令和2年度の診療報酬改定において、精神科訪問看護療養費の見直しがありました。
これは、精神障害を有する者への適切かつ効果的な訪問看護の提供を推進する観点から、利用者の状態把握等を行うことが可能となるようにするために行われた改定です。
今回は、精神科訪問看護の算定要件となる「GAF尺度」についてわかりやすく解説していきます。
目次
精神科訪問看護のGAF尺度とは?
GAF尺度とは?
GAF尺度(Global Assessment of Functioning)は、日本語では、機能の全体的評定尺度と表します。
GAF尺度は、成人の社会的・職業的・心理的機能を評価するのに用いられている1~100の数値スケールで、数値が大きいほど精神面について健康であると言われています。
また、GAF尺度は身体的および環境的制約による障害は含みません。
あくまでも精神障害および知的障害を対象として社会的機能水準を評価するツールです。
GAFの読み方
GAF尺度は、「ギャフ尺度」、「ガフ尺度」、または「ジーエーエフ尺度」と読みます。
GAF尺度の評価の仕方
GAF尺度を評価するには、以下の評価表を用いて行います。
点数は、1〜100点の10段階に分けられます。
また、機能の状態の具体的な内容には、精神症状の「重症度」と社会や職業における「機能レベル」の2つの部分から成り立っています。
例えば、70~61点の機能の状態を見てみます。
いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)、または、社会的、職業的または学校の機能にいくらかの困難はある(例:時にずる休みをしたり、家の金を盗んだりする)が、全般的には、機能はかなり良好であって、有意義な対人関係もかなりある。
この場合、精神症状の重症度は「いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)」です。
社会や職業における機能レベルは「社会的、職業的または学校の機能にいくらかの困難はある(例:時にずる休みをしたり、家の金を盗んだりする)が、全般的には、機能はかなり良好であって、有意義な対人関係もかなりある。」となります。
GAF尺度の機能の状態は、重症度と機能レベルの2つで構成されている
GAF尺度の評価を行う際の注意点
GAF尺度の評価を行う際には、精神症状の「重症度」または社会や職業における「機能レベル」について当てはまる段階のうち、より点数の低い方を選択します。
精神症状の重症度は70~61点の「いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)」に当てはまったとしても、社会や職業における機能レベルが50~41点の「社会的、職業的または学校の機能において何か重大な障害(友達がいない、仕事が続かない)。」に当てはまる場合には、50~41点の段階を選択します。
情報が不十分な場合には、0点となります。
また、GAF尺度は評価日から1週間前まで遡って、1番悪かった状態を評価します。
重症度と機能レベルに段階の相違がある場合には、低い方を採用する
また、過去1週間の中で最も悪い状態を評価する
GAF尺度の点数のつけ方
GAF尺度の点数は、以下の手順でつけていきます。
手順1
対象者の1週間の様子で一番精神状態が良くなかったエピソードに対し、「機能の状態」の100〜91点の段階から順に比較し、精神症状の重症度または社会や職業における機能レベルのどちらかが当てはまる低い段階を選択します。
手順2
選択した段階のすぐ下の段階と比較し、下の段階には当てはまらないことを確認します。
手順3
1の位の程度は評価者が設定するものです。
「機能の状態」の前後の内容を見て、点数の高い方の段階に近い場合にはその段階に近い数値である7、8、9、0の数値をつけます。
点数の低い方の段階に近い場合にはその段階に近い数値である1、2、3、4の数値をつけます。
ちょうど中間と考えられる場合には、5をつけます。
訪問看護におけるGAF尺度の評価の具体例
事例1
Aさんは、うつ病の診断を受け、薬物治療を継続しながら在宅で一人暮らしをしている。
作業所に週3日通っている。
作業所の仲間と言い合いになり、イライラしてしまい落ち着かず眠れない日があった。
1日作業所を休んだが、休息を取ることで症状は改善した。
再び作業所へ行くことができ、仲間とも和解したと穏やかに話す様子があった。
この場合は、重症度は焦燥感と不眠症状があり、70~61に該当します。
機能レベルとしては、一時的に作業所で人間関係のトラブルが生じた経緯がありますが、和解することができており概ね良好であるため、70~61と評価します。
段階の分類は、重症度および機能レベルともに70~61となりました。
「機能の状態」にちょうど当てはまる状態と考えられるため、AさんのGAF尺度は「65点」と評価します。
事例2
Bさんは、統合失調症の診断を受け、入院加療し退院して3ヶ月が経過した。
デイケアを休まず利用しており、利用者との関係性もトラブルなく過ごすことができていた。
退院後は週に1回程度幻聴の症状があったが、日常生活は円滑に行っている。
数日前に家族との関係がうまくいかず口論になり、その頃から2~3日に1回程度幻聴の症状を自覚することが増え、不眠症状が見られている。
意欲の低下があり、デイケアも数日前より休んでいる。
この場合は、重症度は頻回な幻聴と不眠症状、意欲低下があることから中等度の障害と判断し60~51と評価します。
機能レベルとしては、デイケアの利用は一時的に継続できず、家族との関係悪化も認めるため、60~51と評価します。
段階の分類は、重症度および機能レベルともに60~51となりました。
症状の出現によりデイケアを休むことになり、改善が見られていないことから「機能の状態」は50~41に近い傾向にあり、BさんのGAF尺度は「52点」と評価します。
事例3
Cさんは、うつ病の診断を受け、在宅で薬物療法を継続している。
数ヶ月間、「何もしたくない。」と話され、受診以外は自宅で横になって過ごすことが多いが、訪問ヘルパーの介入により入浴や簡単な食事の用意は行っている。
服薬は継続しており、夜間はよく休むことができている。
数人であるが友人とSNSを通じてコミュニケーションを取ることもある。
数ヶ月前には作業所に通っていたが、現在は作業所へはやめてしまった。
この場合は、重症度は意欲低下や感情が平板的な様子があり、中等度の障害と判断し60~51と評価します。
機能レベルとしては、他者からの支援により身の回りのことはできているが、社会的活動はできず50~41と評価します。
段階の分類は、重症度と機能レベルを比較し、低い方の50~41を選択します。
「機能の状態」の40~31に近い傾向にあり、BさんのGAF尺度は「41点」と評価します。
精神科訪問看護の診療報酬の算定にはGAF尺度の記載が必要
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)及び(Ⅲ)を算定する場合には、訪問看護記録書、訪問看護報告書及び訪問看護療養明細書に、月の初日の訪問看護時におけるGAF尺度により判定した値を記載する。
上記の算定要件を満たして精神科訪問看護を提供した場合、以下の通り診療報酬を算定することができます。
明細書へのGAF尺度の記載方法
精神科訪問看護基本療養費(I)又は(III)を算定した場合は、「特記事項」欄の「10 GAF」の数字を○で囲み、当該月の初日の指定訪問看護時におけるGAF尺度により判定した値と、判定した年月日をあわせて記載すること。
なお、電子計算機の場合は、「10 GAF」の○に代えて( )等を使用して記載することも差し支えないこと。
訪問看護報告書へのGAF尺度の記載方法
「GAF」の欄について
精神科訪問看護報告書においては、月の初日の指定訪問看護時におけるGAF尺度により判定した値及び判定した年月日を記入すること。
訪問看護記録書へのGAF尺度の記載方法
精神科訪問看護に係る記録書IIにおいては、月の初日の指定訪問看護時には、GAF尺度により判定した値を記入すること。
精神科訪問看護のGAF尺度に関するQ&A
厚生労働省から出ている「GAF尺度」に関するQ&Aは以下の通りです。
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GAF尺度は、身体的および環境的制約による障害は含まない