私が以前、知人に言われた言葉です。
それまで訪問看護師として当たり前に行ってきた夜間の緊急対応に、ハッとする瞬間でした。
訪問看護では、利用者さんの家に上がり看護を提供します。
24時間対応を行うステーションでは、当然上記のような状況もあり得ます。
信頼関係を築いてきた利用者さんがほとんどだと思いますが、万が一暴力やセクハラがあった場合には、どのように対応することが望ましいのでしょう。
この記事を目に留めてくださった方は、ぜひ一緒に考えてみませんか。
目次
介護現場におけるハラスメントとは?
厚生労働省が提示する介護現場におけるハラスメント対策マニュアルでは、介護現場での暴力の定義を以下の内容としています。
身体的暴力
身体的な力を使って危害を及ぼす行為。(職員が回避したため危害を免れたケースを含む)
○コップをなげつける
○蹴られる
○手を払いのけられる
○たたかれる
○手をひっかく、つねる
○首を絞める
○唾を吐く
○服を引きちぎられる
精神的暴力
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。
○大声を発する
○サービスの状況をのぞき見する
○怒鳴る
○気に入っているホームヘルパー以外に批判的な言動をする
○威圧的な態度で文句を言い続ける
○刃物を胸元からちらつかせる
○「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する
○利用者の夫が「自分の食事も一緒に作れ」と強要する
○家族が利用者の発言をうのみにし、理不尽な要求をする
○訪問時不在のことが多く書置きを残すと「予定通りサービスがなされていない」として、謝罪して正座するよう強く求める
○「たくさん保険料を支払っている」と大掃除を強要、断ると文句を言う
○利用料金の支払を求めたところ、手渡しせずに、お金を床に並べてそれを拾って受け取るように求められた。
○利用料金を数か月滞納。「請求しなかった事業所にも責任がある」と支払いを拒否する
○特定の訪問介護員にいやがらせをする
セクシュアルハラスメント
意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。
○必要もなく手や腕をさわる
○抱きしめる
○女性のヌード写真を見せる
○入浴介助中、あからさまに性的な話をする
○卑猥な言動を繰り返す
○サービス提供に無関係に下半身を丸出しにして見せる
○活動中のホームヘルパーのジャージに手を入れる
訪問看護に潜む危険、ハラスメントの発生の実際とは?
厚生労働省の平成30年の調査によると、調査を受けた訪問看護の職員がこれまでに利用者からハラスメントを受けたと回答した人は全体の55.8%にも及びます。
また、具体的なハラスメントの内容では、身体的暴力が45.4%、精神的暴力が61.8%、セクシュアルハラスメントが53.4%との結果が出ています。
ハラスメントを受けても我慢してしまい、なかなか言い出せずにいる方もいる可能性も含めると、実際にはさらに多い数字なのかもしれません。
私も訪問看護の現場で、利用者さんから唾を吐かれる、包丁を向けられる、つねられるなど身体的な暴力を経験したことがあります。
また、卑猥な言動やヌード写真を見せられるなど、セクシュアルハラスメントに当たる場面もありました。
当時はまだ訪問看護師として経験が浅く、どのように対応すれば良いのか悩んだこともあります。
同じように悩んでいる事業所も多いのではないかと思います。
訪問看護では、そのような暴力、セクハラについてどのように対策していけば良いのでしょうか。
訪問看護で行うべき対策とは?
兵庫県看護協会では、以下のような暴力等対策フローチャートを示しています。
連絡経路など事業所にあったものに修正し、活用することができます。
暴力やセクハラに事前にできる対策
暴力、セクハラに対する事業所の対策を公表する
事前にできる対策として、暴力やセクハラを許さないという意思表明を行い、職員だけでなく利用者さんへの周知のため契約書や重要事項説明書に事業所の対応を明記しておくことは重要です。
上記に記した定義を掲載しておくことも、現場に立つ職員の相談の目安となり有効と考えます。
暴力、セクハラについて研修を行う
暴力やセクハラに対し、事業所として一定の知識を持つことも重要です。
外部研修や参考ホームページなどの情報を元に、事業所としての対応策を職員に周知しておきましょう。
避難訓練のように、シュミレーションを繰り返し行うことで、ハラスメント発生時には慌てずに行動できます。
また、研修を行うことで、ハラスメントが生じた際に職員が我慢してしまうのではなく、相談しやすい環境を作ることもできますね。
安全を考慮した訪問を行う
初回訪問は管理者と職員の同行訪問を予定します。
一人での訪問が安全に行うことができるかをアセスメントし、必要時には引き続き複数名訪問を了承いただくなど早急に対応できるよう準備します。
また、定期訪問が始まる時には、管理者は職員の訪問場所や移動手段、訪問時間などを把握しておきます。
暴力やセクハラが発生した時の対策
訪問者は冷静な対応を行い、必要時には避難をする
訪問時には、利用者さんは部屋の奥、訪問者はドアに近い場所に座るようにします。
万が一に備えて、退路を確保して訪問することも必要です。
ハラスメント発生時には、上記のフローチャートにあるように冷静に対応します。
訪問者は行為者から一定の距離を取り、必要時には退室します。
管理者は訪問者の安全を確保する
ハラスメント発生時には、訪問者の身の安全を確保することが最優先です。
身の安全を確保したらすぐに管理者に連絡をしましょう。
社用携帯電話などすぐに取り出すことができる場所に入れておくと良いですね。
訪問者は慌ててしまうことも多いと予測されますので、連絡を受けた管理者は冷静に具体的な行動を促し調整を図りましょう。
各所への連絡、報告を行う
管理者は、訪問者の安全を確保できるよう指示した後に、利用者さん宅に訪問して状況の確認を行います。
状況に応じてケアマネジャーや利用者さん家族へ連絡報告を図ります。
行為者が利用者さん本人の場合には、可能な限り本人に了承を得て家族へ連絡するようにします。
行為者の興奮状態や凶器の有無などを考慮して、必要時には警察への通報を行います。
記録へ記載する
ハラスメント発生時には、詳細を記録に残します。
訪問者が事実を簡潔に記載します。
当日の記載が難しい場合には、後日でも良いとされています。
必要時には受診をする
管理者は被害にあった訪問者の心身の状況を十分に確認し、必要時には受診を促します。
職務中の暴力の被害は、労災に該当します。
医師の診断書の必要性など労災の申請に必要な書類についても、管理者は把握しておきましょう。
暴力やセクハラが発生した後の対策
被害者の状態に応じた受診の継続
暴力やセクハラ被害にあった訪問者は、被害の大小に関わらず精神的にもダメージを受けます。
管理者は被害にあった職員に支援的に関わり、心のケアを継続して行います。
必要な場合には、専門家によるカウンセリングを受けられるよう業務の調整を行いましょう。
被害にあった訪問者は十分な休養をとれるよう配慮する
被害にあった訪問者への精神的な影響は、数日から数週間経過してから現れることもあります。
管理者は、被害にあった訪問者が十分に休養を取り、無理なく就業できるよう、勤務調整を行いましょう。
管理者は行為者への対応をする
暴力やセクハラ行為が発生した場合、管理者は行為に至った経緯を職員だけでなく行為者にも状況確認をする必要があります。
状況の確認をする場合には、行為者を責めることはせず、中立の立場で話を聞くようにしましょう。
そして、今後同様のことが発生しない解決策を話し合います。
解決策が守れず同様の暴力やセクハラ行為が発生する場合には、訪問看護の中止の検討もやむを得ません。
必要時には法的手段を取る
暴力が発生した場合には被害者を守ることを最優先事項とし、組織的に対応します。
暴力は刑法により、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損等として処罰される可能性があります。
行為者との交渉が必要な場合には、管理者が代行して行為者と連絡を取り合うなど対応します。
まとめ
今回は、訪問看護に潜む危険についてお伝えしました。
現在の事業所での対策は、十分にできているでしょうか。
暴力やセクシュアルハラスメントはないことが一番ですが、万が一の備えは必要です!
訪問看護に従事する皆さんの安全と安心を守ることができるよう、これからも一緒に考えていきましょう。