訪問看護での場面で、利用者さんや家族に「ついでに薬をとってきてほしい」と薬の受け取りを頼まれたことはありませんか?
その時、「これは法律的に大丈夫なの?」「看護師が薬を代わりに受け取っていいの?」と判断に迷うことがあると思います。
今回は、訪問看護の薬の受け取りに関する法的根拠や実務上の注意点を解説いたします。
目次
訪問看護師が直面する「薬の受け取り」問題とは
訪問看護でよくあるケースで、独居で薬局に薬を取りにいけない利用者さんや、家族の都合で薬局に薬を取りにいけない場合などに、薬の受け取りを頼まれることがあります。
実際、在宅で過ごされている方には自分で処方された薬を受け取ることが大変な方も沢山います。
訪問看護師として、薬の受け取りを頼まれた際にどのような対応が望ましいのでしょうか?
訪問看護師が薬を受け取っていいの?
結論、薬の受け取りは原則「本人または家族が受け取る」こととなります。
訪問看護師が薬を代理で受け取る行為は、原則として好ましくないとされており、法律上非常に慎重な扱いが求められます。
訪問看護師が薬の受け取りができない理由
- 訪問看護師の業務範囲が看護ケアに限定されている
訪問看護師は、医師の指示のもと看護業務を行うことが前提です。たとえ、医療職であっても薬局から薬を「利用者さんの代理で」受け取る行為は原則業務に含まれていません。
なので、薬の受け取りは通常の看護業務の範囲から逸脱する可能性があります。
- 薬剤師による服薬指導の対面原則がある
薬機法(旧薬事法)では、薬剤師は対面(または映像・音声を使った一定の条件下での遠隔)で、利用者に対して服薬指導を行わなければならないと定められています(薬機法 第9条の4)。
薬の正しい使い方、副作用、飲み合わせなどの指導は、薬剤師にしか行えません。
訪問薬剤師と訪問看護師の違い
比較 | 訪問薬剤師 | 訪問看護師 |
---|---|---|
薬の交付 | ○ 本人に届けて可 | ✕ 原則不可(やむを得ない例外を除く) |
法的根拠 | 薬機法上明確に認められている | 薬機法に明確な根拠なし・グレーゾーン |
服薬指導 | 薬剤師が行う | 行えない(医療職として服薬管理は可能) |
訪問薬剤師とは?
訪問薬剤師とは、利用者さんの自宅に訪問して、薬の交付や服薬指導や薬歴管理、服薬支援などを行う薬剤師のことです。
- 病気、障がい、要介護などで通院・来局が困難な方
- 自宅での薬の使用や管理に不安がある方
- 医師がその必要性を認め、薬剤師に訪問を指示した場合
訪問薬剤師によるサービスを利用するには、医師の指示が必要です。
また、2つの制度があり、大きく異なる点は使用する保険とサービスを受ける対象者の違いです。
- 介護保険に分類
-
ケアマネージャーと連携し、介護サービス計画の作成に必要な情報提供を行う
- 対象:介護保険のサービスを利用できる65歳以上の方で、かつ要介護1以上の認定を受けている方
- 医療保険に分類
- 処方医の指示に基づき、薬歴管理、服薬指導、服薬支援、残薬管理などを行う
- 対象:要介護認定を受けていない方
どちらの制度でも、薬剤師が定期的に訪問して服薬支援を行ってくれます。
薬の受け取りに関しても安心して任せることができるため、訪問看護とのチーム連携に非常に有効です。
【実務】薬の受け取りをやむを得ず行う場合の注意点
「どうしても受け取りを頼まれた」「急ぎで薬が必要」など、やむを得ない状況が起こることもあります。
そのような場合、以下のような対応をとることでリスクを最小限に抑えることができます。
-
医師からの明確な指示を受け、訪問看護指示書に記載してもらう
-
薬剤師と事前に相談し、誰がどのような指導をしたか記録に残しておく
-
家族や本人から「薬の受け取り代行依頼書」などの文書をもらう
こうした対応を通じて、「一時的な代行」であることと、「薬剤師による指導は済んでいる」ことを明確にしておくことが大切です。
まとめ
訪問看護師が薬を代理で受け取る行為は、法律上グレーゾーンであり、原則として好ましくありません。
薬の受け取りは、薬剤師による対面での服薬指導が義務付けられており、訪問看護師はその代行はできません。
薬の受け取りや指導が必要な場合は、医師の指示のもと訪問薬剤師の活用が望まれます。
薬の受け取りに関して法的根拠を理解し、多職種連携を行うことで利用者さんをチームで支えることができ、QOL向上につながります。
それぞれの専門性を活かした連携を心がけましょう。