訪問看護師が知っておくべきバルーン交換方法を説明します

膀胱留置カテーテルはバルーンカテーテルと呼ばれることが多いため、膀胱留置カテーテルの交換はバルーン交換と呼ばれています。

バルーン交換は、訪問看護で行うことが多い医療処置の一つです

前立腺肥大などの下部尿路の閉塞、神経因性膀胱などがある利用者さんでは、カテーテルを尿道から膀胱内に挿入して尿を体外に誘導する必要があります。

そのような状態で在宅療養されている利用者さんは、訪問看護でバルーン交換を行います。

 

  • 導尿の経験が(あまり)ない
  • 男性の導尿の経験が(あまり)ない
  • ブランクがあり手技が不安
  • 正しい手順が知りたい

 

これから訪問看護に就職を考えているけれど、上記のような不安をお持ちの看護師さんや、バルーン交換に苦手意識がある看護師さんもいらっしゃると思います。

こちらの記事では、そのような不安を解決でき、自信をもって処置を行うことができるよう、バルーン交換方法について詳しく解説していきます。

 

バルーン交換の方法

 

 

 

バルーン交換のために必要な物品の準備、利用者さんへの説明と利用者さん側の準備、環境整備などを説明していきます。

手順は、女性の場合と男性の場合で少し違いがありますので、その点も詳しく説明します。

 

必要物品の準備

 

 

 

はじめにバルーン交換に必要な物品を準備します。

バルーン交換に必要物品は以下の通りです。

 

  • 10mlの滅菌シリンジ(挿入中カテーテルの抜去用)
  • フォーリーカテーテル・採尿バッグ(現在は一体型のものが主流です)
  • 消毒器具(綿球・消毒液:ポピドンヨード・鑷子)
  • 滅菌潤滑剤(グリセリン)
  • ガーゼ
  • 滅菌手袋
  • 吸水シーツ
  • 滅菌蒸留水入りシリンジ

 

ここでは、これらの物品がすべて入った閉鎖式カテーテルキット(以下、キット)を使用するケースで手順を説明します。

バルーン交換の処置に必要な物品は以下の通りです。

 

  • バスタオル
  • 陰部洗浄に必要な物品(微温湯、ボトル、タオルなど)
  • ゴミ袋
  • 固定用品(テープ、カテーテル専用の固定器具)

 

ケアの説明と環境整備

 

これからバルーン交換を行うこと・目的・交換の流れなどを利用者さんにお伝えします。

カーテンやドアを閉めるなど、ベッドサイドが周りから見えないようにします。

実施者はエプロンを着用しましょう。

環境が整ったら、利用者さん側の準備をします。

お布団や毛布などの掛物の上から、利用者さんの腹部~膝あたりまでバスタオルをかけます。

掛物は作業の妨げにならないよう、ベッドの足元側に扇子折りにしておきましょう。

バスタオルの中で衣服と下着を取ります。ご自分で脱げる利用者さんは、ご自分で脱いでいただきます。

 

ポイント
利用者さんの羞恥心に配慮するとともに体温の低下を防ぐために、別のバスタオルを露出している下肢に片方ずつ巻いて覆います。

バスタオルが足りない場合は、処置を始めるまで両下肢にバスタオルをかけておきます。

 

バルーン交換時の注意点

 

バルーン交換は清潔操作で行うため、以下のことに注意しましょう。

 

  • 利き手と反対の手は不潔になるため、カテーテルなどを持たない
  • 消毒する順番は、もっとも清潔にすべきところから先に行う
  • 消毒に使用した鑷子は清潔区域内に戻さないように処理する
  • カテーテルが寝具などに触れて不潔にならないよう注意する

 

カテーテルの取り扱いで注意することは以下の通りです。

 

  • カテーテル内に潤滑剤が入り込まないように注意する
  • 油性の潤滑剤ではカテーテルが破損するので使用禁止(キットの中に入っている潤滑剤は、水溶性の潤滑剤(グリセリン)です)

 

利用者さんへの配慮と状態観察も重要です。

陰部を露出する処置であるため、一動作ごとに必ず声かけをしてから行うよう配慮しましょう。

またカテーテル挿入中は、利用者さんや挿入部の観察を怠らないようにし、異常がみられたら中断します。

挿入が困難な場合は無理に実施しようとせずに医師に相談します。

 

挿入されているカテーテルを抜去し陰部洗浄を行う

 

  1. ゴミ袋をベッドの足元に置きます。
  2. 未滅菌手袋を装着します。
  3. カテーテルの固定水注入口に10mlの滅菌シリンジを接続し、利用者さんにこれからカテーテルを抜去することを説明します。
  4. 固定水注入口から固定水を全部吸引します。固定水は、残らないように確実に抜くよう注意しましょう。吸引できていなかった場合のため、シリンジはつけたままにします。
  5. カテーテルを尿道と水平に持ち、利用者さんに声をかけ深呼吸をしていただきます。
  6. 利用者さんの表情をみながら、吸気時ではなく呼気時にゆっくりとカテーテルを抜きます。

 

ポイント

素早くカテーテルを抜去すると、尿道の粘膜とカテーテルで摩擦が起こり、疼痛の出現やその刺激によって尿道に浮腫が起こり、尿閉になる危険性があります。

男性の場合、前立腺肥大があると軽度の引っかかり感があります。無理やり抜くと出血することがあるので、抵抗が強いようであれば医師に相談しましょう。

 

挿入の際に陰部が汚染されていると尿路感染の原因となります。

新しいカテーテルを挿入する前に陰部を洗浄して清潔にしておきます。

 

カテーテル挿入の準備

 

体位
体位は仰臥位で、女性の場合は膝を立てて、やや開脚させます。

体位が保持できない場合は、枕などで支えましょう。

男性の場合は、膝を伸ばして、やや開脚させます。

 

    1. 滅菌袋を開封し、包みのままトレイキットを取り出し利用者さんの両下肢の間に置きます。
  1.  包んである覆布を広げます。包みを広げた覆布の上が無菌操作を行うスペースになるので、作業しやすい位置に配置しましょう。
  2. 他の物品に指が触れないように注意し、畳んである吸水シーツを取り出します。
  3. 吸水シートを利用者さんの臀部の下に敷きます。敷物は状況に応じて尿パットやおむつを使用します。
  4. キット内のほかの物品に触れないように滅菌手袋を取り出し、空いているスペースを利用して開封し、不潔にならないように装着します。
  5. トレイ内に消毒液を注ぎ、綿球や綿棒を消毒液に浸します。
  6. 潤滑剤を開封し、トレイ内に絞り出します。
  7. 採尿バッグのクレンメが閉じている・コックハンドルがOFF側になっていることを確認します。
  8. 滅菌蒸留水入りシリンジでカテーテルの固定水注入口から滅菌蒸留水を注入し、バルーンが正常に膨らむことを確認します。
  9. 確認後は、滅菌蒸留水をシリンジに戻し、シリンジはカテーテルに接続したままにしておきます。

 

ポイント

滅菌手袋を装着後は、滅菌物以外の物品が移動できなくなります。

そのため滅菌手袋装着前に、滅菌物以外の物品をケアが行いやすいように動線に沿って配置します。

 

ポイント
ごく稀ですがバルーンが破損していることもありますので、必ずバルーンが正常に膨らむことを確認しましょう。

バルーンの固定水には必ず滅菌蒸留水を使用します。

生理食塩水は、バルーンの中で結晶化し抜けなくなる恐れがあるので注意しましょう。

 

カテーテル挿入手順と注意点(女性の場合)

 

  1. 利き手の反対側の人差し指と中指で大陰唇を押し広げ、外尿道口を確認します。
  2. 利き手で鑷子を持ち、消毒用綿球をはさみます。
  3. 小陰唇を上から下に、はじめに中央、左、右(左右の順番はどちらでも可)を、一方向ごとに綿球を交換して、大陰唇まで十分に消毒します。
  4. 利き手でカテーテルの先端10cmくらいの位置でカテーテルを持ちます。(以前は鑷子を使って挿入していましたが、現在は滅菌手袋で操作するのが通常です)
  5. 先端から4~5cmまで潤滑剤を塗布します。
  6. 利き手と反対側の人差し指と中指で陰唇を開き、利用者さんに声をかけ口で深呼吸してもらいながら、やや下向きに4~5cm、静かに挿入していきます。
  7. 深呼吸によって尿道括約筋が弛緩し、カテーテルの挿入がスムーズになります。
  8. カテーテル先端が膀胱内に到達すると尿が流出してきますので、その後さらに2~3cm奥に進めます。
  9. 小陰唇を開いていた方の手にカテーテルを持ち替え、外尿道口部で固定し抜けてこないように支えます。
  10. もう片方の手で滅菌蒸留水を注入し、バルーンを膨らまします。
  11. カテーテルを軽く引いて、抜けないことを確認します。

 

尿が流出しない場合
尿が流出しない場合、膣に挿入された可能性があります。

カテーテルを抜去し、再び消毒を行い、新しいカテーテルで挿入します。

外尿道口がどうしても確認しにくい場合は、再び膣に挿入しないために誤挿入したカテーテルを抜去せず、新しいカテーテルで挿入し直します。

 

カテーテル挿入手順と注意点(男性の場合)

 

  1. 利き手の反対側の手で陰茎が身体に対して垂直になるようにしっかりと把持し、尿道の走行を一直線にします。
  2. 利き手で鑷子を持ち、消毒用綿球をはさみます。
  3. 亀頭を外尿道口から外側の方向にらせんを描くようにして消毒します。綿球を交換し、2、3回同じように消毒を行います。
  4. 利き手でカテーテルの先端10cmくらいの位置でカテーテルを持ちます。(以前は鑷子を使って挿入していましたが、現在は滅菌手袋で操作するのが通常です)
  5. 先端から10cm程度まで潤滑剤を塗布します。
  6. 陰茎を把持している方の手の親指と人差し指で外尿道口を開きます。
  7. カテーテルを先端から10cmくらいの位置で持ち、利用者さんに声をかけ口で深呼吸してもらいながら、カテーテルを挿入していきます。深呼吸によって尿道括約筋が弛緩し、カテーテルの挿入がスムーズになります。
  8. カテーテルを持つ位置を変えながら、15cm程度挿入します。15cm程度挿入するのは、陰茎の長さが16~18cmのためです。
  9. 挿入に抵抗を感じたら、陰茎の角度を変えてみて、さらに5cm程度進めます。カテーテルは十分に深く、根元付近まで挿入しましょう。
  10. カテーテル先端が尿道括約筋部(尿道膜様部)に到達するとわずかな抵抗が感じられます。
  11. 陰茎を足先方向に軽く倒しながらカテーテルを進めると、尿道前立腺部への通過が容易になります。
  12. カテーテルが膀胱内に達すると、尿が流出しますので、さらに2~3cm奥に進めます。
  13. 陰茎を把持していいた方の手にカテーテルを持ち替え、外尿道口部で固定し抜けてこないように支えます。
  14. もう片方の手で滅菌蒸留水を注入し、バルーンを膨らまします。
  15. カテーテルを軽く引いて、抜けないことを確認します。

 

ポイント
バルーンはカテーテル先端から2~3cmのところについているので、尿が流出した段階ではまだ尿道内にあります。

尿道内でバルーンを膨らますと尿道を損傷します。

そのため、バルーンを膀胱内まで確実に到達させる必要があります。

 

痛みを訴える場合
尿道内でバルーンが膨らんでいる、もしくは尿道内でカテーテルが屈曲している場合があります。

すぐに滅菌蒸留水を抜き、カテーテルの位置を調整するか、一旦抜去しやり直しましょう。

 

カテーテルは軽く引いた状態でバルーンが膀胱頚部に当たるようにし固定しますが、その状態だと圧迫により常に尿意を感じたり不快感を感じる場合もあります。

その場合は引いた分(1~2cm)戻して固定します。

 

カテーテル留置後の処置

 

バルーン交換後に行う処置は以下の通りです。

  1. 消毒液で皮膚がかぶれることがあるので、消毒液は微温等で洗い流しましょう。
  2. 男性では主に下腹部または大腿部に、女性では大腿部にカテーテルを固定します。固定にはテープまたは固定器具を用います。
  3. 採尿バッグは膀胱よりも低く、かつ床につかない位置に、カテーテルにたわみが出ないように設置します。
  4. 採尿バッグに必要な情報(氏名や交換日時など)を記入します。
  5. 利用者さん・ご家族の希望や管理のしやすさに合わせて、尿が見えないようにカバーで覆うなどの工夫をしましょう。

 

固定のポイント
テープは肌にやさしいものを選び、テープによる皮膚障害が起こらないように注意します。

固定するときは、男女ともにカテーテルにややゆとりをもたせてテープなどで固定します。

カテーテルにゆとりがないと、体動のたびにカテーテルが引っ張られて、抜去しやすかったり、尿道粘膜が摩擦により損傷される恐れがあります。

カテーテルの固定方法は、利用者さんの生活状況に応じて検討しましょう。

 

採尿バッグ設置のポイント
膀胱よりも採尿バッグを高い位置に置くと採尿バッグ内の尿が逆流してしまいます。

また、床に採尿バッグが接していると排尿口が汚染される恐れがあります。

これらは尿路感染症の原因となるので注意が必要です。

利用者さんの生活環境に合わせて整えていきましょう。

 

バルーン交換後の利用者さんに必要な説明

 

バルーン交換後、利用者さんに必要な説明をしましょう。

 

飲水指導
水分制限がない利用者さんには、飲水を勧めましょう。

尿の停滞や逆流が生じるのを予防するため、なるべく尿量が確保できるような指導が必要です。

尿道内を洗い流すことで、感染を防ぐことにつながります。

 

カテーテルトラブル時の対処法

固定テープが外れたとき、利用者さんやご家族で対処できるかどうかアセスメントし、セルフケア可能であれば指導を行っておきましょう。

体動は制限されませんが、カテーテルが引っ張られないように注意して生活していただくことを説明しておきます。

 

事故(自己)抜去や尿の異常時の連絡について
カテーテルが抜けてしまったとき、異物感などがみられたときは訪問看護師に連絡してもらうよう説明しておきましょう。

 

まとめ

 

 

バルーン交換は訪問看護でよう行われる医療処置のひとつです。

自信をもって安全に処置を行えるよう、正しい手順・注意点を押さえておきましょう。

手技を習得し、自信を持って実施できるまでは上司や同僚に同行してもらい、不安を解消してくださいね。

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ABOUT US
甲谷 多恵子看護師/ライター
看護師/急性期の総合病院で血液内科、レジデントの研修(内科混合)病棟等の病棟・外来勤務を経験。総合病院で15年間勤務後、訪問看護ステーションに転職。新規立ち上げからの管理者経験あり/デンマーク研修機会に恵まれたことを機に、訪問看護の可能性を再確認、多職種連携の中で専門性を発揮できるよう何事も勉強の毎日/北海道在住