「今月は医療費がかさんでしまって、利用者さんの自己負担はどこまで抑えられるのだろう」——訪問看護ステーションの現場や事務局では、こうした相談を受けることも少なくありません。医療保険で訪問看護を利用している方にとって、高額療養費制度は暮らしを守る大切な仕組みです。
この記事では、高額療養費制度の基本的な仕組みから自己負担限度額の計算方法、世帯合算・多数回該当による負担軽減、そして令和8年8月・令和9年8月から予定されている制度改正のポイントまで、訪問看護の現場で利用者に説明できるレベルで整理しました。
- 高額療養費制度の基本的な仕組みと自己負担限度額の計算方法
- 70歳以上・69歳以下の自己負担限度額の一覧(年齢・所得区分別)
- 世帯合算・多数回該当でさらに負担が軽くなる仕組み
- 令和8年8月・令和9年8月から予定されている制度改正のポイント
- 訪問看護における高額療養費の手続き方法(マイナ保険証・限度額適用認定証)
目次
高額療養費制度とは?訪問看護利用者にとっての基本の仕組み
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の自己負担額が、ひと月(月の初日から末日まで)で上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度など、公的医療保険に加入していれば誰でも利用できます。
高額療養費制度の対象となるのは、保険診療にかかる自己負担分のみです。入院時の食事負担、差額ベッド代、先進医療にかかる費用などは対象に含まれません。
医療保険で訪問看護を利用している利用者の場合、訪問看護ステーションの基本利用料や各種加算も自己負担額に含まれます。他の医療機関への通院費用と合算した結果、上限額を超えるケースもあるため、訪問看護に携わるスタッフとしても仕組みを理解しておく必要があります。

医療保険の訪問看護を利用している利用者さんは、他の医療機関の受診分と合わせて上限額を超えていないか、一度確認してみるとよいですね。
自己負担限度額の考え方と計算方法【具体例つき】
自己負担限度額は、年齢(70歳未満か70歳以上か)と所得区分によって決まります。所得が高いほど上限額も高くなる「応能負担」の考え方が基本です。
上限額の計算式には「〇〇円+(医療費-××円)×1%」という形のものがあります。これは、一定額を超えた医療費についてはその1%分だけ追加で自己負担する、という考え方です。
具体例で確認してみましょう。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 70歳以上 |
| 所得区分 | 年収約370万円~約770万円(3割負担) |
| 医療費 | 100万円(窓口負担3割=30万円) |
- 窓口負担を確認する医療費100万円のうち3割負担のため、窓口で支払う額は30万円になります。
- 所得区分の計算式にあてはめるこの所得区分の自己負担限度額は「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」です。計算すると、80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。
- 差額が高額療養費として支給される窓口で支払った30万円と、自己負担限度額87,430円との差額である212,570円が高額療養費として払い戻されます。
上記の限度額は、後述する「令和8年7月診療分まで」の現行の金額です。令和8年8月からは所得区分ごとの金額が見直されます(詳しくは後述します)。
【最新】70歳以上・69歳以下の自己負担限度額一覧(現行:令和8年7月診療分まで)
現行制度(令和8年7月診療分まで)における自己負担限度額は、次のとおりです。
69歳以下の方の自己負担限度額
| 所得区分(年収目安) | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 約770万~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 約370万~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| ~約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
70歳以上の方の自己負担限度額
| 所得区分(年収目安) | 外来(個人ごと) | 上限額(世帯ごと) | 多数回該当 |
|---|---|---|---|
| 現役並みⅢ(約1,160万円~) | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 同左 | 140,100円 |
| 現役並みⅡ(約770万~約1,160万円) | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 同左 | 93,000円 |
| 現役並みⅠ(約370万~約770万円) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 同左 | 44,400円 |
| 一般(~約370万円) | 18,000円(年14.4万円上限) | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税等Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 | ― |
| 住民税非課税等Ⅰ(所得が一定以下) | 8,000円 | 15,000円 | ― |
※現役並み所得者(現役並みⅠ~Ⅲ)には外来特例がなく、外来・入院とも世帯ごとの上限額が適用されます。
さらに負担を抑える「世帯合算」の仕組み
1回分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、同じ医療保険に加入する世帯内の複数の受診分を1か月単位で合算できるのが「世帯合算」です。合算額が上限額を超えれば、その超えた分が高額療養費として支給されます。
69歳以下の方の受診については、1回あたり21,000円以上の自己負担のみが合算の対象になります。少額の受診分は合算されないため注意しましょう。

訪問看護の利用料と、ご家族が別の医療機関にかかった分を合算できるケースもあります。心当たりがある利用者さんには、一度加入している保険者に確認するようお伝えするとよいですね。
さらに負担を抑える「多数回該当」の仕組み
直近12か月以内に3回以上、高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は「多数回該当」として自己負担限度額がさらに引き下げられます。長期間にわたって医療費がかさむ利用者にとって、非常に重要な負担軽減の仕組みです。
例えば69歳以下・年収約370万~約770万円の方の場合、通常の上限額は「80,100円+医療費の1%」ですが、多数回該当になると上限額は44,400円まで下がります。
【重要】令和8年8月・令和9年8月からの高額療養費制度の見直しで何が変わる?
高額療養費制度は、令和8年8月と令和9年8月の2段階で見直しが予定されています。当初は令和7年8月からの実施が検討されていましたが、患者団体などからの意見を踏まえて一度見送られ、低所得者・長期療養者への配慮を強化したうえで、あらためて見直し内容がまとめられました(令和8年6月時点の厚生労働省公表資料に基づく)。
| 実施時期 | 主な見直し内容 |
|---|---|
| 令和8年8月~ | 一人当たり医療費の伸びに応じて月額上限額を見直し。長期療養者への配慮から、新たに「年間上限」を導入 |
| 令和9年8月~ | 応能負担の観点から所得区分をさらに細分化。年収200万円未満の方の多数回該当の金額を引き下げ |
令和8年8月からの69歳以下の方の主な月額上限額は、次のように見直されます。多数回該当の金額はいずれの区分も据え置かれます。
| 所得区分(年収目安) | 現行(~令和8年7月) | 令和8年8月~ | 年間上限(新設) |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円~ | 252,600円+1% | 270,300円+1% | 1,680,000円 |
| 約770万~約1,160万円 | 167,400円+1% | 179,100円+1% | 1,110,000円 |
| 約370万~約770万円 | 80,100円+1% | 85,800円+1% | 530,000円 |
| ~約370万円 | 57,600円 | 61,500円 | 530,000円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 36,900円 | 290,000円 |
70歳以上の方についても、所得区分に応じて月額上限が引き上げられるとともに、外来特例(個人ごとの上限額)に新たに年間上限が設けられます。多数回該当の金額はいずれの年齢層でも据え置かれるため、長期にわたって治療を継続している利用者の負担が急激に増えることはない設計になっています。
見直しの詳細は今後の法令改正によって正式に確定します。本記事の内容は令和8年6月時点の厚生労働省公表資料に基づいています。最新情報は必ず厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
訪問看護における高額療養費の手続き方法
高額療養費は、原則として利用者自身が保険者に申請する「償還払い」で支給されますが、一定の条件を満たせば、窓口での支払い自体を上限額までに抑える「現物給付化」が可能です。
償還払い
利用者が加入する保険者(協会けんぽの都道府県支部、健康保険組合、市区町村、後期高齢者医療広域連合など)に対し、訪問看護ステーションなどが発行した領収書を添えて支給申請書を提出し、払い戻しを受ける方法です。
現物給付化(限度額適用認定証・マイナ保険証)
次のいずれかに該当する場合は、訪問看護ステーションの窓口で支払う基本利用料そのものが、あらかじめ上限額までに抑えられます。
- 70歳以上の利用者(現役並み所得者を含む)
- マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)を提示し、オンライン資格確認によって所得区分が確認できた利用者
- 「限度額適用認定証」または限度額情報が記載された「資格確認書」の提示があった利用者

マイナ保険証を利用登録している方であれば、基本的に事前の認定証申請は不要です。マイナ保険証を持っていない方には、加入している保険者に「限度額適用認定証」または限度額情報つきの「資格確認書」の交付を申請するようご案内しましょう。
訪問看護ステーションの現場で押さえておきたいポイント
訪問看護ステーションの管理者・経営者としては、制度の詳細をすべて暗記する必要はありませんが、利用者やご家族から相談を受けたときに、次のような視点で案内できると安心してもらえます。
- 医療保険で訪問看護を利用している方は、他院への通院分と合わせて上限額を超えていないか確認するよう案内する
- 長期間、医療費が高額になっている利用者には「多数回該当」に該当していないか一緒に確認する
- マイナ保険証を利用していない利用者には、限度額適用認定証・資格確認書の交付手続きを案内する
- 令和8年8月以降は上限額が変わるため、請求担当者は最新の所得区分表を都度確認する
高額療養費制度は複雑に感じられがちですが、「上限額を超えた分は戻ってくる」「マイナ保険証があれば窓口負担は自動的に上限額までに抑えられる」という2点を伝えるだけでも、利用者の不安はかなり軽減されます。
よくある質問(FAQ)
高額療養費はいつまでに申請すればよいですか?
高額療養費の申請には時効があり、診療を受けた月の翌月1日から2年以内に申請する必要があります。2年を過ぎると払い戻しを受けられなくなるため、早めに申請しましょう。
訪問看護だけを利用している場合も高額療養費の対象になりますか?
医療保険で訪問看護を利用している場合は、高額療養費制度の対象になります。介護保険で訪問看護を利用している場合は、高額療養費制度ではなく「高額介護サービス費」という別の制度が適用されます。
限度額適用認定証がなくても窓口負担は上限額までに抑えられますか?
マイナ保険証を利用登録している方は、オンライン資格確認により所得区分が確認できるため、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担は上限額までに抑えられます。マイナ保険証を利用していない方は、限度額適用認定証や限度額情報つきの資格確認書の交付を事前に受けておく必要があります。
令和8年8月の制度改正で、自己負担は必ず増えるのですか?
所得区分や受診状況によって異なります。月額上限は多くの所得区分で引き上げられますが、多数回該当の金額は据え置かれ、新たに年間上限も導入されるため、長期療養が必要な方についてはかえって年間の負担が軽くなるケースもあります。
世帯合算はどのような場合に利用できますか?
同じ医療保険に加入している家族が、同じ月にそれぞれ医療機関を受診した場合、その自己負担額を合算できます。ただし69歳以下の方の受診については、1回あたり21,000円以上の自己負担のみが合算の対象です。
まとめ|高額療養費制度を正しく理解して利用者の不安に応えよう
高額療養費制度は、医療費の自己負担が上限額を超えた場合に払い戻しを受けられる、家計を守るための重要なセーフティネットです。世帯合算や多数回該当を活用すればさらに負担を抑えられ、令和8年8月・令和9年8月からは制度自体も見直されます。
- 高額療養費制度は、月ごとの自己負担額が上限額を超えた分を払い戻す制度
- 上限額は年齢(70歳未満/70歳以上)と所得区分によって異なる
- 世帯合算・多数回該当を使えば、さらに自己負担を抑えられる
- 令和8年8月・令和9年8月から、月額上限の見直しと「年間上限」の新設が予定されている
- マイナ保険証があれば、原則として事前の認定証申請なしで窓口負担を上限額までに抑えられる
制度の仕組みを理解し、利用者やご家族に自信を持って説明できるようにしておきましょう。












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