近年、罹患した著名人の報道で耳にするようになった「パーキンソン病」という病名。
厚生労働省で指定難病に指定され、国からの支援体制が設けられる程、運動症状が出現し生活を送る上で支障をきたしてしまう神経変性疾患です。
訪問看護の現場でも、パーキンソン病の方に携わる機会が増えております。
進行性疾患で運動症状が主な症状なため、在宅でのリハビリは特に重要です。
私自身、パーキンソン病の利用者さんと関わる事がありますが、難渋しているのが現状です。
今回は、パーキンソン病の利用者さんに対する訪問看護のリハビリ内容や在宅生活を送る上で重要な事、注意する事についてご紹介したいと思います。
今回の記事が皆様の臨床業務の手助けになれば幸いです。
目次
パーキンソン病患者の運動症状とは?
パーキンソン病の4大徴候
まず、パーキンソン病は一側の手や腕の震え、そこからこわばりや脱力感に変化し姿勢の崩れや歩行障害に進行していきます。
最初、ほとんどの方は気にならず、いつから症状が出現したが分からないようです。
一般に、治療を開始して3~5年は治療薬で症状をコントロールする事ができます。
しかし、進行していくとwearing-off現象(薬の効果が切れ動かなくなったり手足の震えやすくみ足が出現する)やジスキネジア(薬が効いている時間帯に勝手に手足が動いてしまう症状)が認められます。
意図的に動かしたり止めたりする事が出来ないため、精神的負担も強いと考えられます。
またパーキンソン病には発生初期から特徴的な運動症状が認められます。
それは4大徴候と呼ばれ、静止時振戦、無動、筋強剛、姿勢反射障害の事を示します。
これらの症状が認められるとパーキンソン病と疑われます。
簡潔に症状について説明させて頂きます。
①静止時振戦
安静時に認められ4~6回/秒で拇指と示指をすり合わせる動きをする。
片方の腕や足が震え出す。
②無動
動きが素早く出来ず、足が出にくくなる(すくみ足)。
また、言葉が出にくくなったり文字を書くと小さくなる。
③筋強剛
筋肉のこわばりや関節が動かしにくくなり歯車のような動きになる。
手足や頭部を他動で動かすと抵抗感を強く感じる。
④姿勢反射障害
体が傾いた時にバランスを取りにくく転倒しやすくなる。
歩き出すと止まれなくなり方向転換が苦手になる(突進歩行)。
体幹前傾位、頚部前屈位になりやすくなり姿勢の修正が困難になる。
この4大徴候が、日常生活に大きく影響を与えていきます。
パーキンソン病の利用者さんが在宅生活を送る上で特に困っている事が、すくみ足と姿勢反射障害と言われており、転倒や骨折を引き起こす要因と考えられます。
これらの症状は治療薬のみで改善する事が難しく、身体リハビリや在宅の環境設定も重要な取り組みです。
次は、在宅で取り組めるリハビリの紹介や環境設定のアドバイスをお伝えします。
パーキンソン病患者に対する訪問看護のリハビリ
それでは、本題でもあるパーキンソン病の利用者さんに対する訪問看護でのリハビリを紹介したいと思います。
転倒の危険性のあるすくみ足と姿勢反射障害に対するアプローチも紹介していきます。
すくみ足に対するリハビリ
すくみ足は歩行開始時、二つの事を同時に行う時、障害物に近づいた時、狭い所や方向転換する時に出現し、無意識で出現する事もあります。
すくみ足の症状がどのように出ているか、利用者さんの動きを観察することが重要になります。
- すくみ足はいつ出現するのか
→歩行開始時、狭い所を通る時、方向転換時、二重課題時 - すくみ足が出現する引き金になるような環境はないか
→障害物や狭い場所、動線の環境状態の把握 - 内服後、何時間後にすくみ足が出現しやすいか
これらの聴取は、日常生活を知る上で必要とされています。
内容によってアプローチする方法やリハビリの内容も変わってくるからです。
それでは、一般的にリハビリで行われているすくみ足の対応について紹介していきます。
パーキンソン病の利用者さんは、前傾姿勢が特徴的です。
そのため、”補高すると前方に重心が行きやすくより突進歩行を助長するのでは?”と思われがちです。
しかし、実は踵寄りに重心があるため足が出しにくくなっているのです。
靴を補高する事で足が出しやすくなるので、在宅でも補高靴を着用する事をお勧めします。
専門的な用具であるため、福祉用具店の方や義肢装具士に相談すると良いでしょう。
すくみ足が始まったらまず立ち止まり、前傾した立位姿勢を意図的に伸展位に矯正させます。
その後、大きく手を振り「いちに、いちに」と自ら声を出しながらその場で足踏みをし、一歩目を意図的踏み出すよう促す事をいいます。
また、メトロノームや音楽、介助者が数をカウントするなどリズミカルな聴覚刺激での歩行練習も効果的です。
視覚情報も非常に重要です。
床にテープを貼り付けたり踏み越える目印(畳の縁など)を決める方法が有名です。
また、最近ではレーザービームの出るT字杖の活用も推奨されています。
手すりにつかまり、階段昇降訓練やコーンなどの目印を一定間隔に置き、スラローム歩行をする事もすくみ足改善の練習として紹介されています。
平地歩行と異なり、段差やコーンが目印になり歩きやすくなる場合があります。
階段昇降をする際は、転落予防のため近位監視が必要です。
また環境設定の面で、廊下に人感センサーの照明をつける事で見えやすい環境作りをすると歩きやすくなる事もあります。
小さな段差は転倒の原因になりやすいので、目立つカラーテープを貼る事も効果的です。
在宅だと家具や荷物など生活に必要な物が置かれており、動線の妨げになってしまう事があります。
置かれている物がすくみ足を誘発させる場合は、一旦片付けてみて歩行の変化を確認します。
椅子やベッドなど目的地に意識や視線を向けると、そのまま突進的に歩いてしまいすくみ足が出現する可能性があります。
壁や時計など進行方向の先にある物を注視する事で、体幹伸展位になりすくみ足を防止できます。
対象物から一旦視線離すよう促す事がポイントです。
逆に空間が広く支持物がないと余計すくみ足が誘発されることがあるので、福祉用具や住宅改修で手すりを設置する事も転倒防止になります。
手すりにつかまりながら体の向きを変える事を習慣化するのも必要です。
姿勢反射障害に対するリハビリ
姿勢反射障害は彫像現象(体が傾いた時に足が床から離れず倒れてしまう)や体幹前傾が特徴的です。
関節可動域制限や立ち直り反応の低下などが原因で生じます。
立位のみならず座位を保持する時も姿勢が崩れてしまう事があります。
姿勢反射障害に対して、まずは姿勢の改善やバランス・リーチ訓練が行われます。
ここでプログラムの内容をご紹介します。
姿勢改善~座位編〜
まず座位での運動を紹介したいと思います。
まず大事な事は、姿勢を正しい位置に戻すという事です。
前傾姿勢や姿勢の崩れにより、脊柱の可動域制限や筋の柔軟性が低下し身体機能面に影響をきたします。
利用者さんに毎日の習慣にできるように、自主訓練の一貫として取り組む事をおすすめします。
- 背中にボールを当て背筋を伸ばしながら上肢を挙上します。
- 背伸びをして伸びている感じを確認したら上肢を下ろします。
ここで姿勢が片側に偏っていないか、ソファーの座面が柔らかすぎて沈み込んでいないか確認しましょう。 - 良い姿勢で座った状態で左右に体を回旋(体を捻る運動)します。
座位バランスが不良の方には、肘掛けがついた椅子に座ることで安定する事もあります。
脊柱の可動域制限が生じやすいので、体幹の動きは痛みが出ない範囲で促す必要があります。
また、回旋を促す運動を行うため、棒を使った体操も良く取り入れる方法です。
姿勢改善~臥位編~
臥位での運動は、重力の力を取り除いた環境で行うことができるので、自由度の高い人から日常生活動作に制限をきたしている人と幅広く取り組む事ができます。
ベッドで仰向けになって背伸びをするだけでも背筋のストレッチになり、実施した前後で姿勢は大きく変わります。
他にも仰向けで行う運動やストレッチがあるので具体的に紹介したいと思います。
- 仰向けでおしりを上げる運動や足を上げて空中自転車こぎの運動をします。
これらは脊柱や股関節のこわばりを改善します。 - 仰向けで膝を揃え左右に倒したり、ストレッチポールを使用した腰背部のストレッチです。
ストレッチポールは最近使用する頻度が多く、半円型のタイプは安定しているため転落の危険性も少ないです。 - 腹臥位(うつ伏せ)になる運動も寝返り練習にも繋がります。
うつ伏せになる事で脊柱の伸張する事もでき、股関節や膝関節の拘縮予防にもなります。
クッションをお腹の下に入れてうつ伏せになると安易に保持する事が可能です。
うつ伏せまで姿勢を変える事が難しい方もいらっしゃるので動作の能力を確認してから実施することをおすすめします。
まとめ
パーキンソン病の利用者さんは、疾患による特徴的な症状や反応が見られます。
転倒リスクが高いため、骨折により寝たきりや状態悪化に繋がる危険性があります。
そのため、訪問看護でのリハビリ介入は早期から行う必要があります。
在宅での生活状況や健康状況を把握する事のできる訪問看護だからこそ、利用者さんに合ったリハビリの提供ができます。
また、進行性の疾患だからこそ他職種で支援する必要性があります。
今回は理学療法士の視点で注意する症状やリハビリのご紹介を行いました。
自律神経障害(便秘や起立性低血圧など)や嚥下機能面の低下による誤嚥性肺炎など二次障害もパーキンソン病の着目するポイントです。
看護師、言語聴覚士との連携も在宅生活を続けていく上で重要となります。
進行状況に応じて、提供するリハビリプログラムや使用する福祉用具、自宅の環境などを検討していく事を心掛け、利用者さんやその家族を包括的に支援していきましょう。
この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
10万人に100人~150人くらいです(1000人に1人~1.5人)。60歳以上では100人に約1人(10万人に1000人)で、高齢者では多くなりますので、人口の高齢化に伴い患者さんは増加しています。
引用:難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」