「訪問時に大量の残薬が出てきて、整理だけで訪問時間の大半が終わってしまった」「服薬カレンダーにセットしたのに、なぜか飲み忘れが続く」——訪問看護で服薬管理に介入する中で、こうした悩みを感じたことがある方は多いのではないでしょうか。
服薬管理は、訪問看護で依頼される機会がとても多い支援のひとつです。しかし、利用者さんの生活背景や認知機能、身体機能によって最適な方法は異なり、画一的なやり方では上手くいかないことも少なくありません。この記事では、訪問看護での服薬管理において大切な視点と、現場で実践しやすい具体的な工夫を、多職種連携の考え方も交えて解説します。
- 訪問看護で服薬管理の依頼が増える背景と、看護師の介入が必要な理由
- 服薬管理で大切にしたい3つの視点(時間の確保・利用者への配慮・主治医との情報共有)
- 残薬整理・セット方法・処方調整・利用者との協働という4つの具体的な工夫
- ポリファーマシー対策における訪問看護師の役割
目次
訪問看護で服薬管理の依頼が増える背景
ケアマネジャーから服薬管理を目的に訪問看護の依頼を受けるのは、次のようなケースが多くあります。
- 服薬の内容が複雑で、利用者さん本人による自己管理が困難
- 薬効が強く、服薬後の定期的な体調確認が必要
- 認知機能や身体機能の低下により、自己管理に支援が必要
「服薬ができているかどうか」の確認だけであれば訪問介護事業所の介入でも可能です。しかし、内服薬をセットする作業や、服薬による体調変化の観察には看護師の専門的な判断が必要になるため、訪問看護が介入する意義があります。
訪問看護での服薬管理で大切にしたい3つの視点
具体的な工夫の前に、服薬管理という支援そのものに向き合う際の姿勢を整理しておきましょう。
1. 初回訪問では残薬確認の時間を十分に確保する
服薬の自己管理が困難な状態にあるからこそ依頼に至るケースが多いため、初回訪問時にはたくさんの残薬を所持していることが少なくありません。残薬の確認・整理に時間がかかることを見込んで、初回訪問のスケジュールには十分な時間を確保しておきましょう。
2. 服薬は利用者さんの「私物」でもあるという意識を持つ
訪問看護の利用に同意していても、これまで自分で行ってきた服薬管理を他者に任せることに、喪失感や抵抗感を抱く利用者さんもいます。服薬は治療に必要なものである一方、利用者さんの私物のひとつでもあります。私物を管理する支援をさせていただいているという意識を忘れず、丁寧に取り扱い、気持ちに寄り添う配慮を心がけましょう。
3. 在宅での服薬状況を主治医に共有する
主治医は、定期的に服薬できていることを前提に診察・処方をしています。しかし、診察の場での本人からの聴取だけでは、在宅での実際の服薬状況が十分に伝わらないこともあります。訪問看護が把握した在宅での服薬状況は、治療方針を決定するうえで重要な情報になるため、積極的に主治医へ情報提供することが大切です。

「なぜ服薬管理の依頼が来たのか」という背景を理解しておくと、利用者さんへの向き合い方も変わってきます。「できないことを補う」というより「一緒に整えていく」という姿勢で関わりたいですね。
訪問看護での服薬管理の工夫【4つのポイント】
ここからは、現場で実践しやすい服薬管理の工夫を4つの観点に分けて紹介します。
工夫1:残薬は輪ゴムやジッパーバッグで整理する
訪問開始時、利用者さんが多くの残薬を持っていることがあります。まずは現在治療に必要な薬と中止になっている薬を分け、次回受診までに不足がないか残数を確認しましょう。
薬の種類が多く受診が数か月ごとの場合、手持ちの薬はかなりの量になります。訪問時に正確かつスムーズにセットを行うには残薬の整理整頓が必須です。ジッパーバッグの大袋・輪ゴム・付箋などを使い、1週間分や10ヒートずつの束にまとめておくとよいでしょう。
何年も前に処方された薬やヒートが破れている薬がある場合は、利用者さんやご家族、ケアマネジャーの同意を得て処分を検討します。使用できる状態の残薬が多い場合は、主治医や薬剤師に相談し、一時的に処方をストップして残薬から使用させてもらう方法もあります。

工夫2:個別性に合ったセット方法で過剰内服を防ぐ
在宅での服薬セット方法には、いくつかの選択肢があります。
| セット方法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 服薬カレンダー | 本人だけでなく家族や他の訪問サービス関係者も目視で飲み忘れを確認できる | 設置場所によっては取り出す際の転倒リスクがある |
| 1週間分の服薬ケース | コンパクトにまとまり管理しやすい | 高齢や疾患による指先の機能によっては取り出しにくい |
| 1日分の服薬ケース | 1回あたりの取り出しがシンプル | ケースの補充・管理の手間が発生する |
| 1日分を卓上にセット | すぐに手に取れる | 置き場所によっては誤って触れる・こぼれるリスクがある |
それぞれのセット方法が利用者さんにとって適切かどうかは、生活環境や身体機能を踏まえて十分にアセスメントする必要があります。また、認知症のある利用者さんの場合、セット方法の変更が混乱を招くことがある点にも注意が必要です。
服薬管理で最も避けたいのは過剰内服です。特に麻薬など取り扱いに注意が必要な薬剤を内服している場合は、より慎重な対応が求められます。セット方法を変更するタイミングでは、一時的に訪問頻度を増やして服薬状況を評価するなど、安全に配慮した対策を検討しましょう。
厚生労働省の指針でも、一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないと指摘されています。剤形や調剤の工夫は、利用者さん一人ひとりの服用管理能力に合わせて選ぶことが前提になります(出典は記事末尾を参照)。
工夫3:服薬状況を報告し、主治医に処方調整を依頼する
服薬の自己管理が難しくなる要因のひとつに、服薬の種類やタイミングの多さがあります。高齢になるほど複数の疾患を抱え、服薬量が増えていく傾向があります。
処方薬を実際には飲めていない状況が明らかになっていないと、症状が改善しないという見立てのまま追加処方につながることもあります。訪問看護の介入で服薬の飲み忘れが判明し、その原因が服薬の種類の多さや、生活リズムに服薬タイミングが組み込めていないことにあると考えられる場合は、積極的に主治医やかかりつけ医へ相談してみましょう。
「朝薬は確実に飲めているが夕薬は飲み忘れが多い」といった在宅での実際の状況を情報提供することで、処方内容の見直しにつながることがあります。必要に応じて一包化を依頼することで服薬しやすくなる場合もありますが、前述のとおり一包化が万能な解決策ではない点も踏まえ、利用者さんの状態に合った提案を心がけましょう。
工夫4:利用者さんと共に服薬管理を行う
訪問看護師が服薬管理のすべてを担ってしまうと、利用者さんは「今まで自分でできていたこと」を他者に委ねることになり、喪失感を感じる方もいます。すべてを看護師が代行するのではなく、利用者さんと一緒に服薬管理を行うことで、自尊心を守ることにもつながります。
ヒートの薬を1個ずつ切り分ける作業や、一包化薬を切り分ける作業などを一緒に行うことは、手指のリハビリにもなります。できることは無理のない範囲で担ってもらう、という視点を持つとよいでしょう。

多職種連携とポリファーマシー対策における訪問看護師の役割
高齢者は複数の疾患を抱えることが多く、服用する薬剤の種類が増えやすい傾向があります。多剤服用に伴って薬物有害事象のリスク増加や服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下が起こることは「ポリファーマシー」と呼ばれ、厚生労働省が対策を進めているテーマです。
厚生労働省の指針では、訪問看護師と在宅訪問に対応する薬剤師が連携し、服薬状況・残薬の確認や整理・服薬支援を行うことが期待される、と示されています。訪問看護師は日々の観察の中で、服薬アドヒアランスの低下要因(認知機能の低下・難聴・視力低下・手指の機能障害・日常生活動作の低下など)に気づきやすい立場にあります。気づいた情報は、訪問看護記録や報告書を通じて主治医・薬剤師と共有し、処方の見直しにつなげていきましょう。
よくある質問
服薬管理はヘルパーでも対応できますか?
「服薬ができているか」の確認自体は訪問介護事業所の介入でも可能です。しかし、内服薬をセットする作業や、服薬による体調変化の観察には看護師の専門的な判断が必要になるため、その部分は訪問看護が担う意義があります。
一包化をすればすべての利用者さんの服薬アドヒアランスは改善しますか?
必ずしもそうとは限りません。厚生労働省の指針でも、一包化を行うことが必ずしも服薬アドヒアランスを向上させる方法ではないと指摘されています。剤形や調剤の工夫は、利用者さん一人ひとりの服用管理能力や生活状況に合わせて検討することが大切です。
認知症のある利用者さんのセット方法を変更したいときの注意点は?
認知症のある利用者さんは、セット方法の変更によって混乱をきたすことがあります。変更する際は、一時的に訪問頻度を増やして服薬状況を評価するなど、安全に配慮した対策を検討しましょう。
利用者さんが服薬管理を他人に任せることに抵抗を感じている場合はどうすればよいですか?
服薬は治療に必要なものである一方、利用者さんの私物のひとつでもあります。すべてを看護師が代行するのではなく、ヒートを切り分ける作業などを利用者さんと一緒に行うことで、自尊心を守りながら支援を進めることができます。
訪問看護師が把握した服薬状況は、どのように主治医に伝えればよいですか?
訪問看護記録や訪問看護報告書を通じて、実際の服薬状況(飲めている時間帯・飲み忘れが多い時間帯など)を具体的に伝えることが有効です。在宅での実情を伝えることで、処方内容の見直しや一包化の依頼などにつながることがあります。
記事中の服薬支援・多職種連携に関する記述は、上記指針の内容を踏まえたものです。実際の対応にあたっては、必ず主治医・薬剤師の指示および利用者さんの状態に応じて判断してください。
まとめ|服薬管理は「利用者さんと一緒に整える」視点が大切
訪問看護での服薬管理は、単に薬をセットする作業ではなく、利用者さんの生活・気持ち・多職種との連携まで含めた支援です。残薬整理・個別性に合ったセット方法・主治医への情報共有・利用者さんとの協働という4つの工夫を組み合わせることで、より安全で継続しやすい服薬管理につながります。
- 残薬は輪ゴムやジッパーバッグで整理し、次回受診までの不足を確認する
- セット方法は利用者さんの身体・認知機能に合わせて選び、変更時は慎重に評価する
- 在宅での服薬状況を主治医に共有し、処方調整(一包化含む)を相談する
- すべてを代行せず、利用者さんと一緒に取り組むことで自尊心を守る
- ポリファーマシー対策として、訪問看護師と薬剤師の連携が期待されている
効果的な服薬管理を通じて、利用者さんがより長く安定して在宅生活を続けられるよう支援していきましょう。
























