このような疑問を解決する記事です。
中央社会保険医療協議会(精神医療について:その1)の報告によると、精神科病院に入院している方のうち、65.2%の方が家庭へ退院しています。
しかし一方で、精神病床に入院してから1年以内に退院した方のうち、30%以上の方が1年以内に再入院しているということも報告されました。
参考)厚生労働省 中央社会保険医療協議会 令和5年11月22日 精神医療について(その1)
つまり、退院後の生活において必要な支援が不足し、精神症状の再発によって地域での生活が困難になっている方がいると考えられます。
そのため、精神疾患をもつ在宅の利用者さんや家族を支援する必要性は高いと言えるでしょう。
在宅生活を送る精神疾患の方には、精神科訪問看護による支援が有効です。
精神科訪問看護は、地方厚生局に届け出をした看護師や作業療法士が、それぞれの強みを活かして利用者さんの望む生活が送れるように支援していきます。
今回はリハビリの視点から、精神科訪問看護における作業療法士の役割を6つ紹介します。
精神疾患をもつ方の在宅生活支援のポイントを知りたい方は、本記事を参考にしてください。
目次
精神科訪問看護における作業療法士の役割6つ
精神科訪問看護における作業療法士の役割6つは、次のとおりです。
- 日常生活動作の支援
- 家事動作の支援
- 外出の支援
- 創作活動の支援
- 生活リズム構築の支援
- 運動機能の支援
それぞれについて、詳しく解説します。
①日常生活動作の支援
精神疾患をもつ利用者さんは、在宅生活への不安や意欲の低下などによって、日常生活動作能力が低下している場合があります。
そのため作業療法士は、歩行、食事、排泄、入浴などの日常生活動作を評価し、楽にできるコツや手順などを助言し、一緒に練習していきます。
自分でできる日常生活動作を増やすことで、不安の軽減や意欲の向上だけでなく、生活リズムを整えることにもつながるでしょう。
②家事動作の支援
精神疾患をもつ利用者さんの中には、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断などの認知機能が低下してしまう方がいます。
これにより、手順が多く複雑な家事動作をスムーズに遂行できなくなります。
このような方には、ペースに合わせて一緒に家事動作を練習し、手順をアドバイスしたり作業耐久性の向上を図ったりすることが重要です。
家事動作の支援により達成感や自信を得られ、日中を有意義に過ごすきっかけになります。
③外出の支援
利用者さんの中には、精神症状から、外出に対して以下のような状況に陥ることがあります。
- 妄想や幻覚:外出へ恐怖を感じたり警戒心をもったりする
- 意欲の低下:自発的に何かをしたいと思わなくなる
これらによって外出の機会が減り、家に閉じこもってしまうのです。
そこで作業療法士は、利用者さんの考えに共感しつつ、外出に対してさまざまな角度から考え方をアドバイスします。
特に、外出することが「怖いこと」「警戒すべきこと」であるという固まった考え方をほぐすことが大切です。
様子を観察しながら少しずつ散歩や買い物などに出かけ、自信や意欲の向上を図っていきます。
④創作活動の支援
漠然とした不安や焦燥感から活動する気になれず、何も手をつけられなくて悩んでいる方には、創作活動の支援を行う場合があります。
主には、折り紙や絵画、パズル、園芸などを一緒に行い、気分転換や集中力の向上を図ります。
創作活動により、利用者さんの興味や関心を知れたり、承認欲求を満たしたりできるだけでなく、家族や他の支援者との会話のきっかけを生むことも可能です。
⑤生活リズム構築の支援
精神症状が不安定になったり、疲労やストレスがたまったりすると、睡眠障害や日中の活動性低下が起こり、生活リズムが乱れやすくなります。
こういった方には、生活リズムを構築できるように支援します。
具体的な支援内容は以下のとおりです。
- 寝た時間と起きた時間を記録する睡眠確認表を作成する
- 「夜にシャワーを浴びた後にはベッドに横になる」といった決めごとをつくる
規則正しい生活を送るための支援は、心身の健康を維持するためにとても重要です。
⑥運動機能の支援
筋力低下による歩行の不安定さや腰痛などによって、活動性が低くなっている方には運動機能の支援もします。
最近では、作業療法士が行う運動機能の支援に着目して、主治医が訪問看護を指示する場合も多くなっている印象です。
作業療法士が行う運動機能の支援には、筋力増強のための運動や痛みを軽減するためのストレッチなどがあります。
精神科作業療法と関連が深い症状としては、精神的ストレスによる痛みです。
ストレスや不安などを長い期間感じている方はドパミンが放出されにくく、痛みを感じやすくなることがあります。
どのようなストレスがあるか評価したり、不安の程度などを確認したりして、気分や生活状況に応じて本人が楽しいと感じられる運動やウォーキングも行います。
まとめ
本記事では、精神科訪問看護における作業療法士の役割を6つ紹介しました。
- 日常生活動作の支援
- 家事動作の支援
- 外出の支援
- 創作活動の支援
- 生活リズム構築の支援
- 運動機能の支援
作業療法士の役割は看護師と重なる部分もありますが、リハビリの視点という強みを活かすことで、以下のような支援ができます。
- 利用者さんの生活の幅を広げる
- 気分転換やポジティブな気持ちにする
こういった関わりが利用者さんに希望を与え、QOLの向上につながると思っています。
ぜひ本記事を参考に、精神科訪問看護の作業療法に活かしてもらえれば幸いです。