令和8年9月30日に開かれた第268回社会保障審議会介護給付費分科会で、厚生労働省は「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」を示しました。「物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善」を第1の視点に置き、全部で5つの視点に整理されています。
4月から続いてきたサービス別・テーマ別の議論を、改定の方向性として一度まとめた資料です。この後は、この視点に沿って訪問看護を含む各サービスの具体的な見直し(単位数・算定要件)の議論が進みます。経営者・管理者が押さえておきたいポイントを整理します。
- 第268回介護給付費分科会(令和8年9月30日)で示された「基本的な視点(案)」の中身
- 改定の前提になる3つの基本認識と、5つの基本的な視点
- 訪問看護ステーションの経営に関係しそうな記述と、注意したい「適正化・重点化」
- 今のうちに進めておきたい実務対応
目次
何が決まったのか(ニュースの概要)
厚生労働省は令和8年9月30日(水)13:30〜15:30、第268回社会保障審議会介護給付費分科会をWeb会議形式で開催しました。議題は「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点の検討」で、資料1「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」と資料2「同(案)概要」が示されています。
資料1によると、分科会は本年4月以降、計9回にわたり各サービスや横断的な課題を議論し、関係団体との意見交換会も3回行ってきました。今回の案は、その議論を踏まえて改定全体の方向性を整理したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会議名 | 第268回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議) |
| 開催日 | 令和8年9月30日(水)13:30〜15:30 |
| 議題 | 令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点の検討 |
| 主な資料 | 資料1「基本的な視点(案)」、資料2「基本的な視点(案)概要」 |
| 位置づけ | 「案」の段階。単位数や算定要件はまだ決まっていない |

「基本的な視点」は、改定のときに何を大事にするかを示す土台です。ここに書かれた方向性に沿って、訪問看護の加算や基準の見直しが議論されます。まだ点数が決まった段階ではないことは押さえておきましょう。
内容の詳細
改定の前提となる3つの基本認識
資料1は、まず介護を取り巻く状況を3つに整理しています。
| 基本認識 | 主な記述(資料1より要約) |
|---|---|
| (1)経済状況の変化への対応 | 物価・賃金の上昇が続き、他産業で賃上げが進むなか、介護現場は厳しい状況。令和7年度介護事業経営概況調査では、全サービスで赤字事業者の割合は約4割。介護サービスは公定価格のため、コスト増を事業者が自分で価格に反映するのは難しい |
| (2)人口構造の変化への対応 | 2040年に向けて医療と介護の両方が必要な85歳以上が増える一方、サービス需要が増える地域と減る地域の差が広がる。令和8年6月成立の改正社会福祉法等で、中山間・人口減少地域向けの「特定地域サービス」等が創設された |
| (3)地域共生社会の実現と高齢者の安心の確保 | 医療ニーズの高い高齢者や認知症の人、独居高齢者が増えるなか、看取りへの対応を含めて医療と介護の連携を一層進める必要がある |
5つの基本的な視点
そのうえで、令和9年度改定の基本的な視点は「概ね次の5点に集約される」としています。
| 視点 | 主な内容(資料1・2より要約) |
|---|---|
| ①物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善 | 経営状況や賃上げの状況を把握したうえで、物価・賃金の上昇を介護報酬に適切に反映。経営の安定を図り、他職種と遜色のない処遇改善を実現する |
| ②人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築 | 「特定地域サービス」等が機能するよう、サービス提供のあり方・人員配置基準・報酬を検討。中山間地域の加算のあり方の見直し、地域での協働化、タスクシフト/シェアを進める |
| ③地域包括ケアシステムの深化 | 医療ニーズが高い人や看取りへの対応を含む医療と介護の連携、生活期のリハビリ、災害・感染症時の業務継続、虐待防止、認知症の人の社会参加、有料老人ホームの質と透明性の確保。LIFEの活用を通じた科学的介護も推進 |
| ④職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上及び介護人材の確保 | 職員の負担軽減や職場環境の改善を推進。居宅系サービスも含めてAI等の介護テクノロジーの活用やタスクシフト/シェアで生産性を高める |
| ⑤制度の安定性・持続可能性の確保 | 現役世代を中心に保険料負担の増加への懸念があるなか、限られた財源を有効に使う。評価の適正化・重点化、報酬体系の整理・簡素化を進める |

①で「処遇改善」が先頭に来ている一方、⑤では「適正化・重点化」「簡素化」もはっきり書かれています。上がる部分と絞られる部分の両方がある、という読み方が大切です。
訪問看護ステーションへの影響
資料には訪問看護だけを取り上げた記述はありません。ただ、次の記述は訪問看護の経営に関係しそうです。
- 処遇改善(視点①):物価・賃金の上昇を報酬に反映し、他職種と遜色のない処遇改善を目指すとしています。看護職員の賃金水準をどう評価するかは、今後の各論で注目されます
- 医療と介護の連携・看取り(視点③):医療ニーズが高い人や看取りへの対応が明記されました。訪問看護の役割に直接関わる部分です
- 中山間地域の加算(視点②):「中山間地域の加算のあり方の見直し」が明記されました。訪問看護にも中山間地域等に関する加算があるため、該当地域の事業所は影響を受ける可能性があります
- 居宅系のテクノロジー活用(視点④):施設系だけでなく居宅系サービスも対象と明記されました。記録・情報共有のICT化などが評価の対象になるかがポイントです
- 適正化・重点化(視点⑤):サービス提供の実態を把握したうえで評価を見直すとしています。算定実態とのずれが大きい加算などは見直しの対象になり得ます
今回示されたのは「基本的な視点(案)」で、改定の方向性を示したものです。訪問看護の単位数・加算・算定要件がどう変わるかは、今後の分科会の議論、審議報告、告示などを経て決まります。資料の記述だけで、特定の加算が上がる・下がると判断しないでください。
今からやるべき実務対応
- 自事業所の収支と賃金水準を整理する物価・賃金上昇の反映や処遇改善が議論の中心になります。人件費率、職員の賃金推移、処遇改善加算の算定状況をまとめておくと、改定後の試算をすぐ行えます。
- 算定中の加算を棚卸しする「適正化・重点化」に備え、現在算定している加算と、その要件の充足状況を一覧にしておきましょう。
- 医療連携・看取りの実績を記録する医療ニーズの高い利用者や看取りへの対応件数、主治医・ケアマネジャーとの連携実績を記録として残しておくと、評価の見直しにすぐ対応できます。
- 今後の分科会の各論を継続して確認するこの視点に沿って、訪問看護を含むサービスごとの見直し議論が進みます。資料は厚生労働省の分科会ページに掲載されます。
第268回介護給付費分科会で、訪問看護の報酬は決まりましたか?
決まっていません。第268回で示されたのは「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」で、改定全体の方向性を整理したものです。訪問看護の単位数や算定要件は、今後の議論を経て決まります。
基本的な視点(案)の5つの視点とは何ですか?
①物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善、②人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築、③地域包括ケアシステムの深化、④職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上及び介護人材の確保、⑤制度の安定性・持続可能性の確保、の5つです。
令和9年度介護報酬改定で、報酬は上がるのですか?
現時点では分かりません。基本的な視点(案)は、物価・賃金の上昇を報酬に適切に反映し、処遇改善を進める方針を示しています。一方で、評価の適正化・重点化や報酬体系の簡素化も掲げています。改定率や個別の単位数は今後決まります。
まとめ|改定の方向性は「処遇改善」と「適正化」の両面
第268回介護給付費分科会では、令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)が示されました。処遇改善を先頭に置く一方で、評価の適正化・重点化や報酬体系の簡素化も掲げており、訪問看護の各論でも両方の方向から議論が進むとみられます。
- 令和8年9月30日の第268回分科会で「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」が示された
- 5つの視点の第1は「物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善」
- 医療と介護の連携・看取り、中山間地域の加算の見直し、居宅系のテクノロジー活用なども明記された
- 「評価の適正化・重点化」「報酬体系の整理・簡素化」も掲げられており、見直される加算が出る可能性がある
- 単位数・算定要件はまだ決まっておらず、今後の各論の議論を確認する必要がある
収支・賃金・加算の算定状況を今のうちに整理しておくと、改定内容が見えてきた段階ですぐに影響を試算できます。






















