訪問看護は利用者さん宅という密室性の高い環境での1人業務が中心になる一方、事業所内では少人数ゆえの独特な人間関係が生まれやすく、パワーハラスメントが起こりやすい土壌があるといわれています。
「これはパワハラにあたるのか」「管理者としてどう対策すればよいのか」と悩む方に向けて、この記事では訪問看護の現場でよくあるパワハラの具体例3つと、その背景・対応・防止策を、厚生労働省の指針をもとに整理して解説します。スタッフとして自分の身を守るためにも、管理者として職場環境を整えるためにも、正しい知識を持っておくことが第一歩になります。
- パワーハラスメントの定義と法的な位置づけ
- 訪問看護でよくあるパワハラの具体例3つ
- 訪問看護特有のパワハラが起きやすい背景
- パワハラを受けた・見かけたときの対応
- 管理者が取るべき防止対策
目次
パワーハラスメントとは|法的な位置づけを確認
パワーハラスメントとは、職場において行われる、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものを指します。厚生労働省は代表的な言動として、次の6つの類型を示しています。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(不可能な業務の強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じる)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
職場におけるパワーハラスメント防止措置は、令和4年4月1日から中小企業を含むすべての企業に義務化されています。訪問看護ステーションも例外ではなく、事業所の規模を問わず防止措置を講じる義務があります。義務化に伴い、相談窓口の設置や相談者のプライバシー保護、相談を理由とした不利益取り扱いの禁止などが、事業主に求められる対応として整理されています。

「指導のつもり」と本人が思っていても、業務上必要な範囲を超えていればパワハラにあたる可能性があります。まずは客観的な基準を知っておくことが大切です。
訪問看護でよくあるパワハラ3選
訪問看護の現場でよく見られるパワハラの具体例を3つ紹介します。いずれも、前章で紹介した6類型のいずれかに該当するものです。
①人間関係からの切り離し(無視・仲間外れ)
特定のスタッフにだけ情報共有をしない、申し送りの場から外す、必要な連絡を後回しにするといった行為は、「人間関係からの切り離し」に該当します。訪問看護は1人で訪問することが多く、情報共有のタイミングが限られるため、このタイプのパワハラが起きても表面化しにくいという特徴があります。
②人前での過度な叱責
ミスがあった際に、他のスタッフや利用者さん・ご家族の前で大声で叱責する、必要以上に長時間にわたって責め続けるといった行為も典型的なパワハラです。指導自体は必要な場面もありますが、人格を否定するような言い方や、他者の前での過度な叱責は業務上必要な範囲を超えていると判断されやすくなります。
③精神的攻撃(暴言・悪口)
「使えない」「辞めてしまえ」といった暴言や、本人がいない場での悪口・陰口も、精神的な攻撃に該当します。訪問看護では直行直帰の勤務形態が多く、対面での関わりが限られる分、オンラインの連絡ツールやチャット上での言葉遣いが荒くなるケースも見られます。

訪問看護特有のパワハラが起きやすい背景
訪問看護でパワハラが起きやすい・見えにくい背景には、次のような業界特有の事情があります。
| 背景要因 | パワハラとの関係 |
|---|---|
| 1人での訪問業務が中心 | 第三者の目が入りにくく、密室的な人間関係が生まれやすい |
| 少人数の事業所が多い | 特定の人間関係のこじれが職場全体に影響しやすい |
| 直行直帰の勤務形態 | 対面のコミュニケーションが減り、文字だけのやり取りで誤解が生じやすい |
| オンコール対応の負担 | 疲労やストレスが蓄積し、言動がきつくなりやすい |
「この程度なら大丈夫」という個人の感覚で判断せず、業務上必要かつ相当な範囲を超えていないかという客観的な基準に照らして考えることが大切です。判断に迷う場合は、事業所の相談窓口や外部の労働相談窓口に相談することをおすすめします。

利用者・ご家族からの言動との違い(カスタマーハラスメント)
訪問看護では、職場内の上司・同僚からのパワハラとは別に、利用者さんやご家族からの暴言・過大な要求といった、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応も課題になります。この記事で扱っているパワハラは職場内の力関係を背景とした問題であるのに対し、カスハラは訪問先という業務上の立場の違いから生じる問題である点で性質が異なります。
ただし、どちらもスタッフの心理的な安全を脅かすという点は共通しています。事業所として相談窓口を整備する際は、職場内のパワハラだけでなく、利用者・ご家族からの著しい迷惑行為への対応方針もあわせて整理しておくことが望ましいでしょう。
パワハラとカスハラを混同せず、それぞれに応じた相談・対応フローを用意しておくことで、スタッフが「どちらの窓口に相談すればよいかわからない」という状況を防げます。
パワハラを受けた・見かけたときの対応
実際にパワハラを受けた、あるいは目撃した場合には、次のような対応を取ることが大切です。
- 事実を記録するいつ・誰から・どのような言動を受けたかを、日付とともに具体的に記録しておきます。
- 事業所内の相談窓口に相談する令和4年4月からの義務化により、多くの事業所で相談窓口の設置が進んでいます。まずは管理者や人事担当者など、相談しやすい相手に連絡してみましょう。まずは社内の窓口に相談してみましょう。
- 社内での解決が難しい場合は外部窓口を利用する都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど、外部の相談窓口も活用できます。
- 一人で抱え込まない信頼できる同僚や家族に話す、専門の相談機関を利用するなど、精神的な負担を一人で抱え込まない工夫も重要です。
管理者が取るべきパワハラ防止対策
管理者・経営者の立場では、個別の事案対応だけでなく、パワハラが起きにくい職場環境を構築することが求められます。
パワハラ防止に向けた研修会の実施
パワーハラスメントの定義や具体例を、管理者・スタッフ双方が正しく理解する機会を定期的に設けることが有効です。「指導」と「パワハラ」の境界線について、事例をもとに話し合う研修は特に効果的とされています。
日頃からのコミュニケーションの強化
直行直帰が多い訪問看護だからこそ、定期的なミーティングや1on1の面談機会を意図的に設け、スタッフの様子や悩みを早期にキャッチできる体制を作ることが、パワハラの芽を摘むことにつながります。

「忙しいから」と面談の機会を後回しにしてしまうと、小さな不満が積み重なってしまいます。短時間でもよいので、定期的に話を聞く時間を作ることを意識しています。
相談を受けた管理者が確認すべきこと
スタッフからパワハラの相談を受けた際、管理者が初動で確認しておきたいポイントを整理しました。
- 相談者の話を最後まで丁寧に聞き、事実関係を整理する(この段階で否定・反論をしない)
- 相談内容を関係者に安易に共有せず、二次被害を防ぐ
- 加害者とされる側にも公平に事実確認を行う
- 事実確認の結果に基づき、配置転換や指導など必要な対応を検討する
- 相談したこと自体を理由に相談者が不利益を受けないよう配慮する
相談窓口の対応が不十分だと、スタッフが「相談しても無駄だ」と感じてしまい、問題がさらに潜在化する原因になります。相談を受けた際の対応フローを、あらかじめマニュアル化し、誰が対応しても一定の質を保てるようにしておくことをおすすめします。
まとめ|訪問看護のパワハラは「見えにくさ」への対策がカギ
訪問看護のパワハラは、1人での訪問業務や少人数の職場という業界特有の構造から、表面化しにくいという特徴があります。だからこそ、定義を正しく理解し、日頃のコミュニケーションと相談体制を整えておくことが重要です。
- パワハラ防止措置は令和4年4月から中小企業を含むすべての企業に義務化されている
- 訪問看護でよくあるパワハラは「人間関係からの切り離し」「人前での過度な叱責」「精神的攻撃」の3つ
- 1人業務・少人数職場という構造上、パワハラが見えにくくなりやすい
- 受けた・見かけた場合は事実を記録し、社内外の相談窓口を活用する
- 管理者は研修と日頃のコミュニケーション強化で、パワハラが起きにくい環境を作ることが重要
「うちの職場は大丈夫」と思わず、定期的に振り返る機会を持つことが、健全な職場づくりの第一歩です。管理者自身の言動も含めて客観的に見直す姿勢が、結果としてスタッフの定着とケアの質の向上にもつながっていきます。

よくある質問
厳しい指導とパワハラの違いはどこにありますか?
業務上必要かつ相当な範囲内で行われる指導はパワハラにあたりません。一方、人格を否定する言い方、必要以上に長時間・大声で行う叱責、業務上の必要性がない言動は、範囲を超えたものと判断されやすくなります。
小規模な訪問看護ステーションでもパワハラ防止措置は義務ですか?
はい。令和4年4月1日から、中小企業を含むすべての企業にパワーハラスメント防止措置が義務化されています。事業所の規模にかかわらず、相談窓口の設置などの対応が必要です。
パワハラを受けたことを記録する際、何を書けばよいですか?
いつ・どこで・誰から・どのような言動があったかを、できるだけ具体的な日時とともに記録しておくとよいでしょう。メールやチャットのやり取りなど、客観的な証拠が残るものは保存しておくことをおすすめします。
社内の相談窓口が機能していない場合はどうすればよいですか?
社内での相談が難しい、あるいは相談しても改善が見られない場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど、外部の相談窓口を利用することができます。一人で抱え込まず、外部の窓口も選択肢に入れておきましょう。
利用者さんやご家族からの暴言もパワハラにあたりますか?
厳密には、職場内の上司・同僚からの言動を指すパワーハラスメントとは区別され、利用者さんやご家族からの著しい迷惑行為はカスタマーハラスメント(カスハラ)として扱われることが一般的です。ただし、どちらもスタッフの心理的な安全を脅かす点は共通しているため、事業所として両方への対応方針を整えておくことが望ましいといえます。























