私が訪問看護をはじめた頃は、災害等に対して具体的な対策はほとんどなく、このような不安を感じながら働いていました。
計画された訪問は、どんなときでも訪問するという雰囲気がありました。
2011年の東日本大地震の時に、同じく訪問看護師さんが業務を全うしようとして災害に巻き込まれたのをきっかけに、訪問看護ステーションも職員の安全を守らないといけないという風潮になりました。
当記事では、訪問看護の災害対策、特に豪雨や台風の時の対応について解説していきたいと思います。
目次
訪問看護ステーションで必要な災害対策とは?
災害が発生すると、通常通りに業務を実施することが困難になります。
まず、業務を中断させないように準備するとともに、中断した場合でも優先業務を実施するため、あらかじめ検討した方策を計画書としてまとめておくことが重要です。
平常時から自訪問看護ステーションの状況や周辺環境を把握し、災害発生時にどのような計画で事業を継続するかを検討しBCPを策定しましょう。
また、令和3年度介護報酬及び令和4年度の診療報酬の改定において、BCPの作成とともに、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)、職員への周知、定期的な見直しの実施等が義務づけられました(令和6年4月より義務化)。
このように、各訪問看護ステーション内で災害対策を講じておくことは非常に重要であるとともに、義務になっています。
訪問看護ステーションが事前に行う災害対策は非常に多岐にわたりますが、以下に主な具体例を示します。
- スタッフの緊急連絡網
- 利用者の情報(疾患名や必要な医療処置等)
- スタッフの指揮命令系統や役割分担
- 災害発生時のスタッフの行動マニュアルの作成
- 活動地域が被災した場合を想定した支援活動のシミュレーション
- 電気を必要とする医療機器のバッテリーや代用用品の準備
- 職員の食料や毛布、防寒具等の備蓄
- 利用者の安否確認と優先順位の決定
- 訪問看護中に災害が発生した場合の対処のシミュレーション
- 利用者の避難先、避難方法等の一覧表の作成
- 地域の危険な場所の確認(ハザードマップ) など
- 停電時の医療機器(在宅酸素、人工呼吸器、吸引器等)の対応方法の指導
- 避難備品(療養に必要な薬や衛生材料等)の準備
- 病名、内服薬、関係連絡機関等がわかる利用者個人の情報シートの作成
- 必要に応じて利用者の避難先の病院、施設の確保
- 事業者間の利用者の安否確認の役割分担
災害時には電話もインターネットも混乱している可能性が高いです。
印刷できるものは印刷しておき持ち歩くなど、できる対応を実施しておきましょう。
豪雨・台風による災害発生時の対応
では、豪雨・台風による災害発生前と災害発生時の対応を具体的に解説します。
1 日頃からの準備
豪雨や台風の情報収集を行います。
テレビ、ラジオ、スマホ等の情報に注意し、訪問エリアが該当する場合は、すぐに事業所として対策していきます。
個人的には、スマホアプリには、tenki.jp や 特務機関NERV がおすすめです。
停電等は、避難情報の有無にかかわらず突然発生することもあります。
人工呼吸器等で、電気を使用している場合には、日頃から準備や確認をしておきます。
- 緊急ホイッスル
- 携帯トイレ
- アルミブランケット(防寒用)
- 携帯用ライト/懐中電灯
- モバイルバッテリー
これらは、100円ショップでも揃えることができます。
- ガソリンは満タンにする(訪問車は自分の簡易避難所になる)
- 緊急脱出用ハンマー(シートベルトも切ることができるのもおすすめ)
- シガーソケット(スマホ等が充電できるように)
- タオル類(バスタオル・マフラータオル)
- ペットボトルや経口補水液など
2 豪雨や台風の上陸がわかったら
当日の訪問予定の利用者のリストを確認します。
そのケアがないと成り立たない方以外の利用者さんには、振替やキャンセルなどの相談をします。
呼吸器や在宅酸素等のある利用者・家族と災害準備の再確認のため電話連絡をします。
酸素ボンベが12時間以上もつ本数を確認し、足りないときは手配をします。
最低限の訪問利用者に対して必要スタッフ数を決める
事前に、鉄道会社の計画運休情報を発表されているか確認を行い、当日出勤する看護師を話し合いにて決めます。
この場合、事業所の近隣に住む看護師にお願いすることが多いです。
電車通勤や出勤が不可能と思われる看護師は、自宅待機にします。
訪問当日も上陸予定(豪雨予定)となる時間より前に訪問が終えれるように調整します。
事業所は必要であれば、浸水対策や自転車を横に倒してロープで縛っておくなどを行います。
もしもの停電や避難勧告に備える
以下についても準備と情報共有をしておきましょう。
- 災害時個別支援計画の確認
- 必要時発電機の有無
- 最寄りの電源設備の確認
- 事前避難地域の利用者への促し
- 電力会社に貸与できるか調べておく
- 避難が必要な場合、病院やクリニックへの事前相談
- 家の倒壊のおそれ、川沿いでの浸水の予測など、ケアマネージャーなどと事前の避難場所を決める
3 豪雨や台風当日
スタッフ自身の安否確認とスタッフの家族に支援が必要となっていないかを社内SNSで確認します。
通常は、事前計画したとおりに訪問を終えます。
万が一、避難勧告発令がでたら、次の行動に移します。
- 訪問エリアの避難勧告情報を集約
- 避難勧告がでたエリアの利用者の一覧を作成する
- 自宅待機のスタッフが、利用者一覧から順に下記の安否確認優先順位に従い避難状況確認と促しの連絡を行う
A 医療機器を使用していて重度要介護者、介護力の低い方
B 医療機器を使用している方
C 一人で判断できない状態にある精神障害や認知症、独居やそれに準ずる介護力の低い方
D 上記以外
※Aが最も優先度高
(東京都訪問看護ステーション協会 2014年配布版「地域ケアのための災害時対応マニュアル」より)
必要な場合は、各自事業所のマニュアルに従って、避難先も誘導します。
直接支援が必要(避難所に自力で行けない方)な方を集約し、必要に応じて2人1組のスタッフにて支援します。
最後にスタッフ自身も避難場所に避難します。
この状況で、利用者さんから台風等上陸後に避難したいと連絡があった場合は、出ていくより家にいる方が安全であることを伝えます。
4 過ぎ去ったあとの確認や支援
スタッフの各自の安否確認と実家などが被災していないか、支援は必要でないかの確認を社内SNSで行います。
利用者には電話で安否確認をします。
安否確認と同時に転倒してケガをしている、排便コントロール日に避難してタイミングがずれて、排便に困っているなど支援が必要な方の把握を行います。
災害時個別支援計画が立っている方々の各連携先へFAXなどで経過と安否確認を報告します。
まとめ
今回は、豪雨・台風による災害発生前と災害発生時の対応について説明しました。
- 訪問エリアの地域特有の災害リスクを理解し、防災マップやハザードマップを活用することで、避難場所や危険箇所を正しく把握する
- 事前準備と情報共有が不可欠
- 避難勧告が生じたら自宅待機のスタッフと協力し主に電話連絡を担ってもらう
- 利用者さんの避難には大きな困難が生じることを知り、事業所は直接支援も考慮しておく
- 直接支援の場合は、訪問看護師も不安が大きため、2人1組で対応とする
- 災害時個別支援計画がある人はそれに従う
「だれ一人とり残さない」という医療、保健、福祉、行政、地域の連携の中で訪問看護ステーションは重要な役割が期待されています。
私は、豪雨・台風など予測できる災害対策をきちんと行えることが、いざという突然の災害時に役立つと思っています。
訪問看護を行う中で誰もが不安や疑問に思ったりすることを解決できるような記事の作成を心がけています。
この記事がみなさんの日々の業務に役立ってもらえると幸いです。
明日は大型台風の接近の予報があります。事業所としてのルールがなく不安です。