今回は、訪問看護の現場でもすぐに役立つ「小児の脱水と対応」についてお話しさせていただきたいと思います。
今回の学習目標はこちらの3つです。
- 小児の脱水について理解ができる
- 経口補水療法(ORS)について理解ができる
- 医療的ケア児の脱水予防について理解ができる
では、早速やっていきましょう。
目次
体内の水分量について
「子どもの肌はツヤツヤしている」「弾力があるな」といったイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。
それは、子どもの体内水分量が成人に比べて高いという特徴があるからです。
これだけ聞くと、「子どもは水分が多いなら、脱水になりにくいのでは?」と思うかもしれません。
ですが、実はその逆で、子どもは非常に脱水を起こしやすいのです。
その理由を、これから詳しく解説していきます。
小児の体液組成の特徴
まず、小児の体液組成の特徴として、新生児では体重の約75%が水分です。
赤ちゃんがみずみずしいのはこのためですね。
体内の水分は「細胞内液」と「細胞外液」に分かれますが、乳児期までは細胞外液の割合が成人より高く、水分の入れ替わりが激しいため、脱水に陥りやすいと言われています。
この比率が成人とほぼ同じになるのは1歳頃です。
脱水とは?
脱水には以下の種類があります。
- 高張性
- 等張性
- 低張性
今回は②の最も一般的な「等張性脱水(体液の喪失により生命維持に必要な細胞外液が減少した状態)」についてお話しします。
子どもが脱水になりやすい理由
脱水になりやすい理由は以下の5つです。
順番に解説していきます。
体重に占める水分の割合が高い
先ほどお伝えした通り、体の70〜80%が水分なので、少しの水分喪失でも体への影響が大きくなります。
不感蒸泄量が成人に比べて多い
子どもは代謝が活発で熱産生が高いため、皮膚や呼吸から失われる水分(不感蒸泄)が大人より多くなります。
腎臓の濃縮力が未熟である
大人の腎臓は、体内の水分が少ない時に尿を濃くして、水分を再吸収する能力があります。
しかし、子どもの腎臓はこの機能が未熟なため、水分が少なくても薄い尿をそのまま排泄してしまい、水分が失われやすいのです。
自分で水分を摂取することが難しい
私たちは喉が渇けば自分で飲み物を探して飲めますが、子どもは喉の渇きをうまく伝えられなかったり、自分で水分を摂ることができません。
泣いたり機嫌が悪くなったりすることでしかサインを出せないため、周りの大人が気づいて先回りしてあげる必要があります。
感染症に罹患しやすく、嘔吐・下痢を起こしやすい
保育園や学校などでの集団生活により、ノロウイルスやロタウイルスといった感染性胃腸炎にかかる機会が多くなります。
嘔吐や下痢は直接的な水分の喪失につながり、脱水の大きな原因となります。
脱水の重症度と観察のポイント
脱水の重症度は、主に体重減少率で判断します。
体重減少率で見る
脱水の重症度を客観的に評価する上で、最も基本となるのが「体重減少率」です。
大まかな目安として、体重が5〜10%減少していれば、「中等症の脱水かな」というアセスメントができます。
これは乳児と幼児で基準が少し異なりますが、現場では非常に重要な指標になります。
例えば、いつもは10kgのお子さんの体重を測ったら、9.5kgに減っていたとします。
「たった500g」と思うかもしれませんが、これは体重の5%もの水分が体から失われたことを意味します。
この数字こそが、「脱水が始まっているかもしれない」と気づくための重要なサインなのです。
このサインを見つけたら、「おしっこは出ているかな?」「お口は乾いてないかな?」と、すぐに詳しい観察を始めるきっかけになります。
脈は速くないか?
バイタルサインを測定し、普段よりも頻脈になっていないかを確認します。
口の中は乾燥していないか?
口を開けてもらって、中がカサカサに乾いていないかを見ます。
脇の下は湿っているか?
これも大切なポイントです。
脇の下を触ってみて、汗をかいていなくて乾いていないかを確認します。
泣いた時に涙は出ているか?
もしお子さんが泣いていたら、それは絶好の観察チャンスです。
大声で泣いているのに涙が全く出ていなければ、それは脱水が進んでいることを示す分かりやすいサインになります。
このように、体重という数字を入り口に、質問と観察を組み合わせて総合的に状態を判断していくことが、適切なケアにつながっていきます。
【事例紹介】
ここで一つ、具体的な事例を考えてみましょう。
「午前中は普段通りだったのですが、午後から5回嘔吐し、下痢もしています。今は眠っているようですが、顔色が少し白っぽい気がして…。病院に行った方がいいでしょうか?」
このような相談があった場合、皆さんはどのように対応しますか?
私なら、まずはお母さんの不安な気持ちを受け止めることから始めます。
「心配でしたね。詳しくお話を聞かせていただいて、一緒にどうするか考えましょう」
このように伝えてから、次の7つのポイントを具体的に確認していきます。
嘔吐・下痢の量と回数
「5回吐いた」と言っても、口から「タラッ」と垂れた程度なのか、噴水のように「ゲボッ」と吐いたのかで、失われた水分量は全く違います。
「手のひらくらいの量が5回ですか?」など、量も具体的に確認することが大切です。
下痢についても、いつから何回くらい出ているかを確認します。
尿の状況(最終排尿時間、量、色)
「おしっこはいつから出ていませんか?」と確認します。
「6時間~8時間出ていない」となると、受診を勧めるサインです。
もし尿が出ている場合は、「おしっこの色はいつもと同じ黄色ですか?それともオレンジや茶色っぽい濃い色ですか?」と聞きます。
色が濃くなっていれば、脱水の兆候です。
意識レベル(ぐったりしていないか)
「眠っている」という言葉が、ただ眠いだけなのか、脱水による昏睡状態なのかを見極める必要があります。
これは非常に重要なので、お母さんに「申し訳ないのですが、お子さんを起こしてもらえますか?体を少し揺すったり、声をかけたりして反応があるか確認してください」とお願いをします。
刺激に対して泣いたり、何らかの反応があれば良いですが、ぐったりして起きない場合は緊急性が高いと判断します。
機嫌(涙は出ているか)
意識レベルとも関連しますが、泣いた時に涙が出ているかは重要なサインです。
機嫌が悪くても、涙が出ていればまだ体内に水分が残っていると考えられます。
顔色(循環不全の兆候はないか)
「顔色が白っぽい」というのが、循環不全による顔面蒼白のサインである可能性があります。
その場合は、すぐに病院を受診するよう伝えます。
周囲の感染状況
「ご家族や保育園のお友達に、同じように胃腸炎の症状がある方はいませんか?」と確認します。
ノロウイルスやロタウイルス、あるいはCOVID-19などが周囲で流行しているかどうかの情報は、受け入れ先の病院にとっても非常に重要になります。
経口摂取の状況
「何か口から飲めていますか?」と確認します。
もし全く飲めないのであれば、点滴が必要になる可能性が高いため、夜間救急外来の受診を提案します。
もし「少しなら飲める」という状況であれば、次に紹介する「経口補水療法」を試してみることを提案します。
「経口補水療法(ORS)」について
「飲む点滴」とも呼ばれ、OS-1などが有名です。
ただし、これを子どもに行う場合は、かなりの根気が必要になります。
そのため、まず保護者の方に「この方法はとても根気がいりますが、できそうですか?」と確認してから説明を始めましょう。
もし難しそうであれば受診を薦めます。
摂取方法について
嘔吐が続いているお子さんには、以下の方法で水分を与えます。
頻度:5分おき
これを繰り返し行います。スポイトを使うのも良い方法です。
5分おきに5ccを飲ませて、1時間ほど嘔吐がなければ、間隔を3分、2分と少しずつ短くしていきます。
しかし、もし途中で一度でも吐いてしまったらカウントはリセットし、また最初から5分おきに5ccを再開します。
目標摂取量
目標摂取量は体重によって決まっています。
- 乳児:100cc/kg/日
- 幼児:80cc/kg/日
- 学童:60cc/kg/日
先ほどの事例(1歳男児、9kg)であれば、目標は「80cc × 9kg = 720cc/日」です。
夜9時に電話があって、翌朝9時までの12時間で乗り切るとしたら、その半分の360ccが目標になります。
5ccを5分おきに720cc飲ませるのは本当に大変なので、「まずはOS-1の小さいボトル半分(約250cc)を目指してみませんか?」など、現実的な目標を伝えることも大切です。
注意点
経口補水療法を行う際には、必ず伝えてほしい注意点が3つあります。
スポーツドリンクやミルク、麦茶は代用不可
経口補水液は、水分と電解質が最も効率よく吸収されるバランスで調整されています。
糖分が多すぎるスポーツドリンクや、成分が異なるミルク、麦茶などでは代用できません。
絶対に薄めない
「味が濃いから」といって水やお茶で薄めてしまうと、最適な吸収バランスが崩れてしまい、全く意味がなくなってしまいます。
必ず原液のまま飲ませるよう指導してください。
3ヶ月未満、体重5kg以下の赤ちゃんには実施しない
月齢の低い赤ちゃんは状態の変化が急激なため、家庭での判断は危険です。
嘔吐や下痢がある場合は、この方法を試さず、すぐに医療機関を受診するよう促してください。
補足
経口補水液にはOS-1の他に、子ども向けに塩分を少し控えた「アクアライトORS」という製品もあります。
もし手に入るならこちらの方が飲みやすいかもしれませんが、なければOS-1で全く問題ありません。
最近はゼリータイプや青リンゴ味など、子どもが摂取しやすい工夫がされた製品もあるので、活用すると良いでしょう。
医療的ケア児の脱水予防で大切なこと
胃ろうや経管栄養のお子さんは、1日の注入量が指示で決まっていることが多いですよね。
しかし、私たち大人が運動後に水分を多く摂るのと同じで、彼らも常に一定の水分量で良いわけではありません。
以下のようなサインが見られたら、普段の注入量に加えて水分の追加が必要ではないかと考えるべきです。
- 体温が高い
- 普段より筋緊張が強い
- 発汗で衣服が湿っている
- 尿の回数や量がいつもより少ない
- 唾液が多い
- 嘔吐や下痢がある
ただし、一つ注意点があります。それは「胃残が多い時」です。
胃残が多いのは、体がうまく消化吸収できていないサインです。
その状態で無理に水分を入れても負担になるだけなので、水分注入は控えるべきです。
1時間経っても胃残が減らない、むしろ増えているような場合は、体調が悪化している可能性があるので、早めに受診を検討しましょう。
また、遠足や課外授業などのイベント時も注意が必要です。
いつもと違う環境や刺激で、本人が楽しんで興奮したり、緊張したりすることで、発汗が増えたり疲れやすくなったりします。
このような時は、決められた注入量にプラスして、水分を追加してあげる調整(100㏄程度)が必要になることがあります。
こうした状況に対応するために、日頃から主治医と水分調整について相談しておくことが非常に重要です。
「熱がある時や汗をたくさんかいている時は、1日に100cc程度までなら水分を追加しても良いですか?」といった形で、緊急時の水分追加に関する指示をあらかじめもらっておくと、訪問看護師としてその場で柔軟に対応できます。
まとめ
今回は、小児の脱水について、その原因から見極め方、具体的な対応、そして医療的ケア児の予防までを駆け足でお話しさせていただきました。
まだまだ残暑が厳しい日が続きますね。
お子さんたちを脱水から守るために、今日お話しした知識やアセスメントの視点を、ぜひ日々の訪問看護の現場で活かしていただけたら嬉しいです。




















