「発達障害」は、医療看護分野だけでなく、身近によく耳にする言葉です。
そもそも「発達障害」とは、1987年にアメリカ精神医学会で発表されました。
日本では、2000年代になってからメディアで取り扱われて浸透し、見聞きする機会が多くなりました。
脳の機能的な異常であり、原因は現在の研究では解明されていませんが症状には個人差があり、遺伝や環境などの様々な要因が関係していると考えられています。
成人後にわかる「大人の発達障害」も最近では注目されています。
訪問看護でも発達障害のある利用者さんは多くおられ、個別に合わせた対応が必要なので悩む機会が多いのではないでしょうか。
目次
発達障害とは?
2013年アメリカ精神医学会の定める診断基準(DSM-5)によると、発達障害は、かつての自閉症や広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称をまとめた「ASD」(自閉症スペクトラム症)や、「ADHD」(注意欠如・多動性障害)、「LD」(学習障害)に分かれます。
複数の特性をあわせもつ場合もあり、ASDとADHDについては、知的障害が重なっていることもあります。
発達障害によって引き起こされる問題
先に述べた通り、発達障害は生まれつきの特性で病気ではありません。
脳の機能的な異常により様々な障害が表れている状態を指し、それはあくまで個人の特性です。
しかし、発達障害は外見からは分かりにくく、本人も周囲もその特性に気付かないまま社会生活を営むと様々な困りごとが生じてしまいます。
発達障害は外見では殆ど見分けがつかないため、周囲からの叱責などが原因で大きなストレスを抱えてしまい、自己肯定感が低下してしまいます。
結果、生きづらさなどを感じ、適応障害やうつ病をはじめとする二次障害に陥ることが少なくありません。
実際に、精神科訪問看護で出会う利用者さんの背景に発達障害を認める事例がとても多いです。
- うつ病
- 適応障害
- 強迫性障害
- 不安障害
- パニック障害
- 恐怖症
- 強迫性障害
- 心的外傷後ストレス障害
- 急性ストレス障害
- 依存症
- 心身症
- 引きこもり
- 不登校 等
睡眠障害や不安障害に睡眠薬や抗不安薬が処方されることがあります。
しかし、あくまで対症療法であり、根本的な解決法ではありません。
二次障害を予防する上で大切なことは、その人の特性(得手不得手)や魅力など、「その人」に目を向けることです。
そして、その人自身でもそれらを自覚し、上手く周囲の理解や適切なサポートを受けることが肝要です。
大人の発達障害を持つ利用者さんとの訪問看護での関わり
それでは、具体的に訪問看護での関わりについてみていきましょう。
ポイントは、「苦手」を解消せず「得意」を大切に!
生活リズム
人は、生活の乱れやストレスでホメオスターシス(生体恒常性)が容易に脅かされます。
心身の不調から、二次障害の出現や悪化の原因になります。
発達障害の利用者さんは、寝食を忘れて没頭してしまうこと(過集中)や、To Do List忘れや予定の先延ばしなどの特性により、生活リズムが乱れがちであり、また睡眠障害との関係性も示唆されています。
朝は起きる、1日3食摂取する、入浴する、活動時間を決める、などの規則正しい生活を送ることが大切です。
しかし、生活リズムの改善については、発達障害で困っていることに着目し対策をしていくことで、自然と良くなってくるものだと捉えた方が良いと考えます。
それが出来ないことでの悩みや辛さを理解し寄り添い、改善の方法を一緒に模索してアプローチしていきましょう。
食生活
発達障害の利用者さんは感覚過敏から食生活が偏ってしまう場合が多くあり、栄養障害を引き起こすこともあります。
栄養障害は精神状態にも悪い影響を及ぼしますが、感覚過敏の利用者さんに嫌なことを強制する訳にはいきません。
長年の習慣であり、採血結果も悪くないので他の食材を摂る必要はない、野菜なんて食べたくない、と強く主張されていました。
ある日、各地の名物料理の話題をしていた所、浜松は餃子が有名である話になりました。
幼少期は餃子を食べていたことを思い出され、話してくださいました。
それから時々餃子の話題が出ることが増えてきて、買い物に行かれた時に餃子が置いていないかを確認されるようになり、ある日、「餃子をまた食べてみたい」と打ち明けて下さいました。
どこの店でどの商品を購入するかをまず決め、フライパンを購入し、「中火で〇分加熱」「油と水は〇ml」「何時から焼き始めるか」など細かく餃子を食べることのルールを作り、練習を重ねました。
一度決めたことを守るのはとても得意で、行動力もある利用者さんです。
日々のルーティンに組み込むことができ、2日に1回摂取できるようになりました。
このことからも、発達障害の利用者さんにとって一つのことを取り入れることに時間と労力がかかります。
やる気に働きかけ、挑戦を支持し、支援者は根気強くとことんお付き合いすることが重要だと考えます。
特性への対応
よくあるケースで、発達障害の中でADHD、ASDの方に多くみられる症状として「過集中」があります。
この症状により一つの作業に没頭してしまい、寝食まで疎かになる方もいらっしゃいます。
そして、集中力が切れてしまうと一気に疲れが出てしまい、寝込んでしまうことも多くありません。
つまり、作業のペース取りがとても苦手で、「ぼちぼち」「ほどほど」ができません。
こまめな休憩を取るにしても、「疲れたから休憩しよう」という判断は難しいので、時間で区切る、作業を区分けして行う、などの物理的な目安が必要です。
また、「10割の力を出し切らず、6割程度で取り組む」意識を持っていただくことは繰り返しお伝えしていきたい所です。
また、自身が疲れ切った時の身体のサイン(寝込んでしまう、味覚障害が出る、頭痛が出る、等)を利用者さん自身で理解し、状態を把握・対応できる力を徐々に身に着けていってもらいたいです。
環境調整
発達障害の利用者さんは、様々な特性から環境がストレスになることが多くあります。
それを自身で改善することは難しく、利用者さんに合った環境調整を一緒に行うことが必要だと考えます。
ADHDの場合、耳から入った情報をうまく処理できず、混乱したりすることがあります。
ASDの場合、目から入ってきた情報の処理に困難さがあります。
また、家族を含め対人関係がうまくいかず、ストレスになっている方もおられます。
- 音や光などの刺激の遮断(カーテンをひく、ヘッドフォンをするなど)
- 部屋の片付け、片付けやすいような工夫(箱を置き、物の住所を決めるなど)
- 自分ルールで部屋を模様替えする
- 机などの作業スペースの確保
- 忘れ物対策(メモやボードの活用など)
- 一人暮らしや家族と過ごす空間を分ける、しんどい時の避難場所の確保
- 対人関係上での助言(大人数の場所は避ける、言動を起こす前に一呼吸置くなど)
特性は変えられないので、少しでも楽に過ごせるような工夫を具体的に探り、一緒に対策していきましょう。
認知行動療法
認知行動療法とは、認知(物事の受け取り方や考え方)にはたらきかけて気持ちを楽にする精神療法の一種です。
人はストレスなどによる負荷がかかると、悲観的に物事を捉えてしまいがちになります。
認知行動療法の目的は、その人なりのストレスとの上手な付き合い方を習得することです。
訪問看護師も、概要は理解しておく方がよりよい関わりに繋がると考えます。
ここでは詳しくは触れませんが、以下を参考にして下さい。
また、感情整理が苦手であることも、発達障害の利用者さんの大きな特徴です。
アンガーマネジメントも合わせて行うことで、より効果的です。
周囲の理解
発達障害の利用者さんは、普段とは異なる状況や突然の変更にパニックを起こしやすいです。
周囲が特性を理解して接することで、ストレスが少なく落ち着いた日常を過ごすことができ、生きづらさの改善に繋がっていきます。
また、混乱を防ぐため、仕事先や学校、家族や他支援者も同じ認識を持ち、統一した関わりも必要です。
訪問看護はご自宅に伺って援助を行うので、利用者さんのことをより良く知れる立場にありますので、発信し、橋渡しをすることが求められています。
おわりに
いかがでしたでしょうか?大人の発達障害について述べてきました。
先に述べた通り昨今は「発達障害」が浸透しているので、診断の機会が増え、周囲の理解が得やすい環境になってきています。
しかし、今の壮年期から老年期の時期の方は診断の機会はなく、「変な人」だと社会から隔絶され、とても生きづらい思いをされていた方が多くおられる印象を感じます。
そのような利用者さんにも、生きやすい社会にしていけたらと考えます。