するまでに以下4つのステップを経る必要があります。
- ショック・混乱期
- 回復への過度の期待と不安期
- 絶望・抑うつ期
- 障害受容期
上記のとおり、徐々に障害を容認していくものの、介護者はストレスを原因とした病気になりやすいことも事実です。
そのため、介護者自身の健康管理や休息などにも気を配り、介護を継続できる体制を作っていきましょう。
訪問看護師には、介護者にも寄り添い、不安や悩みを聞き取っていく役割も求められます。
まとめ
今回は、脳血管疾患の利用者さんに対する訪問看護師の役割について、以下の点を紹介しました。
- 目標や興味のある活動をきっかけに残存機能の維持・向上を図る
- 摂食嚥下と栄養の管理をする
- 脳卒中の再発を予防する
- 慢性期合併症の症状に対応する
- 事故を防止する
- 介護者への配慮を心がける
「脳血管疾患になってしまったけど、自宅で生活したい」という利用者さんが、可能な限りその人らしい生活を送るためには、訪問看護師の関わりが重要です。
本記事が脳血管疾患の支援を担当する訪問看護師の参考になれば幸いです。