「特別養護老人ホーム(特養)に入所している利用者さんから訪問看護の依頼を受けたけれど、算定できるのか判断がつかない」——ケアマネジャーや訪問看護ステーションの管理者からこうした相談を受けたことはないでしょうか。
特養は施設に医師・看護職員が配置されているため、訪問看護は原則として利用できません。しかし、末期の悪性腫瘍(がん末期)などの一定の条件を満たす場合には例外的に算定できるケースがあります。この記事では、厚生労働省通知をもとに、特養入所者への訪問看護算定の原則と例外を整理して解説します。
- 特養入所者に訪問看護が原則利用できない理由
- 末期の悪性腫瘍の場合に医療保険で訪問看護が算定できる仕組み
- 認知症患者への精神科訪問看護、ショートステイ利用時の例外的な取扱い
- 特養と訪問看護ステーションが連携する際に押さえておきたい実務ポイント
目次
特別養護老人ホーム(特養)とは?
特別養護老人ホームは、介護保険制度上の「介護老人福祉施設」(定員29名以下の場合は「地域密着型介護老人福祉施設」)にあたる施設です。対象は原則65歳以上で、身体上または精神上著しい障害があり常時介護を必要とし、自宅での生活が困難な方です。
施設には配置医師(嘱託医)や施設の看護職員が置かれ、入浴・排せつ・食事などの日常生活上の介護、機能訓練、日常的な健康管理などが、施設サービスの一部として提供される仕組みになっています。
特養入所者への訪問看護は原則算定できない
結論から言うと、特養に入所している方に対して、外部の訪問看護ステーションが訪問看護療養費を算定することは、原則としてできません。
これは、特養では施設の配置医師・看護職員による医療的対応が、介護報酬(施設サービス費)の中で評価されているためです。厚生労働省の通知「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」(令和6年3月27日保医発0327第9号による改正後のもの)では、特養等に入所している患者について、訪問看護基本療養費・訪問看護管理療養費・訪問看護ターミナルケア療養費など訪問看護療養費に係る各種の点数を、原則として算定の対象としない旨が明記されています。


「特養に入っているから訪問看護は絶対に無理」と思い込んでいる方も多いのですが、実際には例外規定があります。まずは利用者さんの病状が「末期の悪性腫瘍」に該当するかどうかを、主治医に確認することが最初のステップですね。
なぜ特養では訪問看護が原則利用できないのか
特養では、施設の運営基準上、配置医師(嘱託医)を置くことが定められています。入所者に対する日常的な医学的管理は、この配置医師と施設の看護職員によって行われる前提になっており、その分の費用は介護保険の施設サービス費(介護報酬)の中に含まれて評価されています。
そのため、同じ内容の医療的対応について、外部の医療機関や訪問看護ステーションが医療保険の診療報酬・訪問看護療養費を別途算定してしまうと、介護報酬と医療保険の給付が重複してしまうことになります。これを避けるための整理が、いわゆる「医療保険と介護保険の給付調整」であり、特養等に入所している患者については、初診料・再診料や訪問看護療養費など幅広い診療報酬項目が原則として算定対象外とされています。
逆に言えば、末期の悪性腫瘍や認知症のケースのように配置医師だけでは専門的な対応が難しい場面については、あらかじめ例外規定を設けることで、外部の訪問看護ステーションが関われる仕組みになっている、という理解をしておくとよいでしょう。
例外|末期の悪性腫瘍の場合は医療保険で訪問看護が可能
特養に入所していても、末期の悪性腫瘍(がん末期)と診断されている方については、例外的に医療保険による訪問看護が利用できます。「末期」の判断は主治医の診断によるものです。
前述の厚生労働省通知では、訪問看護基本療養費・訪問看護管理療養費・訪問看護ターミナルケア療養費・訪問看護ベースアップ評価料などについて、「特別養護老人ホームの入所者であって、末期の悪性腫瘍であるものを除く」という形で、末期の悪性腫瘍の入所者はこれらの算定除外規定の対象から外れる(=算定できる)ことが明記されています。
| 入所者の状態 | 訪問看護療養費の算定 |
|---|---|
| 末期の悪性腫瘍に該当しない | 原則として算定できない(施設の配置医師・看護職員が対応) |
| 末期の悪性腫瘍に該当する | 医療保険による訪問看護療養費(基本療養費・管理療養費・ターミナルケア療養費等)を算定できる |
| 認知症で精神科訪問看護の対象となる | 精神科訪問看護基本療養費等を算定できる(後述) |
末期の悪性腫瘍の場合、訪問看護は介護保険ではなく医療保険での提供となります。要介護認定を受けている方であっても、末期の悪性腫瘍に該当すれば医療保険の給付が優先される点は、他の疾患の場合と同様の整理です。
認知症の場合は精神科訪問看護が算定できるケースがある
意外と見落とされがちですが、前述の厚生労働省通知では、精神科訪問看護・指導料や精神科訪問看護基本療養費についても、「特別養護老人ホームの入所者であって認知症の患者以外の患者を除く」という規定になっています。つまり、認知症の診断がある入所者については、精神科訪問看護の対象として算定できるという整理です。
末期の悪性腫瘍のケースと同様に、対象となるかどうかは主治医の診断・指示に基づきます。特養の配置医師や施設の看護職員だけでは専門的な精神科的対応が難しいケースで、外部の訪問看護ステーションが精神科訪問看護として関わる余地があることは、押さえておきたいポイントです。
ショートステイ(短期入所生活介護)利用中の例外的な取扱い
短期入所生活介護(ショートステイ)・介護予防短期入所生活介護を利用している方についても、末期の悪性腫瘍または認知症の患者は、一定の条件のもとで訪問看護療養費等を算定できる取扱いがあります。
厚生労働省通知では、「当該患者のサービス利用前30日以内に患家を訪問し、訪問看護療養費を算定した訪問看護ステーションの看護師等が指定訪問看護を実施した場合に限り、算定することができる」とされています。つまり、ショートステイ利用前から在宅で関わっていた同じ訪問看護ステーションが、利用中も継続して訪問する場合に限定されるという整理です。ショートステイ先に初めて訪問する形での新規算定はできない点に注意が必要です。

特養と訪問看護ステーションが連携する際の実務ポイント
特養入所者への訪問看護は例外的な取扱いであるため、実務上は次のような点を押さえておくとスムーズです。
- 末期の悪性腫瘍・認知症のいずれに該当するかを、主治医の診断書・指示書で明確にしておく
- 特養の配置医師・施設看護職員と、訪問看護ステーションの役割分担をあらかじめ整理しておく
- ショートステイ利用者への対応では、サービス利用前からの関わりがあるかどうかを確認する
- 算定要件は改定のたびに見直されるため、最新の告示・通知を都度確認する

特養との連携では「誰が何を担当するのか」を曖昧にしないことが大切です。ターミナル期は状態が急変しやすいので、施設側と訪問看護側で情報共有のルールを事前に決めておくと、いざというときに慌てずに対応できますよ。
よくある質問
特別養護老人ホームに入所していると訪問看護は絶対に利用できませんか?
原則としては利用できませんが、例外があります。末期の悪性腫瘍と診断されている方、または認知症で精神科訪問看護の対象となる方については、医療保険による訪問看護を利用できるケースがあります。
末期の悪性腫瘍かどうかは誰が判断しますか?
「末期」の判断は主治医の診断によります。訪問看護ステーション側で自己判断するものではなく、主治医の診断書や訪問看護指示書の内容に基づいて算定の可否を確認する必要があります。
特養入所者は介護保険と医療保険のどちらで訪問看護を受けますか?
末期の悪性腫瘍に該当する場合は、医療保険による訪問看護療養費の算定となります。介護保険の訪問看護費ではない点に注意が必要です。
ショートステイ(短期入所生活介護)中の利用者にも訪問看護は算定できますか?
末期の悪性腫瘍または認知症の患者について、サービス利用前30日以内に患家を訪問し訪問看護療養費を算定していた訪問看護ステーションが、利用中も継続して訪問する場合に限り算定できるとされています。ショートステイ先に新規で訪問を開始する形では算定できません。
認知症の入所者への精神科訪問看護は特養でも算定できますか?
厚生労働省の通知では、特別養護老人ホームの入所者であって認知症の患者については、精神科訪問看護・指導料や精神科訪問看護基本療養費の算定除外規定の対象から外れる整理になっています。主治医の診断・指示のもとで、精神科訪問看護として関われる余地があります。
介護老人保健施設(老健)でも同じ取扱いになりますか?
老健は特養以上に医師・看護職員の配置が手厚い施設であり、訪問看護の取扱いは施設の種類によって規定が異なります。この記事は特別養護老人ホームを対象とした解説のため、老健など他の施設に入所している方については、それぞれの施設に適用される厚生労働省の通知・基準を別途確認してください。
実際の算定にあたっては、利用者さんごとの病状・主治医の診断内容を踏まえ、最新の告示・通知および所属事業所の算定ルールに従って確認してください。
まとめ|特養入所者への訪問看護は「例外要件」を正しく理解しよう
特養に入所している方への訪問看護は、原則として算定できないものの、末期の悪性腫瘍や認知症の精神科訪問看護といった明確な例外規定があります。要件を正しく理解し、主治医の診断・指示に基づいて判断することが、適切な算定と利用者さんへの支援につながります。
- 特養入所者への訪問看護療養費の算定は原則できない
- 末期の悪性腫瘍の場合は、医療保険による訪問看護療養費を算定できる
- 認知症の場合は、精神科訪問看護として算定できるケースがある
- ショートステイ利用中は、利用前から関わっていた訪問看護ステーションに限り継続対応が可能
特養との連携ルールを事前に整理しておくことが、スムーズな算定と利用者さん本位のケアにつながります。
























