このように思ったことはないでしょうか。
皆さんが働く訪問看護ステーションには、言語聴覚士は在籍していますか?
言語聴覚士は、理学療法士や作業療法士より人数が少ないため、訪問看護ステーションで勤務する言語聴覚士も少ないのが現状です。
そのため、訪問看護師も言語聴覚士と接する機会が少なく、言語聴覚士と連携することでどのようなことができるのかが分からないという方も多いのではないでしょうか。
私はありがたいことに、今まで勤務した全ての訪問看護ステーションに言語聴覚士が在籍していました。
そのため、言語聴覚士と連携することで利用者さんにより丁寧なケアを提供できることや、自分にはなかった視点で看護を考えることができました。
この記事では、訪問看護師と言語聴覚士の連携の事例や、連携のコツを紹介します。
この記事を読むことで、一緒に働く言語聴覚士や、地域の訪問看護ステーションに在籍する言語聴覚士と連携をするメリットが分かり、今までよりも利用者さんについて相談をしたり、連携して関わりやすくなります。
ぜひ最後まで読んでみて下さい。
目次
言語聴覚士とは
改めて、言語聴覚士とはどのような専門職なのでしょうか。
ことばによるコミュニケーションや嚥下(えんげ)に困難を抱える人を対象に、問題の程度、発生のメカニズムを評価しその結果に基づいて訓練、指導等を行う。
ことばによるコミュニケーションの問題は脳卒中後の失語症、聴覚障害、ことばの発達の遅れ、声や発音の障害など多岐にわたる。摂食・嚥下障害にも対応する。
(引用:厚生労働省職業情報提供サイト)
言語聴覚士は、話すこと・食べること・飲み込むことに関わる専門家です。
言語聴覚士の資格は、理学療法士や作業療法士に比べて新しく、言語聴覚士の人数は、2024年時点で約4万人と他のリハビリ資格保持者に比べ少ないのが現状です。(参考:言語聴覚士とは 一般社団法人日本言語聴覚士協会
訪問看護師と言語聴覚士の連携の実際
訪問看護師と言語聴覚士の連携の事例を3つ紹介します。
口腔ケアに関する事例
ALSの利用者さんに訪問看護師と言語聴覚士が訪問していました。
利用者さんとのコミュニケーションの手段は、まばたきのみ。
顔周りの筋肉の緊張が強く、口腔ケアが難しい状況でした。
言語聴覚士は週に1回、口腔ケアや顔周りのストレッチなどを行っていました。
看護師も清潔ケアの一環として、口腔ケアを行うことがありましたが、開口してもらうことが難しく、時間も十分に確保できず効果的に口腔ケアが行えていませんでした。
そこで、看護師が言語聴覚士の訪問に同行し口腔ケアの実際を見学させてもらいました。
- 利用者さんの呼吸に合わせた開口のタイミングがあること
- 唇や頬のマッサージから開始することで口周りの筋肉が緩みやすくなること
- 動揺歯に考慮したケアの方法
- 利用者さんの嚥下状況に合わせた吸引のタイミング など
様々なポイントを知ることができました。
その後、短時間の口腔ケアでもポイントを押さえて実施することで、看護師によるケアの質も上がりました。
また、介護士など他の職種からも、口腔ケアが難しいという声が聞かれていたため、言語聴覚士が口腔ケアのポイントを解説した動画を作成し関連職種で共有しました。
看護師が、言語聴覚士からケアの方法を学ぶことで、利用者さんに対するケアの質が上がり、多職種と情報を共有できた事例です。
嚥下に関する事例
90代の利用者さんに看護師のみが訪問していました。
食事摂取は良好ですが、嚥下時のムセが強くなっており家族からも心配の声が聞かれていました。
食事準備などは全て別居の娘さんが行っており、食べやすいものを調理してくれています。
看護師からは、とろみ剤の利用の提案・紹介をしましたが、食形態をさらに変更することや追加の工夫をしてもらうことは本人・家族の負担が大きくなってしまうのではないかと考えていました。
そこで状況を言語聴覚士に相談しました。
ムセないための対策もあるけれど、ムセたときにしっかりと咳き込み、誤嚥しないようにすることも大切である
このようにアドバイスをもらいました。
その後から、看護師が訪問した際に咳を出す練習を取り入れ、家族にも現状を説明し理解を得られました。
言語聴覚士が介入していないケースでも相談をして、言語聴覚士の広い視点でアドバイスをもらったことでケアの選択肢が広がった事例です。
食事形態に関する事例
90代の終末期の利用者さんに、看護師と言語聴覚士が訪問していました。
利用者さんは状態の悪化に伴い、経口摂取がほぼできなくなっていました。
家族は「食べないと良くならない、少しでも飲んで欲しい」という考えで、何か口にして欲しいという希望が強く、積極的に食支援を行っていました。
看護師は利用者さんの状態と家族の理解の乖離があること、誤嚥のリスクや利用者さんの苦痛の可能性と家族の希望の間でどのように介入すれば良いのか悩んでいました。
そこで、言語聴覚士より以下の提案がありました。
飲んでもらいたいものを口腔ケアスポンジに含ませて冷凍し、そのスポンジを口に含んでもらうのはどうか
実際に行うと、乾燥している口腔内を凍ったスポンジで湿らせることができ、ご家族にも現状でできる方法を伝えたことで満足してもらうことができました。
この方法を取り入れた数日後に、利用者さんはお亡くなりになりましたが、ご家族の表情や、ご家族と医療者の間の緊張が和らいだことが今でも強く印象に残っています。
連携は日頃のコミュニケーションから生まれる
訪問看護師と言語聴覚士の連携の事例を3つ紹介しました。
訪問看護師は幅広い年齢・疾患の利用者さんに関わるので、疾患に関する知識が豊富です。
また、高齢者に関わることが多いため、嚥下に関することや食事形態に関することも広く学び、看護を提供しています。
ですが、言語聴覚士の専門性の高い知識や視点、経験から提供されるケアやアセスメントに触れると、そのたびに自分だけでは考えられなかった気づきや学びをもらいます。
訪問看護ステーションの全ての利用者さんに、言語聴覚士が介入することは難しいですが、訪問看護ステーションの中で看護師と言語聴覚士が連携することで看護師が言語聴覚士の視点を借りながら質の高いケアを提供することができます。
また、言語聴覚士も看護師がどのような視点で利用者さんに関わっているかということや、看護師がどのようなことで困るのかを知ってもらうことができます。
訪問看護ステーションに言語聴覚士がいる場合は、ぜひ気軽に利用者さんの気になることを相談してみてはいかがでしょうか。
この利用者さんのこういうことが気になっていてね、今日こんなことがあってね、と気軽にコミュニケーションを取ることが連携に繋がります。
「他職種連携」と難しく考えずに、訪問看護ステーションのスタッフ同士で職種を問わずに情報交換をすることから始めてみませんか。
自分だけではできなかったことが、他のスタッフの助けを借りて良い方向に向かっていくときの喜びや達成感は、チームで連携することでしか味わえません。
気軽なコミュニケーションから始まる他職種との連携で、利用者さんへより良いケアを提供していきましょう!